企業が人材を募集し、業務を依頼する際に注意すべきことの1つが「偽装請負」です。偽装請負とは、請負契約を結んでいながら、実際は「労働者派遣」の状態になっていることを指します。偽装請負は、労働者の権利が守られず、企業の信頼を損なうリスクがあるため、注意が必要です。本記事では、企業が避けるべき偽装請負について解説します。混同されやすい「偽装フリーランス」との違いや、偽装請負を回避するポイントも解説するので、企業担当者の方は参考にしてください。偽装請負とは?▼引用:偽装請負になっていませんか?|厚生労働省福島労働局偽装請負とは、外部の事業者や企業と請負契約を結んでいるのにも関わらず、実質「労働者派遣」になってしまっている状態を指します。まずは、偽装請負がどのような状態か、具体的な事例を用いて整理します。【登場人物】注文主A:仕事を依頼する企業請負業者B:注文主Aから業務委託で仕事を受ける請負業者労働者C:請負業者Bと雇用契約を結んで働いている請負労働者【偽装請負の事例】注文主Aが、請負業者BにWebサイトの制作を依頼する請負業者Bは、雇用契約を結んでいる労働者Cに、注文主Aから依頼された仕事を進めるように指示する仕事を進める中で、注文主Aは、労働者Cに「このようなデザインにしてほしい」「このツールを使用してほしい」と直接指示する注文主Aが請負契約を結んでいるのは、請負業者Bです。つまり本来、注文主Aが直接指示を出せるのは請負業者Bに対してであり、労働者Cには直接指示を出してはいけません。このように、注文主Aが、請負契約を結んでいない労働者Cに対して、業務に関する指示を出した場合、「偽装請負」と判別され、違法行為に該当します。労働者派遣と請負の違い次に、企業が業務を発注する際に知っておくべき、労働者派遣と請負の違いを解説します。2つの違いを理解するためのポイントは、雇用主と指揮命令の有無です。労働者派遣とは?▼引用:労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド|厚生労働省労働者派遣とは、派遣元企業が、自社と雇用関係にある労働者を派遣先に派遣し、派遣先企業の業務に従事してもらうことです。派遣先は、派遣元企業から派遣されてきた労働者に対して、直接業務の指示を出せます。労働者は、派遣元企業と契約を結び、派遣元企業が指定した派遣先の指示に従って仕事をします。請負とは?▼引用:労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド|厚生労働省請負とは、成果物の納品や指定した業務の遂行を目的とした契約形態です。注文主は、請負業者と、請負契約(業務委託契約)を結びます。ただし、注文主と、請負業者と雇用関係にある労働者との間には指揮命令関係はありません。そのため、注文主から労働者に対する直接的な指示は禁止されています。【判断基準】偽装請負の代表的な4パターン偽装請負は、大きく分けると4パターンに分類されます。以下で代表的な4パターンを解説するので、自社の業務が該当しないか確認しましょう。前提として、本来あるべき請負の形態は次の通りです。▼引用:偽装請負になっていませんか?|厚生労働省福島労働局注文主Aが、請負業者Bに業務を依頼する請負業者Bが業務の裁量を持ち、独自の判断で進行を管理する請負業者Bが雇用する労働者Cは、請負業者Bの指示のもと業務を進める本来の請負をベースに、どのような状態になると偽装請負の代表的な4パターンに該当するのかを解説します。代表型「代表型」は、表向きは請負契約を結んでいるものの、注文主Aが労働者Cに対して、業務の進め方や勤務時間、出退勤などを細かく管理しているパターンです。注文主Aが、請負業者Bに業務を依頼する注文主Aが、労働者Cに対して直接指示を出す注文主Aは、労働者Cの出退勤や勤務時間などの管理も行い、労働者Cを自社の社員のように扱う本来、労働者Cは、請負業者Bの管理下で業務をすべきです。しかし、請負契約の形を取りながら、注文主Aが実質的な指揮命令を行うことで、労働者Cの雇用関係が曖昧になっていることが、代表型の問題点です。形式だけ責任者型「形式だけ責任者型」は、本来業務を指揮するはずの請負業者Bの責任者が、注文主Aの指示を労働者Cに伝えるだけになり、実際には指示権を持たず、機能していない状態を指します。注文主Aが、請負業者Bに仕事を依頼する請負業者Bの責任者は、注文主Aの指示を労働者Cに伝えるだけ実質的に、注文主Aが直接労働者Cに指示を出していることになり、請負業者Bの責任者は単なる名ばかりの存在になっている一見、請負業務が遂行されているように見えますが、責任者がお飾りの状態になっていることが、形式だけ責任者型の問題点です。使用者不明型「使用者不明型」は、業務の再委託が繰り返された結果、実際に働いている労働者の雇用主や指揮命令の所在が不明確になる状態を指します。注文主Aが、請負業者Bに業務を依頼する請負業者Bが依頼された業務を、さらに別の業者Dに再委託する業者Dが雇用する労働者Eが、注文主Aの現場で働き、注文主Aや請負業者Bから直接指示を受ける本来、労働者Eは、業者Dの管理下で業務を行います。しかし、発注が多重構造になりすぎると、労働者Eが誰の雇用下にいるのか分からなくなってしまいます。1人請負型「1人請負型」は、本来は請負業者Bが雇用契約を結ぶべきはずの労働者Cと請負契約を結び、労働者Cが注文主Aからの指示を受けて働くパターンです。注文主Aが、請負業者Bに業務を依頼する請負業者Bは、個人事業主という名目で労働者Cと請負契約を結ぶ労働者Cは、注文主Aの指示を受けて働き、雇用と変わらない状態になっている本来、労働者Cは請負業者Bの管理下で業務を行うべきです。しかし、請負契約を悪用することで雇用契約を回避し、注文主Aが直接指示を出す状態になっていることが、1人請負型の問題点です。偽装請負と偽装フリーランスの違い偽装請負と混同されやすい概念として、「偽装フリーランス」が挙げられます。偽装フリーランスとは、企業が、業務委託契約を結んだフリーランスに対して、まるで自社の社員であるかのように業務指示や勤務場所の指定をしている状態を指します。本来、業務委託契約では、企業とフリーランスは指揮命令関係にありません。そのため、企業はフリーランスに対して、業務の進め方をはじめ、勤務時間や場所の指定・指示をしてはいけません。偽装請負と偽装フリーランスの大きな違いは、関わる人物です。偽装請負は、「注文主」と「請負業者」と「請負業者に雇用されている労働者」の3者間で発生するものです。一方で偽装フリーランスは、「注文主」と「フリーランス」の2者間で発生します。企業がフリーランスに対して行うと、偽装フリーランスと判断される可能性が高い行為は以下の通りです。新たな業務や契約を無理に押しつける業務の進め方を細かく指定する業務を行う場所や時間を指定・管理する業務をサポートする人材の起用や再委託を理由なく一切認めない業務時間に応じた報酬を支払う報酬を従業員と同水準もしくは低い水準に設定する業務に必要な機材を負担する専属契約を結ぶフリーランスと業務委託契約を結んで仕事を依頼する場合は、上記の行為に注意しないといけないことを覚えておきましょう。▼関連記事:偽装フリーランスとは?企業が気をつけるべき8ケースや対策を徹底解説偽装請負が発生する背景偽装請負は、企業が黙認しているケースと、契約の違いを理解していないために発生してしまうケースの2つに分けられます。ここでは、偽装請負が発生する背景を詳しく見ていきましょう。①偽装請負と認識しながら黙認している本来、偽装請負は違法行為であり、企業が意図的に行うことは認められていません。しかし、「特に問題にはならないだろう」と考え、偽装請負であることを黙認しているケースもあります。特に、請負契約の形式を取りながら、実態は労働者派遣の状態になっている場合では、以下の理由でコスト削減ができてしまう点が問題となります。社会保険の負担が発生しない:雇用契約ではないため、厚生年金や健康保険の支払いを回避できる残業代が発生しない:労働時間の管理が適用されないため、人件費を抑えられるしかし、これらの行為はれっきとした違法です。企業の社会的信用を損なう要因にもなるため、意図的な偽装請負は絶対に避けてください。②意図せずに偽装請負になってしまっている偽装請負の原因として多いのが、請負契約と労働者派遣の違いを正しく理解できていないことです。特に、中小企業やスタートアップでは、契約の細かな違いを把握しきれていないため、結果的に偽装請負となってしまうケースがあります。【意図せず偽装請負になってしまう例】「業務委託では細かい指示を出しても問題ない」と誤解している現場の担当者が契約の内容を理解せず、請負業者の労働者に直接指示を出してしまっているしかし、意図の有無は関係ありません。偽装請負は違法行為となるため、これを機に概念や仕組みをしっかりと理解しておきましょう。偽装請負が違法・問題である3つの理由偽装請負は法律で禁止されており、企業にも労働者にも大きなリスクをもたらします。偽装請負では、労働者が十分な保護を受けられないだけでなく、契約上の責任が不明確になり、企業の信頼を損なう可能性があります。続いて、偽装請負が違法とされる3つの具体的な理由を確認しておきましょう。労働者の権利が守られない偽装請負では、労働者が労働基準法や労働者派遣法の保護を受けられず、権利が十分に守られない状態になってしまいます。本来、労働者派遣契約であれば、労働局や監督署が介入し、適正な労働環境が確保されます。しかし、偽装請負では、形式上「請負契約」となっているため、法的な保護が適用されにくくなります。また、請負契約では、労働時間の管理が義務付けられていないため、最低賃金の適用や社会保険の加入が曖昧になる可能性もあります。安全管理や福利厚生が十分に提供されず、労働環境が悪化しやすい点も問題です。責任の所在が不明確になる偽装請負では、注文主と請負業者の間で責任の所在が不明確になり、問題が発生しても適切な対応がとられにくくなります。例えば、本来は請負業者が、自社が雇用する労働者を管理すべきです。しかし、偽装請負では、注文主が直接指示を出しているため、注文主も管理責任を負っている状態になります。その結果、注文主と請負業者の間で責任の押し付け合いが起こり、労働者の権利保護が後回しにされる恐れがあります。企業の信頼を損なうリスクがある偽装請負が発覚すると、企業の社会的信用が大きく損なわれる可能性があります。労働局や監査機関から指摘を受けた場合は、企業名が公表されることもあり、違法行為として世間に認識されるリスクがあるでしょう。実際に、偽装請負を行った企業が報道され、ブランドイメージが大きく下がったケースもあります。また、取引先や顧客からの信頼を失うことで、契約の見直しや解除につながることも考えられます。是正指導や罰則への対応に追われることにもなるため、通常の業務にも影響を及ぼします。偽装請負と判断された場合の罰則請負契約を偽装して、労働者を指揮命令下に置いた場合は、さまざまな法的責任を問われることになります。ここでは、偽装請負が発覚した際に適用される主な罰則を解説します。労働基準法違反偽装請負が発覚すると、労働基準法に違反していると判断されることがあります。特に、注文主が労働者の勤務時間や労働環境を管理していた場合は、雇用契約に基づく義務を果たしていないとみなされ、労働者の権利が侵害されることになります。例えば、注文主Aが請負契約を結んでいる請負業者Bの労働者Cに対し、注文主Aの担当者が直接業務指示を行い、労働時間やシフトの管理までしていたケースです。本来は、請負業者Bが労働者Cを管理するべきです。しかし、実態として注文主Aが指揮命令を行っていたため、「労働時間規制違反」や「未払い残業代の発生」などの問題が指摘される可能性があります。労働者派遣法違反労働者派遣法では、派遣事業を行うためには国の許可が必要です。しかし、偽装請負の形態を取ることで、無許可で労働者を派遣している状態になってしまいます。例えば、注文主Aが請負業者Bに業務を委託し、請負業者Bが労働者Cを雇用しているにもかかわらず、注文主Aの担当者が労働者Cに直接指示を出していたケースです。注文主Aが請負契約を装いながら、実質的に労働者派遣を行っていることになり、「無許可の労働者派遣」に該当すると判断されます。職業安定法違反職業安定法では、労働者供給事業を原則として禁止しています。労働者供給事業とは、事業者が労働者を他の企業へ送り込み、その企業の指揮命令のもとで働かせる行為です。例えば、注文主Aが請負契約を結んだ請負業者Bの労働者Cに対して、注文主Aが業務指示を行い、労働環境の管理も行っていた場合、請負業者Bは注文主Aに対して労働者を供給しているのと同じ状態になります。このようなケースでは、請負業者Bが注文主Aに対し、職業安定法に違反する形で労働者を供給していると判断されることがあります。偽装請負を回避するために企業が気をつけるべきポイント偽装請負は、意図せず発生してしまうケースも少なくありません。適切な請負契約を結び、法令に則った業務運用を行うためには、企業の管理体制や契約内容を見直すことが重要です。最後に、偽装請負を回避するために企業が気をつけるべき4つのポイントを解説します。契約内容を具体的に記載する請負契約では、業務範囲や責任の所在を明確にすることが重要です。契約内容が曖昧だと、請負業者の労働者に対して、注文主が直接指示を出してしまうなどのリスクが生じるため、契約書の記載内容には十分な注意が必要です。【注文主のポイント】請負契約と労働者派遣の違いを理解し、契約書に明記する業務遂行の裁量が請負業者にあることを明記し、指揮命令を行わないことを徹底する【請負業者のポイント】契約内容を十分に確認し、指揮命令系統が不適切にならないようにする注文主から契約に反する指示があった場合は、適切な対応を取れるようにする専門家の助言を受ける契約内容が適正かどうかを判断するためには、法律や契約に詳しい専門家の助言を受けるとよいでしょう。特に、請負契約と労働者派遣契約の違いを理解し、法的に問題のない形で運用することが求められます。【注文主のポイント】契約書の作成時に弁護士や社労士にチェックを依頼し、リスクを事前に回避する発注の際に、労働法に基づいた正しい契約形態であるかを確認する定期的な現場確認を行う契約書上は適正な契約であっても、実際の業務運用が契約内容と異なっていると、偽装請負とみなされる可能性があります。そのため、定期的に現場確認を行い、契約が適切に履行されているかをチェックしましょう。【注文主のポイント】請負業者が雇う労働者に直接指示を出していないかを確認する業務が契約内容通りに遂行されているか定期的に監査を実施する【請負業者のポイント】注文主が不適切な指示を出していないかを監視する契約通りに業務が運営されているか、従業員の業務状況を随時チェックする社員向けの法令教育を徹底する偽装請負を防ぐためには、契約を管理する担当者だけでなく、現場の社員も請負契約と労働者派遣契約の違いを理解しておく必要があります。特に、無意識に労働者に指示を出してしまうケースを防ぐためにも、適切な研修が求められます。【注文主のポイント】人事担当者に偽装請負のリスクと適正な業務管理に関する研修を実施する現場担当者に請負契約の適正な運用ルールを周知し、誤った業務管理を防ぐまとめ偽装請負は、形式上は請負契約でありながら、実態として労働者派遣のように業務が進められている状態を指します。偽装請負と判断されると、労働基準法や労働者派遣法、職業安定法に違反し、企業の信頼低下などのリスクを招く可能性があります。偽装請負を防ぐためには、契約内容を明確に記載し、業務の指揮命令系統を整理することが大切です。また、定期的な現場確認や社内教育を通じて、無意識のうちに偽装請負の状態を作らないよう努める必要があります。請負契約と労働者派遣契約の違いを正しく理解し、法令遵守を徹底し、健全な業務環境を維持していきましょう。