業務委託は、企業がその道のプロであるフリーランスや、外部の専門家と柔軟に取引を行う際に便利な手段です。しかし、場合によっては契約を解除する際などに違約金が発生するリスクもあり、トラブルに発展するケースも少なくありません。例えば、急な方針変更で発注をキャンセルした場合、フリーランスから「作業に入っていたので報酬の一部を請求したい」と言われたり、契約終了のタイミングによっては違約金を求められたりすることも考えられます。こうしたトラブルは、発注側の信頼やコストにも大きな影響を及ぼします。この記事では、フリーランスとの業務委託契約の解除時に違約金が発生する代表的なケースを紹介します。また、トラブルを未然に防ぐための実践的な方法を解説します。フリーランスとの関係を円滑に保ちつつ、スムーズに契約解除を進めるコツを知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。業務委託は契約途中で解除できる?結論から先にお伝えすると、業務委託契約を途中で解除することは可能です。民法では、契約を解除する権利として「法定解除権」と「約定解除権」が定められており、これらに基づいて契約を終了できます。法定解除権法律で定められている契約を解除できる権利契約で定めた義務を守らないケースなどの場合で解除できる約定解除権あらかじめ当事者間で定めた条件に則って契約を解除できる権利契約時に一定の事由がある場合に契約を解除できるしかし、契約形態によっては解除条件や注意点が異なるほか、契約解除の進め方などによってはフリーランスに損害を与える可能性があるため、注意が必要です。特に、業務委託の契約形態が請負契約か委任・準委任契約かによって解除時の対応が異なるため、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。請負契約の契約解除に関する条件請負契約は、民法第641条に基づき、フリーランスが仕事を完成していない間、発注側は損害を賠償することでいつでも契約を解除できるとされています。例えば、急なプロジェクトの中止や、経営方針変更などにより、成果物の完成を目指す必要がなくなった場合は、フリーランスに損害を賠償することで契約を解除できます。請負契約では、成果物の完成が報酬支払いの条件となっています。そのため、損害を賠償することによって、フリーランスが不利益を被らないよう配慮されているのです。ただし、成果物がほぼ完成している場合など、契約の解除によってフリーランスが大きな損害を受けるケースでは、損害賠償額が増える可能性もあるため注意が必要です。委任・準委任契約の契約解除に関する条件委任・準委任契約は、民法第651条に基づき、それぞれの当事者がいつでも契約を解除できます。委任・準委任契約は、作業の遂行に対して報酬を支払う契約形態のため、もし着手途中の業務があっても、請負契約ほど厳密に違約金などが設けられていません。しかし、同条第2項では、「相手に不利な時期に契約を解除した場合は、損害賠償の責任が生じる」と規定されています。フリーランスにとって不利な時期の例としては、契約解除の通知が更新期限ギリギリで、次の案件を見つける十分な猶予がない場合などが挙げられます。ただし、以下のような発注側にやむを得ない事情がある場合は、賠償責任を負わなくてもよい場合があります。倒産や急激な売上減少など経済的な理由で事業を継続できなくなった場合パンデミックや災害など社会的・自然的要因による事業停止や縮小した場合契約を解除する際には、フリーランスの状況や業務への影響を考慮し、事前に丁寧な話し合いを行うことが大切です。業務委託の契約解除で発注側に違約金が発生するケースとは?業務委託契約を解除する際は、場合によって発注側に違約金の支払い義務が発生するケースもあります。特に請負契約を結んでいるフリーランスの契約を解除する際は、違約金が発生する可能性があるため注意が必要です。請負契約は、成果物の納品をもって報酬が発生します。もし途中で契約が解除されると、フリーランスはすでに作業を進めていても、その成果物を完成させることができず、無駄な時間や費用が発生してしまいます。そのため、契約解除による損害を補償するために違約金が発生しやすいのです。業務委託の契約解除でフリーランス側に違約金が発生するケースとは?発注側だけでなく、フリーランス側にも業務委託契約の解除時に違約金が発生する場合があります。特に、業務の繁忙期や重要なイベント直前のように、発注側が代替の人材を確保できないタイミングで、フリーランス側から発注側に契約解除を申し出て契約解除となる場合は、発注側にとって不利な時期にあたります。そのため、フリーランスにも違約金が発生するリスクが高まるのです。ただし、重い病気やけが、家族の介護や看護などの理由で業務を優先できない場合は、やむを得ない事情となるため、フリーランス側に違約金を請求できない場合もあります。業務委託の契約解除で違約金が発生しないケースとは?特定の条件下では違約金が発生しないケースもあります。一例としては、違約金の金額が過剰に高額である場合や、契約書に違約金条項が含まれていない場合などが該当します。違約金の金額が不当に高額な場合違約金が不当に高額な場合は、民法に基づいて無効とされることがあります。民法第90条の「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効とする」に基づき、社会的に見て妥当性を欠く法律行為(上記の場合は暴利行為)として判断される可能性があるためです。具体例としては、実際に発生した損害額を大幅に上回る違約金を請求する場合などが該当します。契約書に違約金の条項がない場合違約金が発生するかどうかは、基本的に契約書の記載内容によります。契約書に違約金条項が記載されていない場合は、一般的に違約金は発生しません。また、曖昧な表現が含まれている場合は、発注側とフリーランス側で意見が異なり、トラブルに発展することもあります。例えば、「重大な違反があった場合には相応の対応を行う」とだけ記載されているケースでは、違約金が発生することが明確に記載されていないため、違約金が発生しない可能性があります。業務委託の契約解除時に違約金トラブルを防ぐコツ業務委託契約を解除する際には、トラブルに気をつける必要があります。トラブルが起こると、企業としての信頼関係を損なうだけでなく、コスト面でも大きな影響を与えかねません。この段落では、違約金トラブルを未然に防ぎつつ、スムーズに契約解除を進めるためのポイントを解説します。契約書で契約解除の条件などを明確にする業務委託契約書は、署名することで法的効力が発生し、発注側もフリーランス側も記載されている内容を守る義務を負います。そのため、業務委託契約書の中で、違約金が発生する条件を記載して、お互いが守るべき項目を明確化させることが重要です。業務委託契約書に記載するべき項目と、具体的な記載例は以下の通りです。記載項目記載例中途解約に関する違約金の金額発注者または受注者が本契約を中途解約する場合、以下に定める違約金を支払うものとする。ただし、相手方の同意がある場合や、不可抗力による解約の場合を除く。1. 解約日までの作業に相当する報酬および解約に伴う実費を補償する。2. 契約金額の〇%を違約金として支払う。ただし、補償額は契約金額の上限を超えないものとする。成果物の瑕疵(欠陥)に関する条項受注者が提供した成果物に瑕疵があり、発注者がこれを修正または再提出する必要が生じた場合、以下の条件に基づき違約金が発生する。1. 発注者が修正に要した費用を実費として受注者に請求する。2. 修正期間中に発注者が被った損害について、契約金額の〇%を上限として損害賠償を請求できる。納期遅延があった場合の条項受注者が成果物の納期に遅延した場合、以下の条件で違約金が発生する。1. 納期遅延1日につき、契約金額の〇%を違約金として支払う。2. 納期遅延が〇日を超える場合、発注者は本契約を解除し、違約金として契約金額の〇%を請求できる。損害賠償の上限を契約金額内に制限する条項発注者または受注者が本契約に関連して生じた損害については、損害賠償額を契約金額の〇%以内に制限するものとする。ただし、相手方に故意または重過失がある場合を除く。契約解除の通知はできるだけ早く行う業務委託契約を解除することが決まったら、フリーランスにはできるだけ早く契約解除の意向を伝えましょう。2024年11月に施行されたフリーランス新法では、6ヶ月以上契約を継続している場合は、契約解除日の少なくとも30日前までに予告することが義務付けられています。【4月30日をもって契約を解除したい場合】よい例:3月31日にフリーランスへ通知違反となる例:4月1日にフリーランスへ通知突然の契約解除通知は、フリーランスにとっては予定していた収入が突然途絶える死活問題につながるため、訴訟などに発展して企業の信頼に影響が生じるリスクもあります。契約解除を早めに伝えることで、フリーランスが次の案件を探す時間的な余裕が生まれるため、トラブルを避けつつ契約解除を目指すことができるでしょう。契約や業務に関する記録を保存する業務委託契約書や成果物はもちろん、フリーランスとの連絡履歴や業務進捗報告など、業務に関する記録を残しておくことも重要です。例えば、契約解除の背景に、フリーランス側からの度重なる納期遅延や進捗報告の遅れなどがある場合、経緯や原因を説明する証拠になります。業務委託契約を解除する際の手順フリーランスとの業務委託契約を解除する際は、違約金トラブルを未然に防ぐために準備を丁寧に進めることが大切です。契約書の内容を示しながら、誠意を持って意向を伝えましょう。また、契約解除が正式に合意された場合は、後々の問題を防ぐために解約合意書を作成しておくことが必要です。この段落では、それぞれのステップで押さえるべきポイントを詳しく解説します。業務委託契約書の内容を確認する契約解除を進める前に、まずは業務委託契約書の内容をしっかり確認しましょう。前述した通り、解除条件は契約形態が請負契約か委任・準委任契約かで異なります。また、契約解除に関する特別な条件や注意点が契約書に記載されている場合もあるため、慎重に確認しましょう。例えば、「解除日から2ヶ月前までに通知すること」などと、契約解除を通知する期限が定められているにもかかわらず、それより短い期間で通知すると、違約金が発生する可能性もあります。業務委託契約を解除したい理由をまとめるフリーランスに契約解除の意向を伝える際は、理由が明確であることが重要です。例えば、「プロジェクトの予算が縮小したため」や「成果物のクオリティが期待に達しなかったため」といった、契約解除に至る具体的な理由を整理しましょう。これにより、フリーランスが納得しやすくなり、トラブル回避につながります。フリーランスに契約解除の意向を伝える契約解除の意向を伝える際には、伝えるタイミングと伝え方が重要です。前述した通り、6ヶ月以上契約を継続している場合は、フリーランス新法の内容を踏まえて契約解除日の最低30日前までに予告する必要があります。契約解除の意向を伝える際は、口頭だけでなく、メールや文書、FAXなどで契約を解除したい旨を伝えてやり取りの履歴を残すようにしましょう。その際に、フリーランスから契約解除の理由を尋ねられた場合は、契約満了日までの間に、解除理由も伝える義務があります。契約解除合意書を締結する契約解除後のトラブルを防ぐためには、契約解除合意書を締結することがベストです。契約解除合意書とは、発注側とフリーランス双方が契約の解約に合意していることを証明する書面です。基本的に、双方が契約解除に納得していれば契約解除合意書の発行は必須ではありません。しかし、報酬の支払いなどの取り決めを正式な文書で残しておくことでトラブル防止になります。また、口頭のみで契約解除した場合は、後日解釈の違いが発生するリスクがあるため、契約解除合意書で確認することでリスクを抑えることもできます。契約解除合意書には以下の内容を記載するとよいでしょう。契約解除日契約解除の理由最終的な業務内容と納期清算金額と支払い条件契約解除後の義務▼関連記事:企業が業務委託の契約解除をしたいときに知っておくべき手順や契約書の注意点まとめ業務委託契約のなかでも、特に請負契約は、成果物が完成していない段階で解除すると違約金の支払い義務が発生する可能性があります。違約金が発生するリスクを抑えるためには、契約時に「解除条件」や「違約金の発生基準」などを明確に規定しておくことが重要です。更新期限ギリギリの解除通知は、トラブルの火種になりやすいうえに、フリーランス新法でも違反と定められています。フリーランスが次の案件を見つける十分な猶予を持てるよう、契約解除の通知から実際に契約解除となるまでに、最低でも30日以上の期間を設定しましょう。透明性のある取り決めを行い、フリーランスに対して真摯な対応を意識することで、トラブルを回避して、スムーズな契約解除を図ってくださいね。