業務委託契約を結ぶフリーランスから、「雇用保険に入りたい」と相談を受けたことのある企業もあるのではないでしょうか。前提として、雇用保険は労働者を対象とした制度です。そのため、業務委託契約の場合に適用できるのかどうか、判断に迷う場面も少なくありません。そこでこの記事では、業務委託契約を結ぶフリーランスに雇用保険を適用できるのかを判断するポイントや、企業が押さえておくべき注意点を詳しく解説します。雇用保険の適用条件を正しく理解し、フリーランスとの関係を適切に築くためのヒントをお伝えするので、ぜひ最後までご覧ください。雇用保険とは?また、失業手当以外にも、再就職を支援するための給付や、教育訓練給付金といった「求職者支援制度」も提供されます。企業には、条件を満たす従業員の雇用保険加入と保険料負担の義務があります。雇用保険の加入条件雇用保険に加入するためには、以下の2つの条件を満たしている必要があります。1点目は、31日以上続く雇用契約を結んでいることです。雇用保険は、企業に雇用されている労働者に適用されるため、雇用契約を結んでいることが前提となります。企業は、当初31日未満の契約だったにも関わらず、31日以上雇用される見込みとなった従業員が出た場合には、雇用保険を適用させなければなりません。2点目は、週に20時間以上勤務していることです。短時間労働者であっても、週の労働時間が20時間以上であれば、雇用保険の加入が義務付けられます。なお、2017年の法改正により、65歳以上の労働者も雇用保険に加入できるようになりました。業務委託では雇用保険を適用できる?結論として、業務委託契約のフリーランスは雇用保険の対象外です。雇用保険は、企業に雇用され、給与を受け取る労働者を保護する制度です。一方で、業務委託契約を結ぶフリーランスは、企業と対等な立場で契約する「事業者」です。業務の進め方や働く時間・場所はフリーランス自身が決め、企業はその業務の成果に対して報酬を支払います。つまり、企業がフリーランスの働き方を直接指示・管理することはなく、雇用される労働者とは異なります。【例外】業務委託で雇用保険の適用対象となるケース前述した通り、業務委託契約を結ぶフリーランスには原則、雇用保険は適用できません。しかし、業務委託契約であっても、フリーランスの働き方が企業の指揮命令下にある場合は、例外となる可能性があります。働く人が「労働者」として認められるかどうかの判断には、「労働者性」という概念が大きく関わります。労働者性とは、契約の形式に関係なく、実際の働き方が労働者としての条件を満たしているかを判断する基準です。詳しい基準は後述しますが、例えば、以下の条件に当てはまると労働者性が高まります。業務内容や遂行方法を細かく指示している労働時間に応じて報酬を支払っている勤務時間や勤務地を指定しているまた、業務委託契約を結んでいるのに、企業がフリーランスを労働者のように扱うと、「偽装フリーランス」とみなされます。偽装フリーランスが発覚した企業は、不当に労働基準法の適用を免れたと判断され、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。場合によっては、未払いの社会保険料や労働基準法違反による罰則が課せられることもあります。加えて、労働者性が認められると、雇用保険の適用義務が生じるだけでなく、健康保険や厚生年金への加入義務、労働時間の管理、残業手当の支払いなど、労働法上のさまざまな義務が企業に課されます。企業が業務委託契約を適正に運用するためには、フリーランスと対等な関係を築き、指揮命令を避けることが重要です。フリーランスの業務が実態として労働者性を帯びないよう、契約内容や業務遂行の方法を慎重に管理する必要があります。▼関連記事:偽装フリーランスとは?企業が気をつけるべき8ケースや対策を徹底解説業務委託で雇用保険の適用が義務付けられる条件前述した偽装フリーランスとみなされる状況になれば、業務委託契約を結ぶフリーランスに対しても、雇用保険の適用が義務付けられることもあります。ただし、偽装フリーランスに該当する場合、企業は労働基準法や社会保険法に違反する可能性があるため、注意が必要です。ここでは、偽装フリーランスに該当し、雇用保険の適用が義務付けられる可能性のある条件を1つずつ解説します。業務を強制しているフリーランスは、原則として業務を請け負うかどうかを自身が自由に判断できる立場にあります。しかし、企業が一方的に業務の受託を強制し、断ることができない状況であれば、雇用関係に近いと判断される可能性があります。例えば、「継続的に依頼を受けないと契約を打ち切る」といった圧力をかける行為は、フリーランスに業務を受ける自由を与えないため、実質的な雇用契約とみなされる場合があります。業務の進め方を細かく指示しているフリーランスは、本来裁量を持って業務を遂行する立場にあります。そのため、企業が具体的な業務の進め方を細かく指示している場合は、労働者とみなされる可能性があります。作業の方向性を示したり、成果物の品質を保つために必要なルールやマニュアルなどを提示したりする分には問題ありません。しかし、作業手順を細かく指定したり、毎日進捗報告を義務付けたりするなど、細かい指示が継続して行われると、業務委託ではなく雇用契約と判断されることもあります。▼関連記事:業務委託の指示範囲はどこまで?企業がフリーランスとの契約トラブルを避けるために勤務時間や場所を指定しているフリーランスは、働く時間や場所を自分で自由に決められます。そのため、リモートワークでできる仕事であるにもかかわらず、企業が「毎日9~18時に勤務すること」「必ずオフィスで作業を行うこと」といった条件を一方的に設けている場合は、従業員と同等の働き方をしているとみなされる可能性があります。▼関連記事:業務委託の時間管理が違法となるケースとは?事例を交えて分かりやすく解説▼関連記事:業務委託で勤務時間の指定は違法?管理OKのケースや契約書の記載方法も再委託を禁止しているフリーランスは、自身が請け負った業務をほかの事業者に再委託することが認められています。企業が「業務は必ず本人が行うこと」と強制し、再委託を全面的に禁止すると、フリーランスの裁量を奪い、雇用関係とみなされるリスクが高まります。ただし、「責任の所在が分かりにくくなる」「品質の低下をもたらす」など、正当な理由がある場合は、再委託を禁止しても問題ないとされています。▼関連記事:企業は再委託を許可するべきか?5つの判断基準と契約書の例文も紹介労働時間に応じて報酬を支払っている業務委託契約では、企業は、成果物の納品や業務の遂行に対して報酬を支払います。労働時間に応じて「時給制」「日給制」といった形で報酬を支払ったり、深夜手当など時間帯によって割増料金を支払ったりする場合は、従業員と同等の扱いをしていると判断され、雇用関係に該当する可能性があります。業務に必要な機材を負担しているフリーランスは、事業者として独立した立場のため、仕事に必要な機材や設備は原則自分で用意します。そのため、企業がPCやソフト、業務用のスマートフォンなどを貸与している場合は、フリーランスの「事業者性」が薄まり、雇用契約に近い関係と判断される可能性があります。ただし、セキュリティ上の都合などといった正当な理由がある場合は、企業が機材を貸与しても問題にはなりません。▼関連記事:業務委託でパソコンの無償貸与はOK?契約書の記載方法や注意点を解説報酬額を従業員と同等に設定しているフリーランスは、専門的なスキルを持ち、自分で社会保険料を負担します。そのため、企業は同じ業務に従事する自社の従業員よりも、報酬を明らかに高く設定することが望ましいです。企業の従業員と同水準に設定されている場合は、事業者性が弱くなる可能性があります。他社の業務を請け負うことを禁止しているフリーランスは、複数のクライアントと契約する自由があります。企業が「他社と契約してはならない」と、契約を独占(制限)している場合は、企業の指揮下で働いていると判断され、雇用契約と見なされる恐れがあります。フリーランスから雇用保険の加入を求められた際に取るべき対応フリーランスから「雇用保険に加入したい」と相談を受けた際に、企業としてどのように対応すればよいか迷うこともあるでしょう。業務委託契約を結んでいる場合は、基本的にフリーランスは雇用保険の対象外ですが、前述したように働き方によっては労働者性が認められるケースもあります。慎重に判断しないと、トラブルに発展したり、後から労働基準監督署に指摘されたりする可能性があります。最後に、フリーランスから雇用保険の加入を求められた際に、企業として取るべき対応策を具体的に解説します。雇用契約に切り替えるフリーランスから雇用保険の加入を求められた場合は、業務委託契約から雇用契約へ切り替えるという選択肢があります。1週間の勤務時間数などの条件を満たす場合は、雇用保険に加入することが法律で義務付けられています。しかし、雇用契約に切り替えることで、企業に雇用主としての義務が発生したり、コンスタントに人件費がかかったりするようになります。また、フリーランスとしては、雇用保険に加入できるようになる一方で、これまでのように独立性を保ちながら働くことができなくなります。そのため、双方のメリットとデメリットをしっかり押さえたうえで、フリーランスと協議するようにしましょう。なお、もし偽装フリーランスに該当する可能性があり、雇用契約への切り替えをしない場合は、早急に指示の仕方や働き方、報酬などを見直す必要があります。さらに、社内にも共有して再発防止を図ることも大切です。業務委託契約の条件を見直す雇用契約への切り替えはせず、業務委託契約のままにする場合は、フリーランスの貢献度に応じて報酬の増額や業務条件の改善など、待遇を見直すようにしましょう。待遇を改善することで、フリーランスの不安の軽減やモチベーションの向上につながるため、企業としても生産性の向上やさらなる高い成果を期待できます。まとめ業務委託契約を結んでいるフリーランスには、原則として雇用保険は適用できません。雇用保険は企業に雇用される労働者を対象とする制度であり、独立した事業者であるフリーランスには適用されないためです。しかし、業務委託契約の形式をとっていても、実態として企業の指揮命令下で働いている場合は、労働者とみなされ、雇用保険の適用義務が生じる可能性があります。企業は、フリーランスとの契約を適正に管理し、労働者性が認められるような業務内容になっていないかを注意することが大切です。もしフリーランスから雇用保険の加入を希望する声があがった場合は、契約形態を変えたり、契約条件を改善したりして、適切に対応することがポイントです。業務委託契約を適切に管理することで、フリーランスとの関係値を維持でき、企業の信頼も保てるでしょう。