フリーランスとして活動していると気になるのが税金の負担です。所得税や住民税はもちろん、「個人事業税」も支払わなければならない場合があります。ただし、個人事業税はすべての業種に課されるわけではなく、個人事業税がかからない業種も存在します。この記事では、個人事業税がかかる業種と、個人事業税がかからない業種の一覧を紹介します。また、副業や複数の業種を兼業している場合は、どのように課税されるのかなどを分かりやすく解説します。個人事業税に関する疑問や不安を解消し、安心してフリーランス活動を続けるためのヒントを一緒に見つけましょう。個人事業税とは?個人事業税とは、フリーランスのように個人で事業を営む人に課税される地方税の1つです。税金は、事業所を構える都道府県に納付します。対象となるのは、地方税法で定められた70種類の事業を営む個人事業主です。飲食業や建設業、美容業、サービス業といった幅広い業種が課税対象となりますが、全ての職種が対象というわけではありません。詳しくは次の段落で解説しますが、一部の業種は個人事業税がかからないため、どの業種が該当するのか確認しておくことが重要です。なお、個人事業税が課されるのは、事業所得が年間290万円を超えた場合です。収入から必要経費や専従者給与、各種控除を差し引いた事業所得に対して課税されます。業種ごとの個人事業税率個人事業税の税率は、業種によって異なり、3~5%の範囲で設定されています。第1種事業は、物品販売業や製造業などの計37業種、第2種事業は畜産業や水産業、薪炭製造の計3業種、第3種事業は医業や弁護士業など計30業種が該当します。税率は第1種事業が5%、第2種事業が4%で、第3種事業は業種によって5%と3%に分かれています。業種該当する業種税率第1種事業物品販売業、運送取扱業、料理店業、遊覧所業、保険業、船舶定係場業、飲食店業、商品取引業、金銭貸付業、倉庫業、周旋業、不動産売買業、物品貸付業、駐車場業、代理業、広告業、不動産貸付業、請負業、仲立業、興信所業、製造業、印刷業、問屋業、案内業、電気供給業、出版業、両替業、冠婚葬祭業、土石採取業、写真業、公衆浴場業(むし風呂など)、電気通信事業、席貸業、演劇興行業、運送業、旅館業、遊技場業5%第2種事業畜産業、水産業、薪炭製造業4%第3種事業医業、公証人業、設計監督者業、公衆浴場業(銭湯)、歯科医業、弁理士業、不動産鑑定業、歯科衛生士業、薬剤師業、税理士業、デザイン業、歯科技工士業、獣医業、公認会計士業、諸芸師匠業、測量士業、弁護士業、計理士業、理容業、土地家屋調査士業、司法書士業、社会保険労務士業、美容業、海事代理士業、行政書士業、コンサルタント業、クリーニング業、印刷製版業5%あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復、そのほかの医業に類する事業、装蹄師業3%個人事業税がかからない具体的な業種一覧地方税法で定められた70種類の課税対象業種に含まれない場合は、個人事業税がかかりません。ただし、課税対象かどうかは業務の内容や契約形態によっても異なるため、自分の仕事がどの分類に入るかを正確に把握することが重要です。この段落では、個人事業税がかからない代表的な業種と例外となるケースなどを解説します。プログラマー・エンジニアIT関連業種であるプログラマーやエンジニアは、個人事業税がかかりません。具体的には、システム開発やアプリケーションのプログラミングなどを専門に行う場合が該当します。一方で、ITコンサルタントやプロジェクト管理など、主に指導や監督を行う場合は、第3種事業に該当して課税対象になる可能性があります。文筆業・漫画家・画家ライターや文筆家、漫画家、画家も個人事業税がかからない業種に該当します。ただし、具体的な事業内容によっては個人事業税が課税される可能性があります。例えば、ライターとしてWebに掲載するコラム記事を執筆している場合は、個人事業税の課税対象外です。しかし、ブログを運営し、ブログの記事を執筆して広告収入を得ている場合(アフィリエイター)は、第1種事業の広告業に分類されるため、課税対象とみなされることがあります。通訳・翻訳家通訳や翻訳家も個人事業税が課されない業種の1つです。ただし、翻訳業務に付随して、セミナー講師や語学コンサルティングを行う場合は、課税対象となる可能性があります。作曲家・作詞家作曲家や作詞家、ミュージシャン、音楽家も個人事業税がかかりません。楽曲の制作や歌詞の執筆などの業務が主な収入源である場合、非課税とされています。一方で、楽曲の演奏やライブ活動などを行っている場合は、演劇興行業に該当するため、課税対象になる可能性があります。芸能人・プロスポーツ選手芸能人やプロスポーツ選手も個人事業税がかからない業種に含まれています。テレビ出演や舞台活動、スポーツイベントへの参加などは非課税となります。ただし、プロダクションの運営やマネジメント業務を兼業している場合は、個人事業税が課税される可能性があります。農業・林業農業や林業も個人事業税がかかりません。具体的には、農作物の栽培や販売、森林の管理や木材の生産などの業務が対象となります。ただし、直売所の運営などを展開している場合は、課税対象となる可能性があります。また、林業は養苗から伐採までを行っている場合が非課税業種とみなされます。養苗のみを行う場合や、伐採のみを行っている場合は、課税対象となる点には注意が必要です。フリーランスに多い職種の課税・非課税対象一覧個人事業税は、地方税法に基づき課税される業種が細かく定められています。そのため、フリーランスは、自分の事業は個人事業税が課税されるのか、それともかからない業種なのかを正確に把握する必要があります。フリーランスに多い職種が個人事業税の課税対象かどうかは、以下のようになっています。職種個人事業税補足エンジニア課税されるただし、ITコンサルティングやプロジェクト管理のような指導や監督業務も行う場合は課税対象になる可能性があるWebマーケター場合によって異なる広告運用やSNS運用支援を行う場合は「広告業」に該当するとみなされ、5%課税される可能性があるWebデザイナー課税されるホームページのデザインやロゴ制作、バナー広告の作製は「デザイン業」に該当するため、税率5%が課税されるWebライター・編集課税されないブログ運営による広告収入やアフィリエイト収益が中心となる場合は、「広告業」に該当するとみなされ、5%課税される可能性がある動画制作・編集課税されないコンサルティング的な業務が含まれる場合や、動画制作会社として運営している場合は課税対象となる可能性があるコンサルタント課税されるマーケティング戦略の提案、人材採用のアドバイス、業務改善支援などは「コンサルタント業」に該当するため、5%課税される営業課税される販売する商品やサービスによって適用条件が異なり、例えば広告代理店の営業職は「広告業」に該当し、5%の個人事業税が課税される法定業種に該当しても個人事業税がかからないケース個人事業税の課税対象となる業種に該当する場合でも、一定の条件を満たすと課税されないことがあります。納税の負担を軽減できる可能性があるため、詳しく見てみましょう。所得が290万円以下の場合個人事業税が課されるのは、年間の事業所得が290万円を超えた場合です。個人事業税には「事業主控除」という控除があり、年間(12ヶ月)事業を行った場合は290万円控除されます。そのため、年間の収益が少ない場合や、経費との兼ね合いで所得が290万円以下になる場合は、個人事業税は課税されません。【個人事業税がかからない例】年間収益が200万円の場合年間収益が500万円で経費が250万円の場合(事業所得が250万円になるため)なお、事業主控除は、以下のように1年間で事業を行った月数によって控除額が異なります。事業を行った月数事業主控除額1ヶ月24万2,000円2ヶ月48万4,000円3ヶ月72万5,000円4ヶ月96万7,000円5ヶ月120万9,000円6ヶ月145万円7ヶ月169万2,000円8ヶ月193万4,000円9ヶ月217万5,000円10ヶ月241万7,000円11ヶ月265万9,000円12ヶ月290万円例えば、8月に開業した(事業を行った月数は4ヶ月)場合は、96万7,000円より多く収益があると個人事業税が課税されます。青色申告で赤字を繰り越している場合青色申告とは、確定申告の方法の1つです。一定の条件を満たすフリーランスなどが利用できる税制優遇措置で、特別控除などさまざまなメリットが受けられます。青色申告で確定申告している場合は、翌年以降3年間赤字を繰り越すことができます。そのため、事業所得が赤字で、翌年以降にその赤字を繰り越し、事業所得が290万円を下回った場合は個人事業税がかかりません。例えば、前年の事業所得が100万円の赤字で、今年の事業所得が350万円だった場合、今年の事業所得は赤字を差し引いて250万円となり、290万円以下となります。そのため、個人事業税は課税されません。なお、青色申告の適用を受けるためには、一定の要件を満たす必要があります。詳しくは後述します。複数の業種を兼業している場合はどうなる?複数の業種を兼業している場合は、個人事業税の計算が少し複雑になります。Webデザイン(課税対象)とWebライティング(非課税)を兼業しているフリーランスを例に挙げてみてみましょう。合計内訳年間収入600万円Webデザイン業務:400万Webライティング業務:200万円経費200万円Webデザイン業務:150万円Webライティング業務:50万円年間所得400万円Webデザイン業務:250万円Webライティング業務:150万円上記の場合、個人事業税が課されるのはWebデザイン業務の課税所得部分(250万円)のみです。Webデザインは「デザイン業」に該当し、所得に5%課税されるため、課税される個人事業税は、250万円×5%=12万5,000円となります。このように、複数の業種を兼業している場合は、業種ごとに収益と経費を明確に区分けしておくことで正確に税額を計算できます。副業にも個人事業税は課される?副業をしている会社員でも、副業で地方税法で定められた70種類内の事業を営み、年間290万円以上の所得があれば、個人事業税が課税されます。副業収入が増えてきた場合には、経費をしっかり計上したり、青色申告で確定申告したりして、税金の負担を軽減するとよいでしょう。自分の業種が非課税かどうかを確認する方法個人事業税の課税対象業種は「地方税法」で定められてはいるものの、具体的な判断は各都道府県が行います。そのため、同じ業種でも地域によって判断が異なる場合があります。自分の業種が、個人事業税の課税対象かどうかを確認するためには、事業所がある都道府県税事務所に問い合わせましょう。フリーランスの節税対策フリーランスは、所得が増えるほど個人事業税の負担額も大きくなるため、節税を意識することが重要です。この段落では、フリーランスの節税対策を紹介します。適切に節税対策を活用して、手元に残るお金を増やしましょう。▼関連記事:フリーランス・個人事業主なら節税は必須!税金の基礎知識も解説青色申告で確定申告を行う青色申告で確定申告を行うことで、最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。個人事業税が5%、年間所得が400万円のフリーランスが、青色申告を行う場合と行わない場合を比較してみると、個人事業税だけでも3万円以上の差が生じます。【青色申告を行う場合】課税所得=(年間所得ー青色申告特別控除)ー事業主控除課税所得=(400万円ー65万円)ー290万円=45万円個人事業税=課税所得×税率個人事業税=45万円×5%=2万2,500円【青色申告を行わない場合】課税所得=400万円ー290万円=110万円個人事業税=110万円×5%=5万5,000円ただし、青色申告で確定申告を行うためには、以下の条件を満たす必要があります。事前に管轄の税務署に「青色申告承認申請書」を提出する給与所得や雑所得ではなく、事業所得または不動産所得で事業を営んでいる複式簿記で帳簿をつけ、貸借対照表と損益計算書の作成する▼関連記事:フリーランスは青色申告で確定申告しよう!控除の活用や節税のコツを解説必要経費を漏れなく計上する事業にかかった経費をしっかり把握し、計上することで課税所得が減少するため節税につながります。経費の例としては、以下のようなものが該当します。取材や打ち合わせに使用した交通費業務用のPCやソフトウェアの購入費サーバー代やインターネット料金ペンやノート、ファイルなどの文房具の購入費(自宅を事務所として使っている場合)家賃や光熱費の一部勉強会やセミナーの参加費取引先との打ち合わせにかかった飲食代例えば、以下のように自宅で仕事をしているフリーランスWebデザイナーの場合は、年間で100万円近く課税所得を減らすことができます。PC*やモニターなどの機材やソフトウェアの購入費・使用料:25万円インターネット料金や携帯電話料金などの通信費:15万円交通費:10万円事業用の家賃や光熱費:40万円印刷用紙やペン・ノートなどの文房具の購入費:2万円事業で使用したものは、領収書や明細書を保存し、漏れなく記録するよう心がけましょう。*10万円以上の場合は、一括で経費計上せずに、数年にわたって徐々に資産価値を減少させていく(減価償却)必要がある▼関連記事:フリーランスの気になる経費事情!経費計上する時の注意点やQ&Aも所得が一定額を超えたら法人化を検討する事業が順調に進み、所得が増えたら、法人化を検討するとよいでしょう。一定の所得を超えると、法人化するほうが税負担を軽減できる場合があります。フリーランスに課税される所得税は累進課税となっており、以下のように最大で45%まで課税されます。課税される所得金額税率控除額1,000円から194万9,000円まで5%0円195万円から329万9,000円まで10%9万7,500円330万円から694万9,000円まで20%42万7,500円695万円から899万9,000円まで23%63万6,000円900万円から1,799万9,000円まで33%153万6,000円1,800万円から3,999万9,000円まで40%279万6,000円4,000万円以上45%479万6,000円一方で、法人化することで所得税ではなく法人税に移行します。法人税の税率は区分によって異なります。フリーランスが法人化すると、年間所得が800万円までであれば15%、800万円を超えた場合は23.20%となります。また、法人化すれば社会保険への加入が義務付けられるため、将来的な年金額が増えるなどのメリットも得られます。ただし、法人化すると事務手続きが増えたり、設立費用がかかったりするなどのデメリットもある点には注意が必要です。▼関連記事:フリーランスが法人化する7つのメリット!インボイス制度後の注意点も解説個人事業税に関する手続き個人事業税を適切に納めるためには、納税スケジュールを把握して必要な準備を進めておくことが大切です。個人事業税の申告方法や納税スケジュール、廃業時の注意点を詳しく解説します。申告・支払い個人事業税の課税対象者は、毎年3月15日までに事業所得などを、都道府県税事務所などに申告する必要があります。ただし、確定申告または住民税の申告を行う場合は、改めて個人事業税の申告を行う必要はありません。個人事業税の課税対象者には、毎年8月頃に都道府県税事務所から納税通知書が送付されます。支払いは原則として年2回(8月と11月)に分けて行う必要があります。納付期限を過ぎると延滞税が発生するため、期日内の支払いを徹底しましょう。廃業した場合事業をやめた場合は、廃業から1ヶ月以内に都道府県税事務所へ「事業開始(廃止)等申告書」を提出する必要があります。個人事業税は、事業を行った期間に応じて計算されます。そのため、年の途中で廃業した場合は、1年間の税額を全額支払う必要はありません。例えば、1月から6月まで事業を行った場合は、事業主控除額(290万円)は145万円に按分されます。課税所得が200万円の場合は、事業税の対象となる金額は200万円ー145万円=55万円で、この金額に対して業種に合った税率(3~5%)を掛けると、支払わなければならない個人事業税が算出できます。まとめ個人事業税は、フリーランスが支払う必要のある税金の1つです。ただし、エンジニアやライター、作家、画家などのように、個人事業税がかからない業種もあります。しかし、個人事業税がかからない業種でも、具体的な活動内容や事業形態によって判断が異なる場合があるため、専門家や税務署に相談することがおすすめです。「税金のことは難しそう」と思う方もいるかもしれませんが、個人事業税をはじめ、税金の知識を身につけることで、不要な支出を抑えて事業の安定化を図れます。まずは、自分の業種が、個人事業税のかかる業種なのか、かからない業種なのかを確認し、税金の不安や疑問を1つずつ解消していき、節税対策にも着手しましょう。