フリーランスなどの外部の事業者を活用する企業が増えるなか、税務処理に関する不安を抱えることも少なくないでしょう。特に支払調書の作成と提出は、年末から年始にかけての業務負担が増す時期に重なるため、事前に正しい知識を持っておくことが重要です。正しく理解できていないと、記入ミスや提出漏れによってペナルティを受ける可能性があります。この記事では、支払調書の基礎知識をはじめ、提出が義務付けられている範囲や書き方、源泉徴収票との違い、マイナンバーの取り扱いなどを分かりやすく解説します。正しくスムーズに支払調書を作成できるよう、ぜひ最後までご覧ください。支払調書とは?支払調書とは、企業がフリーランスなどの外部の事業者に対し、1年間(1月〜12月)に支払った報酬を記録し、税務署に報告するための法定調書の1つです。支払調書の提出により、税務署は適正に課税されているかどうかを把握できます。法定調書とは、所得税法や相続税法、租税特別措置法などの規定に基づき、税務署に提出しなければならない税務関係の書類です。給与所得の源泉徴収票や、不動産の使用料に関する支払調書、生命保険契約等の一時金の支払調書など、全部で63種類あります。支払調書の種類と提出範囲一口に支払調書といってもさまざまな種類があり、取引内容に応じて適用されるものが異なります。主な支払調書には、以下が挙げられます。報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」は、弁護士や税理士、ライターなど、特定の職業に対する報酬や、広告宣伝費、講演料などを記録する支払調書です。フリーランスなどの外部の事業者に発注している企業が作成する必要があります。以下のように、一定の金額を超える報酬を支払った場合に作成が必要です。弁護士や税理士などへの報酬、作家や画家への原稿料や画料、講演料などが、5万円を超えた場合外交員や集金人などへの報酬・料金、広告宣伝のための賞金などが、50万円を超えた場合馬主に支払う競馬の賞金が、75万円を超えた場合不動産の使用料等の支払調書「不動産の使用料等の支払調書」は、事務所や店舗の賃貸料、権利金、駐車場の使用料などを支払った法人、または個人の不動産業者が作成する支払調書です。支払いが1年間で15万円を超えた場合に、支払調書の提出義務が発生します。不動産等の譲受けの対価の支払調書「不動産等の譲受けの対価の支払調書」は、土地や建物を譲り受け、支払いが1年間で100万円を超えた場合に作成して、税務署に提出しなければならない支払調書です。支払調書と源泉徴収票の違い支払調書と源泉徴収票は、どちらも税務処理に必要な書類ですが、それぞれ対象者と目的が異なります。源泉徴収票とは、企業が正社員やアルバイトなどの給与所得者に対して、年末調整後に発行する書類です。1年間の給与や賞与の支払総額、源泉徴収された所得税額が記載されます。給与所得者は、確定申告や転職時、ローンの申し込みなど、所得証明が必要な場面で源泉徴収票を提出します。企業は、源泉徴収の対象となる年の翌年1月末日までに給与所得者へ源泉徴収票を発行し、さらに税務署にも提出しなければなりません。一方で、支払調書は、フリーランスなどの給与所得者以外の人に対して支払った報酬を記録する書類です。企業が税務署に対して報酬の支払い状況を報告する目的で作成されます。企業は、税務署に対して支払調書の提出義務はありますが、フリーランスなど報酬の支払い先に発行する義務はありません。▼関連記事:業務委託で源泉徴収票の発行義務はある?対象範囲や支払調書との関係を解説支払調書は提出義務がある?企業がフリーランスなどの外部の事業者に対して、1年間で5万円以上の報酬を支払った場合は、支払調書を税務署に提出しなければなりません。税務署への提出期限は毎年1月末日となっているため、正しく作成し、期限内に提出しましょう。一方で、企業がフリーランスに対して、支払調書を交付する義務はありません。ただし、フリーランスが確定申告をスムーズに行うために、支払調書の発行を希望することがあります。その場合は、企業が任意で発行することは可能です。法的な義務はないため、発行するかどうかは企業の判断に委ねられますが、フリーランスとの関係性を保つためにも発行を前向きに検討するとよいでしょう。支払調書に必要な項目と書き方支払調書を作成する際は、情報を正確に記載することが重要です。ここでは、フリーランスなどの外部の事業者に報酬を支払った場合に作成する「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を例に、支払調書に必要な項目と書き方を解説します。▼引用:報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書|国税庁①支払を受ける者支払を受ける者の欄には、報酬を支払ったフリーランスなどの氏名、住所、マイナンバーを記載します。住所は、支払調書を作成する日時点のものを記載します。マイナンバーは税務署に提出する場合に必要ですが、フリーランス本人に渡す支払調書には、記載して交付することはできないため注意が必要です。②区分区分は、報酬の内容を分類するための項目です。区分の例としては、原稿料や印税、脚本料、翻訳料、講演料、挿絵料、作曲料、弁護士報酬、税理士報酬、著作権や工業所有権の使用料などが挙げられます。③細目細目とは、報酬の具体的な内容を分類する項目です。企業がフリーランスなどに支払う報酬の内訳について、「区分」からより明確にするために設けられています。例えば、区分が「税理士報酬」の場合は、細目は「顧問料」「決算料」などのように、依頼内容が明確に分かるように記述します。ただし、細目の記入は任意です。④支払金額支払金額には、1月1日~12月31日までの期間に、フリーランスなどに支払いが確定した金額を記入します。支払調書の作成時点で未払金がある場合は、未払額をカッコ書きで記載します。⑤源泉徴収税額源泉徴収税額には、源泉徴収の合計額を記載します。税率は、支払金額が100万円以下であれば10.21%、100万円を超える場合は超えた部分に20.42%がかかります。支払調書の作成時点で未払金があり、所得税と復興特別所得税を徴収していない場合は、未徴収税額をカッコ書きで記載します。⑥摘要摘要欄には、補足情報や特記事項を記載します。支払を受ける人が源泉徴収の免除証明書を提出していたり、法律上源泉徴収の必要がなかったりする場合に記入します。⑦支払者支払者の欄には、報酬を支払う企業や事業者の名称、住所、電話番号、法人番号を記載します。支払調書の提出方法支払調書の提出には、郵送やe-Tax、CDやDVDなどの光ディスク、クラウドサービスの4つの方法があります。少数なら郵送、大量の処理が必要な場合は、e-Taxや光ディスク、クラウドサービスが便利です。郵送・直接持参郵送または直接持参する場合は、税務署や国税庁のHPに掲載されている「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書の様式」と「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」を印刷し、記入します。郵送の場合は、1月31日までの消印が有効となります。余裕をもって早めに準備するとよいでしょう。e-Tax電子申告システム「e-Tax」を利用すれば、インターネット経由で支払調書を提出できます。データを作成し、オンラインで送信するだけで完了するため、紙の提出と比べて手間が省け、税務署への持参も不要です。e-Taxを利用するには、e-Taxソフト(Web版)を利用するか、e-Taxソフトをインストールして、申告データを作成します。e-Taxを利用する前には、管轄の税務署にe-Taxの開始届出書を提出し、利用者識別番号を取得するなどの準備が必要です。なお、前々年に提出した支払調書が100枚以上の場合は、e-Taxまたは次に説明する光ディスクでの提出が必要となります。光ディスク大量の支払調書を提出する場合は、CDやDVDなどの光ディスクを利用する方法もあります。税務署が提示する要領に従ってデータを作成し、光ディスクに保存したうえで提出します。光ディスクによる提出方法は、一括処理が可能なため、紙ベースよりも効率的です。特に多くのフリーランスと契約している企業に適しています。クラウドサービス国税庁長官の認定を受けているクラウドサービスを活用することで、支払調書を手軽に作成できます。クラウドサービスに支払調書データを記録し、税務署長に対してデータのアクセス権を付与して提出します。支払調書の作成・管理・提出がオンライン上で完結し、手続きの効率化が図れます。現時点で利用できる認定クラウドサービスは、以下の2つです。株式会社野村総合研究所「e-私書箱法定調書提出クラウドサービス」株式会社シフトセブンコンサルティング「法定調書クラウド」なお、認定クラウドを利用して支払調書を作成・提出する場合は、事前に「電子計算機の認定申請書 兼 申請事項変更届出書」を届け出る必要があります。支払調書にマイナンバーの記載は必要?マイナンバーの取り扱いには厳格なルールがあるため、適切な対応を取らなければ、法律違反となる可能性があります。ここでは、支払調書におけるマイナンバーの記載義務や、取得できない場合の対応を詳しく解説します。マイナンバーの記載は義務マイナンバーは、国が所得情報を正確に把握し、適切な課税を行うために利用されます。そのため、支払調書には原則として報酬を支払った個人(フリーランス)のマイナンバーを記載することが義務付けられています。ただし、企業がフリーランスに提供する支払調書には、マイナンバーを記載しなくても問題ありません。個人情報保護の観点から、不要なマイナンバーの開示を避けるための措置です。マイナンバーを収集できない場合は?フリーランスにマイナンバーの収集を何度依頼しても、フリーランスから連絡が来なかったり、提示を拒否されたりすることもあるでしょう。このような場合は、やむを得ない事情があると判断され、マイナンバーなしで支払調書を作成・提出しても問題ありません。その場合は、収集に努めた証拠として、フリーランスに対してマイナンバーの提供を求めたメールやチャットなどを保存しておくとよいでしょう。また、税務署へ支払調書を提出する際に、マイナンバーを収集できなかった理由を記載したメモなどを添付することで、企業としての対応を示せます。支払調書を提出しなかった場合のペナルティ支払調書は、支払いが確定した年の翌年の1月31日までに税務署へ提出する義務があります。なお、31日が土日祝日の場合は、次の平日が提出期限となります。税務署への支払調書の提出を怠ると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。そのため、支払調書の作成と提出は、必ず期限内に行いましょう。まとめフリーランスなどの外部の事業者と取引をする多くの企業にとって、支払調書の作成と提出は避けて通れない業務です。支払調書は、企業がフリーランスに支払った報酬などを税務署に報告するための書類です。提出期限は、翌年の1月31日までと決まっており、未提出の場合には罰則が科される可能性があるため、期限を守って対応しましょう。また、マイナンバーの記載義務や、支払調書が必要なケース・不要なケースを正しく理解しておくことも大切です。支払調書の作成は手間がかかるように感じるかもしれませんが、書類の目的や作成の対象をしっかり理解し、正しく処理することが大切です。業務を円滑に進めるためにも、余裕をもって支払調書を作成しましょう。