フリーランスは自由度が高いなどのメリットがあります。しかし、会社員に比べて安定した収入が得にくいうえに、退職金や手厚い厚生年金に頼れないため、将来に向けた資産形成に悩む方は多いでしょう。そのようななかで、近年注目されているのがNISA(少額投資非課税制度)です。NISAは、少額から始められ、利益が非課税になる税制優遇制度です。この記事では、フリーランス向けにNISAの仕組みやメリット・デメリットを詳しく解説します。また、具体的な活用方法や、iDeCo(個人型確定拠出年金)との違い、確定申告や経費との兼ね合いも分かりやすく紹介します。これからの資産運用をスタートするヒントをお届けするので、ぜひ最後まで読んでくださいね。NISAとは?フリーランスでも利用できる?NISA(ニーサ:Nippon Individual Savings Accountの略)とは、株式や投資信託などの金融商品で得た利益が非課税になる税制優遇制度です。資産形成を促進し、個人が投資を始めやすくすることを目的に、2014年に導入されました。通常、投資で得た利益には20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の税金が課されますが、NISAの口座で運用した場合は非課税になります。NISAは、日本国内に住む満18歳以上*の人であれば誰でも利用できます。職業や収入状況に関係なく、フリーランスはもちろん、主婦や自営業でも口座を開設できるため、さまざまな立場の人が長期的な資産形成を実現できる仕組みとなっています。月々の収入が変動するフリーランスでも、つみたて型の投資を活用することで、無理なく資産運用ができます。*非課税口座を開設する年の1月1日時点で18歳以上である必要がある。2024年から新NISAがスタートNISAは、2023年まで「つみたてNISA」と「一般NISA」の2種類がありましたが、2024年からは1本化され、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの投資枠が設けられました。つみたて投資枠:投資信託などの積立型商品が対象成長投資枠:株式やETF(上場投資信託)などの幅広い金融商品が対象従来のNISAでは、非課税期間や制度の終了時期が設けられているなど、一定の制限がありました。しかし、2024年からスタートした新NISAでは、制限期間などが撤廃されたため、長期的な視点で利用できるようになりました。旧NISA新NISAつみたてNISA一般NISAつみたて投資枠成長投資枠年間投資枠40万円120万円120万円240万円非課税保有800万円600万円1,800万円(うち成長投信枠は1,200万円)対象商品金融庁の基準を満たした投資信託上場株式・投資信託など金融庁の基準を満たした投資信託上場株式・投資信託など投資期間20年間5年間無期限併用不可(どちらかを選択)可能非課税投資枠復活なしありフリーランスがNISAを活用するメリット収入の波が大きいフリーランスにとって、NISAはリスクを抑えながら資産を形成できる有効な選択肢です。この段落では、NISAがフリーランスにどのようなメリットをもたらすのかを詳しく解説していきます。税制優遇を受けられるNISAの最大の特徴は、投資で得た利益が非課税になる点です。前述した通り、株式や投資信託で得た運用益には通常20.315%の税金が課されますが、NISA口座を利用すると、税金が一切かかりません。例えば、年間50万円の利益を得た場合では、通常なら約10万円の税金が引かれます。一方で、NISAを活用すれば全額を手元に残せるため、長期的に見ると非常に大きな資産形成につながります。また、2024年から非課税期間が無制限になったことで、より長期的な視点で運用を考えられるようになり、じっくりと資産を増やしていくことができるようになりました。フリーランスは収入が不安定になりがちですが、NISAの税制優遇をうまく活用できれば、資産形成で大きな安心感をもたらすでしょう。将来に備えられるフリーランスの多くは、会社員と異なり退職金や企業年金といった制度に頼ることができないため、自分自身で将来の資産形成を考える必要があります。NISAを活用すれば、フリーランスも将来に備えて効率的に資産を増やすことができます。また、新NISAでは、つみたて投資枠と成長投資枠を併用できます。つみたて投資枠を活用して毎月少しずつ資産を積み立てつつ、成長投資枠で株式などの高リターン商品に投資することで、リスクとリターンをバランスよく管理しながら、効率よく資産運用ができます。少額から無理なく始められる投資を行うためには、一般的にある程度の資金が必要です。しかし、NISAでは少額から無理なく投資を始めることができます。特につみたて投資枠では、月々1,000円から投資をスタートできます。収入に合わせて、柔軟かつ着実に資産形成を進められるでしょう。フリーランスがNISAを利用するデメリットNISAは投資である以上、リスクや注意点が伴います。資産形成を進める際には、デメリットをしっかり理解しておくことが重要です。この段落では、NISAの活用にあたって、フリーランスが考慮すべきリスクと課題を解説します。元本割れのリスクがあるNISAを利用するうえで、最大の注意点は元本割れのリスクがある点です。元本割れとは、投資した金額(元本)が市場の動きによって減少し、結果的に損失が生じる状態を指します。特に株式や投資信託は、景気の悪化や為替変動などの影響を受けやすいため、投資した株式やファンドの価値が下がり、資産が目減りしてしまう可能性があります。こうした市場リスクに備えるためには、生活費とは別に「余裕資金」を用意して運用することが重要です。特に、フリーランスは収入が不安定になりやすいため、必要な生活費や事業資金を確保したうえで、余剰資金をNISAで運用することを心がけましょう。また、投資対象を分散させることで、リスクを軽減する工夫も重要です。掛金は所得控除の対象にはならないNISAは、掛金が所得控除の対象にならないため、節税にはつながらない点に注意が必要です。所得控除とは、要件に合わせ、納税者の所得から一定額を差し引くことで、課税される所得金額(課税所得)を減らせられる制度です。所得控除が大きいほど、所得税や住民税などが安くなります。フリーランスは、NISAのメリットである非課税枠を活かしつつ、どの程度の資金を投資に回すかを慎重に検討し、無理のない範囲でNISAを活用しましょう。【年齢別】NISAで毎月3万円積み立てた場合の運用資産額シミュレーションNISAでどれくらい資産を築けるのかをイメージできれば、NISAのスタートを切る後押しになったり、モチベーションにもつながったりするでしょう。この段落では、30歳・40歳・50歳からNISAを始めて、年金を受給し始める65歳まで毎月3万円を積み立てた場合に期待できる運用資産額をシミュレーションします。シミュレーションでは平均的な運用利回りを想定しているため、あくまで参考値ではありますが、長期的な視点で資産形成する際の参考にしてください。※使用したシミュレーションツール:つみたてシミュレーター30歳から35年間運用した場合想定利回り(年率)1%2%3%4%5%将来の運用資産額1,508万円1,823万円2,225万円2,741万円3,408万円30歳から35年間NISAを活用して試算運用した場合では、最終的な運用資産額が利回り1%で1,508万円、5%で3,408万円となります。長期間にわたってじっくり運用を続けることで、積立額以上の資産を築けることが分かります。40歳から25年間運用した場合想定利回り(年率)1%2%3%4%5%将来の運用資産額1,022万円1,166万円1,338万円1,542万円1,787万円40歳からNISAで積み立てを開始した場合だと、資産形成のスピードや最終的な資産額は30歳から始めた場合に比べて少し遅くなります。しかし、利回りによっては大きな資産を築ける可能性があります。ライフプランを見直し、資産運用を早めに始めることが重要です。50歳から15年間運用した場合想定利回り(年率)1%2%3%4%5%将来の運用資産額582万円629万円681万円738万円802万円50歳を過ぎると、どうしても資産形成の時間的な制約が増えます。そのため、比較的短期間で試算を形成するには、利回りを高く保つことも考慮するとよいでしょう。できる限り早期に始めて、無理なく積み立てを進めていくことが重要です。フリーランスはNISAにかかった費用を経費計上できる?NISAを使った投資は非課税扱いとなるため、株式や投資信託の購入手数料、売買時の手数料といった、取引にかかる手数料や投資信託の費用は経費として申告できません。ただし、業務に関連する経費に関しては、場合によって経費として申告することが可能です。例えば、NISAを利用して投資を学ぶために専門書を購入したり、投資セミナーに参加したりした場合でも、フリーランスとしての業務に役立つものであれば、経費として計上できます。一例として、以下のようなケースが考えられます。投資関連の専門書の購入費用:NISAを通じて学んだ資産運用の知識がフリーランスの業務に役立つ場合セミナーの参加費用:投資セミナーに参加して、フリーランス業務の運営に活かす知識を得た場合ただし、業務に関係することが明確でない場合は、経費として認められないため注意が必要です。NISAで得た利益は確定申告が不要フリーランスがNISAで利益を得ても、確定申告での対応は必要ありません。その理由は、NISA口座内で得た配当金や、株式・投資信託を売却した際の利益はすべて非課税になり、納めるべき税金が発生しないためです。ただし、NISA口座の受取方法で「株式数比例配分方式」以外を選択した場合*は、課税対象となるため、確定申告が必要になります。*「配当金領収証方式」「登録配当金受領口座方式」「個別名側指定方式」のいずれかで配当金を受け取った場合NISAを始める手順NISAを活用した投資を始めるには、次の3ステップの準備が必要です。①証券会社を選ぶNISA口座を開設するためには、証券会社を選ぶ必要があります。証券会社によって、取引手数料や取り扱っている投資商品、提供しているサービスが異なるため、自分の投資スタイルに合った証券会社を選びましょう。②口座開設の手続きを行う証券会社を選んだら、NISA口座を開設する手続きに進みます。口座開設は、オンラインで簡単にできる場合がほとんどです。なお、NISA口座の開設は1人1口座のみのため、すでにほかの証券会社でNISA口座を開設している場合は、別の証券会社で新たに開設することはできません。③投資商品を選ぶNISA口座の開設後は、実際に投資を行うための商品選びを行います。投資目的や、リスクをどれくらい取れるかを考慮し、適切な商品を選ぶことが大切です。リスクを抑えて安定した運用を望む場合は、低リスクの投資信託を選ぶのがよいでしょう。リターンを大きく狙いたい場合は、個別株への投資も選択肢に入れてみましょう。NISAとiDeCoの違いは?NISAとiDeCo(個人型確定拠出年金)は、どちらも税制優遇がある制度です。資産運用を始めるうえで、どちらを選ぶべきか悩む人は多いようです。税金を抑えつつ資産を効率的に増やすためには、両制度の違いをしっかり理解し、ライフスタイルや目的に合わせて選ぶことが大切です。それぞれの特徴やメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。税制優遇の対象NISAは、投資で得た利益が非課税となる制度で、NISA口座内での株式や投資信託の売却益、配当金、分配金などが非課税となります。成長が期待できる企業の株を購入して、半年後に株価が上昇したタイミングで売却した場合は、その売却益がすべて非課税になり、効率よく利益を確保できます。そのため、NISAは中長期的に資産運用したい人だけでなく、比較的短期的に活用したい人にとっても有利な制度といえるでしょう。一方で、iDeCoは、運用益が非課税で、掛金が全額所得控除になります。さらに、積立資産を受け取る際も、退職所得控除または公的年金等控除が適用*されます。iDeCoを活用することによって、節税につながり、老後の資金をしっかり確保できるでしょう。*年金として受け取る場合は「公的年金等控除」の対象となり、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」の対象となる。資金の引き出しタイミングNISAの大きな魅力の1つは、資金をいつでも引き出せる点です。急な生活費の補填や事業資金が必要になった時など、急な出費が必要な場合でも対応できるため、収入が不安定なフリーランスにも適しているでしょう。また、株価や投資信託の基準価額が上がったタイミングで利益を確定させることもできます。対して、iDeCoは老後資金を積み立てるための制度で、投資したお金は原則65歳まで引き出せません*。そのため、老後資金を計画的に準備したい場合に適しています。*75歳までに資産を受け取る必要がある。積立額の上限NISAの投資枠は2024年から拡大され、「つみたて投資枠」として年間120万円、「成長投資枠」として年間240万円、合計360万円の積立が可能です。短期・中長期の資産運用を柔軟に行いたい人にとって、十分な枠が用意されているといえるでしょう。一方で、iDeCoでは、職業や加入状況によって掛金の上限額が異なります。フリーランスの場合は、月額6万8,000円(年間81万6,000円)が上限となり、会社員よりも高く設定されています。▼関連記事:フリーランスがiDeCoに加入するメリット・デメリットは?年代別シミュレーションも紹介フリーランスはNISAとiDeCoのどちらを選ぶべき?フリーランスがNISAとiDeCoのどちらを選ぶべきかは、資産運用の目的によって異なります。急な出費に柔軟に対応したい場合や、中長期的に柔軟な資産運用を行いたい場合にはNISAが適しています。非課税枠が広がり、投資の選択肢が増えたことも魅力です。対して、計画的に老後資金を確保したい場合はiDeCoが適しているでしょう。所得控除による節税効果を得ながら、確実に老後資金を増やすことができます。さらに、NISAとiDeCoは併用可能なため、それぞれのメリットを得ることも可能です。NISAで短期的な資金運用をしつつ、iDeCoで老後資金を積み立てることで、柔軟性と安定性を両立できます。ただし、掛金や投資金額が家計に負担をかけないよう注意が必要です。両制度の特徴をしっかり理解したうえで活用しましょう。フリーランスが活用できるそのほかの税制優遇制度収入の不安定さや、老後資金対策の不安に対処できる制度は、以下のようにNISA以外にもいくつか存在します。小規模企業共済・中小企業や個人事業主が将来の廃業や退職に備えて積み立てを行う制度・掛金が全額所得控除の対象になる国民年金基金・国民年金(基礎年金)に上乗せして年金を受け取れる制度・掛金は全額が所得控除の対象となり、節税効果が高い付加年金・国民年金に月額400円を上乗せして支払うことで、将来的に年金を増やす制度・年金受け取り時には「200円×納付月数」が増額されるふるさと納税・自治体に寄付をすると住民税や所得税が控除される制度・寄付した金額から2,000円を引いた分が税金から控除され、地域の特産品や返礼品を受け取れるそれぞれの制度に特徴があるため、以下のポイントを参考に、適切な制度を選びましょう。短期的な資産運用や節税を目指したい場合ふるさと納税、小規模企業共済がおすすめ老後資金をしっかり準備したい場合国民年金基金、付加年金がおすすめ掛金の負担を抑えつつ将来の受給額を増やしたい場合付加年金がおすすめ▼関連記事:小規模企業共済とは?フリーランスの将来の備えと節税効果を解説▼関連記事:フリーランスは国民年金基金で老後に備える!iDeCo・付加年金との違いを解説▼関連記事:フリーランスは付加年金に加入するべき?国民年金基金との比較や注意点を解説▼関連記事:フリーランスのふるさと納税のやり方は?確定申告までの流れやメリットも解説まとめNISAは、税制優遇を活用しながら資産形成を進められる制度です。特に、投資した資金をいつでも引き出せるため、収入の波があるフリーランスにとっては大きな安心材料となるでしょう。また、少額から始められるため、資産運用のハードルが低いのも特徴です。NISAを上手に活用できれば、フリーランスとしての働き方にさらに自由と安定が加わるでしょう。今後の安心した生活を送るために、ぜひこの機会にNISAを活用してみてください。