開業して間もない頃や、思うように収入が伸びないとき、「赤字でも確定申告って必要なの?」「このまま確定申告して大丈夫?」と不安に思うこともあるでしょう。赤字を確定申告すると節税になるという話も聞くものの、本当にメリットがあるのか、リスクはないのかと悩む人も多いようです。この記事では、赤字の個人事業主が確定申告をするべき理由や、反対にわざと赤字にしようとして起こるトラブルを分かりやすく解説します。個人事業主が赤字になるケース個人事業主が赤字になるのは、1年間の収入よりも経費や各種控除の金額が上回り、最終的な利益がマイナスになる場合です。税務上の所得は、「売上-必要経費-所得控除」で計算されるため、この合計がゼロ以下になると赤字と見なされます。個人事業主が赤字になる理由は、「売上が少ない」「経費が多い」「控除額が大きい」の3つに大別されます。開業したばかりで仕事の依頼が少なく、売上が十分に確保できなかった場合は、当然収入が少なく赤字になる可能性が高くなります。また、取引先との関係構築や業務効率化を目的に、高額なPCやソフトウェアを購入したり、広告費や事務所の整備費などの初期投資がかさんだりした場合も赤字になることがあります。仕入れや人件費など、必要な経費が大きくなれば、その分利益は圧迫されます。さらに、扶養控除や社会保険料控除、医療費控除、住宅ローン控除などが多いと、それだけ課税対象となる所得(課税所得)が減ります。収入が少ない年に控除が重なると、利益自体がある程度出ていても、課税所得はマイナスになりやすく、赤字扱いになる可能性があります。どれか1つが当てはまるだけでなく、これらが複合的に重なって赤字になるケースもよく見られます。個人事業主がわざと赤字にするのは高リスク個人事業主が意図的に赤字を作る行為は、非常にリスクが高く、場合によっては重いペナルティを受ける可能性があります。「わざと赤字にする」とは、実際には利益が出ているにもかかわらず、仕事に無関係な支出を経費として申告するなどして、帳簿上の所得を意図的にマイナスにすることを指します。例えば、プライベートで使っている家電や衣服を業務用として経費に計上したり、仕事とは無関係ない旅行費や交際費を、事業活動の一部として処理したりするのが該当します。確かにこのような操作をすれば帳簿上は赤字になりますが、税務署から見れば経費のごまかしであり、脱税行為にあたります。もし、税務調査で不正が発覚すれば、通常の税額に加えて重加算税や延滞税などが課されます。場合によっては数年分の過去申告をさかのぼって調査されることもあり、金銭的にも心理的にも大きなダメージになるでしょう。さらに、悪質と判断された場合には、刑事告発され罰金刑や懲役刑が科される可能性もあります。個人事業主は赤字でも確定申告を行うのがおすすめ実は、赤字の個人事業主に確定申告を行う義務はありません。しかし、個人事業主が赤字になった場合も、自発的に確定申告をしておくことで、翌年以降の節税や税金の還付など、さまざまな恩恵を受けられる可能性があります。赤字申告をすると、その赤字を最大3年間、翌年以降の黒字と相殺できる「純損失の繰越控除」が活用できます。つまり、翌年に利益が出たとしても、赤字分を差し引いて課税所得を減らせるため、納める税金を抑えられるのです。また、住民税や国民健康保険の算出にも影響があるため、収入が少なかった年には、正しく申告しておくことで各種負担が軽減される可能性もあります。このように、赤字申告には見逃せないメリットがあります。次の段落では、具体的にどのようなメリットがあるのか、またどのような手続きが必要なのかを解説します。個人事業主が赤字申告を行うメリットここでは、赤字でも確定申告をすることで得られる具体的なメリットを6つ解説します。赤字申告を正しく行えば、将来の税金を軽くしたり、今すぐ使えるお金を取り戻せたりと、さまざまなメリットがあります。そのため、赤字だからといって確定申告を見送ってしまうのは、もったいない選択です。特に資金繰りに悩む個人事業主や、来年以降は利益が見込まれるフリーランスにとっては、赤字申告が大きな助けになることもあります。保険料や税金が減免できる赤字申告を行うことで、所得が低くなるため、国民健康保険料や住民税の負担が軽減される可能性があります。保険料や税金額は、前年度の所得をもとに算出されるため、確定申告で正式に所得が少なかったことが認められると、翌年の負担が軽くなります。特に、開業初年度や事業が不調だった年などは、少しでも固定費を減らしたいものです。税金や保険料の負担が下がれば、その分を生活費や事業の立て直しに充てられるため、実質的な節約にもつながります。損失の繰越控除が受けられる(青色申告)青色申告をしている個人事業主は、赤字になった年の損失を翌年以降の黒字と相殺できる「損失の繰越控除」という制度が受けられます。損失の繰越控除制度を使えば、翌年以降に事業が好転して利益が出ても、赤字分を差し引いた金額に対して税金がかかるため、税負担を軽くできます。繰り越しは最長10年まで可能なので、事業が安定するまでの間に赤字が出たとしても、後で取り戻せます。「今年は赤字だけど、来年からは売上が伸びそう」という場合には、早めに申告して繰越控除の対象にしておくことが重要です。赤字の繰戻し還付金を受け取れる(青色申告)同様に、青色申告をしている場合には、「赤字の繰戻し還付」も利用できます。赤字の繰戻し還付とは、赤字が発生した年の損失を前年の黒字と相殺し、すでに納めた所得税の一部を返してもらえる制度です。ただし、繰越控除と繰戻し還付はどちらか一方しか選べないため、選択には注意が必要です。現金がすぐに必要で、かつ前年にしっかり納税している場合は繰戻し還付が適しています。一方で、当面は資金に余裕があり、将来の黒字が見込めるなら、繰越控除を選んだほうが長い目で見ると得になるケースもあります。将来の見通しと現在の資金状況を考慮しながら、適切に選ぶことが大切です。源泉徴収税額や予定納税分の還付金を受け取れる個人事業主が、報酬を受け取る際にあらかじめ所得税が源泉徴収されていたり、予定納税をしていたりすると、赤字申告によってその税金の一部が戻ってくる可能性があります。源泉徴収税額は、年間の所得や経費を考慮せず、自動的に差し引かれています。しかし、実際の所得が赤字となった場合、本来納めるべき所得税額はゼロになります。この場合、確定申告を行って源泉徴収された金額を申告書に記載することで、納め過ぎた税金が還付される仕組みです。また、予定納税とは、前年の所得税額が一定額以上になった場合に、その年の所得税の一部を事前に分割して納める制度です。具体的には、5月15日時点で、前年の所得や税額をもとに算出した「予定納税基準額」が15万円を超えていれば、予定納税の対象となります。前年の実績をもとに予定納税していた場合でも、赤字申告をすれば、納めすぎた分の還付を受けられるのです。所得証明や課税証明書を発行できる赤字申告をしていれば、所得がゼロやマイナスでも確定申告書の控えをもとに、所得証明や課税証明書を取得できます。所得証明や課税証明書は、住宅ローンの審査や各種補助金の申請、保育園の利用申請、ビジネスの資金調達時など、さまざまな場面で必要とされます。赤字になった場合でも、しっかりと確定申告をしておけば、自己の収入状況を公的に証明でき、行政手続きや金融機関とのやり取りがスムーズになります。逆に申告していないと、「収入がない=信用がない」と見なされる恐れもあるため、特に今後の事業拡大や生活設計を考えている個人事業主にとっては重要なポイントです。他の所得との損益通算ができる事業収入以外に不動産所得や給与所得がある場合には、赤字申告によって損益通算が可能になります。事業の赤字をほかの所得と相殺することで、課税所得を減らし、納税額を抑える効果があります。例えば、副業として小規模な事業を行い、本業では会社員として給与を得ている人が、副業で赤字になった場合は、副業の赤字分を給与所得と相殺できます。所得税や住民税が軽減される可能性があるため、複数の収入源を持っている個人事業主にとって、赤字申告は支出を抑える非常に有効な制度です。個人事業主が赤字申告を行うデメリット赤字申告は節税や還付金などのメリットがある一方で、思わぬ落とし穴も存在します。個人事業主が赤字申告を行う際に注意しておきたいデメリットを解説するので、事前にリスクを知り、後悔のない判断につなげましょう。資金調達が難しくなる金融機関が融資の可否を判断する際には、申告された所得や利益を見て「返済能力があるかどうか」を重視します。そのため、赤字申告をすると、金融機関からの融資審査で不利になる場合があります。日本政策金融公庫や地方銀行、信用金庫などに融資を申し込む際は、過去2〜3年分の確定申告書の控えや決算書類の提出が求められます。赤字が続いている場合は、「この人は本当に事業を継続できるのか」「返済原資があるのか」と不安視されてしまうのです。また、赤字申告を行うことで所得が低いと見なされるため、住宅ローンや事業資金の借り入れ審査でも不利に働くことがあります。赤字の理由が、一時的な設備投資や開業初期の費用であったとしても、金融機関にとっては数字が全てです。今後の事業拡大に向けて融資を検討している個人事業主は、赤字申告が与える影響を慎重に考える必要があります。赤字申告の手間や時間がかかる赤字申告をする場合でも、通常の確定申告と同様に帳簿の作成や収支の記録が必要となり、事務作業に手間がかかります。特に、青色申告で赤字を申告する際には、複式簿記での帳簿作成が求められるため、日々の取引を正確に記録し、決算書も作成しなければなりません。さらに、赤字の額を損失として繰り越す「損失の繰越控除」や、前年の黒字と相殺する「繰戻し還付」を利用するには、別途書類の添付や正確な計算が必要になります。これらの制度を使うことで節税になる反面、制度の理解や事務作業の負担は軽くありません。特に、確定申告に慣れていない人にとっては、何をどこまで記載すればよいのか迷ってしまう場面も多いでしょう。赤字の個人事業主に税務調査は来る?赤字の個人事業主であっても、税務調査の対象になる可能性は十分にあります。特に、売上が前年と比べて極端に減っていたり、必要以上に経費を多く計上しているように見えたりするなど、申告内容に不自然な点が見られる場合は注意が必要です。売上の過少申告や経費の水増しといった、不正を疑われる原因になりやすいためです。また、赤字が数年にわたって続いていたり、売上が少ないにもかかわらず生活水準が高いなど、事業の規模や実態と申告内容が合っていないと判断されたりすると、調査対象になることがあります。自宅兼事務所で家賃や光熱費の大半を経費として計上しているような場合は、家事按分の妥当性なども含めて細かくチェックされる可能性があります。不自然な申告があると、赤字か黒字かに関係なく税務調査に入る可能性があるため、日頃からの記帳管理を丁寧に行い、正確な申告を心がけましょう。▼関連記事:フリーランスも税務調査の対象になる!税務調査の確率や対象になりやすい人の特徴を解説赤字の個人事業主は税金の支払いが一部免除される事業が赤字になった年には、所得税や住民税、個人事業税の支払いが免除される可能性があります。しかし、全ての税金が対象になるわけではなく、消費税などは赤字でも納税義務が発生することもあります。ここでは、赤字時の税金に関する基本的な仕組みと注意点を分かりやすく説明します。所得税・住民税・個人事業税:免除赤字になると、所得税や住民税、個人事業税が免除されるケースがあります。これら3つの税金は、売上から経費や各種控除を差し引いた所得に対して課される仕組みです。例えば、1年間の売上が300万円で、経費が350万円かかった場合、所得はマイナス50万円となり課税対象がなくなるため、支払いは免除されます。なお、法定業種70種類に該当する場合に課税対象となる個人事業税は、年間所得が290万円以下であれば、そもそも課税されないという点も覚えておくとよいでしょう。ただし、確定申告を行わなければ赤字であることが証明されないため、赤字申告は必須です。消費税:納税義務が発生消費税は、赤字であっても納税義務が発生するため注意が必要です。所得税などと異なり、消費税は売上の額を基準に課されます。そのため、たとえ事業としては赤字でも、消費税の納税義務が発生します。なお、消費税は個人事業主全員に課されるわけではなく、以下いずれかの条件に該当する人が納税対象となります。基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超える場合特定期間(前年1月1日~6月30日)の課税売上高が1,000万円を超える場合適格請求書発行事業者(インボイス制度)に登録している場合そのため、例えば利益が大きくても、仕入れや外注費が高い事業を行っている場合は、消費税の納税負担が重くなることがあります。赤字でも支払いが生じる税金があることを理解したうえで、資金繰りや価格設定を行うことが大切です。▼関連記事:インボイスに登録しない選択はあり?フリーランスの判断基準を解説赤字の個人事業主は社会保険料の支払いが減免される赤字になった年は、社会保険料の負担も軽減されることがあります。ただし、自動的に減免されるわけではなく、きちんと申請手続きを行うことが前提となります。ここでは、赤字時にどのような保険料が軽減されるのかを詳しく解説します。国民健康保険料:最大7割減額赤字になると、国民健康保険料の負担が最大で7割まで減額されます。保険料の軽減率は市区町村によって異なりますが、一般的に、所得が一定の基準を下回ると2割、5割、7割のいずれかの軽減措置が適用されます。赤字の場合は7割減となることが多いようです。ただし、所得がゼロであっても、国民健康保険料がゼロになるわけではありません。地域によって異なりますが、年間で4万〜8万円程度の「均等割」や「平等割」といった最低限の保険料が発生します。また、軽減を受けるには、確定申告を通じて所得状況を証明する必要があります。申告をしなければ、所得が「不明」と扱われて軽減措置が受けられないこともあるため、赤字でも申告は必ず行いましょう。国民年金:全額免除赤字の個人事業主は、国民年金保険料の免除申請を行うことで、保険料が全額免除されます。2025年度の免除基準では、前年の所得が「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」を下回ると、全額免除の対象になります。例えば、単身世帯の場合は前年所得が67万円以下、扶養親族が1人いる場合は102万円以下であれば、全額免除が認められます。国民年金の支払い免除期間中も、保険料を支払ったのと同じように「受給資格期間」に算入されます。また、後から追納することもできるため、一時的に支払いが困難な場合には有効な手段です。ただし、申請しないままにしておくと「未納」とみなされ、将来受け取れる年金額が減少する可能性があるため、赤字の年は必ず免除申請を検討しましょう。赤字の個人事業主が事業用に使える補助金「赤字だと支援を受けられないのでは?」と不安になる人もいるかもしれませんが、赤字の個人事業主に配慮した補助金制度もあります。ここでは、赤字の状態でも活用できる補助金制度を紹介するので、経営の立て直しや新しい取り組みにチャレンジする際に、ぜひ検討してみてください。小規模事業者持続化補助金小規模事業者持続化補助金は、販路開拓や業務効率化を図るための取り組みに、幅広く活用できる代表的な補助金です。特に赤字の個人事業主は、賃金引上げ特例という制度により、補助率が通常の2/3から3/4に引き上げられるなど、優遇措置を受けられます。例えば、新規のホームページ作成やチラシ配布、事務処理を効率化するためのツール導入などの費用などに使えます。赤字でも申請可能で、審査に通れば最大で50万円(特例が適用されればそれ以上)の補助を受けられる可能性があります。申請にあたっては、商工会議所または商工会の支援を受けながら、事業計画書を作成し提出する必要があります。補助金のなかでも利用しやすく、実績も豊富な制度です。IT導入補助金IT導入補助金は、業務の効率化や生産性向上のためにITツールやソフトウェアを導入する際に使える補助金です。補助率は原則1/2以内で、赤字の個人事業主でも条件を満たせば通常枠で最大150万〜450万円まで補助される可能性があります。会計ソフトや受発注システム、ECサイトなど、日常業務の省力化に直結するITサービスの導入費用に活用できます。赤字の原因が人手不足や業務の非効率化にある場合は、こうしたIT投資は中長期的に黒字化への足掛かりになります。申請時には、IT導入支援事業者との連携が必須です。事前相談から導入後の実施報告まで、しっかりとサポートを受けながら進められるため、ITに不慣れな方でも安心して利用できます。ものづくり補助金ものづくり補助金は、個人事業主が新しい製品を開発したり、製造プロセスを改善したりする際に利用できる大型の補助金です。小規模事業者であれば、補助率は2/3まで引き上げられ、従業員が5人以下の場合でも最大750万円の補助を受けられる枠があります。赤字の状態であっても「積極的な設備投資」によって今後の事業成長が見込まれると判断されれば、申請が通る可能性があります。例えば、最新の製造機械を導入して生産性を向上させたいといった具体的な投資に対して活用できます。審査では、将来的な収益性や地域経済への貢献度などが重視されるため、赤字でも事業に対する前向きな姿勢をしっかり示すことが重要です。事業承継・M&A補助金事業承継・M&A補助金は、個人事業主が事業を第三者に引き継ぐ、または買収する際に発生する費用を支援する補助金です。例えば、廃業を考えていたものの、M&Aによって他者に事業を引き継ぐ場合や、廃業後に新たなビジネスを始める際の初期費用などが対象となります。補助の対象には、専門家への相談費用や、引き継ぎ後の設備投資費用なども含まれるため、費用負担を大きく抑えられます。▼関連記事:フリーランス・個人事業主が申請すべき補助金とは?助成金や支援制度も紹介赤字の個人事業主が生活費を工面する方法収入が減って赤字が続くと、毎月の生活費をどのように確保するかが大きな悩みになります。事業の継続と日々の暮らしのバランスを取るのは簡単ではありませんが、焦って無理をするよりも、使える制度や選択肢を冷静に見極めることが大切です。ここでは、赤字でも生活を維持するために使える具体的な手段を紹介します。公的支援制度を活用する赤字が続いて生活が困難な場合は、公的支援制度を利用して一時的な資金不足を乗り越えるのがおすすめです。先述した補助金だけでなく、自治体が提供する生活支援制度にも目を向けることで、経済的な負担を軽減できます。例えば、収入が減って家賃の支払いが難しくなった場合は「住宅確保給付金」、急な出費への対応には「生活福祉資金貸付制度」などが活用できます。無利子または低利での貸付制度が多く、返済負担が少ないのも特徴です。窓口は市区町村の福祉課や社会福祉協議会です。手続きに時間がかかることもあるため、早めの相談が重要です。生活費を「事業主借」で補填する手元に現金がある場合は、「事業主借」という会計処理を使って、生活費をまかなえます。事業主借とは、個人事業主が事業用のお金をプライベートに使った際の仕訳方法で、収入がなくても一時的な生活費の補填手段になります。事業の売上がゼロであっても、過去の貯金や補助金などで口座に現金があれば、そこから生活費を支出し、支出した分を事業主貸として会計帳簿に記録します。複式簿記で青色申告をしている場合は、事業主貸の処理をきちんと行えば、生活費と事業経費を明確に分けられるため、税務上のトラブルも防げます。ただし、事業主貸の処理はあくまで現金の移動に過ぎず、新たな収入が発生しているわけではありません。赤字が続けばいずれ現金は底をつくため、早期の収益回復が前提になります。あくまで一時的な対応策として利用し、並行して事業の立て直しも考える必要があります。家事按分を活用して経費化できる部分を最大限活用する赤字でも、家事按分を使えば合理的に生活費の一部を事業経費として処理できます。家事按分とは、生活と仕事が混在する家賃や電気代、水道代、通信費などの支出を、業務に使っている分だけ経費として計上する方法です。自宅の一室を事務所として使っている場合は、使用している部屋の床面積や使用時間に応じて家賃や光熱費の一部を事業経費として処理できます。赤字でも経費計上自体は問題なく行えるため、帳簿上の整合性を保ちつつ、事業の全体像を把握しやすくなります。もちろん、家事按分はあくまで合理的な範囲で行うことが前提です。過大な経費計上は税務署の指摘対象になるため、使用実態に基づいた計算と記録をしっかり残すことが大切です。赤字の場合は所得税が発生しないため、経費を増やしても節税効果は薄いかもしれませんが、事業と生活を明確に分け、再建の基盤を作るための工夫と考えるとよいでしょう。▼関連記事:フリーランスは家賃を経費計上できる!家事按分の計算方法や確定申告の注意点を解説副業や短期アルバイトを検討する事業の収入が不安定な時期には、短期的に副業やアルバイトで生活費を確保するのも有効です。時間や体力に無理のない範囲で取り組めば、精神的な余裕も生まれ、事業の立て直しにも前向きになれるでしょう。例えば、データ入力をはじめ、簡単なライティングや事務作業などは、スキルや経験が不要で収入を得られる手段です。また、短期間だけ募集しているイベントスタッフや倉庫作業、配送補助などのアルバイトも、即日や週単位で収入が得られる点が魅力です。ただし、副業が本業に悪影響を及ぼすようでは本末転倒です。あくまで生活費の補填を目的とし、スケジュールや体力に無理のない範囲で取り組むようにしましょう。▼関連記事:フリーランスとアルバイトは掛け持ちできる!メリット・デメリットを解説【Q&A】個人事業主の赤字に関するよくある質問事業が赤字になったとき、「このままで大丈夫だろうか」と不安になる人は多いものです。売上が下がると生活費や経費の支払いにも支障が出て、精神的にも追い詰められてしまいがちです。最後に、個人事業主が赤字になった場合のよくある疑問にお答えします。個人事業主は赤字が続くとどうなる?個人事業主は赤字が続くと、事業の成長が停滞し、最終的には廃業も視野に入れざるを得ない状況になります。新たな設備投資や広告費の投入が難しくなるため、助成金などを活用しなければ、収益を伸ばすための行動が制限されます。その結果、現状維持が精一杯となり、競合との差も広がってしまいます。また、金融機関からの融資や新規の取引先との契約においても、赤字は信用低下の要因となります。特に、創業まもない個人事業主の場合は、事業の実績よりも数字の印象が重要視される場面も多いため、注意が必要です。さらに、収入が減れば生活費のやりくりも厳しくなるでしょう。貯金を取り崩して生活費をまかなう状態が続けば、精神的なプレッシャーも大きくなり、事業に集中できなくなる悪循環に陥りやすくなります。そのため、赤字の兆候が見えた段階で早めの対策が必要です。赤字の個人事業主は定額減税を受けられる?赤字の個人事業主は、所得税が発生しないため、定額減税の対象外となります。定額減税は、納めるべき所得税や住民税の額から一定金額を差し引く仕組みです。そもそも納税額がゼロであれば減税のしようがないといえます。赤字は何年まで繰り越しできる?青色申告をしていれば、赤字は最長3年間繰り越しできます。例えば、2024年に100万円の赤字を出し、2025年に50万円の黒字になった場合は、繰越控除を使えば2025年の所得は0円として計算され、税金が発生しません。さらに、残りの50万円分の赤字は2026年に繰り越せます。ただし、繰越控除を使うには、毎年きちんと確定申告を行い、繰越損失の記載を忘れないことが条件になります。赤字が出た年に申告を怠ると、繰越の権利が失われてしまうため、注意が必要です。赤字の個人事業主が確定申告をしないとどうなる?赤字申告を行わないと、後々大きな不利益を被る可能性があります。確定申告は、赤字であっても事業の状況を税務署に報告する重要な手続きです。確定申告を怠ると、先述のように赤字の繰り越しができず、翌年以降の節税チャンスを逃してしまいます。また、無申告が続くと、将来的に税務調査の対象になりやすくなったり、いざ収益が回復したときに過去分の説明を求められたりするなど、信頼の低下にもつながります。公的支援や補助金の申請でも、過去の確定申告書の提出が求められる場面が多くあります。赤字申告をしていないと、制度を活用できないという実務的な支障も出てくるため、赤字でも申告は必須という意識を持っておくことが重要です。赤字はローンに影響する?事業が赤字の場合、住宅ローンや事業資金の借入において不利になることがあります。金融機関は融資を検討する際に、個人の信用力や返済能力を総合的に評価します。審査の中でも重要視されるのが所得状況です。個人事業主にとっては、確定申告書がそのまま収入証明として扱われます。継続的に赤字であれば「返済能力に問題がある」と判断され、ローン審査に通りにくくなるのが実情です。特に、住宅ローンなどの高額融資では、直近3年分の申告書の内容が審査材料になるため、毎年の結果が大きな影響を与えます。しかし、赤字だからといって絶対にローンが組めないというわけではありません。貯蓄やほかの収入、配偶者の収入状況など、総合的な評価によっては審査が通ることもあります。赤字の内容が一時的なものである場合は、背景をしっかり説明できるよう準備しておくとよいでしょう。まとめ個人事業主は、赤字になった年でも確定申告をきちんと行っておくことが大切です。確定申告を怠ると、赤字を翌年以降に繰り越せず、黒字に転じたときに思わぬ納税負担が生じる恐れがあります。また、公的支援や補助金を申請する際には、過去の申告書類の提出が必要になる場面も多く、申告していないと機会を逃すことにもなりかねません。さらに、確定申告書は金融機関にとって「信頼の証明」として使われることが多く、住宅ローンや事業融資の審査で重視されます。売上が少ない年であっても、誠実に数字を提出していることが、長期的にはプラスに働く可能性があります。個人事業主は事業に波が生じがちです。だからこそ、赤字のときも手続きをおろそかにせず、冷静に向き合う姿勢が大切です。赤字の年も、前向きに準備をしていきましょう。