フリーランスが業務委託契約を結ぶ際には、責任範囲や所在を明確にすることが重要です。業務委託契約の責任範囲を曖昧なままにしていると、「納品したけど、クライアントから想定外の修正対応を求められた」「想定以上の責任を追及された」などといった悩みに直面する可能性があります。2024年11月に施行されたフリーランス新法では、発注事業者に対してさまざまな禁止・義務となる行為が定められました。条文にも、「特定受託事業者(フリーランス)の責めに帰すべき理由」という文言が各所に盛り込まれています。法律で自分の身を守るためにも、改めてどこまでがクライアントの責任で、どこからがフリーランスの責任になるのかを明確にすることが重要です。そこで今回は、フリーランスに求められる一般的な責任範囲を、請負契約と委任・準委任契約ごとに解説します。あわせて、責任範囲を曖昧にすることで生じる具体的なリスクや、トラブルを防ぐための具体的な対策を紹介します。業務委託の責任範囲は契約形態によって異なる業務委託契約には、「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3つがあり、以下のように特徴や責任の重さ・広さが異なります。以下の表に記載されている主な違いを踏まえて、各契約にどのような責任が生じるのか詳しくみていきましょう。請負契約委任契約準委任契約責任成果物を完成させること業務を遂行すること業務を遂行すること対象となる仕事の一例アプリの開発ホームページの制作バナー制作動画編集・制作書籍の原稿執筆建築設計・施工訴訟行為代理(弁護士業務)税務相談(税理士業務)システムの運用管理成果物必要不要不要報酬が発生する要件成果物を納品したとき業務を遂行したとき業務を遂行したとき請負契約請負契約は、仕事の完成を目的とする契約形態です。例えば、アプリの開発やホームページの制作など、目に見える成果物を納品することが求められる仕事が該当します。請負契約では、依頼された成果物を一定の品質基準以上で完成させる義務があるため、責任範囲も広く、重くなるとされています。業務は成果物の納品がゴールであり、納品されるまでのプロセスは基本的に重視されません。完成品がクライアントの要求や契約内容を満たさない場合は、修正や再制作の責任を負います。委任・準委任契約委任契約とは、法律で認められた特定の業務を遂行することを目的とした契約形態です。具体的には、弁護士による法定代理業務や税理士による税務処理などが該当します。契約上、仕事の成果そのものを保証する義務はなく、依頼者に誠実に業務を遂行する責任を負います。準委任契約も業務の遂行が目的ですが、委任契約のように特定の業務に限らず、より広範囲な仕事が対象となります。例えば、システムの保守・運用管理、コンサルティング業務など、完成物を納品する必要がない業務が該当します。▼関連記事:フリーランスが結ぶ業務委託契約とは?契約時のチェックポイントを解説業務委託の請負契約でフリーランスに求められる主な責任範囲請負契約では、成果物の完成が求められるため、フリーランスには成果物の品質や納期を保証する責任が伴います。成果物の品質や仕様に対する責任範囲請負契約では、単に成果物を納品するだけでなく、契約で定められた品質や仕様を満たす責任を負います。責任範囲は契約書や指示書で定められている場合が多く、不適合があれば修正や損害賠償が求められる可能性があります。【請負契約のエンジニアに課される責任例】指定のプラットフォームやフレームワークでの開発必要な機能が正常に動作すること【請負契約のライターに課される責任例】コピーのないオリジナル記事の作成表記ルール違反や誤字脱字のない原稿の作成納期と成果物の引き渡しに対する責任範囲請負契約では、契約で定められた納期までに成果物を納品する責任があります。納品が遅れると、クライアントのビジネスに影響を与える可能性があるため、計画的なスケジュール管理が必要です。もし納品が期日に間に合わない場合は、早めにクライアントに通知し、代替案や納期の調整を提案する姿勢が求められます。成果物の修正・再提出に対する責任範囲納品した成果物が契約で定められた内容に適合しない場合、フリーランスには成果物の不備を補う「契約不適合責任」が伴います。契約不適合責任が発生した場合、フリーランスにはクライアントの指摘にもとづいて速やかに成果物を修正し、契約条件に適合させる責任があります。もし、修正しても契約条件に適合しない場合には、不適合の程度に応じて報酬が減額される可能性があります。また、クライアント側の被害が甚大だった場合は、契約解除や損害賠償請求される恐れもあります。業務委託の委任・準委任契約でフリーランスに求められる責任範囲成果物の完成が義務ではない委任契約や準委任契約は、請負契約とは異なり「善管注意義務」が課されます。善管注意義務とは、民法第644条と656条で規定されている「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」です。フリーランスに置き換えて平たく説明すると、業務を遂行する際に、故意や過失によって発注者に損害を与えないよう努める責任です。例えば、フリーランスのエンジニアがサーバー運用の業務で「定期的なバックアップを取ること」が求められていたにもかかわらず、バックアップを怠りクライアントに損害を与えた場合は、善管注意義務違反とみなされることがあります。ただし、法令上は委任・準委任契約に共通する具体的な善管注意義務の内容は明確に規定されておらず、業務内容や契約状況に応じて解釈は変わります。そのため、契約書や業務範囲を明確にすることでトラブルを防ぐことが重要です。業務委託で責任範囲を曖昧にするとどうなる?フリーランスが直面するリスク請負契約には成果物の品質を担保する責任があります。業務委託契約の責任範囲が曖昧だと、フリーランスが負う責任が必要以上に広がってしまう恐れがあります。具体的なリスクを知り、適切に対処する方法を確認しましょう。何度も修正対応を求められる契約書に修正対応の回数や範囲が明記されていない場合は、クライアントから必要以上に繰り返し修正依頼を受ける可能性があります。例えば、案件の進行中にデザインの方向性が何度も変更されたとしても、「請負契約なのだから成果物の要件は満たしてほしい」と言われ、追加費用が発生しない形で修正を求められる可能性があります。無償での追加作業が発生する初期見積もりに含まれない作業を無償で依頼されるリスクがあります。例えば、別のファイル形式での納品や、仕様変更による追加作業などが該当します。契約書には、追加作業が発生した場合の対応方法を明記するとよいでしょう。例)新たなフォーマットでの納品は別途料金を請求する法的責任が拡大してしまう責任範囲が曖昧なことで、フリーランスが予期せぬ法的責任を負うリスクがあります。例えば、「プロジェクト全体の成功を保証する」といった曖昧な内容が記載されている場合、クライアント側の不備で発生した問題に対しても、フリーランスに責任を押し付けられる可能性が考えられます。契約書には責任範囲を具体的に規定し、損害賠償の上限を設定するのがよいでしょう。例)損害賠償の上限を報酬額の範囲内に制限する例)天災や通信障害、感染症の流行、またはその他の不可抗力によって発生した損害について、当方は責任を負わない業務委託契約書に明記するべき事項【責任範囲の明確化】業務委託契約書は、フリーランスとクライアント双方が責任範囲や業務内容などに関する明確な指針となるものです。特に、責任範囲を具体的に明記することで、トラブルを未然に防ぎ、スムーズな業務遂行につながります。この段落では、契約書に記載しておくべき重要なポイントを紹介します。具体的な業務範囲業務範囲が曖昧だと、クライアントとの認識違いから作業が増えたり、トラブルに発展したりする可能性があります。そのため、契約書や提案書には「何を行うか」「何を行わないか」を明確に記載することが重要です。【記載例】デザイン業務・トップページ1枚、サブページ3枚のデザインを作成する・ワイヤーフレームの作成からデザインカンプの完成までを担当するライティング業務・SEOキーワードに基づき、1,500文字の記事を月に3本作成する・画像選定はクライアントが行うものとするSNS広告運用業務・SNS広告キャンペーンの企画立案と投稿スケジュールを作成する・ただし、投稿作業および広告費管理は含まないまた、「〇〇に付随するそのほかの業務」というような曖昧な表現の記載は避けましょう。曖昧な表現は人それぞれ捉え方が異なり、支払い時や修正依頼の際にトラブルになりやすくなります。納期納期を曖昧にしてしまうと、クライアント側の都合で無理なスケジュール変更が求められたり、遅延の責任を押し付けられたりすることがあります。契約書で、明確な納期の設定と分割納品のスケジュール、差し込み案件の対応を記載しておくと安心です。【記載例】納期・〇年〇月〇日までに成果物を納品する・必要な素材提供が遅れる場合、その分納期を延長するものとする分割納品のスケジュール・中間納品を〇月〇日に行い、最終納品は〇月〇日とする急ぎの案件の対応・急ぎの案件に対しては、ほかの業務のスケジュールを調節したうえで対応するものとする成果物の品質成果物が満たすべき品質基準や検査方法を明確に記載することで、認識の違いによる納品後のトラブルを防げます。品質基準を設ける際には、業務内容に応じた具体例を含めましょう。【記載例】プログラミング業務・納品するコードはクライアントが指定したフォーマット(PythonまたはJavaScript)で記述し、単体テストで90%以上のカバレッジを達成するものとする・外部システムとの連携は、APIドキュメントの仕様通りに動作させるSNS運用業務・1ヶ月で最低10投稿を行う・画像や動画はオリジナルまたは使用許諾を得た素材で構成する・納品する投稿内容は、クライアントから提供されたトンマナガイドラインに沿って作成し、ブランドの一貫性を保つまた、提供された素材の品質や、成果物の使用後の成果については保証しないと明記することも重要です。特に、SEOライティングやSNS運用などは、検索アルゴリズムの変更や競合状況などの外部の環境が大きな影響を与えます。そのため、検索順位やエンゲージメント率といった納品後の成果を保証することはリスクを伴います。【記載例】ライティング業務・成果物はクライアントから提供された情報をもとに作成されるため、情報の正確性についてはクライアントが責任を負う・検索順位の変動やアクセス数の変化を保証しない修正対応の条件フリーランスの負担や報酬を守りつつ、クライアントからの修正対応に適切に対応するためには、修正対応の条件を契約書に記載しておくことが大切です。【記載例】確認プロセス・納品物の確認は納品後〇日以内に行い、承認または修正点を通知するものとする修正回数・修正対応は2回までとし、それ以降は1回あたり〇円の追加料金を請求する修正範囲・成果物に重大な瑕疵がある場合は、納品後〇日以内に通知があれば無償で修正対応を行う・軽微な不備や仕様変更に該当する修正は、別途料金を請求するものとする損害賠償の対象や範囲業務委託契約では、契約形態ごとにフリーランスが負う責任が異なるため、損害発生時の賠償範囲を契約書に明記することで、責任の範囲を合理的に限定できます。以下のように損害賠償の責任を限定することで、フリーランスが過大な負担を負わないようにすることが重要です。【記載例】責任範囲の限定・フリーランスが提供する成果物に重大な瑕疵がある場合に限り、責任を負う・損害賠償額は当該業務委託契約に基づく報酬総額を上限とする免責条項の明記・天災や通信障害、停電、感染症流行などの不可抗力による損害については、一切責任を負わない・クライアント提供情報の正確性に起因する損害については、責任を負わない間接損害の免責・間接損害や逸失利益、特別損害については、一切責任を負わない業務委託の責任範囲にまつわる疑問やトラブルは相談窓口を利用しようフリーランスが業務責任のトラブルが生じた際は、特に契約書に関する知識や法的な専門知識が必要です。しかし、下請けであるフリーランスはクライアントに指摘しづらい立場であり、不利な立場に追い込まれやすくなります。そのため、トラブルの際は1人で抱え込まずに専門家の助けを借りることが重要です。フリーランスのトラブルを取り扱う相談窓口には、「フリーランス・トラブル110番」や「下請かけこみ寺」が挙げられます。いずれも無料で相談可能です。専門家に相談することで、交渉や法的措置の進め方などの知識を得ることができ、自分の権利を守るためにどのように行動するべきかが分かります。フリーランスが不利な立場に立たずに、スムーズに問題を解決するための鍵となります。▼関連記事:フリーランスは誰に相談すればいい?無料窓口やトラブル回避方法も紹介まとめフリーランスにとって、責任範囲や所在を明確にすることは、自分を守る盾でもあり、仕事をスムーズに進めるための指針でもあります。「どこまでが自分の業務なのか」「納期や品質基準はどうするのか」を契約書で明確化させることで、予想外の負担を軽減でき、仕事に集中できる環境を作れるでしょう。「フリーランスはすべてが自己責任」といわれることもありますが、責任範囲を明確にすることで、不利な状況を回避できます。どうすればよいかわからないと感じるときは、専門家や相談窓口を活用し、1つずつ課題をクリアしていきましょう。