プロジェクトの終了や業務内容の見直しに伴い、企業はフリーランスとの業務委託契約を解除しなければならない場面に直面することがあります。多くの場合、相手に事情を説明すれば円満に契約を解除できます。一方で、フリーランスが契約通り業務を進めてくれない場合や、連絡がつかない場合など、早急に契約解除を進めたいケースもあるでしょう。正式な解除手続きを踏まずに発注を止めると、「突然仕事を打ち切られた」「説明もなく関係を断たれた」といったトラブルにつながり、フリーランスとの関係が悪化する恐れがあります。トラブルを防ぐためには、契約解除の通知方法や手続きを把握し、適切に対応することが重要です。この記事では、契約解除通知書の基本的な書き方や、円滑に契約を終了させるためのポイントを解説します。また、すぐに使える契約解除通知書のテンプレートも紹介するので、ぜひ参考にしてください。契約解除通知書とは?契約解除通知書とは、契約を解除する旨を通知する文書です。フリーランスなどとの業務委託契約において、契約解除の意図や理由、契約解除日などを明確に伝えることで、誤解やトラブルを防ぐ役割を果たします。契約の終了は口頭でも伝えることが可能ですが、証拠として残りづらいため、書面で通知するほうが安心です。契約解除合意書との違い契約解除通知書と名称が似た書類として「契約解除合意書」があります。いずれも契約を終了する際に必要な書類ですが、性質や手続きに大きな違いがあります。契約解除通知書は、一方的に契約解除を通知する文書です。契約解除の理由を明示し、契約書のどの条項に基づいて解除を行うのかを記載することで、適切に契約を解除できます。契約解除合意書は、双方が契約解除について話し合い、合意したうえで締結する書類です。契約を終了する際に、どちらの書類を作成すべきかは状況によって異なります。例えば、相手が契約内容を守らなかったり、連絡がつかなくなったりして、企業側が一方的に契約を終了させたい場合は、契約解除通知書を使用します。一方で、円満に契約を終え、トラブルなく整理したい場合は、契約解除合意書を作成し、双方の同意を得る方法が望ましいといえます。業務委託契約で契約解除通知書が必要になる場面契約解除通知書は、契約違反や業務継続の困難など、取引相手が契約の義務を果たせない場合(契約不履行)に作成します。概要具体例履行遅延契約で定められた期日までに義務を果たさないこと契約では10月1日を納期としていたが、実際には10月15日に届いた履行不能契約の義務を果たすことが不可能になること契約していた作家が急病で執筆できなくなり、納品が不可能になった不完全履行契約上の義務は果たしたものの、その内容が契約に適合していないこと契約通りにシステムが納品されたものの、一部の機能がバグで正常に動作しない業務委託契約には、請負契約と委任・準委任契約の2種類があり、契約の種類によって解約の手続きが異なります。請負契約は、成果物の納品をもって契約が完了するため、途中解約は原則として認められません。ただし、相手側の契約不履行があった場合は解除が可能です。委任・準委任契約は、業務の遂行そのものが契約の目的であり、いつでも解除可能です。しかし、相手に不利益を与える場合は、損害賠償が発生することもあります。契約解除通知が適切に行われないと、解除の効力が認められない場合があるため、契約内容を確認し、必要な情報を正確に記載することが求められます。契約解除通知書に必要な項目と書き方契約解除通知書に不備があると、意思が正しく伝わらず、トラブルにつながる恐れがあります。作成時は、必要な情報を明確かつ適切に盛り込みましょう。ここでは、契約解除通知書に盛り込むべき項目と書き方を解説します。通知者の情報契約解除通知書の冒頭には、通知者(自社)の情報を明記します。具体的には、以下の情報を記載します。会社名(法人の場合)または個人事業主名代表者名または担当者名住所連絡先(電話番号、メールアドレス)相手の情報通知の受取人である相手の情報も正確に記載します。氏名住所連絡先(電話番号、メールアドレス)フリーランスが法人として業務を行っている場合は、法人名や担当者名も記載しましょう。契約内容の特定情報契約解除の対象となる契約を明確に特定するため、以下の情報を記載します。契約の名称契約締結日契約期間(開始日および満了日がある場合)契約書の識別番号(ある場合)解除の意思表示契約解除の意思を明確に伝えるため、簡潔な表現で解除を通知します。【例文】本書をもちまして、貴殿と締結した〇〇契約を解除いたします。解除理由契約解除の根拠を記載し、必要に応じて契約違反の詳細も説明します。【例文】契約書第〇〇条に基づき、納期の遅延が続いたため、契約解除を申し入れます。契約書第〇〇条に規定された業務内容が履行されなかったため、契約解除を申し入れます。具体的な解除理由を記載することで、相手が納得しやすくなり、紛争のリスクを軽減できます。特に契約違反が理由である場合は、どの条項に違反したのかを明記することが重要です。解除日契約解除の効力が発生する日を明確に記載します。解除日を特定しないと、認識のズレが生じ、トラブルにつながる可能性があります。契約書で解除通知に関する規定がある場合(例:解除希望日の30日前までに通知すること)は、規定に従って効力発生日を設定します。ただし、契約違反が重大なものである場合は、即時解除することも可能です。相手に対して事前通知を設ける余裕がないと判断される場合には、解除通知が相手に届く日を効力発生日として設定できます。この場合は、簡易書留や特定記録郵便など、郵便物が相手に届いた日時などを記録するサービスを使いましょう。メールを活用する場合は、開封確認のオプションを付けてメールの開封日時を把握します。【例文】契約解除の効力発生日は、〇年〇月〇日といたします。返却物や未処理事項の確認契約解除後の対応として、未払いの報酬や貸与物の返却などを記載します。以下のように明記することで、解除後の手続きが円滑に進みます。【例文】(報酬について)契約解除に伴い、貴殿に対する未払い報酬(例:〇月分の作業報酬)について、速やかにお支払い手続きを進めさせていただきます。精算額の詳細につきましては、貴殿よりご提出いただいた請求書をもとに処理いたしますので、〇日までにご提出をお願いいたします。(貸与物について)貴殿にお貸し出ししております〇〇(例:機材、資料など)につきましては、契約解除日後、〇日以内にご返却をお願いいたします。返却先や返却方法につきましては別途詳細をご連絡差し上げます。署名・押印通知書の正式な書類としての効力を持たせるため、最後に通知者(自社)の署名または押印を行います。法人の場合:代表者の署名または会社の押印個人事業主の場合:本人の署名または押印署名や押印を行うことで、契約解除通知書の信頼性が向上し、法的効力も確保できます。契約解除通知書のテンプレート契約解除通知書を適切に作成すれば、トラブルを防ぎ、スムーズに契約を解除できます。ここでは、契約解除通知書に必要な項目を押さえたテンプレートを紹介するので、実際に使用する際に参考にしてください。契約解除通知書の送り方契約解除通知書は、相手に確実に届く方法で、相手が通知書を受領したことを確認できるように送付しましょう。ここでは、契約解除通知書を郵送(書面)とメールで送付する方法を説明します。郵送(書面)で送付する郵送(書面)で送付する場合は、内容証明郵便を利用するのが確実です。内容証明郵便とは、いつ・誰が・どんな内容を送ったのかを公的に証明できる郵便サービスです。また、別途「配達証明」を追加すると、郵便局から後日、配達した証明書が送付されます。手間と費用がかかりますが、トラブルを防ぐためには有効な手段です。【送付手順】契約解除通知書を2部印刷する(1部は控えとして保管)郵便局で内容証明郵便の手続きをする相手方の受領確認を行うこのほか、簡易書留による送付もおすすめです。内容証明郵便のように、文書の内容は証明されませんが、配達された郵便物が相手に確実に届いたことを証明できます。メールで送付するメールは郵送よりも迅速に送信できるほか、やり取りが記録として残る点がメリットです。ただし、法的な証明力は郵送よりも弱いため、トラブル防止の観点からは注意が必要です。【送付手順】件名に「契約解除通知書」と明記する(例:契約解除通知書の送付について)本文に簡単な挨拶や送付目的を記載するPDF形式で契約解除通知書を添付して送信するメール送信後、相手からの返信を確認し、必要に応じて再送やフォローを行いましょう。契約解除通知書を作成する際の注意点契約解除通知書を作成する際には、適切な手順を踏むことが大切です。不備があると、相手から異議を唱えられ、トラブルに発展する可能性があります。誤解を避け、円滑に契約を終了するために、注意すべきポイントを押さえておきましょう。解除終了希望日の30日前までに送付する契約解除通知書は、原則として解除終了希望日の30日前までに送付しましょう。特に、6ヶ月以上契約を継続している場合は、フリーランス新法に基づき、発注事業者には契約終了の30日前までに解除予告する義務があります。これは、契約解除まで余裕をもって通知することで、フリーランス側も次の仕事を確保しやすくなり、トラブルを防ぐための意図があります。ただし、相手の契約違反によって業務に重大な支障が生じた場合や、損害が発生した場合には、30日未満でも契約解除が可能なケースがあります。契約書に定められた条項を確認し、解除の正当性を証明できるようにしておくことが重要です。通知項目は不備なく記載する契約解除通知書には、必要な情報を正確に記載します。契約解除の意思や理由、解除日などに不備があると、契約解除が無効と判断される可能性があります。不安がある場合は、弁護士や契約の専門家に内容を確認してもらうと安心でしょう。感情的な表現は避けて冷静に記載する契約解除の際には、感情的にならずに事実を淡々と記載することが求められます。以下のような表現は避けましょう。対応があまりにもひどく、これ以上取引できません誠意のない態度に失望しました二度と仕事を依頼しません感情的な言葉を使うと、相手との関係がさらに悪化し、場合によっては法的なトラブルにつながることがあります。契約解除はあくまで業務上の手続きとして捉え、ビジネスライクに進めることが重要です。契約解除通知書に関するよくある質問最後に、契約解除通知書に関して、企業がよく抱える疑問をまとめます。契約を適切に終了させるために、基本的なポイントを押さえておきましょう。業務委託の契約を解除する際はどのような手順で行うべき?業務委託契約を解除する際は、まず契約書の契約解除に関する条項を確認します。解除条項に記載されている解除事由(契約違反、契約不履行など)を特定し、解除手続きや解除期限を確認しましょう。もし、相手に契約違反や契約不履行がある場合は、契約解除を通知する前に契約の履行を催促します。催促しても連絡がない場合は、契約解除通知書を作成し、契約終了の30日前までに郵送またはメールで送付します。その後は、相手が通知書を受け取ったかどうかを確認しましょう。契約履行を求める連絡をした後に相手から返信があった場合は、すぐさま契約解除通知書を送るのではなく、契約を解除する意向を伝えます。合意が取れたら、契約解除合意書を作成して送付します。もし、合意が取れず、契約履行もスムーズに進まない場合は契約解除通知書を作成しましょう。▼関連記事:企業が業務委託の契約解除をしたいときに知っておくべき手順や契約書の注意点業務委託の契約解除で違約金が発生するリスクはある?以下のようなケースでは、契約解除に伴い、企業が違約金を支払わなければならない可能性があります。契約書に違約金の条項が明記されている場合途中解除によって相手に大きな損害を与える場合解除の理由が契約違反によるものではなく、一方的な都合による場合違約金の発生条件や計算方法は、契約書の内容をよく確認し、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。▼関連記事:【企業向け】業務委託の契約解除で違約金が発生するケースとは?トラブル回避策も紹介契約解除通知書のほかに必要な書類はある?契約の解除や変更に関しては、契約解除通知書のほかに、状況に応じて「催告書」や「契約変更通知書」の準備が必要になる場合があります。催告書は、相手が契約違反をした際に、是正や支払いを求めるために送付する書類です。契約解除を検討する前に、改善の機会を与えるために使用します。契約変更通知書は、業務委託契約の一部を変更する場合に作成する書類です。契約解除ではなく、条件を調整しながら契約を継続したい場合に使用します。契約解除が適切に進められるよう、必要な書類を事前に確認しておきましょう。業務委託の契約解除以外に契約解除通知が必要な場面はある?業務委託の契約解除以外にも、契約解除通知が必要となる場面があります。代表的な例としては、クーリングオフと賃貸借契約の解除が挙げられます。クーリングオフクーリングオフとは、特定の取引において、一定期間内であれば消費者が無条件で契約を解除できる制度です。例えば、訪問販売や通信販売など、一方的に勧誘を受けやすい取引に適用されます。クーリングオフを行う際には、事業者に対して書面または電子メールで通知を送ります。事業者の合意は不要であり、一方的に契約を無効にできます。なお、クーリングオフを行うには法的な期限があります。申し込み書面や契約書面を受け取った日から、8日以内(マルチ商法は20日以内)に行う必要があります。賃貸借契約の解除賃貸借契約の解除には、借主が退去を希望する場合と、貸主が契約を終了させる場合があります。借主が賃貸借契約を解除する際は、一般的に1~2ヶ月前までに貸主へ通知する義務があります。一方で、貸主が契約を終了させる場合は、正当な理由が必要とされ、6ヶ月前までに通知しなければなりません。まとめ契約解除通知書は、業務委託契約を終了する際に重要な役割を果たします。契約解除の手続きを曖昧にすると、相手と認識のズレが生じ、不要なトラブルにつながることがあります。正式な書面を通じて解除の意思を伝えることで、円滑に契約を終了できるだけでなく、企業の信用を守ることにもつながります。また、契約解除で適切な手続きを踏むことは、相手との関係を良好に保つことにもつながるため、必要に応じて再び協力を依頼することも可能になります。契約解除通知書を活用して、トラブルを防ぎつつ、円満な契約終了を目指しましょう。