人手不足は、今や一部の業界だけの問題ではなく、あらゆる企業が直面する構造的な経営課題になっています。この記事では、人手不足が深刻化する背景を整理し、医療・介護・建設・物流・ITなど主要業界ごとの課題と対策を具体的に解説します。そして企業に与える影響を明確にしたうえで、企業が取り組むべき人手不足対策を紹介します。自社がまず取り組むべき優先順位を見極めたい方は、ぜひ参考にしてみてください。なぜ、人手不足が深刻化しているのか?採用活動に力を入れていても、依然として人手不足の状態が続いている企業は少なくありません。2025年の帝国データバンクのレポートによると、現在50.8%と半数以上の企業が、正社員の不足を感じています。そして、今起きている人手不足は、個々の企業努力だけでは解決しきれない構造的な問題が背景にあります。ここでは、人手不足が深刻化している社会全体の原因を解説します。▼参考:帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査(2025年7月)少子高齢化による労働人口の減少内閣府が発表している、令和7年版の最新情報によると、令和6年10月1日時点の日本の総人口は、1億2,380万人です。うち、65歳以上の高齢者は3,624万人であり、総人口の29.3%を占めます。そして、この高齢者の割合は2050年には37.1%、2070年には38.7%と推移することが予想されます。2024年2050年2070年総人口1億2,380万人1億499万人8,700万人高齢者人口3,624万人3,895万人3,366万人高齢者率29.3%37.1%38.7%人口は減少しているのに、高齢者率は上がるため、必然的に労働人口は減少していく一方です。働き手が減る中で介護や医療などケアニーズは増えるため、サービス提供側の人材不足は、今後も中長期的に続くことが避けられない構造になっています。▼参考:内閣府 令和7年版高齢社会白書 高齢化の現状と将来像労働条件の魅力度による業種間の偏り同じ人手不足でも、賃金水準や労働環境、成長実感の有無によって、業種ごとの人気には大きな差があります。厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査によると、電気・ガス・ 熱供給・水道業の平均賃金は約44万円、金融業・保険業の平均賃金は約41万円でした。一方で、宿泊業・飲食サービス業の平均賃金は約27万円、生活関連サービス業・娯楽業の平均賃金は約29万円にとどまっています。また、厚生労働省の令和7年5月の労働経済動向調査によると、未充足求人がある事業所の割合は、調査産業計で58%に対して、運輸業・郵便業で62%、医療・福祉では68%にも及びます。賃金は相対的に低かったり、肉体的・精神的な負荷が大きかったりする業界では、キャリアの将来イメージも描きづらいでしょう。結果、求職者から見た魅力度がどうしても下がり、人手不足になる傾向があります。▼参考:e-Stat 賃金構造基本統計調査 令和6年賃金構造基本統計調査▼参考:厚生労働省 労働経済動向調査(令和7年5月)DX・IT化による人材需要の急増もう1つの大きな構造的要因が、DXとIT化の加速です。ほぼ全ての産業でデジタル人材へのニーズが急増しているのに対し、その供給と育成が追いついていません。2019年の時点で経済産業省のIT人材需給に関する調査において、IT人材の不足数は2030年に最大約79万人に達する可能性があると試算されています。2019年から数年の間に、AIが台頭し、更なる技術革新が起こっています。そのため、AI・ロボット活用人材についても、2025年の経済産業省の将来推計では、2040年に最大326万人が不足する可能性があるとされています。さらに、Linux Foundationが2025年に発表した日本の技術系人材レポートでは、日本企業はクラウドなど主要分野の約70%で人員不足に陥っており、他地域と比べても人材不足の割合が大きいと指摘されています。▼参考:経済産業省 IT人材育成の状況等について▼参考:経済産業省 2040年の産業構造・就業構造の推計▼参考:Linux Foundation 日本の技術系人材の現状レポート地域間の偏り最後に、地域間の偏りも見逃せない人材不足の要因です。同じ日本でも、都市部と地方では人口動態も労働需給も大きく異なります。2024年以降の総務省や厚生労働省のデータでは、労働力人口が増加している地域は、南関東と近畿といった大都市圏に限られており、それ以外の地域では2019年頃をピークに減少傾向が続いていることが示されています。厚生労働省が公表する一般職業紹介状況によると、直近の都道府県別有効求人倍率(就業地別)では、最高が福井県の1.8倍、最低が福岡県の0.99倍とされています。また、求人受理地別でみると、東京都が1.71倍、神奈川県が0.82倍など、同じ大都市圏の中でもばらつきがあります。求職者側は、賃金水準やキャリア機会、生活利便性を総合して都市部を選ぶ傾向が一段と強まっています。その結果、都市部は採用競争こそ激しいものの、最終的には人材が循環しやすい構造であるといえるでしょう。一方、地方は労働力人口そのものが細り、求人を出しても応募が来ない「構造的な人手不足」に陥りやすいという明確なギャップが生まれています。▼参考:内閣府 地域における人手不足問題▼参考:厚生労働省 一般職業紹介状況(令和7年10月分)について【業界別】人手不足の現状と対策日本の人手不足は、業界ごとに背景と深刻度が異なります。ここでは、主要業界ごとにデータを基に現在の課題と実際に進んでいる対策を整理します。医療業界医療業界では、医師の時間外労働が依然として多く、厚生労働省の最新資料(2023年)によると、年間1,860時間(上限特例水準)を超えて働く医師が脳神経外科で9.9%、産婦人科で5.9%など、診療科によっては1割近くに達しています。さらに、2024年4月から医師の時間外労働上限(原則960時間/年)が法的に適用され、医療機関は勤務体制の再設計を迫られています。こうした背景から、医療DX(AI問診・電子カルテ統合)、タスクシフト、夜勤負担軽減、賃金改善、地域連携、外国人スタッフ活用といった対策が急速に進みつつあります。▼参考:厚生労働省 医師の勤務実態について▼参考:厚生労働省 介護人材確保の現状について▼参考:厚生労働省 医師働き方改革福祉業界(介護・保育)介護職員の有効求人倍率は全国平均3.97倍と高水準であり、特に東京都では7倍を超えています。求人数が求職者数を大きく上回る深刻な人手不足の状態です。高齢化の進行と共働き世帯の増加により、介護・保育の労働需要は今後も拡大が見込まれる一方、賃金水準や労働負荷の高さが参入・定着の障壁となっています。対策として政府は処遇改善加算など賃上げ支援を進めるほか、介護ロボットや見守りセンサーの導入による省力化が進行中です。さらに資格取得支援や未経験者の教育、特定技能・EPAによる外国人材の受け入れ強化も不可欠な方策として注目されています。▼参考:厚生労働省 介護人材確保の現状について建設業界2025年10月に発表された有効求人倍率において、建設・土木関連の有効求人倍率は6,92倍と極めて高い水準でした。高齢化と若年層の参入不足により技能継承が進まず、熟練技能者の不足が顕著です。これに対応するため週休2日化などの働き方改善や、ドローン測量・BIM/CIMといったICT施工による省人化が進展しています。加えて、女性技術者や外国人技能実習生の活躍支援、OJTの標準化・技能研修センターの拡充が推進されています。▼参考:厚生労働省 一般職業紹介状況(令和7年10月分)について運輸・物流業界運輸・物流業界では、ネット通販やEC拡大により配送需要は増加している一方で、運転の不規則勤務や長時間労働が敬遠される傾向があります。トラックドライバーの有効求人倍率は、全職業平均より約2倍以上高いうえ、トラック運送事業は全職業平均より労働時間が長く、所得が少ないことが国土交通省の調査から分かります。対策として、共同配送・拠点集約など配送網再構築の動きが加速しているほか、倉庫作業の自動化やAIによる配車最適化が進行中です。休息確保や賃上げなどドライバーの処遇改善、小口配送の抑制策も必要とされています。▼国土交通省 物流を取り巻く動向と物流施策の現状・課題宿泊・飲食・サービス業界サービス業では、コロナ後の需要回復で求人が増え、有効求人倍率は全体を上回る水準となっているものの、低賃金や不規則勤務が人材確保の足かせとなっています。特に飲食業の有効求人倍率では、調理スタッフが2.9倍、接客スタッフが5倍、店舗管理が10倍と人手不足が問題視されています。対応として、配膳ロボットやセルフチェックインなどの自動化、省人化機器の導入が進んでいます。また、2025年6月13日に農林水産省・厚生労働省は飲食業の省力化投資促進プランを発表しており、サポート体制や優良事例の横展開など施策を行う予定です。▼参考:農林水産省・厚生労働省 省力化投資促進プラン―飲食業―情報通信(IT)業界帝国データバンクの調査では、2025年10月時点で情報サービスの人手不足の企業は約70%との結果があり、特にSE不足が深刻です。DXやAI、クラウド関連の需要が増加する中で供給が追いつかない構造が続いています。対策として、リスキリング投資や社内教育による人材育成が活発化しています。加えて、リモートワークや柔軟な働き方を採用戦略として導入し、中小企業でも採用しやすい環境整備が進んでいます。▼参考:株式会社 帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査(2025年10月)不動産業界(売買・賃貸・管理・仲介)不動産業界では、営業や管理業務のアナログ作業が生産性低下の要因になっており、デジタル化の遅れが採用難を助長しています。市場の繁忙期に業務負荷が集中し、離職につながる傾向が見られます。現在、電子契約やVR内見などデジタルツールによる業務効率化が進んでいます。これに加えて、固定給比率の見直しや副業・シニア人材の活用が離職改善策として導入されています。金融業界(銀行・保険・証券)金融業界では、伝統的な窓口・営業職の縮小とDX関連人材の需要増が同時に進んでおり、特にデジタル人材やリスク管理領域の供給が不足しています。フィンテックやキャッシュレスの普及により、IT技術者との人材競争が激化しています。対策として、オンライン相談やアプリ化による非対面サービス強化が進められています。リスキリング支援や専門職採用、若手の定着を図るワークライフバランス施策の導入も重要になっています。人手不足が企業に与える影響業界ごとに見ても深刻な人手不足による課題感が理解できますが、企業も大きな影響を受けています。ここでは、人手不足によって企業が受ける具体的な影響を解説します。サービス品質の劣化・生産性の低下まず第一に、人手が不足すると1人当たりの業務負担が増え、ミス・遅延・対応漏れが起きやすくなります。余裕のない職場では接客や顧客対応の質が落ち、売上機会の喪失と顧客ロイヤルティの低下につながるでしょう。内閣府が2024年に公表した「令和6年版 経済財政白書」によると、人手が「不足」している企業では「適正」な企業と比べて労働生産性が約3割程度低いという分析結果が示されています。ただでさえ、人が足りていない上に、生産性までも下がると事業自体にも影響を及ぼすでしょう。▼参考:内閣府 高まる人手不足感と企業部門の対応事業の成長停滞・戦略の遅延人手不足は企業の成長戦略の実行を妨げ、事業の停滞を招きます。新規事業への参入や事業拡大に必要な人材が確保できないため、経営戦略の実行が困難になるからです。さらに、経営層や管理職も採用や育成業務に時間を取られ、本来注力すべき経営戦略の立案や実行に十分なリソースを割けなくなります。競合他社が積極的に事業展開を進める中、人手不足によって機会損失が発生し、市場でのポジションを失うリスクも高まるでしょう。職場環境の悪化と離職率の上昇人員不足が慢性化すると、残業時間の増加や休暇取得の困難化が進み、従業員の心身の健康にも悪影響を及ぼします。疲弊した従業員は仕事へのモチベーションを失い、生産性がさらに低下するだけでなく、より良い労働環境を求めて退職を選択するでしょう。そして、離職者が出ることで残された従業員の負担はさらに増大し、次の離職を生むという負のスパイラルに陥ります。採用・人件費の高騰(固定費増加)人手不足は採用コストと人件費の高騰を招き、企業の固定費を大きく圧迫します。求人広告費や人材紹介手数料などの採用コストは年々上昇しており、特に専門性の高い人材や若手人材の獲得には多額の投資が必要となっています。また、既存社員の引き留めのためにも賃上げや福利厚生の充実が求められ、人件費全体が膨らむでしょう。企業が人手不足を解消するための対策ここからは、人手不足による悪影響から逃れるために、企業が実際に取り組むべき具体的な人手不足対策を解説します。給与(賃上げ)による魅力度の底上げ賃上げは、人手不足の根本原因に直接アプローチできる、最も強力な打ち手の1つです。給与水準が市場より明らかに低いと、応募が集まりにくいだけでなく、既存社員の離職も起こりやすくなります。厚生労働省の資料では、求人の賃金を地域別最低賃金より5%以上引き上げている企業は、そうでない企業に比べて人材紹介会社からの紹介件数が増え、離職率も低い傾向があると報告されています。また、パーソルキャリアの転職理由ランキングでは、正社員の転職理由1位が複数年連続で「給与が低い・昇給が見込めない」という項目になっており、全世代で最も多い転職理由になっています。▼参考:厚生労働省 令和5年版 労働経済の分析▼参考:パーソルキャリア 転職理由ランキング最新版福利厚生の拡充福利厚生は、同業他社と比べたときに「ここで働き続けたい」と思ってもらうための上積み価値です。給与がほぼ同水準なら、育児・介護支援、休暇制度、健康支援、住宅・通勤関連などの制度の有無が、入社・継続の意思決定に大きく影響するでしょう。働き方改革(フレックス・リモート・時短・週休)柔軟な働き方を導入することは、人材プールを一気に広げる有効な手段です。出社前提・固定時間のみだと、育児・介護・通院のある人や地方人材など、多様な人材を取りこぼしてしまいます。内閣府がまとめた多様で柔軟な働き方に関する調査では、テレワークやフレックスタイム、副業制度、週休3日制などを導入した企業で「応募者数の増加」「離職率の低下」「従業員満足度や業務効率の向上」といった効果が報告されています。▼参考:労働政策研究・研修機構 政府の方針・提言、研究報告業務効率化・DX/省人化DXや自動化は、人を増やすよりも確実に人手不足を改善できる施策です。多くの企業で問題になっているのは「人が足りないこと」以上に「業務が多すぎる」ことであり、紙文化や手作業が残るほど残業と離職が増える構造が確認されています。民間企業でも、請求書処理・経費精算・勤怠集計・在庫管理など、定型事務の自動化によって残業時間を削減コア業務へのリソースシフトミス削減による品質向上といった効果が多数報告されています。採用だけに頼らず、「業務そのものをスリムにする」視点が、人手不足解消の鍵になるでしょう。副業・兼業の許可副業を認めることで、従業員の成長意欲が満たされ、離職が減り、組織への信頼が高まります。若手ほど「会社だけでキャリアが閉じること」への不安が大きく、副業禁止は離職理由になりやすいのが現状です。副業を解禁する際は、「本業に支障を出さないための就業規則」「情報漏えい・競合回避のルール」「労働時間管理や健康管理」などを丁寧に設計することが前提になりますが、うまく運用すれば、社員の自己実現と企業の成長を両立できる施策です。ダイバーシティ推進採用ターゲットを「フルタイムで働ける若手男性」に限定していると、当然ながら母集団はすぐに枯渇します。女性・シニア・外国人・障害のある人など、多様な人材が働きやすい環境を整えることが、人手不足時代の前提条件になりつつあります。総務省の労働力調査によると、日本全体の就業者数は増加傾向にあり、とくに女性の就業率は近年も上昇を続けています。一方で、管理職や専門職への登用、長時間労働の是正、柔軟な働き方の整備が不十分な企業では、潜在的な労働力を十分に活かせていないケースも多く見られます。ダイバーシティ推進のなかでも、女性活躍推進は取り組むべき重要なテーマの1つです。▼参考:総務省 労働力調査(基本集計)組織文化・マネジメント改善組織文化やマネジメントの改善は、離職を大幅に防ぎ、人手不足を増やさずに解決する最も確実な方法です。前述の転職理由ランキングでは、給与に次いで「人間関係が悪い・うまくいかない」「社内の雰囲気が悪い」といった職場環境・人間関係に関する理由が上位を占めています。具体的には、一方的なトップダウンではなく、対話のあるマネジメントミスや課題を責めるのではなく、改善の材料として扱う文化ハラスメントを許容しない明確なスタンスなどを通じて、心理的に安心して働ける環境をつくることが、人手不足を悪化させない最重要施策でしょう。採用チャネル・採用手法の見直し求人媒体だけに依存していると、応募数・応募単価ともに頭打ちになりやすくなります。母集団形成の質と量を上げるためには、複数チャネルを組み合わせたポートフォリオ設計が必要です。近年の調査では、SNSを通じて就職・転職情報を集める求職者が増えていることSNS上の情報によって企業への志望度が変化したと答える人が約8割にのぼることが報告されています。求人媒体だけでなく、SNS採用やダイレクトリクルーティング、リファラル採用、副業・業務委託マッチングなどを組み合わせることで、ターゲット層にリーチしやすくなり、人手不足の改善スピードを高められます。▼参考:Thinkings株式会社のプレスリリース採用ブランディング採用ブランディングは、単にかっこいい採用サイトを作ることではなく、「どんな価値観の会社か」「どんな人がどんな働き方をしているか」「どんな成長機会があるか」を、候補者に一貫して伝える取り組みです。求人媒体だけでは伝わらない「リアルな雰囲気」を、SNSやオウンドメディア、社員インタビュー記事などを通じて発信することで、共感してくれる人材が集まったり、応募単価や選考辞退率が下がったりする効果も見込めるでしょう。育成・オンボーディングの強化採用コストが高騰している今、入社した人が早期に辞めてしまうのは企業にとって大きな損失です。その要因としてよく挙げられるのが、教育・フォロー・配属のミスマッチです。体系的なオンボーディングプログラムやメンター制度を整備した企業では、「新人の立ち上がりが早い」「定着率が高い」といった効果が報告されています。採用と育成をセットで設計し、入社前からの情報提供・期待値すり合わせ入社直後の集中オンボーディング半年〜1年単位でのフォローアップまでを一貫して整えることが、人手不足解消の面でもっとも費用対効果の高い投資の1つになるでしょう。▼参考:フォーティエンスコンサルティング株式会社 新たな局面を迎えた人材獲得競争人手不足を採用で補う場合の注意点人手不足が深刻化すると、まず採用強化を検討しがちですが、やり方・基準・情報伝達・組織の受け入れ体制を誤ると、むしろ人手不足を悪化させる結果にもつながります。ここでは、採用で人員を補う際に企業が注意すべきポイントを整理します。採用強化が必ずしも人手不足解決になるわけではない採用人数を増やしても、離職率が高いままでは、入っては辞める状態が続き、人手不足は解消されません。業務量が過多で残業が常態化している、属人化が激しく新人が育たない、評価や処遇への不満が強いといった職場では、新しい人材ほど早期に離職しやすくなります。結果として、採用コストと教育コストだけが積み上がり、現場の負担はむしろ増えてしまうでしょう。また、採用強化に経営資源を集中しすぎると、業務プロセス改善やDX、マネジメント研修、エンゲージメント向上策など、本来優先すべき構造的な対策が後回しになりがちです。人手不足を本質的に解決するためには、採用を単独の解決策と捉えるのではなく、離職防止や業務効率化、育成・配置見直しと組み合わせた総合的な打ち手の1つとして位置づけることが重要です。採用基準を下げて質より量にならないこと人手不足が深刻になると、つい採用基準を下げてでも人数を確保したくなりますが、短期的な人数合わせは中長期的なリスクを抱え込みやすい対応です。スキルや経験が明らかに不足している人材を多く採用すると、教育負荷が急増し、既存メンバーの疲弊や不満につながります。むやみに基準を下げるのではなく、求める要件の中で絶対に譲れない条件と、入社後の育成でカバーできる条件を明確に切り分けることが大切です。そのうえで、育成前提でポテンシャル採用の枠を設けるのか、即戦力に絞るのかなど、採用ポートフォリオを意図的に設計しましょう。自社を必要以上に良く見せる採用広報をしない人手不足時には、応募数を確保するために「魅力的に見せる発信」を強化したくなりますが、実態とかけ離れた採用広報は、後のミスマッチと早期離職を招く大きな原因になります。福利厚生や働き方、社風、成長機会などを誇張して伝えると、入社後のギャップが必ず生まれます。「聞いていた話と違う」という不信感が生まれると定着が難しくなります。採用広報の役割は「良く見せる」ことではなく、「正しく伝える」ことです。その企業ならではのリアルな働き方、乗り越えるべき課題、求める人物像の具体像を正直に発信することで、ミスマッチを事前に防ぎ、共感と適応力の高い人材を自然に引き寄せられるでしょう。採用強化を人事の責任にしない人手不足が深刻化すると、経営や現場から「もっと採用してほしい」というプレッシャーが人事部門に集中しがちです。しかし、採用の成否は人事だけでは決まりません。実際には、現場の働きやすさマネジメントの質労働環境や業務量給与・等級制度魅力的なキャリアパスの有無といった組織全体の要素が、採用力と定着率を大きく左右します。採用強化は、全社で取り組んで初めて成果が出ます。採用を人事の責任に押し付けず、経営・現場・人事が連動して構造的な課題を解決する仕組みをつくることが、人手不足を長期的に解消する唯一のアプローチです。まとめ人手不足は、少子高齢化・産業構造の変化・地域格差・DX需要の急拡大といった社会的背景により、今後も長期的に続くことが確実視されています。人口減少時代において、人材は最も重要な経営資源です。採用強化、職場環境の改善、働き方の見直し、育成投資、組織文化の変革を同時に進めることで、人手不足は「克服できる経営課題」に変わります。企業が本気でこのテーマに向き合うことこそ、これからの競争力を決める分岐点となります。