AIの発展に伴って、企業の採用活動にAIを取り入れる「AI採用」が注目を集めています。書類選考から面接まで、採用選考のプロセスにAIを取り入れて、より効率的な採用活動を行いたいと考える採用担当者も多いでしょう。本記事では、採用におけるAIの活用例やAI採用のメリット・デメリットを解説します。また、おすすめのAIツールや導入事例など、AI採用を取り入れる際に知っておきたい情報も紹介します。AI採用とは?AI採用とは、採用活動のプロセスにAI(人工知能)を活用し、従来は採用担当者が行っていた作業を自動化・効率化する手法です。AI採用をうまく取り入れられれば、採用担当者の負荷を減らしながら、より精度の高い採用活動を行えるようになります。採用活動にAIを活用する企業は世界的に増えてきており、AI採用が主流となりつつあります。日本においても、AI採用を取り入れている企業は少なくありません。時事通信が行ったアンケートでは、2025年3月時点で主要100社のうち3割がAIを採用活動に取り入れているという結果が出ており、今後も増加していくと予想されます。▼参考:採用にAI、3割が導入 面接や書類選考に活用 主要100社アンケート|時事通信AI採用がトレンドとなっている背景AIを採用に取り入れる企業が急速に増えている背景には、「AI技術の発展」と「人手不足の深刻化」の2つの要素があります。まず挙げられるのが、近年のディープラーニングや生成AIの技術の発展です。IT業界に限らず、AIが広く社会で実用されるようになり、採用に役立つ大量の応募書類のスクリーニングツールや求人票の作成ツールが開発されています。また、人手不足の深刻化もAI採用を後押しする要因となっています。日本では少子高齢化により労働人口が年々減少し、企業は人材確保に苦戦しています。人事・採用担当者の数も不足しているため、人手不足を解消するためにAI採用を選択する企業が増えています。加えて、人材の確保が難しくなっている状況下で採用活動を強化し、最適な候補者との出会いを作り出す手段としてもAI採用は注目を集めています。採用におけるAIの活用例採用活動には多くのプロセスがあります。ここでは、どのプロセスでどのように採用にAIを取り入れられるのか、主な活用例を紹介します。採用戦略の策定過去の採用活動や、実際に採用した社員のデータをAIに読み込ませ、データ分析をすることで、自社の採用戦略の策定に活用できます。AIは大量のデータから規則性や特定のパターンを見つけることを得意としています。過去のデータから、採用に成功しているパターンや継続して働いている社員の共通点などが見出せれば、自社に根付いてくれる社員を採用するための戦略が見えてくるはずです。求人票の作成AIに過去の求人票のデータを学習させることで、応募率の高かった求人に使われている表現やキーワードを使った魅力的な文章が作成されます。AIを活用して求人票を作成すれば、担当者の作業量を大幅に削減しながら、応募率の向上も期待できます。スカウトする人材の発掘AIを活用すると、自社の求人情報とマッチする候補者を自動探索できます。このようなAIによる候補者の探索を「AIソーシング」と呼びます。AIソーシングによってLinkedInやFacebookから自社が求める経歴やスキルを持つ人材を発掘できるので、効率的なスカウトが可能です。応募書類の分析応募者が多い場合、全ての書類を担当者が確認するには、膨大な手間と時間がかかります。AIを使えば、書類から候補者のスキルや経歴などを認識し、自動で候補者のランク付けや選別を行ってくれます。結果として、魅力ある候補者を見逃すリスクを最小限にできます。応募者の適性診断企業の採用活動では、書類選考後や内定前に適性診断を行うことが多いです。具体的には、認知能力やコミュニケーション能力、リーダーシップ、問題解決能力などの能力と、価値観や、ストレス耐性、性格、協調性などの特性を評価するのが一般的です。適性診断にAIを活用することで、従来の適性診断と比べ、より深いデータ分析で正確な結果を導き出せます。AI適性診断は、採用だけではなく、自社社員の能力と特性を考慮して最適なポジションに配置するためにも活用できます。オンライン面接AIを活用すれば、面接官が介入することなく候補者とのオンライン面接が可能です。応募者はAIの質問に回答し、内容や表情、声のトーンなどをもとにAIが分析を行うのが一般的です。面接の様子を録画で見れることに加え、面接の結果がレポートにまとめられるため、担当者は録画やレポートを参考にして合否を判断できます。採用にAIを活用するメリット採用にAIを活用すると、従来の採用活動と比べてさまざまなメリットがあります。ここでは、主な5つのメリットを紹介します。採用にかかる工数を削減できる採用活動には、求人票の作成や問い合わせ対応、応募書類の確認、面接の日程調整、面接対応などのあらゆる業務があります。AIを活用すると、これらの業務を自動化できるため、採用にかかる工数の削減が可能です。結果的に、採用担当者は採用戦略の立案や、最低限のスクリーニングを終えた書類の選考など、本当に重要な業務に時間を充てられるようになります。マッチングの精度が向上するAIを活用すると、データに基づく採用活動ができるため、マッチングの精度が向上します。「優秀そうだ」「自社に合う気がする」といった人間の感覚とは違い、今までの応募者や社員のデータから客観的に自社に合うと判断される候補者を見つけられるのが魅力です。例えば、長期で継続して働いている既存社員とデータが近い人材を中心に採用するなど、AIの出した客観的な情報に基づいた採用活動を行えば、採用のミスマッチがなくなり、採用後の早期退職者を減らせます。▼関連記事:採用ミスマッチで優秀な人材が定着しない理由と防止する方法採用の公平性を担保できる人間が選考を行う場合、担当者の無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)が選考結果に影響するといわれています。AIを採用に取り入れることで、アンコンシャス・バイアスに影響されない公平な選考が可能です。また、AIは一定の基準に沿って応募者を評価するため、担当者ごとの評価のバラツキも解消できます。採用コストが削減できるAIによる業務の自動化で担当者の負担が減れば、残業時間の短縮や新たな採用担当者の雇用を回避できるため、人件費の削減につながります。また、AIのデータを活用して費用対効果の高い広告を出稿すれば、広告費も最小限に抑えられるでしょう。▼関連記事:採用コストを削減!複業サービスを活用した効率的な人材の確保方法とは?応募者のニーズへ対応できる採用にAIを取り入れることは、応募者にとってもメリットがあります。例えば、AI面接を導入すれば、対面の面接とは異なり、応募者は会社を訪問する必要がなく、移動の手間がかかりません。さらに、応募者が都合のよいタイミングで面接を受けられるため、応募への心理的ハードルが下がります。応募者のニーズに対応することで、求人への応募数の増加が期待でき、求める人材に出会える可能性も高まります。採用にAIを活用するデメリット採用にAIを取り入れる際には、注意するべき点もあります。ここでは、AI採用の主なデメリットを紹介します。導入コストがかかるAIツールの導入や運用には、使用料に加え、ツールを使いこなすための社員のトレーニングコストや、システムのメンテナンス費用などが発生します。想定以上に費用がかかってしまうことがないよう、具体的な見積もりをもとに、どこにどのAIツールを取り入れるかを検討しましょう。応募者のモチベーションが下がる可能性がある応募者の中には、AIに選考されることに抵抗を持つ人も少なくありません。特にAI面接を受けた応募者は、人間とのコミュニケーションが取れず、会社の雰囲気が伝わってこないことでモチベーションが下がるケースが多いです。AIを導入しつつも、採用担当者が応募者としっかりコミュニケーションをとり、企業の姿勢や社風を理解してもらう必要があります。学習データの蓄積が必要AIによる応募者のスクリーニングやスカウト人材の発掘は、過去のデータを基準として行います。AIにデータを蓄積していく必要があるため、データがない状態では十分な効果が期待できません。そのため、過去のデータが乏しい場合には、データが蓄積されるまでに時間がかかる可能性があります。すでに大量の採用データがある大企業と比べ、中小企業ではAIを活用して精度の高い採用活動を行うハードルが高くなるでしょう。採用活動をAIに頼りすぎないように注意しようAIには得意な業務と不得意な業務があるため、過度に依存するのは避けましょう。例えば、スカウトや応募者との連絡をAIに任せていると、働く人の人となりや社内の雰囲気がなかなか応募者に伝わらない場合があります。採用担当者が応募者とのコミュニケーションを取ることは、人材獲得において非常に重要です。応募者に自社を選んでもらうには、AI任せにせず、気持ちがこもったメッセージを発信し、自社に魅力を感じてもらう工夫が必要です。また、最終的に自社に合う人材かを判断する際には、定量化できない感覚が決め手となります。採用活動には人間にしかできない重要な業務もあるため、全てをAIで効率化しようとすると、かえって成果が出にくくなる可能性があります。AIを採用に導入するプロセス実際にAI採用をする場合には、一定の手順を踏むことで成功につながりやすくなります。ここでは、採用活動にAIを導入する際の基本的なプロセスを紹介します。AIの活用方針の決定いきなりAIツールを導入するのではなく、AIを活用する目的や、AIに任せる業務と人間が担う業務の線引き、自社が求めるAIの特性などを明確にしておきましょう。「書類選考に時間がかかっているから、AIによって効率化を図りたい」など、現在の採用活動の課題をはっきりさせたうえで、活用方針を決めるのがポイントです。どこにAIを導入するかの選定先述したように、採用活動のさまざまなプロセスでAIを活用できます。ただし、一度に全てのプロセスにAIを活用したり、複数のAIツールを導入したりすることは、コストの面でも運用の面でも負荷が大きくなります。そのため、現在の採用活動で課題があるプロセスや、AIの導入によって成果が見込める業務をピックアップして、どこに導入するかを検討するとよいでしょう。AIツールの選定AIを導入するプロセスが決まったら、具体的にどのAIツールを導入するかを選定します。AIツールを検討する際には、以下のようなポイントを比較しましょう。自社の方針と合う機能があるアルゴリズムの透明性が高いカスタマーサポートが手厚い他システムとの連動性が高い予算内で導入できる複数のAIツールを比較したり、無料のお試し期間があれば試験的な導入をしたりすることもおすすめです。運用体制の構築実際に導入するAIツールが決まったら、スケジュールを立てて運用体制を構築します。導入前にはシステム環境を整備し、AIツールを実際に使用するメンバーに対しては、使用方法のトレーニングを行う必要があります。また、採用フローを再確認し、採用にAIを使うことを候補者に理解してもらうためにAIの導入を公表することも重要です。運用体制が整ったら、AIにデータを取り込み、AIのトレーニングを開始しましょう。採用活動に役立つAIツールAI採用が注目される中で、さまざまな特徴を持ったAIツールが提供されています。ここでは、採用プロセスごとにおすすめのAIツールを紹介します。HARMOS(ハーモス採用)|AIで求人作成を効率化HARMOS(ハーモス採用)は、採用の効率化や、採用業務の改善を目的とした採用管理システムです。AIによる求人の自動作成機能があり、要件定義の難しいポジションの求人も作成できます。また、専門知識がなくても自社の求人ページを作成・更新できる機能や、選考内容のレポート作成機能、求人媒体との連携機能などもあります。母集団形成や選考管理、分析など採用活動のあらゆるプロセスで使える機能が豊富なため、従来の採用活動が劇的に改善できる可能性が高いです。AIスカウトくん|AIが候補者へのスカウト文を自動生成AIスカウトくんは、生成AIを活用してダイレクトリクルーティング媒体の運用代行支援をするサービスです。サービスを提供しているTechSuite株式会社の採用コンサルタントが、AIを使って企業に適した候補者を選出します。その後、AIが候補者に応じたスカウト文を自動生成し、送付します。定額でスカウトを無制限に送信できるため、多くの候補者にアプローチでき、人材獲得の可能性を高められるのが特徴です。PRaiO(プライオ)|AIでエントリーシートの選考を効率化PRaiO(プライオ)は、マイナビが提供している書類選考AIツールです。エントリーシートに優先度を付けて選考をスムーズにしたり、エントリーシートのコピペを検知し、コピペ内容や一致度を可視化したりと、書類選考を効率化できる機能が充実しています。導入企業の中には、書類選考の時間が約40%削減できたというデータもあり、業務効率化に役立ちます。また、選考活動の終了後には、選考結果とAIモデルの診断結果を分析・レポート化して報告してもらえるサポートがあるため、今後のAIモデルの構築や採用施策の策定に活かせるのも魅力です。SHaiN(シャイン)|精度の高いAI面接を実現SHaiN(シャイン)は、場所や時間に捉われずに面接ができる対話型AI面接サービスです。独自の戦略採用メソッドに基づき、AIが候補者のヒアリングを行い、面接評価レポートを作成します。また、候補者の回答内容はテキスト化されるため、対面での面接にもAI面接の内容を反映でき、候補者とのコミュニケーション不足を防げます。完全従量課金制で、初期導入費用がかからないのも魅力です。1件5,000円のスタンダードプランまたは、1件1,000円からのライトプランからプランを選べます。ミツカリ適性検査|AIによる適性検査ミツカリ適性検査は、AIを活用した適性検査ツールです。性格・価値観などを32項目に細分化してデータにします。自社の求める人物像を定義して応募者との比較ができるため、自社にマッチした人材の採用が可能です。また、検査結果から、応募者と似ている社員の掲示や、その人物に対する面接での質問例の提示機能があるため、対面での面接に活かせます。適性検査は、採用だけでなく、社員の人材配置にも活用できます。業務に対する志向を4つのタイプで分類するため、社員にどの業務が向いているかの判断に役立つでしょう。採用にAIを導入した企業の事例最後に、実際に採用にAIを導入した企業はどのような成果が出たのかを紹介します。AI採用を取り入れる際は、成功事例をベンチマークとし、具体的な活用イメージを持つことが重要です。ぜひ採用活動の参考にしてみてください。ソフトバンク大手通信キャリアを中心に、通信・IT事業を展開するソフトバンクでは、2017年よりエントリーシートの選考にAIツールのWatson(ワトソン)を導入しています。同社のエントリーシートによる審査目的は、足切りです。過去のエントリーシートの選考データを学習したAIが、応募者のエントリーシートの合否を判断しています。同社ではAIツールの導入によって、エントリーシートの処理時間が75%削減されたという結果が出ています。なお、AIとスタッフによる選考結果に大きな差はなく、ほぼ同等であることが検証されています。また、AIが不合格にしたエントリーシートも、必ずスタッフが目を通して、AIツールのみの判断で不合格にしないよう配慮されています。▼参考:ソフトバンクが新卒の「ES選考」をAIに任せた理由|ITmedia ビジネスオンラインGunosy(グノシー)情報キュレーションアプリを提供するGunosy(グノシー)では、2021年から適性診断ツールを本格的に利用しています。同社では、働いている在職社員にミツカリ適性検査を受けてもらい、得られたデータから、採用・人事担当者がこれからどのような人材を採用したいのかを議論する際の参考指標にしています。また、応募者に受検してもらうことで、「この人はこういう性格だから、このような質問をする」というように面接時にも適性診断のデータを活用しているとのことです。同社は、2018年にコミュニケーションの側面で、在籍社員と相性がよい人材を採用したいという目的で試験的に料金の低いライトプランを導入しています。しかし、2021年ごろから採用人数を増やすことになり、プランをアップグレードし、どんな人材を採用するべきかの定義から採用に至るまでにAIによる適性診断のデータを活用するようになったといいます。▼参考:ミツカリの人材データを分析し、会社の新フェーズに向けて採用要件を再定義|mitsucari吉野家牛丼チェーン店の吉野家は、2018年からアルバイト募集にAI面接を導入しています。最初は神奈川県の74店舗でのアルバイト募集に限って利用されていましたが、2019年からは1都3県の店舗の面接に利用されるようになりました。従来の対面による面接では、店側の都合で日程を組む必要がありましたが、AI面接なら応募者の都合に合わせて面接を受けてもらえるため、応募のハードルが低くなると判断し、導入に至りました。応募時にAI面接か店長による面接かを選べる仕様にしてあり、AIに抵抗がある応募者への配慮もされています。AI面接を活用することで、店長が店舗で応募者を待つ必要がなくなり、忙しい店長の業務負担を軽減できるツールとしても役立っています。AIツールを採用に取り入れたことにより、応募者側と企業側、双方にメリットがあった成功例です。▼参考:AI面接の導入は、応募者側のニーズに寄り添うために|SHaiNまとめ採用活動にAIを取り入れることで、業務の効率化が期待できます。導入する際にはAIをどのように活用するのか、方針をしっかりと立てることが重要です。また、採用担当者は、AIツールを使いながらも、自社の魅力や想いが伝わるよう候補者とコミュニケーションを取る必要があります。AIをうまく活用し、本当に大切な部分に担当者の時間を多く使えるようになれば、より質の高い採用活動が実現するでしょう。採用に役立つAIツールや成功事例も参考にして、よりよい採用活動につなげてください。