働き方の多様化に伴い、企業がフリーランスを活用する場面はどんどん広がっています。しかし、適切な契約や業務運用を行わないと、知らず知らずのうちに「偽装フリーランス」とみなされ、法的リスクを負う可能性があります。例えば、フリーランスに仕事を依頼する際に、「同僚と働く感覚」で細かく指示を出したり、仕事にあたる時間や場所を指定したりなど、詳細に管理しすぎていませんか?こうした行為は偽装フリーランスとみなされる要件の一部です。偽装フリーランスとみなされたら、企業には法的リスクが生じます。企業の信頼に大きな影響が及ぶため、必ず注意しなくてはいけません。この記事では、偽装フリーランスに該当する具体的なケースや、企業が着手すべき対策を分かりやすく解説します。トラブルを未然に防ぎ、フリーランスと健全なパートナーシップを築くためのヒントをお伝えするので、ぜひ最後まで読んで活用してくださいね。偽装フリーランスとは?偽装フリーランスとは、業務委託契約を結んでいるフリーランスでありながら、実態は労働者(従業員)と同じような働き方になっている状態を指します。フリーランス協会が2020年に提唱した言葉です。偽装フリーランスの一例としては、勤務時間や業務の進め方を企業が細かく指定し、雇用契約を結ぶ社員とほぼ変わらない条件で働かせているケースが挙げられます。厚生労働省が行った調査によると、2023年度には153人が偽装フリーランスに該当したと報告されています。▼参考:「偽装フリーランス」153人 厚労省が初集計、23年度|日本経済新聞労働者とフリーランスの定義偽装フリーランスを理解するために、雇用契約を結ぶ労働者と、業務委託契約を結ぶフリーランスの定義を押さえておきましょう。労働者の定義労働者とは、企業や事業者と雇用契約を結んで、業務内容や労働時間、賃金が明確に定められ、指揮命令を受けながら働く人を指します。労働者は、労働基準法に基づいて、最低賃金や労働時間の制限、有給休暇の取得といったあらゆる保護が受けられます。また、健康保険や厚生年金などの社会保険にも加入でき、保険料は企業と労働者で折半します。労働者は、勤務時間や勤務場所が定められるなど、拘束性の高い雇用形態といえます。一方で、労働基準法で守られつつ、手厚い社会保障を受けることができるのが特徴です。フリーランスの定義フリーランスとは、企業や事業者と業務委託契約を結び、事業者として自ら業務を受注して遂行する個人を指します。雇用契約を結ばないため、労働者と比べて働き方の自由度が高く、請け負う業務内容や業務の進め方を自らの裁量で決定できます。その一方で、労働基準法や社会保険制度は適用されず、働く環境や収入の安定は自己責任となります。税金や保険料の管理・納付を自分で行い、確定申告で所得税や住民税を納めます。偽装フリーランスが問題視される背景労働基準法を十分把握していないために、知らず知らずのうちに、偽装フリーランスに該当してしまう企業もあるかもしれません。しかし、なかには人件費の削減や、社会保険料の負担回避、労働基準法の適用逃れのために、不当にフリーランスを労働者として扱い、都合よく労働力だけ搾取しようと考える企業もあります。2023年には、フリーランスとして工場で16年間働いた男性が仕事中に倒れて死亡し、実態は従業員とほぼ同じ働き方だったことが報道されました。男性が勤務していた企業は、「男性とは業務委託契約を結んでいる」「社員ではないのだから自分で判断して休むべきでは」などと、企業側に何ら責任はないと主張。しかし、その後裁判で、「男性は労働者にあたる」とみなされ、偽装フリーランスであることが明らかになりました。▼参考:16年働いた工場で逝った夫 死後に社長は言った「雇用していない」|朝日新聞デジタルまた、アイドルグループに所属していた男性のケースでは、男性にライブやレッスンを断る自由がなかったほか、仕事場所や時間を拘束されていたことなどから、事務所の指揮監督を受けていた労働者と認められています。男性がグループを脱退する際に、事務所側が違約金の支払いを求めていました。しかし、労働者と認定されたことで、労働基準法で定められる「損害賠償予定の禁止」が適用され、違約金の支払い義務はないと判断されました。▼参考:アイドル脱退の違約金、「労基法違反で無効」 事務所側の敗訴確定|朝日新聞デジタルこのように、人手不足などの問題を抱える企業が、都合よくフリーランスを使用することで、フリーランスに大きな不利益を被らせようとするケースも多くみられます。近年、働き方の多様化に伴うフリーランスの増加や、フリーランス新法の施行などにより、フリーランスの働き方に注目が集まっています。そのため、企業にはより一層、フリーランスを適切に扱うことが求められるようになっています。偽装フリーランスと偽装請負の違い偽装フリーランスと混同しやすい言葉に、「偽装請負」が挙げられます。偽装請負は、業務委託契約を結びながらも、実際には労働者派遣と同様に指揮命令を行う状況です。業務委託契約に対して業務の指示を出す点は偽装フリーランスと同様に見えますが、関わる人物や契約形態が異なります。偽装フリーランスは、「注文主」と「フリーランス」の2者間契約で発生するものです。一方で、偽装請負は、「注文主」と「請負業者」と「請負業者に雇用されている労働者」の3者間で契約する場合に発生します。▼引用:偽装請負になっていませんか?|厚生労働省福島労働局本来であれば、注文主からの指示を受けた請負業者が、自社で雇用する労働者に対して指揮命令をして業務を進める必要があります。しかし、注文主が請負業者を介さず、労働者に直接指揮命令を下している状態になると、偽装請負に該当します。▼引用:「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」について|厚生労働省偽装請負は、労働者派遣と同じ指示系統で仕事を進めることになるため、本来であれば福利厚生などを受ける権利があります。しかし、契約上は業務委託契約となるため、待遇が不安定になるなどの問題が生じます。偽装フリーランスに該当する8つのケース偽装フリーランスに該当するかどうかは、労働基準法で定める「労働者性」の有無がポイントです。労働者性は、以下のように指揮命令の強さや業務の自由度などを総合的に判断して決まり、労働者性が強まると、偽装フリーランスに該当する可能性が高まります。▼引用:偽装フリーランス防止|フリーランス協会この段落では、偽装フリーランスに該当する8つのケースを解説するので、自社が該当しないかを確認してください。①新たな業務や契約を強要する企業がフリーランスに仕事の依頼をする際に、フリーランスに仕事を受けるか受けないかを判断する自由がない場合は、偽装フリーランスに該当します。例えば、当初の契約に含まれていない追加作業を強いる行為や、フリーランスが実質的に拒否できない条件をちらつかせて契約を押し付ける行為は禁止されています。【具体例】Webデザイン制作をフリーランスに対して、当初の契約に含まれていないマーケティング施策の立案や運用まで担当するよう迫る記事執筆を委託しているフリーランスに対して、契約を更新する条件として、「これまで納品した記事のSEO対策を無償で見直すように」と要求する②業務の進め方を細かく指定するフリーランスに業務を依頼する際に、業務の進行方法やスケジュールに細かく指示を出している場合は、偽装フリーランスのリスクが高まります。本来、フリーランスは業務遂行の手段や方法に裁量を持ちます。そのため、作業工程の詳細まで指示に従うように求めたり、裁量を発揮できないほど絶え間なくタスクを発生させたりすることは、フリーランスの独立性を損なう行為とみなされる可能性があります。【具体例】動画編集を依頼したフリーランスに対して、作業手順書を渡して、全て手順通りに進めるよう指示する記事作成を依頼したライターに対して「1日5記事以上の執筆が必要」として、一方的に締め切りをぎりぎりに設定したり、度重なる修正依頼を出したりして、単なる作業者として扱う③業務を行う場所や時間を指定・管理するフリーランスは、業務を遂行する場所や時間を自身で決定できる自由があります。そのため、企業が特定の場所での作業や決まった勤務時間を強制している場合は、労働時間や労働条件を管理していることで、偽装フリーランスとみなされるリスクが高まります。【具体例】毎日9時から17時まで、オフィスに出社して作業するよう求めるリモート勤務中は、常にPCのカメラをオンにするよう求めるフリーランスが業務を開始する際や休憩する際に、逐一チャットで報告するよう求める④業務をサポート人材の起用や再委託を理由なく一切認めないフリーランスは、依頼された業務を完成させる方法に裁量を持ちます。そのため、以下のように、業務の一部をほかのフリーランスや事業者などに再委託できます。Webサイトのデザインと構築を依頼されたWebデザイナーが、デザイン部分は自身で行い、HTMLやCSS、JavaScriptなどのコーディング作業を別のフリーランスや専門業者に再委託する再委託を企業が理由なく禁止している場合は、フリーランスに対して指揮監督しているとみなされ、偽装フリーランスとして疑われることがあります。ただし、情報漏洩や責任の所在があやふやになるなど、正当な理由で再委託を禁止している場合は、問題とならない可能性もあります。⑤業務時間に応じた報酬を支払うフリーランスと結ぶ業務委託契約では、企業は成果物の納品や業務の遂行に対して報酬を支払うことが基本です。そのため、フリーランスが提供した労働時間に応じて報酬を支払う場合は、労働者と同じく「労務対償性」が高いと判断され、偽装フリーランスとみなされる可能性があります。【具体例】フリーランスにシステム開発を依頼する際に、「月〇時間働くこと」を条件に、時間単価で支払う契約を結ぶ月間の稼働目安時間を設定してバナー作成を依頼し、フリーランスが早めに納品できたため、残った時間でロゴの作成も依頼する⑥報酬を従業員と同水準もしくは低い水準に設定するフリーランスは、高い専門性やスキルを有し、経費や社会保険料を自身で負担しています。そのため、フリーランスへの報酬は、労働者よりも著しく高い水準で設定する必要があります。フリーランスへの報酬を従業員と同程度の水準に設定すると、フリーランスの事業者性が弱まり、偽装フリーランスとみなされるリスクがあります。⑦業務に必要な機材を企業が負担するフリーランスは、業務に必要なPCやソフトを自己負担することで、事業者としての独立性を示しています。そのため、業務で使用する機材を企業が負担する場合は、労働者性が強まり、偽装フリーランスに該当する可能性があります。ただし、セキュリティ上や業務の効率化などの都合によって機材を貸し出している場合は、問題とならない可能性が高いといわれています。⑧専属契約を結ぶフリーランスは事業者として、取引先を選べる自由があります。そのため、フリーランスに対して、自社とのみ取引するように専属契約を強いる行為は、事業者としての独立性が損なわれ、偽装フリーランスとみなされるリスクを伴います。【具体例】「ほかの企業の案件を受けることを禁止する」「自社のみと取引すること」と定める契約を交わす契約書には専属契約である旨は記載していないが、フリーランスに過剰に仕事を振って他社の案件を受ける余裕をなくす偽装フリーランスに該当した場合に課される罰則偽装フリーランスであると発覚した場合、企業は労働基準法違反として、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、悪質な場合は是正勧告や企業名が公表されるなどの罰則が生じる可能性もあります。その結果、社会的信用が失墜し、顧客離れや取引先との関係悪化を招くことにもつながります。偽装フリーランスを防ぐためのポイントフリーランスの活躍の場が年々広がっており、企業はうまくフリーランスを活用することで、効率よく事業成長を図れます。そのため、偽装フリーランスを恐れてフリーランスの登用を控えるのではなく、十分な知識を身につけて注意を配る必要があります。この段落では、偽装フリーランスを防ぎ、フリーランスの働き方を尊重するための具体的なポイントを紹介します。契約内容を再検討するまずは、フリーランスとの契約内容が適切かどうかを確認することが重要です。フリーランスに依頼するタスクや成果物を具体的に定義し、フリーランスに業務の裁量を持たせるよう意識しましょう。報酬体系は、できれば時給制ではなく成果物ベースで支払うことで、雇用契約との違いを明確にできます。また、フリーランスに再委託を禁じる場合は、セキュリティ上や責任の観点から禁止する旨を契約書に明記することが重要です。加えて、専属契約を強要しないようにしましょう。フリーランスは複数の企業と契約し、柔軟に仕事を進めることが可能な立場です。専属契約を強制することはフリーランスとしての自由を制限するため、注意が必要です。業務フローを整備するフリーランスに対しては、指揮命令を避ける運用が求められます。雇用契約のように細かい指示を与えてしまうと、実質的な雇用契約とみなされるリスクがあります。そのため、業務の進捗確認は「納期ベース」で行い、フリーランスが自分の裁量で作業を進められる環境を整えましょう。毎日「何時から何時まで働くように」と指示を出したり、作業手順を細かく決めたりする行為は避けます。代わりに期限を設け、必要に応じて定期的に作業の進行を管理する形を取るとよいでしょう。また、具体的な業務の指示を減らすために、チャットツールやタスク管理ツールなどを活用して、フリーランスが自律的に仕事を進められるようサポートするのもおすすめです。定期的な見直しと相談体制の整備をするフリーランスとの契約が長期間継続した場合は、契約内容が実態とズレてしまう場合があるため、定期的に契約内容や運用方法を見直すことが重要です。その際は、フリーランスに対して定期的なフィードバックやコミュニケーションを行い、不安や不満を早期に解決できる体制を整えるとよいでしょう。また、社内でフリーランスの意見や問題を受け付ける担当者や窓口を設けることで、フリーランスが安心でき、信頼関係を築きやすくなります。従業員に偽装フリーランスの周知を徹底する偽装フリーランスのリスクを抑えるためには、基本的な知識を社内に周知することが重要です。従業員がフリーランスに対して過度な指示を出したり、勤務時間を管理したりすることがないように、業務委託契約と雇用契約の違いを共有し、フリーランスとの接し方の共通認識を持ちましょう。偽装フリーランスの通報を受けた場合の対応労働基準監督署などから偽装フリーランスに関する通報を受けた場合は、迅速かつ適切に対応することが求められます。この段落では、通報を受けた際に企業が行うべき対応を具体的に説明します。対応を誤ると、法的なトラブルに発展したり、企業の信用を失ったりするリスクもあるため、正しい対応方法を身につけましょう。労働基準監督署からの通知に対応する問題行為が労働基準監督署に報告されると、企業には労働基準監督署から調査の通知が届きます。出頭や資料提出が命じられることもあるため、通知が届いたら、まずは通知内容を正確に把握します。通知文書には、調査の対象や要求内容が記載されているため、「どのフリーランスとの契約が問題視されているのか」「どのような資料の提出を求めているのか」を精査する必要があります。対応方針を決める弁護士や社労士などの専門家に相談し、法的な観点から対応方針を決定しましょう。労働基準法や労働契約法に抵触する可能性がある場合は、専門家の助言をもとに適切な準備を進めることでトラブルを未然に防げます。また、社内の関係部門や、フリーランスに仕事を依頼している担当者にも調査の件を共有し、契約書や過去のやり取りなど、必要な資料を迅速に収集できるよう準備を依頼しましょう。契約内容と業務実態を精査する労働基準監督署の調査に備えて、契約書や業務実態を入念に精査します。契約書の内容を確認し、フリーランスの契約が適切に結ばれているかを再確認しましょう。特に重要なのは、契約形態や業務内容、報酬体系です。労働時間に応じた報酬の支払いや、出勤や勤務時間の義務など、契約内容が雇用契約に近い形になっていないかを確認しましょう。加えて、フリーランスが実際にどのような働き方をしているのかを、担当者にヒアリングしたり、過去のチャット履歴などを確認したりして洗い出します。勤務時間を指定していたり、作業手順に細かい指示を出していたりする場合は、偽装フリーランスとみなされる可能性があります。運用体制を見直して再発防止策を講じる労働基準監督署の調査によって、法律違反や不適切な運用が明らかになった場合は、早急に改善策を講じる必要があります。問題を放置したままにしておくと、企業名の公表や検察庁への送検といったリスクに発展する可能性があります。そのため、労働者性が指摘された箇所に対して、適切な契約や運用を社内で協議しましょう。フリーランスにも真摯な態度で修正案を提示し、合意が取れたら契約を見直します。また、再発防止のためには企業内で社内教育を実施することも重要です。フリーランスへの過度な管理や指示を避けるためのルールを従業員に共有し、適切な運用を徹底しましょう。定期的に弁護士などに運用状況をチェックしてもらい、問題が発生しないようにすることも効果的です。労働基準監督署に是正報告書を提出し、改善策を実行に移していることを示すことも忘れないようにしましょう。まとめフリーランスを活用する企業が増えている昨今、偽装フリーランス問題は決して無視できないものとなっています。フリーランスに対して過度に指示を出す、自社の業務だけを選任して請けさせる、同じ場所で常勤のように働かせるといったケースは決して珍しくないでしょう。しかし、偽装フリーランスとみなされた場合、企業は法的な罰則を受けるリスクや、社会的な信用を失うリスクを抱えることになります。偽装フリーランスとならないためには、業務委託契約と雇用契約の違いをしっかり理解し、適切に契約を結ぶことが重要です。フリーランスの裁量を尊重し、業務内容や成果物を明確にしたうえで、双方がスムーズに仕事を進められるよう環境を整えましょう。また、偽装フリーランスの再発を防ぐためには、企業全体での意識改革と運用体制の強化が欠かせません。フリーランスとの契約におけるリスクを減らし、企業の健全な運営を守るための対策を積極的に講じましょう。