業務委託では、A社がB社に業務を依頼し、さらにB社が業務の一部を別の企業やフリーランスに任せるケースは珍しくありません。このように、委託された業務を、第三者にさらに委託することを「再委託」といいます。しかし、「再委託はどこまで許可されるのか?」「下請けや外注との違いは?」といった疑問を持つ企業担当者も多いでしょう。再委託を適切に管理しないと、契約違反やトラブルにつながる可能性もあるので注意が必要です。本記事では、再委託の定義や、再委託を許可するかどうかの判断基準を解説します。また、再委託の可否を入れた契約書の書き方例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。再委託とは?再委託とは、委託された業務の一部または全てを、さらに別の企業やフリーランスに委託することを指します。例えば、A社がB社にシステム開発を依頼し、B社がプログラム開発の一部をC社に委託した場合に、C社への依頼が「再委託」に該当します。発注企業(A社)としては、再委託は、業務の効率化や大量受注がしやすくなるなどのメリットがある一方で、適切に管理しないと、情報漏洩や品質の低下などのリスクが生じる可能性があります。そのため、契約段階で再委託の可否や条件を明確に定めることが重要です。下請けとの違い下請けとは、最初に仕事を依頼した企業(発注企業)が、業務を外部の企業やフリーランス(受託者)に依頼し、さらに受託者が別の企業やフリーランス(下請業者)に業務を任せることを指します。再委託と下請けでは、契約関係と、契約できる業務委託契約の種類が異なります。再委託下請け契約種別請負契約・準委任契約・委任契約全て含む請負契約のみ契約関係発注企業から仕事を受けた企業やフリーランス(受託者)が、さらに別の企業やフリーランスと契約する発注企業と下請業者が直接契約する具体例システム開発で、業務管理を受託者に任せ、さらに特定業務を別のフリーランスに依頼する発注企業が部品製造を受託者に発注し、受託者がさらに下請業者に発注する再委託は請負契約だけでなく、準委任契約や委任契約も含まれるのに対し、下請けは請負契約のみが対象となります。外注との違い外注とは、発注企業が業務を外部の企業や個人に直接依頼する形態です。発注企業と外注先の間で直接契約を結ぶため、業務の管理や納期の調整も発注企業が行います。再委託と外注では、契約関係と管理責任者の2つが異なります。再委託外注契約関係受託者がさらに別の企業と契約を結ぶ発注企業が外注先と直接契約を結ぶ管理責任者受託者が再委託先の業務を管理する発注企業が外注先の業務を直接管理する具体例A社がB社に業務を委託し、B社がさらにC社に業務を委託するA社がC社にデザイン業務を直接発注する再委託は、業務を委託されたB社が、さらにC社に業務を依頼するため、発注企業であるA社がC社と直接やり取りをすることは基本的にありません。一方、外注では、A社がC社と直接契約を結び、業務の進捗管理や品質チェックもA社が行います。企業は再委託を認めても問題ない?企業は、仕事を依頼するフリーランスや別の企業に対して、基本的に再委託を認めても問題ありません。ただし、契約形態によって注意する必要があります。一般的に、請負契約では再委託を許可する企業が多い中、委任契約・準委任契約では再委託を禁止するケースが多いです。その理由は、それぞれの契約の目的の違いにあります。請負契約:成果物の完成が目的委任・準委任契約:特定のスキルや知識の提供が目的請負契約では、発注企業は業務の遂行方法ではなく、成果物の完成に対して報酬を支払います。第三者に再委託したとしても、受託者の管理のもと、成果物が完成すれば契約上問題ありません。一方で、委任・準委任契約では、受託者が業務を遂行したことに対して報酬を支払います。受託者が業務を行う義務があるため、そもそも再委託が現実的ではないともいえます。再委託を許可するかどうかの5つの判断基準請負契約と委任・準委任契約による違いを説明しましたが、状況によっては請負契約であっても再委託を認めないほうがよい場合もあります。再委託を許可するかどうかを判断する際には、業務の専門性や効率化、再委託先の信頼性、リスク対策、進捗管理などの観点から判断することが大切です。適切な判断基準をもとに再委託の可否を検討することで、企業にとってのリスクを最小限に抑えつつ、業務の最適化を図れます。ここでは、再委託を許可するかどうかを考える際にチェックすべき5つのポイントを解説します。業務の専門性が高いか再委託の許可を検討する際は、受託者だけでは対応が難しい高度な専門知識が求められるかどうかを見極めることが重要です。専門的なスキルを持つ外部の企業や専門家への再委託を認めることで、より高品質な成果が期待できます。受託者が自社内・自分だけで対応するのに限界がありそうな場合は、再委託を認めることで、よりスムーズに案件を進行できるでしょう。業務効率化につながるか再委託を認めることで、業務負担の分散や納期短縮、生産性向上が見込めるかを判断する必要があります。特に、受託者が適切にリソースを管理し、業務の流れを維持できるかは重要な判断基準です。例えば、受託者がすでに多くの業務を抱えている場合は、業務効率を維持するために再委託を許可することで、スムーズな進行が可能になります。再委託先の信頼性は十分か再委託を認める場合は、再委託先の実績や評判、契約遵守状況を事前に確認してください。信頼性の低い企業への再委託を許可すると、納期の遅延や品質の低下などのリスクが高まります。例えば、過去に大手企業との取引経験があり、確かな実績を持つ企業やフリーランスであれば、一定の品質基準を満たしている可能性が高いでしょう。リスク対策を徹底できるか再委託を許可する際には、情報漏洩や契約違反といったリスクを事前に想定し、対応する仕組みが整っているかを確認する必要があります。特に、機密情報を扱う業務では、情報管理のルールが厳格に設定されているかが重要です。例えば、再委託先と秘密保持契約(NDA)を締結することで、機密データの取り扱いに関する明確なルールを設けることができます。再委託を許可する際に行うべき詳しい対策は後述します。進捗状況を確認できるか再委託を許可する場合は、発注企業が業務の進行状況を適切に把握できるかが重要な判断基準となります。受託者が再委託先の業務を適切に管理し、発注企業に対して進捗状況を共有できる体制が整っているかを確認しましょう。例えば、発注企業が納期や品質を管理するために、受託者に対して定期的な進捗報告の場を設けることで、業務の透明性を確保できます。業務の進行状況が不透明だと、納期遅延や品質低下のリスクが高まる可能性があるので注意しましょう。再委託を許可するメリット企業は再委託を許可することで、業務の効率化やコスト削減など、さまざまなメリットが得られます。ここでは、企業が再委託を許可することで得られる3つのメリットを解説します。大量の業務を依頼しやすくなる再委託を許可することで、発注企業は1つの受託先に対して、より多くの業務を一括で依頼できます。発注企業が複数の委託先を直接管理する場合、それぞれと契約や進捗管理を行う必要があり、手間がかかります。一方で、再委託を認めた場合は、受託者が自社内のリソースを調整し、必要に応じて外部のリソースを活用できます。進捗や外部リソースの管理は受託者に一任できるため、発注企業の管理負担が軽減されます。例えば、10本の記事執筆を依頼する場合に、発注企業が5人のライターに2本ずつ依頼すると、5人のライターの進捗管理をする必要があります。一方で、ライター1人に一括で10本を依頼し、そのライターに再委託を認めれば、発注企業はライター1人とのやり取りで済み、進捗管理の負担を軽減できます。業務効率化・スピード向上につながる再委託を許可すると、受託者が業務の一部を、さらに専門的なスキルを持つ事業者に任せられます。例えば、広告制作では、B社(制作会社)に業務を委託し、B社がさらに動画編集やアニメーション制作をC社(再委託先)に依頼することで、それぞれの専門分野を活かした分業が可能になります。その結果、業務全体の効率化とスピードアップにつながります。コスト削減につながる自社で全ての業務をまかなう場合は、採用・育成・設備投資にかかるコストが大きな負担となります。しかし、再委託を活用することで、これらのコストを抑えつつ、業務をスムーズに進められます。例えば、B社にシステム開発を発注する際に、B社からC社への特定の開発工程の再委託を認めれば、自社が受け持つコストはB社への委託費のみで済みます。再委託を許可するデメリット・リスク再委託には業務の効率化やコスト削減などのメリットがある一方で、情報管理や品質維持、責任の明確化といった課題も伴います。特に、情報漏洩や品質の低下、進捗管理の難しさは、トラブルの原因になりやすいため、事前の対策が欠かせません。ここでは、再委託を許可する際に考慮すべき3つのデメリット・リスクを解説します。情報漏洩が起こる再委託を許可すると、機密情報が受託者からさらに外部へと広がり、情報管理が難しくなります。特に、再委託先のセキュリティ対策が不十分な場合は、情報漏洩のリスクが高まります。例えば、製品開発の機密データを含む業務の再委託を許可した場合では、情報管理が不十分な再委託先を通じて、競合企業に情報が流出するケースが考えられます。品質が低下する再委託を認めると、発注企業が業務の進行状況や品質を直接管理しにくくなり、成果物の品質にばらつきが出る恐れがあります。特に、受託者の管理が行き届かない場合は、納品された成果物に大きな差が出ることもあるでしょう。例えば、システム開発の一部の再委託を許可した際に、コードの書き方や品質基準が統一されず、結果として、バグの増加や修正工数の増大につながり、かえって業務の負担が増してしまうこともあり得ます。進捗・責任の所在が分かりにくくなる再委託を許可すると、進捗状況や責任の所在が分かりにくくなります。発注企業が直接管理できる範囲が限られ、問題が発生した際に原因を特定しづらくなるからです。納期遅延が発生した場合には、受託者と再委託先のどちらに原因があったのかを明確にできず、責任の押し付け合いが起こるリスクがあります。再委託を許可するときにやるべきこと再委託を許可する場合は、契約内容を明確にし、監督責任を徹底することで、情報漏洩や品質の低下、納期遅延といったトラブルを防げます。ここでは、企業が再委託を許可する際に実施すべき5つの対策を解説します。契約書に再委託の条件を明記する再委託を許可する際は、契約書に再委託の範囲や条件を明記し、無制限な再委託を防ぐことが重要です。責任の所在が曖昧なままだと、品質の低下や情報漏洩のリスクが高まる可能性があります。例えば、契約書に「再委託の範囲」「事前承認の必要性」「違反時の罰則」を明記しておくことで、不要なトラブルを未然に防げます。監督責任を明確にする発注企業は、再委託を許可する際に、受託者に対してどの程度の監督責任を求めるのかを明確にしておく必要があります。監督責任を曖昧にしたまま再委託を許可すると、トラブル発生時に責任の所在が曖昧になり、迅速な対応が難しくなります。再委託先でトラブルが発生した際、受託者が適切に対応できるように、契約書内に監督責任者を明記しておくとよいでしょう。セキュリティ対策を徹底する再委託先のセキュリティ管理が不十分だと、情報漏洩のリスクが高まります。データの適切な管理やアクセス制限を設けることで、情報の流出防止につながります。情報漏洩を防ぐために、次のようなセキュリティ対策を導入しましょう。セキュリティソフトの導入を条件にするアクセス権限を制限をする定期的にセキュリティ監査を実施する加えて、情報漏洩が発生した際の対応策も契約に盛り込んでおくことで、万が一の事態にも備えられるでしょう。秘密保持契約(NDA)を結ぶ再委託に関わる業務では、機密情報が外部に渡る可能性があります。情報漏洩を防ぐために、秘密保持契約(NDA)を締結し、業務上知り得た情報を第三者へ開示・漏洩しないよう義務づけることが重要です。例えば、自社の業務責任者に対して、秘密保持契約の内容を周知し、情報管理ルールを徹底することで、リスクを大幅に低減できます。契約の段階でしっかりと取り決めを行い、運用時にも確認を怠らないようにしましょう。進捗状況を定期的に確認する発注企業が、再委託先での業務の進捗を把握できないと、納期遅延や品質の低下につながる恐れがあります。そのため、受託者に対して定期的な報告を求め、スムーズにプロジェクトを進行できる体制を整えましょう。【例文あり】再委託に関する契約書の内容例企業が再委託を許可する場合は、契約書に再委託の可否や条件、責任の所在を明記することが重要です。ここでは、再委託を許可する場合・条件付きで認める場合・禁止する場合の契約例を紹介します。再委託を許可する場合再委託を許可する場合は、契約書に再委託の条件を明確に記載することが重要です。特に、再委託先の選定基準や責任の所在を明確にすることで、トラブルを未然に防げます。【契約書の例文】受託者は、本契約に基づく業務の全てまたは一部を、事前に委託者の書面による承認を得た上で、第三者に再委託することができる受託者は、再委託先が本契約の義務を適切に履行することを保証し、再委託先の業務遂行に関して引き続き全ての責任を負うものとするこのように、業務の遂行責任を明確に定めることで、再委託を許可した際のトラブルを防ぎ、万が一問題が発生した場合も責任の所在を明確にできます。再委託を条件付きで認める場合再委託を全面的に許可するのではなく、一定の条件を設けることで、リスクを抑えながら業務を進められます。契約書に再委託の条件を明記して、適切に管理しましょう。【契約書の例文】受託者は、本契約に基づく業務の一部を第三者に再委託することができるものとする。ただし、以下の条件を満たすものとする再委託を行う場合は、委託者の事前の書面による承認を受けなければならない再委託先に対し、本契約に基づく機密保持義務を遵守させるものとする業務の進捗状況および成果物について、委託者が求める頻度で報告を行うものとするこのように、再委託の範囲や条件を契約書で定めることで、企業は不適切な再委託を防ぎつつ、必要に応じて外部リソースを活用できます。特に、機密情報を扱う業務では、NDAの締結を条件にすることで情報漏洩のリスクを抑えられます。再委託を禁止する場合事業や業務によっては、情報漏洩や品質低下のリスクを抑えるために、再委託を禁止することも重要です。契約書に再委託を禁止する内容を盛り込むことで、再委託を全面的に禁止できることを明示できます。【契約書の例文】受託者は、本契約に基づく業務を第三者に再委託してはならない委託者の書面による事前承諾がないまま再委託を行った場合、受託者は業務遂行に関する全責任を負うものとする。万が一違反があった場合の対応も定めておくことで、責任の所在をはっきりさせることができます。【Q&A】再委託に関するよくある質問最後に、再委託に関するよくある2つの質問に回答します。企業の担当者が特に疑問に感じやすいポイントを解説しているので、不明点をクリアにした状態で対応できるようにしましょう。再委託と下請け・外注の違いは?再委託・下請け・外注は、それぞれ契約形態や関係性が異なります。再委託発注企業から仕事を依頼された受託者が、受託した業務の一部または全てを、別の企業やフリーランスに委託すること下請け発注企業から仕事を依頼された受託者が、さらに別の企業やフリーランス(下請業者)に依頼すること外注発注企業が業務を直接外部の企業やフリーランスに依頼すること例えば、企業がデザイン制作を発注する場合に、デザイン会社に直接発注すれば「外注」、そのデザイン会社がさらにフリーランスデザイナーに業務を委託すれば「再委託」に該当します。一方、製造業などで、元請け業者が部品の製造を下請け企業に発注し、さらに下請け企業が別の業者に依頼する場合は「下請け」に該当します。再委託に該当する契約・該当しない契約の違いは?業務の一部または全部を第三者に委託する場合は、再委託に該当します。しかし、自社のリソースを活用して業務を行う場合は、再委託に該当しません。【再委託に該当する契約例】A社がB社にシステム開発を委託し、B社がC社に業務の一部を依頼するA社と業務委託契約を結んだフリーランスDが、さらに別のフリーランスEに業務を依頼する【再委託に該当しない契約例】A社が自社の社員をアサインし、業務を進めるA社が派遣会社から派遣社員を受け入れ、業務を実施する契約内容によって、同じ業務の依頼でも、再委託に該当するかどうかが変わるため、契約書の記載をよく確認することが大切です。まとめ再委託は、業務をスムーズに進めるための有効な手段ですが、契約内容やリスク管理が不十分だと、トラブルにつながることもあります。再委託を許可する場合は、契約書で条件を明確にし、監督責任の範囲を決めることが大切です。さらに、セキュリティ対策を整えることで、情報漏洩などのリスクを抑えやすくなります。また、契約の種類によって再委託が認められるかどうかが異なるため、自社の状況に応じた適切な対応を考えることも大切です。ルールを整えた上で再委託を活用し、業務の効率化を図っていきましょう。