フリーランスと業務委託契約を結ぶ際に、支払い期日の設定に悩んだことのある企業担当者は多いのではないでしょうか。企業が報酬の支払いや管理を怠ると、フリーランスとの信頼関係が損なわれ、トラブルにつながります。特にフリーランス新法の施行により、「支払いルールはどう変わるのか?」「下請法との違いは?」と疑問を持つ方もいるでしょう。さらに、契約書の内容によっては、法律違反とみなされるケースもあるため、法的リスクの回避も重要です。この記事では、業務委託契約における支払い期日の基本ルールから、下請法やフリーランス新法の影響、スムーズな支払い管理のポイントまで、分かりやすく解説します。契約の見直しや、新たなフリーランスの採用を考えている方もぜひ参考にしてください。業務委託の支払い期日は「下請法」と「フリーランス新法」で規定されているフリーランスに対する報酬の支払い期日は、「下請法」と「フリーランス新法」の双方で明確に定められています。下請法とは?下請法とは、発注事業者が下請け事業者に対して不公平な取引が行われないようにするための法律です。支払い遅延や買いたたきなど11項目の禁止行為があり、さらに支払い期日や発注書面の交付など4項目の義務も定められています。なお、下請法の適用対象は限定されており、以下の2つの要件を満たす必要があります。発注事業者の資本金が1,000万円を超えていること取引内容が「情報成果物作成委託」など4種類のいずれかに該当すること▼関連記事:フリーランスにも適用される下請法とは?禁止行為と違反事例を分かりやすく解説フリーランス新法とは?フリーランス新法とは、フリーランスの労働環境を保護することを目的とした法律です。下請法と同じく、発注事業者に対する禁止事項と義務を定めています。具体的には、育児や介護などと業務を両立できるよう配慮する、ハラスメントの相談体制を講じるなどの6つの義務と、報酬の減額や返品などの7つの禁止事項が規定されています。下請法と重複する内容は多いですが、法律の適用範囲などに違いがあります。フリーランス新法は、事業者の規模や業種を問わず適用されるため、大企業はもちろん、資本金1,000万円以下の小規模事業者や個人事業主にも適用されます。また、詳細は後述しますが、支払いに関しては「再委託の特例」が設けられており、再委託の際は支払いのタイミングが異なります。▼関連記事:世界一分かりやすく!採用企業が知っておくべきフリーランス新法業務委託の支払い期日は原則60日以内業務委託の支払い期日は、両法で「成果物の受領から60日以内」と規定されています。もし支払いが遅れた場合、企業は法的措置を受けるリスクがあります。また、支払いの遅延は法律違反となるだけでなく、フリーランスとの信頼関係にも影響を与える可能性があるため、支払い期日は正しく把握しましょう。支払い期日が適切に設定されているケース業務委託の支払い期日は、成果物の受領から60日以内に支払いが完了することが条件です。以下のケースでは、支払い期日が適切に設定されています。毎月15日締め、翌月15日支払い月末締め、翌月末支払い月末納品、翌々月20日支払い支払い期日が違法となるケース一方で、以下のように成果物の受領から支払いまでが60日を超える場合は、法律違反となります。60日を超える場合の月末締め、翌々月末支払い5月1日納品、7月31日支払い【ケース別】業務委託の支払い期日が定まる「起点」はいつになる?業務委託の報酬を支払う際に、どのタイミングを基準に支払い期日を計算すべきかは、契約の種類のほか、再委託した場合などの状況によって異なります。特に、納品が必要な請負契約と、役務提供を伴う委任・準委任契約では、起点の考え方が変わるため、適切に判断することが重要です。以下では、具体的なケースごとに詳しく解説します。成果物を納品する請負契約の場合請負契約では、成果物を受け取った日が支払いの起点となり、そこから60日以内に支払う必要があります。例えば、Webデザイナーにバナー制作を依頼し、4月5日にメールでデータを受け取った場合は、4月5日が起点になります。【適切なケース】4月5日:成果物を受領4月15日:社内検査を実施(検査を通過)5月31日:支払いを完了【違法になるケース】4月5日:成果物を受領4月15日:社内検査を実施(検査を通過)6月10日:支払いを完了社内で成果物の検査を行う場合も、検査完了日ではなく、あくまで納品日を基準としなければなりません。上記のように、検査日を起点として60日以内に支払いと誤認してしまうと、違法になってしまいます。業務を遂行する委任・準委任契約の場合委任・準委任契約は、一連の業務を遂行した日が支払い期日の起点とみなされます。業務の成果物の納品が必須となる請負契約とは異なり、委任契約や準委任契約では、業務遂行自体が報酬の対象となるためです。ただし、企業の顧問弁護やシステム運用のように、一定期間継続して業務を遂行する場合は、まとめて報酬を支払うことも可能です。その場合は、以下の要件を満たす必要があると規定されています。下請代金の額の支払は、下請事業者と協議の上、月単位で設定される締切対象期間の末日までに提供した役務に対して行われることがあらかじめ合意され、その旨が3条書面に明記されていること。3条書面において当該期間の下請代金の額が明記されていること、又は下請代金の具体的な金額を定めることとなる算定方式(役務の種類・量当たりの単価があらかじめ定められている場合に限る。)が明記されていること。下請事業者が連続して提供する役務が同種のものであること。▼引用:下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準 | 公正取引委員会簡単に言うと、以下の要件を満たす必要があります。フリーランスが継続してサービスを提供することフリーランスが提供するサービスが同じ内容であること支払いが月末締め切りであることについて、あらかじめ合意がとれていること月末締め切りについて、3条書面*に記載されていること3条書面に、当該期間の報酬額と算定方式が明記されていること*下請法で、親事業者(発注事業者)が下請事業者に対して交付するよう定められている書類。発注日や業務内容、報酬額、支払い期日などを明記する必要がある。成果物のやり直しが発生した場合請負契約では、成果物のやり直しが発生する場合もあります。企業がフリーランスに成果物の修正対応を依頼した場合は、修正後の最終成果物を受け取った日が支払い期日の起点となります。一方で、弁護士やコンサルタントのように、役務の提供が業務の中心となる委任・準委任契約では、やり直しの有無にかかわらず、実際に役務を提供した日が支払い期日を決める基準となります。再委託が発生した場合業務委託契約では、以下のように業務を委託されたフリーランスが、さらに別のフリーランスに業務を再委託するケースがあります。企業A:フリーランスBに業務を委託↓フリーランスB:企業Aから委託された業務の一部または全てをフリーランスCに委託↓フリーランスC:成果物を作成し、フリーランスBに納品↓フリーランスB:成果物を調整し、企業Aに納品↓企業A:成果物を受領再委託の場合は、元委託者(企業A)から委託者(フリーランスB)に報酬が支払われた日を基準に、30日以内に再委託先(フリーランスC)へ報酬を支払うことが義務付けられています。企業A:成果物の受領から60日以内に、フリーランスBに報酬を支払うフリーランスB:企業Aからの支払いから30日以内に、フリーランスCに報酬を支払う例えば、企業AがフリーランスBに対して3月15日に報酬を支払った場合、フリーランスBは4月14日までにフリーランスCへ報酬を支払う必要があります。▼関連記事:企業は再委託を許可するべきか?5つの判断基準と契約書の例文も紹介支払い期日が設定されていない場合契約書に支払い期日が記載されていない場合や、法律の上限を超えた支払いスケジュールになっている場合には、自動的に法的に適正な期日が適用されます。支払い期日を定めていない場合は、フリーランスが成果物の納品や役務の提供を行った日が支払い期日となります。支払い期日が上限を超えている場合は、フリーランスが納品・役務提供を行った日から起算して60日の前の日が支払い期日に設定されます。契約時に誤った支払い期日を設定してしまうと、企業の責任が問われる可能性があるため、法律に沿った支払いスケジュールを確認し、トラブルを防ぎましょう。業務委託で支払い期日を過ぎてしまった場合のペナルティ業務委託で支払い期日を過ぎてしまったら、発注事業者の資本金が1,000万円以上の場合は、下請法が適用され、年率14.6%の遅延利息の支払い義務が科されます。フリーランス新法には遅延利息の規定がありませんが、支払いの遅延は信用問題につながります。もし、フリーランスが請求書を提出するのが遅れた場合でも、企業は期日内の支払い義務を負います。契約時に請求書提出のルールを明確にし、トラブルを回避しましょう。業務委託の支払い期日を遵守するためのポイント業務委託報酬の支払いが遅れると、今後の取引にも影響を及ぼす可能性があります。スムーズに業務を進めるためにも、支払いルールの整備や確認体制の強化を進めましょう。支払い期日を明確にする契約書には、「業務完了後60日以内」などといった曖昧な表記ではなく、「請求は〇月末日締めで、支払い期日は〇月末日まで」など、具体的な支払い期日を明記しましょう。また、既存の業務委託契約の支払い期日が曖昧な場合は、60日以内の明確な日程を定めるよう、契約の見直しを提案するとよいでしょう。請求書を迅速に確認して処理する請求書を受け取った日付を記録し、処理スケジュールを明確にすることが重要です。「請求書受領後2営業日以内に処理を開始する」などの社内ルールを設定すると、支払い遅延を防げるでしょう。また、支払いに必要な承認や書類がスムーズに進むよう、経理部門や管理部門との連携も大切です。支払い状況を可視化する支払い期日を管理するためには、専用の管理ツールを活用するのがおすすめです。支払い済みの案件と未払いの案件を可視化し、期日が近づくとリマインダー通知を受け取れるようにすることで、支払い遅延を防げるでしょう。また、支払い状況を週次や月次で確認し、未払いのリスクを早期に発見する体制を整えることも大切です。まとめ業務委託の支払い期日は、下請法やフリーランス新法のもとで適切に設定し、確実に守ることが重要です。請負契約では成果物の納品日、委任・準委任契約では業務の遂行完了日が起点となり、60日以内に支払う必要があります。再委託の場合は、元委託者からの支払い後30日以内の支払いが求められるため、契約の流れを正確に把握することが大切です。期日を過ぎた場合は、下請法が適用されると14.6%の遅延利息が発生するほか、フリーランスとの信頼関係にも影響します。支払い期日を明確にし、社内の管理体制を整えることで、適切な取引を維持できるでしょう。請求書の早期確認や支払いスケジュールの可視化など、できることから取り組んでみてくださいね。