業務委託をスムーズに進めるためには、納期やスケジュール管理が必要不可欠です。なかには「フリーランスの勤務時間を指定したい」と考えている企業担当者もいるのではないでしょうか。実は、フリーランスが仕事を行う時間を企業が指定すると、違法とみなされる可能性があります。そのため、企業には慎重な対応が求められるのです。この記事では、業務委託で勤務時間の指定が違法になるケースを紹介します。また、勤務時間の指定が認められる場合や、契約書の記載方法、適切に勤務時間を管理するコツなどもお伝えするので、ぜひ参考にしてください。業務委託で勤務時間の指定をしたら違法?業務委託では、受注者(フリーランスなど)に仕事のやり方や時間の使い方を自由に決められる権利があります。そのため、業務委託契約を結ぶフリーランスに対して、企業が勤務時間を指定すると違法とみなされる場合があります。まずは、雇用契約との違いに触れながら、業務委託契約を結ぶフリーランスに勤務時間を指定するリスクを解説します。勤務時間の指定は雇用契約に対して認められる企業が勤務時間を指定できるのは、雇用契約を結ぶ労働者に対してです。雇用契約とは、企業が労働者を雇用し、その労働に対して賃金を支払う契約のことです。正社員や契約社員、パート・アルバイト、派遣社員などの雇用形態が該当します。雇用契約では、勤務時間だけでなく、就業場所や業務内容を具体的に定められます。例えば、正社員が「朝9時から18時まで勤務する」という規定に従うのは、この契約に基づくものです。同じように、パート・アルバイトや派遣社員に「シフト表通りに出勤すること」を求めるのも認められます。業務委託では勤務時間・場所を定められない業務委託契約では、基本的に企業がフリーランスに対して勤務時間や場所を指定することはできません。企業が業務を委託するフリーランスは、「事業者」として企業と対等な立場にあります。そのため、フリーランスが仕事をする場所や時間は基本的に自由であり、企業が干渉する権限はないのです。例えば、フリーランスのWebデザイナーに「1週間後までに納品してください」と納期を指定することは問題ありませんが、「毎日10時から18時まで作業してください」と指示するのは認められません。ただし、撮影現場のカメラマンのように、業務上の特性から特定の時間や場所での作業が必要な場合は、例外的に認められることもあります。勤務時間の指定は「偽装フリーランス」とみなされる可能性があるフリーランスの勤務時間を指定すると、「偽装フリーランス」と判断されるリスクがあります。偽装フリーランスとは、見かけ上は業務委託契約を結んでいるものの、実態はフリーランスが雇用契約と変わらない働き方をしている状態を指します。具体的には、主に企業がフリーランスに対して以下のような行為を行うことで、偽装フリーランスとみなされる可能性が高まります。一方的に勤務時間を指定する業務の進め方に裁量がなく詳細な命令を下す業務で使用する機材を指定・負担する働いた時間に対して報酬を支払うフリーランスとの関係を健全に保つためには、成果物の納品や特定の業務の遂行に対して報酬を支払う契約内容にして、フリーランスに業務の裁量を持たせることが大切です。▼関連記事:偽装フリーランスとは?企業が気をつけるべき8ケースや対策を徹底解説業務委託で勤務時間の指定が違法となるケース前述したように、業務委託では、企業がフリーランスの勤務時間を指定することは原則できません。勤務時間の指定は、業務を効率的に進めるための配慮に見えますが、一定の基準を満たすとフリーランスが労働者とみなされて、法律違反となる恐れがあります。この段落では、業務委託で勤務時間の指定が違法となるケースについて、具体例を交えながら解説します。勤務時間や休憩時間の指定・報告を求めるフリーランスに勤務時間や休憩時間を指定し、その報告を求める行為は、違法となる可能性があります。例えば、時間を問わず1人で黙々と進められる作業を依頼したにもかかわらず、「毎日10時から18時まで作業してください」と一方的に指示することが該当します。こうした行為は、フリーランスの独立性を損ない、指揮命令を目的とする行動とみなされるため適切ではありません。業務の進捗状況を把握したい場合は、作業完了後に成果物を納品してもらう形を徹底し、勤務時間には干渉しないようにしましょう。勤務時間を定めて時間が余ったら別の業務をさせる業務委託契約で、「月間(または週あたりなど)の稼働時間の目安」を設定するケースもあるでしょう。稼働時間の目安を設定すること自体は違法ではありません。しかし、目安時間を「実質的な拘束時間」と捉え、時間が余った場合にほかの業務を依頼する行為は、違法となる可能性があります。例えば、月の目安稼働目安を50時間として、フリーランスのライターに10本の原稿作成を依頼したものの、実際は40時間で業務を終えられた場合に、企業が「残りの10時間で資料作成をしてほしい」と依頼する行為が該当します。この場合に支払われる報酬は、フリーランスが「遂行した対価(成果物)」ではなく、労働者と同じく「労務提供に対する対価」と判断される可能性があり、雇用契約とみなされるリスクが生じます。業務委託契約では、時間ではなく成果物を基準として報酬を支払うよう心がけましょう。業務委託で勤務時間を不当に指定した場合のペナルティ企業がフリーランスの勤務時間を指定するなどして、偽装フリーランスとみなされた場合は、労働基準法違反となり、6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金を科されるケースがあります。そのほか、労働基準監督署から是正勧告が出されます。この是正勧告に従わない場合や、違反が悪質であると認定された場合には、行政指導や企業名が公開され、社会的制裁を受けることがあります。企業名の公表は、企業イメージにも深刻な影響を及ぼします。偽装フリーランスとみなされる基準などをしっかり把握して、リスクを未然に防ぐことが重要です。業務委託で勤務時間の指定が認められるケース業務委託契約で、勤務時間を指定することは違法となる可能性がありますが、業務の性質や特定の状況によっては認められるケースも存在します。業務の性質上、勤務時間を指定する場合営業やカスタマーサポート、ヘルプデスク、取材、コンサルティングなど、取引先の都合やスケジュールなどに合わせて、特定の時間内に行わなければならない業務が該当します。このような業務をフリーランスに依頼する場合は、時間指定の理由を契約書に明記し、勤務時間を指定することの合理性を示すとよいでしょう。会議や打ち合わせのために勤務時間を指定する場合週に1回の進捗確認ミーティングを行うために、月曜日の午前10時に全員が集まるよう設定するケースが当てはまります。この場合も、業務上の必要性に基づくものとされるため、契約内容に含めておくと安心です。安全性の確保のために勤務時間を指定する場合工事現場の作業は、安全上日中の明るい時間帯に行う必要があるなどの明確な理由があれば、時間を指定しても問題ないとされています。業務委託で勤務時間を指定する際の契約書の記載方法業務委託で勤務時間を指定するためには、勤務時間を指定する正当な理由があるうえで、契約書に明記する必要があります。重要なのは、拘束性の高い記載は避けることです。例えば、「9時から17時までの勤務」といった記載は拘束性が高く、労働者のような働き方とみられる要因となるため避けましょう。代わりに、以下のようにフリーランスが柔軟性を確保できる表現を用いるとよいでしょう。8時から19時までの時間内において、自身が任意で決定する時間に本業務を行うものとする1週間のうち、平日の営業時間内(10時から19時まで)において、自身が任意で決定する合計20時間の業務を実施するものとする進捗確認のためのミーティングは、月曜日午前10時にオンラインで実施し、それ以外の勤務時間は、自らの裁量により決定できるものとする業務委託で勤務時間を指定せずスムーズに進める方法業務委託では、フリーランスに勤務時間の裁量を持たせることで法律違反のリスクを回避できますが、プロジェクトがスムーズに進行するか不安を抱く担当者も多いでしょう。この段落では、勤務時間を指定しなくてもプロジェクトを円滑に進めるための具体的な方法を解説します。納期管理・進捗確認・信頼関係の構築という3つの柱を押さえることで、スムーズな業務運営が可能になります。納期と遅延に関する取り決めを設定する業務委託では、納期と遅延時の対処を契約書に明記することが重要です。具体的には、「〇年〇月〇日までに納品すること」「納期を守れなかった場合は、遅延損害金(報酬の〇%)を支払う」などの取り決めを明記するとよいでしょう。さらに、長期間にわたるプロジェクトでは、途中経過の節目となる目標(マイルストーン)を設定すると、進捗状況を把握しやすくなります。例えば、3ヶ月間のプロジェクトであれば、「1ヶ月目の終わりまでに設計書を提出」「2ヶ月目の終わりまでに試作品を納品」といった形で進捗を管理することで、プロジェクト全体が遅延しにくくなります。進捗確認を習慣化させる納期を守るためには、フリーランスと定期的に進捗確認を行うことも重要です。例えば、週に一度の定例ミーティングを開催し、その週の進捗状況や次週のタスクを確認するとよいでしょう。オンラインツールを活用すれば、時間や場所に縛られることなく効率的に進捗確認ができます。定例ミーティングを設けることで、フリーランスが作業の疑問点を解消できるほか、企業側も進行状況を把握しやすくなります。信頼関係を築くフリーランスと信頼関係を構築できれば、フリーランスが自発的に納期を守ることにつながります。定期的に面談を行って、フリーランスの状況や課題を把握し、適宜サポートを検討するといった対応をとるのがおすすめです。さらに、成果物に対してフィードバックを行い、改善点や良い点を共有することで、フリーランスのモチベーションを高められ、成果物の質も高くなるでしょう。信頼関係が深まることで、長期的にパートナーシップを構築できるでしょう。まとめ業務委託契約を結ぶフリーランスに対して、企業が勤務時間を指定すると、労働者と同じように働かせているとみなされて、労働基準法違反となる可能性があります。そのため、裁量をある程度フリーランスに持たせ、法律違反のリスクを減らすことが重要です。例えば、希望する勤務時間を幅を持たせて提示し、その中からフリーランスに決めてもらうとよいでしょう。そのほか、進捗確認を定期的に行ったり、納期を設定した後に必要に応じてマイルストーンを設けたりするのも効果的です。また、何より大切なのは、フリーランスとの信頼関係を築くことです。相手の状況を尊重しながら柔軟に対応する姿勢は、長期的なパートナーシップを形成するうえで欠かせません。企業とフリーランス双方にとって理想的な環境を実現できるよう、適切な業務管理を行いましょう。