採用戦略は採用計画とは異なり、企業の未来をつくる経営戦略の一部です。しかし、目先の採用に追われて「とにかく人数を確保する」ことが目的化してしまう企業も少なくありません。そのため、この記事では採用戦略の基本から、立て方・進め方・実践ステップまでを体系的に解説します。採用を“属人的な活動”から“再現性のある仕組み”へ変える第一歩として、ぜひ参考にしてください。採用戦略とは?「採用戦略」とは、自社が必要とする人材を、最適なタイミングと方法で獲得するための中長期的な方針と計画のことです。単なる「採用活動」ではなく、「どんな人を・なぜ・どう採るのか」を経営戦略と連動させて設計する点がポイントです。具体的には、事業計画に基づいた採用人数・職種・スキル要件の定義採用チャネル(求人媒体、リファラル、SNS、エージェントなど)の選定採用ブランディングや候補者体験(CX)の設計採用データの分析とPDCAによる改善などを包括的に設計・実行していく取り組みを指します。要するに、採用戦略とは「人材を集める活動」ではなく、「組織の未来をつくる仕組み」をデザインすることなのです。採用戦略と採用計画との違い採用戦略と採用計画は密接に関わりながらも、役割と目的が異なります。採用戦略は、企業の経営戦略や中期的な事業方針を踏まえ、「どんな人材を・なぜ採用するのか」という方向性や方針を定めるものです。例えば、自社が今後DXを推進していくなら、エンジニアやデータ人材を強化するといったように、組織の未来像から逆算して必要な人材像を定義します。一方、採用計画は、その戦略を実現するために「いつ・どの職種を・どの手法で・何人採るのか」を具体化した実行プランです。年度ごとの採用人数、スケジュール、予算配分、採用チャネル選定など、現場での実務に落とし込む役割を担います。採用戦略を立てる担当者・時期・期間採用戦略を立てるのは、主に経営層と人事部(特に採用担当・人事企画担当)です。経営層が「事業の方向性」や「組織拡大の方針」を示し、人事がそれをもとに「どんな人材を、どのタイミングで、どんな手段で採用するか」を設計します。現場のマネージャーや部門長が参画するケースも多く、実際の業務ニーズと組織戦略の整合を図ることが重要です。策定の時期は、通常は事業計画の立案時期(年度予算策定前後)が理想的です。新しい期の目標や組織体制に合わせて人員計画を立てるため、採用戦略はその前段階として位置づけられます。期間としては、一般的に1〜3年の中期スパンで設計します。短期的な採用活動に終わらせず、組織の成長や市場変化を見据えた「持続的な採用基盤づくり」を目的とするためです。なお、環境変化が激しい業界やスタートアップでは、半年〜1年ごとに見直すケースもあります。採用戦略の重要性・必要性採用戦略は、中長期的に企業が成長していくためには不可欠です。ここからは、採用戦略の重要性を具体的に解説します。労働人口減少と働き方の多様化への対応労働市場の変化に対応するためには、採用戦略の強化が欠かせません。少子高齢化による労働人口の減少に加え、リモートワークや副業解禁など働き方の多様化が進んでいます。従来の募集手法だけでは、必要な人材を十分に確保することが難しくなっています。実際、厚生労働省の統計でも有効求人倍率が1倍を超える状態が続き、採用難を訴える企業は中小から大手まで増加しています。こうした状況下では、多様な働き方に対応できる柔軟な採用戦略が求められます。技術革新と事業環境の急速な変化AIやDXの進展により、企業の成長に必要な人材に求められるスキルは急速に変化しています。適切な人材を確保できなければ、新規事業の推進や既存事業の変革が遅れ、競争から取り残されるリスクが高まります。実際、日本ではデジタル人材の不足が深刻化しており、IT人材の確保に積極的な企業ほどDXを推進し、新たなビジネス機会を生み出しています。逆に採用が遅れた企業は、システム更新や新サービス開発で後れを取る傾向があります。したがって、事業の将来像を見据えた戦略的な採用は、経営戦略と直結する極めて重要な課題です。求職者の価値観の変化に対応する必要性採用戦略は、求職者の変化する価値観を理解し、柔軟に取り入れることで優秀な人材を惹きつける力を持ちます。いまや給与や待遇だけでなく、ワークライフバランス、キャリア形成の支援、そして企業の社会的使命への共感が、求職者の意思決定を左右する重要な要素となっています。実際、ミレニアル世代やZ世代の多くは「働きがい」や「社会貢献性」を重視し、SDGsへの取り組みや柔軟な勤務制度を整えた企業を志望する傾向が強まっています。したがって、これからの採用戦略では、単なる条件提示にとどまらず、「企業と候補者の価値観を共有する」姿勢が求められます。採用戦略を立てるメリット・効果採用戦略は、前述のような必要性だけでなく、実際に大きなメリットや効果もあります。優秀な人材を安定的に確保できる採用戦略を立てることで、企業は必要な人材を計画的かつ安定的に確保できます。事業計画や将来の成長ビジョンを見据えて採用を設計すれば、突発的な欠員対応や慢性的な人手不足に追われることなく、組織運営に余裕が生まれます。例えば、事業拡大を見込む企業が前もって採用計画を策定しておけば、急な人材不足による機会損失を防ぎ、成長スピードを維持できます。結果として、優秀な人材を必要なタイミングで確実に確保できる体制が整い、企業の持続的な成長を支える強固な基盤となるでしょう。採用コストを削減できる採用戦略を立てることは、長期的に見て大幅なコスト削減につながる投資です。計画的な採用を行えば、人材紹介会社への依存や急な欠員対応による求人広告の乱発を防ぎ、無駄な出費を抑えることができます。また、戦略的な採用は入社後のミスマッチを減らし、社員の定着率を高めるため、再採用や再教育にかかるコストも削減できるでしょう。定着率・エンゲージメントが向上する戦略的な採用では、採用活動の初期段階から「どんな人材が自社の文化・価値観・働き方にフィットするのか」を明確にし、応募者にもそれを正確に伝えることができます。その結果、入社後に「思っていた職場と違う」というギャップが減り、早期離職の防止につながるでしょう。さらに、自社の理念やミッションに共感して入社した社員は、仕事へのモチベーションが高く、主体的に行動する傾向が強まります。結果として、採用戦略は「人を採る」だけでなく、「人が育ち、定着し、活躍し続ける組織」をつくるための仕組みとなり、エンゲージメントの向上や組織全体の生産性向上へと直結します。企業ブランド力が向上する戦略的な採用活動は、単に人材を確保するだけでなく、企業のブランド力を高める効果もあります。採用広報や候補者との丁寧なコミュニケーションを通じて、企業の価値観や働く環境を的確に伝えることができれば、応募者だけでなく市場全体に「信頼できる」「魅力的な企業」という印象を与えられます。例えば、自社サイトの採用ページやSNSで社員のキャリア事例・働き方・ミッションへの共感ストーリーを発信する企業は年々増加しており、実際に「働きたい企業ランキング」上位に選ばれるケースも多く見られます。こうした情報発信は応募促進だけでなく、顧客や取引先など社外のステークホルダーからの評価向上にもつながるでしょう。経営戦略と人材戦略の一体化が進む採用戦略は、単なる人事施策ではなく、経営戦略を実現するための最も実践的な手段です。経営が描く未来像に対して、「どんな人材が必要なのか」「どの分野を強化すべきか」を明確にし、計画的に採用を行うことで、事業成長に直結する人材ポートフォリオを構築できます。例えば、DX推進や新規事業の立ち上げを見据えて、デジタルスキルや事業開発力をもつ人材を先行的に確保した企業は、変化の激しい市場の中でも競争優位を築きやすく、成長スピードを落とさずに事業を拡大しています。逆に、採用を場当たり的に行っている企業では、必要な人材が不足し、戦略の実行に遅れが生じることも少なくありません。採用戦略を立てる前に必要なもの・準備事項採用戦略を立てる前にまず取り組むべきは、会社の中期経営計画・事業計画・ビジョンを正確に把握することです。どんな事業を拡大し、どんな市場で競争していくのかといった未来像を理解して初めて、「どんな人材が、いつ、どの部署で必要になるのか」を明確にできます。採用は経営資源の投資活動であるため、この方向性が定まらないまま動くと、後のミスマッチや採用ロスにつながるでしょう。次に必要なのが、採用戦略チームの組成です。人事部だけでなく、経営層・事業責任者・現場マネージャーが連携する体制を整え、意思決定の速さと一貫性を担保します。そのために、採用委員会を設置し、ジョブディスクリプション(JD)やオファー承認の権限設計を明確にすることが有効です。さらに、週次または隔週で運営会議を設定し、採用進捗・課題・優先順位を定期的に共有できる仕組みをつくります。これらの取り組みを通じて得られる成果物としては、「採用方針文書(採用の目的・優先順位を明文化)」「RACI(意思決定・責任分担表)」「採用運営カレンダー(年間・四半期単位の計画)」などがあります。これらを整備することで、採用戦略の基礎が固まり、以降の採用施策がスムーズに進行します。採用戦略の立て方・進め方ここからは、採用戦略の立て方や進め方を具体的に解説します。STEP1. 現状診断・人員計画の策定採用戦略の第一歩は、現状を正確に把握し、事業計画に基づいた人員計画を立てることです。まずは、直近12〜18か月の採用データを分析し、採用活動の強み・弱みを可視化します。目的は、改善すべきポイントと制約条件を明確にすることです。<やること>ファネル分析(応募→書類→一次→最終→内定→入社)による各ステージの通過率・滞留時間の算出チャネル別のコスト・質を分析(Cost per Hire、Source of Hire など)離職分析(職種・入社年次・退職理由)によるミスマッチ要因の特定定性ヒアリングで面接プロセスやJD(ジョブディスクリプション)の課題を補足<成果物>採用ダッシュボード(主要KPI:通過率、Time to Hire、Cost per Hire)課題リスト(例:書類選考歩留まりの低下、候補者滞留、面接SLA未達)改善仮説メモ(要件過多・選考スピードの遅延など)次に、事業計画と連動した人員計画を策定します。事業戦略をもとに「どの職種を、いつ、何人採るか」を明確化し、採用優先度を設定します。具体的には、職種別のTime to Fill(充足までの期間)を設定し、採用カレンダーを作成し、代替手段(育成・外部委託・配置転換)の検討も同時に行います。<成果物>人員計画表(職種・人数・時期・予算・チャネル)募集優先度マトリクス(事業インパクト×採用難易度)採用カレンダーおよび運用SLA定義書このステップのゴールは、「どこを・いつまでに・どの程度改善すれば、必要人材を確保できるか」を数値で語れる状態にすることです。現状診断と人員計画が整えば、次のステップであるターゲット定義やチャネル選定に迷いなく進めるでしょう。STEP2. 採用ターゲットの定義・スコアカードの作成次のステップは、まず誰を採るか(ターゲット定義)を固め、そのうえで何を達成してもらうか(スコアカード)に落とし込み、最後にどう評価するか(ルブリック)へ接続します。<やること>候補者ペルソナの定義(動機・価値観・情報接触・転職トリガーの言語化)ジョブスコアカード作成Mission(役割)/6〜12か月の成果目標(Expected Results)/KSA要件評価ルブリック策定(評価項目×行動指標、合否基準の明確化)必須/歓迎要件の優先順位付け(Must/Want分離と合否基準の整合)<成果物>候補者ペルソナスコアカード(職種別:Mission/Results/KSA)評価ルブリック必須/歓迎要件の優先順位表<主要KPI>一次通過率(ターゲット定義の精度)試験・課題の予測妥当性(入社後パフォーマンスとの相関)内定承諾率(期待値整合の度合い)このステップによって、「誰に向けた基準か」がブレず、選考の再現性と説得力が高まります。STEP3. EVPやターゲットに向けたメッセージ設計(採用広報)EVP(Employee Value Proposition)とは、「自社で働く価値」を端的に示すもので、一般的には3〜5つの柱から構成されます。例:社会的意義/成長機会/裁量とチャレンジ/報酬の納得感/働きやすさ・柔軟性それぞれの柱には、実際の制度・データ・社員の声などの裏付けを添えることが重要です。表面的なスローガンではなく、「信頼できる根拠」を伴う言葉が、候補者の共感を生みます。EVPを策定したら、ターゲットごとのメッセージマップを設計します。職種や層ごとに、訴求すべきポイントや言葉のトーンを整理し、各接点(JD・採用LP・SNS・面接トークなど)で一貫性を持たせます。例えば、エンジニア職なら「技術的裁量」や「挑戦機会」、コーポレート職なら「経営に近い意思決定」や「働き方の柔軟性」といった形で、関心軸に沿った表現を選びましょう。<成果物>トーン&ボイスガイドラインJDテンプレート(EVPと整合した職務記述)デイ・イン・ザ・ライフ(1日の働き方紹介)記事社員ストーリー(リアルな経験を語るコンテンツ)STEP4. 採用チャネルの選定採用活動の成果を左右するのは、「どのチャネルに、どの比重で投資するか」という戦略的判断です。まずは、現状チャネルの棚卸しと効果分析を行いましょう。直近の応募・通過・内定データを用い、媒体、エージェント、スカウト、リファラルなどのチャネルごとのCost per Hire(採用単価)とQuality of Hire(採用後のパフォーマンス)を比較します。次に、ターゲット別・目的別のチャネル設計を行います。短期的に母集団を形成したい場合は求人媒体やエージェントを、専門職やマネジメント層にはダイレクトスカウトやタレントプールを、長期的なブランディングにはイベントやインターンを配置します。<やること>現行チャネルの費用・応募数・通過率を可視化し、効果分析を実施ターゲット・採用目的に応じたチャネルポートフォリオを設計各チャネルの運用担当・役割・運用頻度を定義(例:スカウト週○件送付、媒体月○本更新)依存リスクを分散するための代替チャネル(アルムナイ・リファラル等)の強化計画を策定チャネル別のKPI(応募数・通過率・CPH・QoH)を設定し、モニタリング体制を整備<成果物>チャネル別KPI目標表採用チャネル運用プレイブック(手順・メッセージテンプレート・SLA)チャネルポートフォリオマップ(役割・費用・リスク分散を可視化)STEP5. 選考プロセスの設計採用の質とスピードを両立させるには、選考プロセスの標準化と再現性の確保が不可欠です。このステップでは、面接官や部門ごとに判断がばらつかないよう、「誰が・いつ・どの基準で・どう評価するか」を構造的に設計します。<やること>選考フローとSLAを策定(例:書類48時間以内、一次面接7日以内、結果通知3営業日以内)構造化面接の導入(質問バンク×評価ルーブリックの整備)実技・課題評価の設計(職種別にアウトプット基準を定義)面接官トレーニングの実施(評価基準・候補者対応・バイアス除去)<成果物>面接ガイド(質問例・評価観点・進行手順)評価フォーム(定量スコア+コメント欄)合否会議用の基準表(通過・保留・不採用判断の基準統一)明確なフローと一貫した評価基準を持つことで、採用スピードが上がり、候補者からの信頼も高まるでしょう。STEP6. 候補者体験(CX)の最適化採用活動の成果を高めるには、選考プロセスの効率化だけでなく、候補者が「この会社で働きたい」と感じる体験設計が欠かせません。まず、選考中の体験を一貫して心地よく保つことが重要です。面接や日程調整、連絡スピードなど、候補者との接点はすべて“企業の印象”を形成する要素です。例えば、日程調整を自動化ツールで即時対応し、合否連絡はSLA(例:面接後3営業日以内)を設定することで、スムーズで誠実な対応を実現します。こうした小さなスピードと丁寧さが、候補者満足度(CSAT)や意向度に直結します。次に、選考中の情報提供を充実させることも効果的です。候補者は企業を選ぶ立場でもあり、判断材料をどれだけ提供できるかが意向形成のカギになります。組織図やプロダクトロードマップ、福利厚生やキャリアパスの詳細などをまとめた資料を用意し、選考中に共有することで、入社後のイメージを明確にできます。また、候補者が現場の雰囲気を実感できるよう、オフィス見学やカジュアル1on1を設けるのも有効です。<成果物>コミュニケーション台本(連絡テンプレート・トーン&マナー指針)CXチェックリスト(応募〜内定承諾までの接点評価)候補者FAQ(問い合わせ対応の一元化)<主要KPI>辞退率Net Interview Score(面接体験満足度)採用関連レビューサイトでの評価(例:OpenWork)候補者が安心し、納得して意思決定できる環境を整えることで、内定承諾率の向上と長期的な企業ブランド価値の強化につながります。STEP7. オファー&クロージング戦略採用の最終段階で成果を分けるのは、「いかに候補者の意思決定を後押しできるか」です。せっかくの採用活動も、オファー承諾に至らなければ成果はゼロ。ここでは、競合提案に負けず、“決め切る”ための設計と仕組みづくりを行います。<やること>報酬レンジ・等級体系の整理と説明スクリプトの作成カウンター提案対策のシナリオ設計(懸念ヒアリング、再提示基準)入社前エンゲージメント施策の実施(1on1、チーム紹介、プレオリエンテーション)副業・在宅勤務など柔軟条件の提示方針を定義<成果物>オファーテンプレート(給与・等級・評価制度説明付き)クロージングチェックリスト(懸念・提案・フォロー履歴の記録)オファー承認ワークフロー(権限・再提示条件の明文化)<主要KPI>オファー受諾率入社辞退率(内定後)納得感のある条件提示と誠実なフォローにより、候補者の不安を解消し、入社への確信を育てることで、採用の成功率を最大化します。STEP8. オンボーディング&定着連動採用のゴールは「入社」ではなく、「戦力化」です。どれほど優秀な人材を採用しても、オンボーディングが機能しなければ早期離職やパフォーマンス低下を招きます。このステップでは、入社後の定着と成果創出を支援する仕組みを構築し、採用活動の成果を経営貢献につなげます。<やること>0–30–60–90日オンボーディングプランの策定(目標・支援・評価を段階設定)バディ制度の導入と運用ルールの整備早期成果の設計(Quick Wins:初期タスク・プロジェクト参加機会など)フィードバック面談(30日・90日)とサーベイの実施<成果物>職種別オンボーディングキット(業務・文化・システム・チーム紹介)初期OKR(短期目標・成果指標)フィードバックテンプレートおよび記録フォームオンボーディングと定着支援を採用戦略の延長として設計することで、採用投資の効果を最大化し、持続的に成果を生み出す組織を実現するでしょう。採用戦略を立てた後のアクション採用戦略は、立てたら一安心ではありません。ここでは、採用戦略を立てた後の具体的なアクションを解説します。採用計画の具体化と共有採用戦略を策定したあとは、それを実行可能な計画へと落とし込みましょう。まず、採用人数・時期・職種別の優先順位を明確にし、経営層や現場責任者と共有します。事業計画と連動した採用計画にすることで、組織拡大のスピードと整合性を保つことができます。次に、準備段階で作成した各ポジションのジョブディスクリプション(JD)にブレがないか、改めて確認しましょう。そして、採用担当・面接官・現場マネージャーの間で共通認識を持ち、候補者への説明も一貫させることを徹底します。採用チャネルの決定・運用準備次に、採用戦略を実行に移すためのチャネル設計と運用準備を行います。求人媒体・エージェント・リファラル・ダイレクトスカウトなど、採用戦略で決めたチャネルごとに、実際に利用するサービスを選定します。チャネルごとの予算・運用ルール・担当体制に基づいて、採用実務を確認しましょう。また、SNSやブログで社員ストーリーやカルチャーを発信する準備も始めます。採用アカウントや採用サイトの整備が必要な場合は、役割分担も明確にしておきます。データ管理と効果測定の準備採用を継続的に改善するには、データに基づくモニタリング体制が欠かせません。ATS(採用管理システム)やスプレッドシートを活用して、応募数・通過率・内定率・定着率などのKPIを可視化します。さらに、チャネル別の費用対効果(Cost per Hire、Quality of Hire)を定期的に測定し、効果の高い施策へ投資を集中させます。これらのデータを基に、四半期ごとのレビューサイクルを設けて採用施策をアップデートしていくことで、戦略と現場が連動した改善体制を構築しましょう。採用戦略に関するよくある質問最後に、採用戦略を立てる企業が疑問に思いやすいポイントをまとめました。Q. 採用計画はどのくらいのスパンで立てるべきですか?採用計画は、1年を基本サイクルとして立てるのが一般的です。多くの企業では、年度の事業計画や予算編成と連動させて「来期に何名・どの職種を・いつ採用するか」を定めます。ただし、採用市場や事業環境の変化が速い昨今では、四半期ごとの見直しが効果的です。四半期単位で採用進捗やチャネルの成果を振り返り、必要に応じて人数・時期・優先度を調整することで、無駄のない採用が可能になります。Q. 採用戦略に失敗する企業の共通点は?よくあるのは、以下のケースです。採用ニーズが曖昧で「どんな人が欲しいか」が決まっていない採用チャネルを1つに依存している面接や評価基準が属人的でミスマッチが起きやすい採用活動が経営戦略と連動していないQ. 中小企業でも採用戦略は必要ですか?はい、中小企業こそ採用戦略が必要です。なぜなら、採用リソースが限られている分、1つの採用判断が事業成長に与える影響が大きいからです。多くの中小企業では、「とにかく人手がほしい」「紹介されたから採る」といった短期的な採用になりがちです。しかし、戦略がないまま採用を進めると、ミスマッチによる早期離職や採用コストの増大を招き、結果的に時間もコストも浪費してしまいます。採用戦略を立てることで、「どんな人を・なぜ採るのか」「どのチャネルで・どのように伝えるのか」を明確にでき、限られたリソースを最も効果的に使えるようになります。また、企業のビジョンや文化を言語化し、魅力を発信することで、大手企業とは異なる選ばれる理由をつくることができます。Q. 採用戦略を立てるときに使えるフレームワークはありますか?はい、採用戦略を立てる際には、いくつかのフレームワークを活用することで思考を整理し、抜け漏れを防ぐことができます。代表的なものをいくつか紹介します。まずおすすめなのが、「3C分析(Company・Competitor・Candidate)」です。Company(自社):自社の採用力やブランド、強み・課題を整理Competitor(競合):同業他社の採用手法・条件・メッセージを分析Candidate(候補者):ターゲット人材の価値観・行動・転職動機を把握この3つの視点から「自社がどんなポジションで戦うべきか」を明確にできます。次に有効なのが、「4Pフレームワーク」を採用に応用した“採用版マーケティング思考”です。Product(採用プロダクト)=職務内容・キャリアパス・企業文化Price(条件)=給与・報酬・柔軟な働き方などの提供価値Place(チャネル)=媒体・エージェント・リファラルなどの採用経路Promotion(広報)=採用広報・SNS・社員発信などの訴求手段これにより、「誰に・何を・どう伝えるか」を整理し、戦略的なメッセージ設計が可能になります。また、採用全体を俯瞰するには、採用ファネル(応募→書類→面接→内定→入社)を使ってボトルネックを特定するのも有効です。Q. 採用戦略を立てても採用目標が達成できません。採用戦略を立てても目標が達成できない場合、主な原因は次の3つです。①データに基づく検証不足応募数・通過率・内定率などのファネルを分析し、どこで離脱が起きているかを把握できていない。感覚的な判断では改善が進みません。②現場との連携不足人事だけで採用を進めると、要件のズレや評価基準のばらつきが発生します。事業責任者や面接官と定期的に擦り合わせを行うことが重要です。③戦略のアップデート不足採用市場や競合環境は変化します。戦略を年1回で終わらせず、四半期ごとの見直しでチャネル・メッセージ・条件を最適化しましょう。つまり、採用戦略は立てるだけでなく、「検証・連携・改善」を継続する運用力が成功の鍵です。Q. 採用戦略の立案は外注できますか?はい、採用戦略の立案は外部の専門家に委託することも可能です。特に、自社に採用のノウハウがない場合や、事業拡大フェーズで採用を急ぐ場合は、戦略設計を外部のプロに支援してもらうのは効果的です。外部コンサルタントや採用支援会社に依頼すると、市場分析・採用設計・チャネル戦略・KPI設計までを客観的な視点で構築してもらえます。また、競合比較や最新トレンドを踏まえた提案を受けられる点もメリットです。ただし、すべてを丸投げするのは避けましょう。採用は経営や現場の実情と密接に関わるため、「設計は外部、意思決定と実行は自社」という役割分担が理想です。外部の知見を活かしつつ、自社の文化・評価基準を反映させることで、現場に根づく実践的な戦略になります。まとめ採用戦略とは、単に「人を採る仕組み」ではなく、企業の未来をつくる経営戦略の一部です。明確な戦略を持つことで、採用活動に一貫性が生まれ、優秀な人材を計画的・再現的に確保できるようになります。本記事で紹介したように、採用戦略は「現状診断」から始まり、「ターゲット定義」「チャネル設計」「候補者体験」「クロージング」「オンボーディング」まで、段階的に設計していくことで実効性が高まります。そして、戦略を立てた後は、採用計画の具体化、データによる検証、現場との連携を通じて運用を磨き続けることが重要です。