近年、フリーランス人口が増加するなかで、企業側に福利厚生の提供を求める声が高まっています。フリーランス協会の2021年の調査では、95.7%のフリーランスが社会保障の必要性を感じていると回答しています。優秀なフリーランスを確保するために、業務委託でも福利厚生を提供したいと考える企業担当者もいるでしょう。しかし、提供方法を誤ると、労働基準法上「雇用契約」とみなされる可能性があります。この記事では、業務委託で福利厚生を提供できるのかを解説します。実際の企業の取り組み事例や、注意点なども詳しく解説するので、業務委託で福利厚生の提供を検討している場合は、ぜひ参考にしてください。福利厚生は業務委託に適用できる?福利厚生の適用対象となるのは、原則、企業に雇用されている従業員です。具体的には、正社員や契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなどに適用されます。役員や、業務委託契約を結ぶフリーランスは、福利厚生の対象外とされています。ただし、「法定外福利厚生」の一部は、業務委託のフリーランスにも提供可能です(詳細は後述)。業務委託契約と雇用契約の違い業務委託契約と雇用契約では、企業の責任範囲や適用される法律が異なります。契約の目的を把握して適切に福利厚生を運用しなければ、法的なリスクが発生する可能性があります。ここでは、それぞれの契約の特徴を詳しく解説します。業務委託契約とは?業務委託契約とは、企業がフリーランスなどの外部の事業者に特定の業務を依頼し、成果物に対して報酬を支払う契約です。労働基準法などの労働関係法令は適用されず、企業とフリーランスは対等な立場で契約を締結します。目的特定の業務の遂行や成果物の納品指揮命令企業は業務遂行の指揮命令を行えない労働基準法適用されない社会保険料企業は負担せず、フリーランスが負担する雇用契約とは?雇用契約とは、企業が労働者を雇い、労働者が企業の指示のもとで働く契約です。労働基準法や社会保険法が適用され、企業は給与の支払いだけでなく、労働時間の管理や社会保険の負担が義務付けられます。目的企業に労働力を提供すること指揮命令企業は業務内容や勤務時間を指示できる労働基準法適用される社会保険料企業が負担する福利厚生とは?福利厚生には、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類があります。法定福利厚生法定福利厚生は、法律で企業に義務付けられた制度です。主に以下のような制度が該当します。健康保険:病気やケガをした際の医療費負担を軽減する制度厚生年金保険:老後の生活を支えるための年金制度雇用保険:失業時の生活を支援するための給付制度労災保険:業務中の事故や病気による被害を補償する制度介護保険:要介護状態になった場合の介護費用を補助する制度子ども・子育て拠出金:企業が拠出額を負担する育児支援制度法定福利厚生は、雇用契約を結ぶ従業員を対象にした制度であり、業務委託契約のフリーランスは対象外です。そのため、フリーランスが保障を受けるには、自身で国民健康保険や国民年金に加入し、労災保険に特別加入する必要があります。法定外福利厚生法定外福利厚生は、企業が従業員の満足度向上や働きやすい環境づくりのために自主的に提供する福利厚生です。代表例として、以下のような制度があります。家賃補助や社宅の提供健康診断や人間ドックの補助交通費の支給食堂や飲み物無料サービス育児支援スポーツジムやリラクゼーション施設の利用補助弔慰金・災害見舞金・結婚祝い金・出産祝い金の支給法定外福利厚生は、企業の裁量で導入できるため、フリーランスに対しても提供可能なものがあります。ただし、家賃補助などのように、従業員向けの福利厚生や企業の負担が大きい制度をフリーランスに提供すると、不適切とみなされる可能性が高いため注意が必要です。業務委託における福利厚生の実例前述した通り、業務委託契約は雇用契約と異なり、企業が福利厚生を提供する義務はありません。しかし、フリーランスが働きやすい環境を整えるため、近年は企業が独自に福利厚生を提供するケースが増えています。ここでは、SOKUDANで掲載された案件をもとに、業務委託のフリーランス向けの具体的な福利厚生を紹介します。PCの貸与フリーランスは独立した事業者であるため、業務に使用する機材は原則自身で用意する必要があります。しかし、セキュリティ強化や業務効率化などの明確な理由があれば、企業は業務委託のフリーランスにPCを貸与できます。特に、デザインやプログラミングなどの専門職では、高性能なPCが必要になるため、企業が貸与することで業務の効率化が期待できるでしょう。ただし、PCの貸与を行う際は、使用条件を明確にすることが重要です。例えば、セキュリティ対策のために社内システムへのアクセス制限を設けたり、業務終了後の返却義務を契約に盛り込んだりして、情報漏洩や紛失などのリスクを軽減しましょう。福利厚生の提供実例以下の案件では、業務効率化をサポートするために、企業がフリーランスにPCを貸与しています。■ソーシャルコマースアプリの開発【業務内容】Swift、SwiftUIを用いたWebアプリ開発と運用新規機能開発について、PdMと一緒に方向性や要件の議論から実行【福利厚生】PC貸与(Mac端末のエンジニアスペック、US/JISのキーボード選択可能)月1出社時の交通費の支給▼案件詳細:300万DL突破のソーシャルECカウシェでiOSエンジニアを募集<リモート可>各種手当業務委託でも、企業が交通費や通信費などの各種手当を支給するケースがあります。例えば、遠方への出張を伴う業務の場合は、交通費を支給することで、フリーランスが金銭的な負担なく業務に集中できます。また、テレワークが主流となっている現代では、インターネット回線の費用補助や、コワーキングスペース利用料の補助なども挙げられます。福利厚生の提供実例以下の2つの案件では、企業がテレワーク手当や出張手当などを支給することで、フリーランスが業務に集中できるようサポートしています。■AI開発やシステム開発プロジェクトのPM【業務内容】受託開発(AI/システム)案件のプロジェクト管理【福利厚生】月額5,000円のテレワーク手当の支給年間5日間の有給休暇の付与▼案件詳細:<フルリモ@月額~96万円>AI開発・システム開発の経験が活かせるPM募集■エンジニアセミナーの講師【業務内容】講義(会場とオンライン受講生へテキストに沿ってレクチャー)受講生のアンケート回収【福利厚生】交通費の支給出張時の宿泊費(8,000円)の補助出張時の手当(3,000円/日、前泊1,500円/日)の支給▼案件詳細:Python/VBAなどエンジニアセミナーの講師飲食代サポート企業が業務委託契約を結ぶフリーランスに対して、食事補助を提供するケースもあります。例えば、オフィス出社時に、社員と同様に社内の食堂を利用できたり、ランチ代を支給したりする企業もあります。また、オンラインでの打ち合わせが増えていることから、リモートワーク時に利用できる食事クーポンを提供する企業もあります。食事補助は、業務効率の向上や健康管理にもつながるため、フリーランスの満足度を高める施策として有効です。福利厚生の提供実例以下の案件では、昼食やドリンクバーなどの福利厚生制度を提供しています。■オウンドメディアの運営・イベントサポート【業務内容】オウンドメディアの運営イベントサポート【福利厚生】ランチサポートやドリンクバーなどの社員向けの福利厚生制度の支給▼案件詳細:<週3在宅可!>大手エンタメ企業のオウンドメディア運営担当@渋谷駅/D健康づくり推進フリーランスは会社員と異なり、定期健康診断の義務がないため、健康管理は個人の責任となります。その中で、企業がフリーランスに対して健康診断の補助やスポーツジムの利用補助を提供することで、健康づくりを支援できます。具体的には、年に一度の健康診断の受診費用を負担したり、提携する医療機関の割引制度を導入したりする例があります。また、ストレス軽減を目的とした、メンタルヘルス相談窓口をフリーランスにも開放する取り組みも見られます。健康づくりの支援は、長期的なパフォーマンス向上につながるため、企業とフリーランス双方にメリットがあります。福利厚生の提供実例以下の案件では、予防接種やマッサージルームなどが提供されています。■モバイルゲームの共通基盤システム開発【業務内容】車輪の再発明を防ぐための共通基盤開発モバイルゲームにおけるパフォーマンスの最適化チートを防ぐためのセキュリティ対策AIによる開発効率と品質の向上手動で行なっているQAの自動化【福利厚生】予防接種、マッサージルーム、医務室などの提供▼案件詳細:【ゲーム開発】共通基盤開発Unityエンジニア業務委託で適切に福利厚生を提供するポイント業務委託でも福利厚生を提供することで、業務の質を向上させたり、継続的に良好な関係を築いたりすることが可能です。ただし、提供の仕方によっては不適切となるリスクが生じるため注意が必要です。ここでは、業務委託で適切に福利厚生を提供するポイントを紹介します。雇用契約としっかり線引きをする業務委託で福利厚生を提供する際は、雇用契約と混同されないよう注意が必要です。法定外福利厚生であっても、内容によっては不適切とみなされる可能性があります。適切な線引きのためには、福利厚生を「業務に必要なサポート」と「個人の生活補助」に明確に区分することが大切です。例えば、フリーランスが業務を遂行するために必要なPCやソフトの提供は問題になりにくいです。一方で、住宅手当や育児支援などの提供は雇用関係とみなされる可能性があります。また、福利厚生の提供条件を明文化し、契約書や利用規約に明記することも重要です。フリーランスと企業が互いに納得できるルールを設けることで、トラブルを未然に防げるでしょう。福利厚生の公平性を確保する業務委託で福利厚生を提供する際は、公平性を確保することも大切です。本来フリーランスは独立した事業者であるため、中にはフリーランスが手厚い福利厚生を受けることに不満の声が上がる可能性があります。公平性を保つためには、福利厚生の提供基準を明確にし、従業員とフリーランスの双方に納得感のある制度を設計することが求められます。また、福利厚生の適用範囲を契約内容や業務貢献度に応じて決定することも1つの方法です。例えば、複数のフリーランスと契約している中で、長くプロジェクトに貢献しているフリーランスに対して福利厚生を提供したい場合もあるでしょう。その場合は、一定の契約期間を満たしたフリーランスに対してのみ福利厚生を提供する、または業務の成果に応じたインセンティブを設定するなど、明確なラインを設けることで、公平性を確保しやすくなります。福利厚生サービスを提供するプラットフォームを利用する業務委託契約のフリーランスに対する福利厚生を効率的に提供するために、外部の福利厚生サービスを活用する方法もあります。例えば、SOKUDANには「SOKUDAN PLUS+」という福利厚生サービスがあり、以下のような多様なサービスを展開しています。【スキルアップ】英会話レッスンの割引ITプロジェクトの上流工程を学べる動画講座の無料視聴Webマーケティング講座の入学金無料【ワークスペース】レンタルオフィス・コワーキングスペースの入会金・事務手数料半額バーチャルオフィスの初月利用料金無料【健康・ヘルスケア】オンラインパーソナルトレーニングの体験料半額オンラインカウンセリングサービスの利用ポイント付与福利厚生サービスを提供するプラットフォームを利用することで、企業が福利厚生サービスを用意しなくとも、フリーランスは福利厚生サービスを受けられます。適切な制度を整えれば、フリーランスとも良好な関係を築け、企業の競争力を高められるでしょう。▼フリーランス・副業人材のマッチングサービスSOKUDAN業務委託で福利厚生の見返りに取引を強要するのはNG業務委託で福利厚生を提供する場合は、見返りとして不当な条件を強要してはいけません。不当な条件の例には、以下のような取引が挙げられます。専属契約の強要:福利厚生を受ける代わりに、他社の仕事を受けないよう求める報酬の値下げ:福利厚生を提供する分、報酬の減額を提示する発注量の増加:一定の仕事量を請け負うことを条件に、福利厚生を適用すると提示するなお、上記の中でも専属契約の強要は、「偽装フリーランス」の要件に該当する可能性があるため注意が必要です。偽装フリーランスとは、企業が形式上は業務委託契約を結びながら、実質的には労働者としての働き方を強要している状態です。以下のような条件に該当すると、偽装フリーランスと判断される可能性があります。仕事を進める手順や勤務時間を細かく指示する仕事を受けるか断るかの裁量を与えない稼働時間を明確に定め、時間単価で支払う契約を結ぶ偽装フリーランスと判断された場合は、企業に雇用契約と同等の責任が発生し、社会保険料の未払い分の請求や、労働基準法違反による罰則が科される可能性があります。フリーランスとの健全な関係を築くためには、福利厚生の提供が不当な取引の条件とならないよう、注意が必要です。▼関連記事:偽装フリーランスとは?企業が気をつけるべき8ケースや対策を徹底解説まとめ業務委託では、法律上、雇用契約の従業員と同じ福利厚生を適用できません。しかし、企業の判断によって法定外福利厚生を提供することは可能です。例えば、PCの貸与や食事代の補助、健康診断のサポートなど、業務に役立ち、働きやすさを向上させる制度を導入している企業も増えています。ただし、福利厚生を提供する際には、雇用契約と混同されないよう慎重に設計することが重要です。過度な専属化や指揮命令が発生すると、偽装フリーランスと判断されるリスクがあるため、契約の線引きを明確にしながら適切にサポートを行いましょう。フリーランスと良好な関係を築くことは、企業にとってもメリットがあります。業務委託契約でも、できる範囲で働きやすい環境を整えることで、優秀なフリーランスと長期的なパートナーシップを築きましょう。