業務委託契約を結ぶフリーランスに対して、「源泉徴収票を発行する必要があるのだろうか」と疑問に思ったことはありませんか?また、企業が作成する支払調書との違いが分かりにくく、税務処理に迷うケースもあります。誤った対応をすると、フリーランスとのトラブルや税務署からの指摘につながる可能性があるため、適切な処理を理解しておくことが重要です。この記事では、業務委託における源泉徴収票の発行義務の有無をはじめ、支払調書との違いや、企業がどのような対応をすればよいのかを分かりやすく解説します。具体例を交えて詳しく説明するので、ぜひ参考にしてくださいね。源泉徴収とは?源泉徴収とは、企業が従業員などに給料や報酬を支払う際に、支払う金額からあらかじめ所得税を差し引いて、代わりに税務署に納付する仕組みです。企業が税金を前払いしているイメージです。日本では、税金は納税者個人が納める「申告納税制度」が採用されています。しかし、納税を忘れてしまう人や、申告漏れの可能性を減らすために、企業があらかじめ税金を差し引き、代理して納付することでスムーズに税収を確保できるようにしています。源泉徴収票は、毎年1月1日から12月31日までの1年間の給与総額や源泉徴収額などを記載した書類です。給与を支払う企業は、源泉徴収の対象となる年の翌年1月31日までに、源泉徴収票を発行する必要があります*。*退職者に対しては、退職後1ヶ月以内に発行しなければならない。業務委託は源泉徴収の対象になる?業務委託契約を結ぶフリーランスに対しても、源泉徴収が適用されるケースがあります。1人のフリーランスに支払う報酬の金額が年間100万円までの場合は、所得税の源泉徴収率は10.21%です。100万円を超える部分に関しては、20.42%の源泉徴収が必要となります。例えば、フリーランスのWebライターAさんに150万円の報酬を支払う場合、100万円までは10.21%、残りの50万円には20.42%の源泉徴収が適用されます。業務委託でも、報酬額に応じた源泉徴収が発生します。そのため、企業は支払い時に報酬額と源泉徴収率を正確に把握し、適切に対応する必要があります。源泉徴収が必要となるケース業務委託では、全ての報酬に源泉徴収が必要なわけではありません。以下に該当する報酬に対して源泉徴収が必要となります。原稿料、講演料弁護士、税理士、公認会計士、司法書士など特定の資格を持つ人に支払う報酬プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才など)、テレビ放送の出演などの報酬や、芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬宴会などで客に対して接待を行うコンパニオンやホステスなどに支払う報酬プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約束することで一時に支払う契約金広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金源泉徴収が不要なケース業務委託の報酬の中には、源泉徴収が不要なケースもあります。例えば、システム運用やWebサイト制作、データ入力、事務代行、オンラインショップの販売収益などは源泉徴収の対象外です。フリーランスに依頼する業務に、源泉徴収の対象となるものとならないものが含まれる場合は、報酬を区分して対象業務の分にのみ源泉徴収を適用します。例えば、フリーランスのWebライターAさんに、次の2つの業務を依頼した場合を考えます。原稿作成(合計10万円):企業のオウンドメディアに掲載する記事の執筆資料作成(合計5万円):記事の参考資料として、関連データを整理・まとめた資料の作成企業はAさんに支払う報酬を次のように区分します。原稿作成分(源泉徴収の対象):10万円(源泉徴収税額:10万×10.21%=1万210円)資料作成分(源泉徴収の対象外):5万円企業がAさんに支払う金額は、15万円から、原稿作成分の源泉徴収1万210円を差し引いた13万9,790円となります。業務委託契約のフリーランスに源泉徴収票は作る必要がある?源泉徴収票は、給与所得者向けの書類です。そのため、企業は業務委託契約を結ぶフリーランスに対して、源泉徴収票を発行する義務はありません。フリーランスの収入は、事業所得に分類されるため、源泉徴収票の作成対象外となります。業務委託契約のフリーランスには支払調書を発行する業務委託契約を結ぶフリーランスには、源泉徴収票の代わりに、支払調書を作成する必要があります。ここでは、支払調書の役割や発行義務の有無、記載内容などを解説します。支払調書とは?支払調書とは、企業がフリーランスなどの外部の事業者に報酬を支払った際に、支払い内容を税務署へ報告するための書類です。支払調書には、支払い先の情報や報酬金額、源泉徴収税額などを記載します。▼引用:報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書|国税庁支払調書は、1年間で同一のフリーランスに支払う報酬が5万円以上の場合に、作成の義務が発生します。作成後は、支払いが確定した翌年の1月31日までに税務署に提出しなければなりません。▼関連記事:【企業向け】支払調書とは?提出義務や書き方、源泉徴収票との違いを徹底解説源泉徴収票と支払調書の違い源泉徴収票と支払調書はどちらも「法定調書」に分類され、企業が税務署へ提出する重要な書類です。ただし、それぞれ発行対象や目的が異なります。源泉徴収票は、企業が給与を支払う従業員向けに発行する書類です。給与額や所得税額、控除額などが記載され、従業員が年末調整やローンの申し込みなどを行う際に使用します。イメージとしては、毎月受け取る給与明細を1年間分まとめたものに近いでしょう。一方で、支払調書はフリーランスなど外部の事業者の報酬支払いに関する書類で、企業が税務署へ提出することを目的としています。フリーランスに交付されることもありますが、法律で義務付けられているものではなく、あくまで参考資料としての位置付けです。業務委託契約のフリーランスに支払調書を発行するメリット前述した通り、フリーランスに対して支払調書を交付する義務はありません。一方で、フリーランスとしては、支払調書があれば収入金額と源泉徴収額を簡単に確認できるため、確定申告をスムーズに進められます。そのため、企業が支払調書を発行することで、フリーランスからの印象や信頼感が上がるでしょう。フリーランスと信頼関係を築くことで、契約更新や新たな仕事の依頼にもよい影響を与える可能性があります。支払調書の作成は、年末や年明けの税務処理シーズンに行うため、手間に感じる企業も多いかもしれませんが、フリーランスにも提出するものと念頭に置き、早めに準備をするとよいでしょう。まとめ源泉徴収票は、1年間の給与明細のようなイメージで、給与所得者に対して発行する書類です。業務委託契約を結ぶフリーランスも、仕事内容によっては、源泉徴収が必要になるケースがあります。ただし、フリーランスへの支払いは、給与所得ではなく事業所得に分類されるため、企業に源泉徴収票の発行義務はありません。その代わりに、フリーランスには支払調書を送ります。支払調書は、フリーランスへの報酬金額や源泉徴収額を記載した書類です。支払調書の発行義務はありませんが、フリーランスの確定申告に役立つため、依頼があれば早めに作成するとよいでしょう。業務委託で発生する税務処理をスムーズに進めるためにも、源泉徴収票の特徴や発行範囲などをしっかり理解しましょう。