近年、企業においてIR活動が重要視されてきています。IR担当者は、企業と投資家や株主をつなぐ重要な役割を果たします。しかし、IRとは具体的にどのようなことをするのかが分かっていない人も多いのではないでしょうか。この記事では、IRの概要やPR・広報との違い、目的、具体的な活動内容などを解説します。また、IR担当者に必要なことや案件例も紹介するので、IRについて知りたい人は参考にしてください。IRとは?IRとはInvestor Relations(インベスター・リレーションズ)の略で、企業が投資家や株主へ向けて、投資の判断材料となる情報を提供する活動を指します。日本語では「投資家向け広報」と訳されます。IRでは、主に以下のような情報を公表します。経営状況財務状況経営方針活動成果今後の経営見通し知的財産の状況環境活動社会貢献活動財務の情報に限らず、投資家や株主に対して自社の活動の理解を深めてもらうための情報を発信します。PR・広報との違いPRとは、Public Relations(パブリック・リレーションズ)の略で、日本語における広報を指します。PR・広報は、企業が一般社会や消費者に対して、自社や商品・サービスのイメージアップや認知度の向上を目的として行う活動です。IRの対象が投資家や株主であるのに対し、PRは対象が一般社会や消費者である点が大きく異なります。▼関連記事:広報とは?どんな人が向いている?仕事内容・収入・必要スキルも紹介ディスクロージャーとの違いディスクロージャー(Disclosure)は、「情報開示」を指す言葉です。企業の活動内容や財務状況などの情報を、投資家や株主、債務者などに対して開示します。企業が自主的に行うディスクロージャーと、法律やルールで定められた制度上のディスクロージャーがあります。自社情報を投資家や株主に提供するIRは、企業が自主的に行うディスクロージャーにあたります。IRの目的IRを行う際には、何のために行うのかをしっかりと認識しておきましょう。ここでは、IRの主な5つの目的を紹介します。自社への投資を促進するIRのメインの目的は、投資判断に必要な情報を提供し、自社へ投資をしてもらうことです。財務状況や成長戦略など、企業への理解を深める情報を公開することによって、透明性のアピールにもなり、投資を促します。株主とよい関係を築く株主とよい関係を築けていれば、業績や株価の細かな変化に関わらず、中長期的に自社に投資をしてもらえるでしょう。自社の財務状況や経営方針、活動内容を積極的に開示することで、株主からの信頼感が高まり、関係性の構築につながります。企業価値を向上させる顧客や取引先、地域社会など、投資家以外に対しても企業の経営方針や活動内容を公開することで、社会的な企業価値を向上させる目的もあります。近年、特に重視されているのは社会貢献活動やSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みです。これらの活動情報を開示し、社会から信頼を得られると、企業価値が高まり、結果的に投資家からの投資にもつながります。情報開示義務を果たす上場企業の場合は、法律、および証券取引所のルールに基づいて、情報開示が義務づけられています。法律では、自社の財務状況や事業の概要をまとめた資料を財務局に提出することが、証券取引上のルールでは、株価に影響を与える可能性のある経営上の重要事項を速やかに公表することが義務づけられています。これらの義務を果たすためにも、IRは重要です。インサイダー取引を防止するインサイダー取引とは、未公開の経営上の重要情報を知っている企業の関係者が、株式取引などで利益を得る行為のことです。金融商品取引法で規制されています。IR活動によって企業の情報を速やかに開示することにより、未公開の重要情報を知っている関係者がいる状態がなくなり、インサイダー取引の防止につながります。結果として、投資家が公平な状態で株式の取引をできるようになるでしょう。IR活動を行うメリットIR活動は、投資家や株主が投資をする上で重要であるだけでなく、企業にとっても行うメリットがあります。IR活動によって企業が得られる3つのメリットを紹介します。経営のフィードバックになる投資家や株主にとって、IRは自らの利益に関わる重要な情報です。企業価値が落ちれば不利益を被ることになるため、投資家や株主は開示された情報に対して企業へシビアな指摘やアドバイスをします。投資家や株主からの意見やフィードバックを経営に反映できることは、企業の利益となるでしょう。株価の変動を抑えられる株価の変動が少なく安定していると、投資家や株主から「投資をしても大きな損失につながらないだろう」と判断してもらえる可能性が高くなります。結果的に、中長期的な投資の対象になりやすくなり、投資家や株主からの出資につながります。企業のファンになってもらえるファンとは、企業の価値観や理念に共感し、支持してくれる人のことです。ファンは、企業を長期的に支えてくれる存在となります。社会貢献活動や経営方針などを含むIR情報を開示し、投資家や株主に企業の価値観や魅力をアピールすることによって、企業へ愛着を持って投資をする「ファン株主」になってもらうことにつながります。IR活動の具体例ここまで、IRの目的やIR活動によって得られる企業のメリットを説明しました。では、IR活動は具体的にはどのようなことを行うのでしょうか。ここでは、7つの主なIR活動を紹介します。アナリストや機関投資家との個人面談企業には、アナリストや機関投資家から取材として面談の依頼が入ります。IR活動では、これらの面談の依頼に対応し、個人面談を実施します。個人面談は1年を通して実施されますが、決算発表の後に行われることが多いです。面談前には、企業は面談相手がどのような投資を行っているのかの情報を得て、面談後の投資につながるようしっかりと準備をします。個人投資家への説明会の実施アナリストや機関投資家だけではなく、個人投資家も企業を支えてくれる大事な存在であるため、フォローは欠かせません。特に、専門性のある自社の製品・サービスや事業内容の理解を深めてもらうためには、個人投資家向けの説明会の実施が効果的です。IRカンファレンスへの参加IR協議会や証券会社などが開催するIRカンファレンスには、さまざまな企業が参加し、イベントのテーマに沿って情報発信を行います。そのため、投資家にとってIRカンファレンスは投資対象を見つける絶好の機会です。IRカンファレンスへ参加することによって、これまで自社に注目していなかった投資家に興味を持ってもらうことにつながります。経営説明会の実施企業は、四半期ごとに決算発表を行うよう、法律で義務づけられています。開示義務のある情報を発表するだけではなく、決算内容などの経営説明をする場を設けることで、投資家や株主との信頼関係を構築します。アニュアルレポートや広報誌の発行アニュアルレポートとは、企業が投資家や株主に向けて年度末に発行する財務状況や経営内容、事業戦略などをまとめた報告書です。1年間の企業のパフォーマンスが可視化されるため、投資家や株主にとって投資判断をするために欠かせない情報となります。また、IR広報誌は、企業の持つ技術や知見を特集し、投資家や株主に向けて企業価値をアピールするものです。企業の魅力を発信することで、投資を促します。関連施設の見学会の実施出資してもらうには、投資家や株主から事業内容や理念を理解してもらい、信頼を得ることが重要です。関連施設の見学会を通して業務プロセスを実際に見てもらい、企業への理解を深めてもらうことで、投資家や株主との信頼関係の構築につながるでしょう。自社サイトでの情報発信多くの投資家は、Webから投資のための情報を集めています。そのため、コーポレートサイトや専用サイトで、常に最新のIR情報を発信することが重要です。また、Webサイトに加えて、自社のSNSでの情報発信にIR情報を盛り込むのも効果的です。IR担当者が行う業務IR担当者は、企業と投資家や株主をつなぐ役割を担っています。IR活動において、IR担当者が行う具体的な業務は、主に以下の通りです。社内の情報収集財務状況を開示する資料の作成投資家へ向けた広報活動経営層への投資家・株主の意見の伝達IR担当者は、投資家とコミュニケーションを取る機会が多く、投資家からの質問に対応する必要があります。そのため、常に自社の最新情報を把握しておかなければいけません。IR業務を行う上では、投資家や株主はもちろん、自社の社員とも円滑なコミュニケーションをとり、信頼関係を築くことが重要です。IR担当者に必要なことIRは、企業が資金を調達するための重要な活動です。IR担当者は、投資家や株主が必要とする情報を正確に把握し伝え、信頼関係を築くためのスキルが求められます。ここでは、具体的にIR担当者に必要とされる7つのことを紹介します。コンプライアンスの遵守コンプライアンスとは、法令や規則のことです。IR担当者は、会社の経営に関わる事実を、投資家や株主に伝える役割があります。その際に、相場操縦や事実ではない情報の流布を企業が行わないよう最新の注意を払います。また、インサイダー取引の防止にも高い意識を持ち、業務で知り得た情報を慎重に扱わなければいけません。会計や税務の知識決算書を作成するのは経理部や財務部ですが、IR担当者は決算書の内容をレポートにまとめたり、投資家や株主からの質問に回答したりする必要があります。ただ受け取った決算書の内容を公開するのではなく、企業の売上や利益の増減の理由を、数字から読み取る必要があります。そのため、会計や税務の知識が求められます。経営管理に関する知識経営管理とは、企業が事業目標を達成するための計画の策定と、それを実行し、監視・評価するプロセスのことです。IR担当者は投資家や株主に対応する窓口でもあります。そのため、企業の経営管理に関して質問が出た際に、その場で分かりやすく説明できると、投資家や株主と企業の信頼関係の構築に貢献できます。プレゼンテーション能力IR活動では、IRカンファレンスへの参加や説明会の実施など、投資家や株主に対して自社情報を説明する機会が多いです。その際に、単にデータを述べるだけではなく、自社の取り組みや魅力の理解を深めてもらえるようなプレゼンテーションが必要です。特に、IRカンファレンスでは自社についてよく知らない投資家が参加する可能性が高いです。自社を投資対象にしてもらえるかどうかは、IR担当者のプレゼンテーション能力にかかっています。自社情報の理解IR担当者は投資家や株主、その他ステークホルダーに対して、自社情報を発信する立場です。そのため、正確に自社情報を把握しておく必要があります。また、投資家や株主へ向けた説明会などで、自社の製品・サービスや取り組みに関する質問を受けた際にも、すぐに答えられるようにしておかなければいけません。英語力IR活動では、海外投資家を相手にする場合もあります。海外投資家から投資をしてもらうには、英語による財務状況や経営内容の情報発信が不可欠です。そのため、IR担当者は、資料作成や経営内容の説明、国外のステークホルダーからの問い合わせに対応できるレベルの英語力があると望ましいです。また、海外投資家からのニーズを背景に、東京証券取引所はプライム市場に上場した企業に対し、2025年4月以降はIR資料を日本語と英語の同時開示するよう義務づけています。これを受けて、IR担当者には今後さらに英語力が求められるようになるでしょう。業界に対する深い知見投資家や株主は、業界情報をいち早く把握し、質問してくる可能性があります。IR担当者が適切に返答することで、投資家や株主からの信頼を得られるでしょう。業界情報に精通するには、社外で実施されているセミナーや研修に積極的に参加したり、Webサイトや人脈を通して最新の業界情報をチェックしたりする必要があります。IR担当者の収入は?IRは、広報の部署に担当者がいる場合が多いため、広報の収入が目安になります。厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、会社員の広報の平均年収は約478万円です。また、業務委託契約でフリーランスや副業として働くケースもあります。フリーランス・副業向けの案件マッチングサイトSOKUDANの調査では、フリーランスの広報・IRの平均年収は673万円です。フリーランスの広報・IR担当者として働くことによって、会社員よりも高収入を狙える可能性もあります。そのため、広報・IRのスキルや経験がある人は、フリーランスを目指すことで収入を上げられるかもしれません。▼関連記事:フリーランスバックオフィス職の平均年収・時給レポート(広報・IR、人事、コーポレート)IRの案件例前述したように、IRは会社員としても、フリーランス・副業としても活躍できます。ここでは、SOKUDANに掲載されたIRに関わる実際の案件例を紹介します。▼SOKUDANのIRのフリーランス・副業案件一覧フルリモート組織のIR募集業務内容・IR戦略立案・計画・実行・有価証券報告書、決算短信、各種適時開示資料の作成・投資家・アナリスト対応・メディアリレーション(問い合わせ対応、取材対応・誘致、原稿確認など)・対応プレスリリースの企画、作成・メディア・アナリシス・コンテンツチェック職種・広報・IR・エグゼクティブ/コンサル・コーポレート必須条件・上場企業におけるIRの経験・IRコンサルティング会社・投資会社での業務の経験契約形態正社員稼働時間標準労働時間8時間/日(内、休憩1時間)勤務地フルリモート報酬月給:476,667〜834,167円※固定残業手当40時間分を含むIR・PR業務の責任者候補となる正社員の募集です。フレックスタイム制でフルリモートの案件なので、IRのスキルや経験を活かしながら、自由度の高い働き方ができます。▼案件詳細:【フルリモ】フルリモート組織初のグロース市場上場!組織価値向上を担うIR募集経営企画部のマネージャーを担うIR募集業務内容・適時開示業務・グループ会社管理・予算作成、管理、事業計画作成(全社/グループ会社含む)・株式事務・IR関連業務(適時開示、決算短信、有価証券報告書、投資家対応等)・M&A実務の担当(DD、バリュエーション、PMI)職種・広報・IR・エグゼクティブ/コンサル・コーポレート必須条件・デジタル事業の経営企画に関する基本的な知識・子会社連結会計に関する基本的な知識・社内外のメンバーと円滑なコミュニケーションが取れる方契約形態業務委託稼働時間週5日、8時間/日勤務地首都圏(週2日程度のリモートOK)報酬時給:3,000〜4,700円業務委託のIR担当の募集案件です。週5日のフルタイム勤務のため、フリーランスのIR向けの案件となります。将来的にメンバーのマネジメントを担うポジションを想定した募集なので、キャリアアップを目指したい人におすすめです。▼案件詳細:【一部リモ@東証グロース上場】メディアDX事業*IR担当マネージャー募集!保健テック企業のIR募集業務内容・プレスリリース文案作成・取材対応・投資家へのプレゼン資料作成・フォロー・デューデリジェンス対応職種広報・IR必須条件・事業会社での広報・IR実務経験(3年以上)・プレゼン資料の作成経験・社内外への高いコミュニケーション能力がある方・数値正確性が高い方契約形態業務委託稼働時間週8〜24時間程度勤務地フルリモート報酬時給:3,000〜4,000円こちらも業務委託のIR案件です。フルリモートで週8時間から働けるため、本業をしながら副業としても参画できる可能性があります。IRの経験を活かし、収入を増やしたい人におすすめです。▼案件詳細:【フルリモ】2022年立上げの保険テックで会社の顔!広報・IRのプロを募集!IRに関するよくある質問最後に、IRに関するよくある質問に回答します。IRは会社員でなければできない?会社員でなくてもIR担当者として活躍できます。例えば、フリーランスや副業としてクライアントと業務委託契約を交わし、IR案件に参画することが可能です。フリーランス・副業向けの案件マッチングサービスSOKUDANでは、業務委託のIR案件が探せるので、興味がある人は確認してみてください。▼SOKUDANのIRのフリーランス・副業案件一覧IRに必要または役立つ資格は?IRに必要な資格はありませんが、IRプランナーの資格を保有しているとIR業務に必要なスキルを持っている証明になります。その他にも、財務報告の基礎を学べる財務報告実務検定や、英語力を証明できるTOEIC700点以上を取得していると、IR業務に役立つでしょう。未経験でもIRに挑戦できる?未経験でも応募できるIRの求人や案件は存在します。しかし、IRには経営や財務に関する専門知識やプレゼン能力など、幅広いスキルが求められるため、社員・業務委託ともに基本的には実務経験が求められます。未経験からIRに調整したい場合は、企業の経営企画や広報などの関連部署で働き、そこからIRに活かせる経験を積むとよいでしょう。IRのキャリアパスは?企業でIRの経験を積んで、独立するか、または企業で昇格するという流れが一般的です。一般的なIRのキャリアパスは以下です。広報やIRの担当者として企業に就職するサポートやアシスタントとしてIRの知識を身につける経験を積んで、IRを担当するポジションに昇格する広報やIRに関する資格を取得することで、専門性を証明する上司や部門責任者としてのポジションに就くか、フリーランスとして独立するまとめIRとは、企業が投資家や株主に向けて、自社の財務状況や経営内容など、投資の判断材料となるあらゆる情報を開示することです。IR担当者は、投資家や株主、その他ステークホルダーと企業との架け橋となり、企業価値を高め投資につながる情報発信をする役割を担っています。そのため、財務・経営の知識、プレゼン能力など幅広い専門知識やスキルが必要です。また、近年では英語によるIR情報の発信も求められるようになり、英語力も重視されます。フリーランスや副業として従事できる案件もあるので、ぜひ挑戦してみてください。