2024年に施行されたフリーランス新法により、企業はフリーランスに対するハラスメント防止措置を講じることが義務付けられました。しかし、「どこまでが適切な業務指示で、どこからがハラスメントに該当するのか分からない」「具体的に何をすれば法令を遵守できるのか知りたい」と悩むことも多いのではないでしょうか。フリーランスは、企業で雇用する従業員とは異なり、独立した事業者の立場で働くため、関係性の捉え方が難しい部分があります。フリーランスに対する何気ない業務指示やフィードバックが、意図せずプレッシャーやハラスメントへとつながることもあるため、適切な対策を講じることが重要です。この記事では、フリーランス新法に基づくハラスメント対策と、企業が取るべき具体的な対応策を解説します。法令を遵守しながら、フリーランスと良好な関係を築くためのポイントを確認しましょう。フリーランスに対するハラスメント対策の現状フリーランスとの取引において、企業がハラスメント防止のための具体的な措置を講じているかどうかが問われる場面が増えています。しかし、実際には多くの企業が十分に対応できていません。厚生労働省が2022年に行った調査によると、フリーランスに対するハラスメント防止の方針について、「明確に定めていない」または「定めていても社内に周知していない」と回答した企業の割合は51.0%に上ります。つまり、約半数の企業が、フリーランスへのハラスメント対策を十分に講じていないことになります。さらに、同調査では、フリーランス向けのハラスメント相談窓口を設置していない企業は、62.6%という結果も出ています。フリーランスは、クライアントとの関係性を維持するために、問題があっても声を上げづらい立場にあります。また、単独で仕事を進めるケースが多いため、自分が受けた扱いが不当なのかどうかを判断しにくい事情もあります。その結果、不適切な対応があっても、誰にも相談できずに泣き寝入りしてしまうケースが少なくありません。フリーランスに対する主なハラスメントフリーランスは企業の従業員とは異なり、社内制度の適用を受けません。そのため、ハラスメントが発生しても適切な救済措置を受けにくいのが現状です。企業の業務上の優位性を利用した不当な要求や不適切な言動も問題となります。ここでは、フリーランスに対する主なハラスメントの概要と事例を紹介します。パワーハラスメントパワーハラスメント(パワハラ)とは、企業側の優位性を利用して、精神的・肉体的な嫌がらせを行うことを指します。例えば、過度に短い納期で仕事を押し付けたり、成果物に対して建設的でない批判や、人格を否定するようなコメントをしたりすることが該当します。また、深夜や休日に業務連絡を強要することも、フリーランスの生活や健康に悪影響を及ぼすため、パワーハラスメントに当てはまります。セクシュアルハラスメントセクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、性別や性的な内容に関連した不適切な行為や発言を指します。具体的には、業務上のコミュニケーションの中で性的な発言やジョークを交えることや、フリーランスの外見に関する不適切なコメントを行うことが挙げられます。また、家族構成や恋愛事情など、業務とは無関係なプライベートの話題を執拗に尋ねる行為も、セクシュアルハラスメントに該当します。フリーランスに対しても、企業の従業員と同様に、業務外の不適切な発言や行動を慎む意識が必要です。マタニティハラスメントマタニティハラスメント(マタハラ)とは、妊娠や出産に関連した不当な扱いや不利益を与える行為を指します。例えば、妊娠や育児を理由に契約の更新を拒否したり、希望していないにも関わらず業務を減らしたりするケースがあります。また、育児のための休暇や時間調整を認めない姿勢も、フリーランスにとって大きな負担となります。企業は、フリーランスのライフイベントに対しても適切な配慮を行い、柔軟な働き方をサポートすることが求められます。フリーランス新法とは?フリーランス新法とは、2024年11月に施行された、フリーランスが安心して働ける環境を整備するために制定された法律です。フリーランスは、企業と雇用契約を結ばずに業務を請け負うため、取引において不利な立場に置かれることが少なくありません。フリーランスに対する不透明な契約条件や一方的な契約解除、報酬の未払い、ハラスメントの横行などの問題を改善するために、フリーランス新法が導入されました。フリーランス新法では、発注事業者に対して具体的な義務や禁止事項が定められています。例えば、募集情報を正確に伝える義務や、育児・介護と業務の両立を考慮する義務などがあります。これにより、フリーランスは業務内容が明確になり、ライフスタイルに応じた柔軟な働き方ができるようになります。また、フリーランス新法で定められている禁止行為は、一例として以下のような要素があります。受領拒否:納品された成果物を受け取らずに報酬を支払わないこと報酬の減額:事前に合意した金額を一方的に引き下げること返品:正当な理由なく成果物の受け取りを拒否すること買いたたき:相場より著しく低い報酬での契約を強要すること企業はフリーランス新法を正しく理解し、適切な対応を取らなければ、法令違反となる恐れがあります。発注事業者として適正な取引を行い、フリーランスと良好な関係を築くためにも、フリーランス新法の内容を正しく理解し、適切な対応を取ることが求められます。▼関連記事:世界一分かりやすく!採用企業が知っておくべきフリーランス新法フリーランス新法で義務化された3つのハラスメント対策これまでフリーランスに対するハラスメント対策は、企業ごとに対応が大きくバラツキがありましたが、フリーランス新法の施行により、明確な義務として課されることになりました。企業が適切に対策を講じれば、フリーランスとの健全な関係を築き、トラブルを未然に防げます。続いて、企業が取り組むべき3つのハラスメント対策を説明します。①ハラスメント防止のために方針の明確化と周知を行うフリーランスに対するハラスメントを防ぐためには、まず企業としての方針を明確にし、従業員やフリーランスに対して周知することが重要です。就業規則や社内ガイドラインにハラスメント防止策を盛り込み、組織全体でハラスメントに対する意識の統一を図りましょう。また、従業員がフリーランスとの関係を適切に理解し、適切な対応ができるように、定期的な研修を行うことも大切です。②フリーランスを対象とした相談窓口を設置するハラスメントが発生した場合に、フリーランスが安心して相談できる窓口を設置しましょう。すでにある従業員向けの相談窓口を、フリーランス向けにも開放する方法でも問題ありません。また、相談内容は適切に管理し、フリーランスのプライバシーを確保することが求められます。相談窓口の存在をフリーランスにもしっかり周知し、実際に利用しやすい体制を整えることが大切です。③ハラスメントが発生した際は迅速かつ適正に対応するフリーランスからハラスメントの相談や報告があった場合、企業は速やかに対応することが求められます。まずは、事実確認を行い、適切な判断を下すことが必要です。調査の結果、フリーランスへのハラスメントが認められた場合には、加害者に対する適切な処分を行い、再発防止策を講じることが重要です。適切な対応がなされなければ、企業の信頼を損ねるだけでなく、罰則の対象となる可能性もあるため、真摯な対応が求められます。フリーランスへのハラスメント対策を怠った場合の罰則フリーランス新法に違反した疑いがある場合は、公正取引委員会や厚生労働省などによる指導や立入検査などが行われます。命令違反や検査拒否があると、50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、企業名と違反内容が公表される可能性があり、企業の評判に大きな影響を及ぼします。このようなリスクを回避するためにも、企業はフリーランス新法に基づいたハラスメント対策を確実に実施する必要があります。フリーランスへのハラスメントリスクを回避するポイントフリーランスとの円滑な関係を築くためには、日常的なコミュニケーションに注意を払うことが重要です。ここでは、ハラスメントを防ぎつつ、フリーランスと良好な関係を築くために意識したいコミュニケーションのポイントを紹介します。対等な取引相手との認識を持つフリーランスは、企業に雇用されている従業員ではなく、対等な立場の取引相手です。業務を依頼する際は、指示するのではなく「協力をお願いする」という意識を持つことが大切です。高圧的な態度や強制的な表現は避け、敬意を持った対応を心がけることで、信頼関係を築けます。また、業務の詳細を相談する際には、一方的に決めつけるのではなく、フリーランスの意見も取り入れる姿勢を示すことも大切です。報酬などの交渉時に高圧的な態度をとらない報酬や業務内容の変更について話し合う際は、高圧的な態度を取らないことが重要です。特に、報酬を一方的に引き下げるような交渉はハラスメントに該当する可能性があります。フリーランスも事業者として適正な報酬を求めているため、報酬交渉を行う際は、その金額の根拠を明確に伝え、納得のいく説明を行うことが大切です。また、納期や業務内容の変更をお願いする場合も、ただ「〇〇に変更してください」と伝えることは避けましょう。「〇〇の事情があり、〇〇に変更していただけると助かるのですが、可能でしょうか?」と、フリーランスの都合を考慮した伝え方を意識すると、円滑に調整が進みます。フリーランスの反応をしっかり把握して対応するフリーランスの様子や反応に変化が見られた場合は、早めに対応することが大切です。例えば、連絡の頻度が減ったり、納期に遅れがちになったりした場合は、業務上の悩みを抱えている可能性があります。このような兆候が見られた際には、無理に詮索するのではなく、「業務の進め方に問題はありませんか?」と、負担を軽減できるよう配慮することが求められます。フリーランスが本音を言いやすいよう、日頃から丁寧にコミュニケーションを取り、相談しやすい雰囲気を作ることが重要です。企業側が柔軟な対応を心がけることで、フリーランスも安心して業務に集中でき、よりよい成果につながります。まとめフリーランス新法に基づき、企業にはフリーランスに対するハラスメント防止の責務が求められています。特に、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントは生じやすいため、フリーランスとの健全な関係を築くうえで無視できません。社内研修の実施や相談窓口の設置、迅速な対応を徹底することで、フリーランスが安心して働ける環境を整えられます。仕事を依頼する立場だからといって高圧的な態度をとらず、対等な立場で話し合うことや、連絡の頻度や時間帯に配慮することも、ハラスメント防止につながります。フリーランスが快適に働ける環境を提供することは、優秀な人材との信頼関係を築き、よりよいパートナーシップを築くうえで大切です。パートナーとして対等な関係を意識し、公平で配慮ある業務環境を提供できるよう心がけましょう。