2024年11月に施行されたフリーランス新法により、フリーランスに対して不当な報酬の減額や、買いたたきなどを行う発注事業者が規制されるようになりました。しかし、同じ11月に、フリーランスに対して一方的に報酬を減額したとして、大手出版社が「下請法違反」で公正取引委員会から勧告を受けたことがニュースになりました。両者は一見似ている法律のため、「下請法とフリーランス新法はどう違うの?」「どっちが自分に関係あるの?」と疑問を抱くフリーランスは多いのではないでしょうか。それぞれの法律には似た部分もありますが、適用範囲や保護内容には明確な違いがあります。この記事では、フリーランス新法と下請法の適用範囲や保護内容、禁止事項、罰則の内容など、それぞれの違いやポイントを徹底的に解説します。ぜひ最後まで読んで、今後の取引に役立つ知識を身につけてくださいね。フリーランス新法とは?フリーランス新法は、フリーランスとして働く人の権利や働く環境を守るために、発注事業者側の禁止事項や義務を明確に定めた法律です。2024年11月1日に施行されました。フリーランス新法が生まれた背景には、フリーランス人口の増加とともに、発注事業者による不当な対応や契約上のトラブルが増えたことが挙げられます。フリーランスは企業に雇用されていないため、労働基準法の対象外となり、これまでは就業環境が十分に守られていませんでした。フリーランス新法は、そうしたフリーランスの不公平感を是正し、フリーランスが安心して働ける環境を整えるために制定されたのです。フリーランス新法の対象フリーランス新法は、対象となる事業者に業種や業界に制限がない点が大きな特徴です。具体的には、以下のような取引が対象となります。規制対象となる発注事業者業種や業界、規模を問わず、フリーランスに業務を委託しているすべての事業者保護対象となるフリーランス以下の条件を満たすフリーランス(法律上「特定受託事業者」という)・業務委託契約を結び、個人事業主として企業から業務を受ける・従業員を雇用せず、自分1人で業務を行うフリーランス新法の内容フリーランス新法では、発注事業者に対して以下の「6つの義務」と「7つの禁止事項」が定められています。【6つの義務】契約内容を書面などで明確に示す義務成果物の受領日から60日以内のできるだけ早いうちに報酬を支払う義務業務委託案件の募集情報は最新かつ正しい内容のものを掲示する義務育児や介護などと業務を両立できるよう配慮する義務*ハラスメントによる相談体制を講じる義務契約を中途解除する場合は30日以上前に予告し、理由を開示する義務**フリーランスに対して6ヶ月以上業務を委託している場合に適用【7つの禁止事項*】成果物の受領を不当に拒む行為(受領拒否)発注時に定めた報酬額を一方的に減額する行為(報酬の減額)受け取った成果物を返品する行為(返品)市場相場より著しく低い報酬を定める行為(買いたたき)指定する商品の購入やサービスの有償利用を共用させる行為(購入・利用強制)受注者に無償で労務を提供させたり金銭を求めたりする行為(不当な経済上の利益の提供要請)費用を負担せず注文内容を変更したり、受領後にやり直しをさせたりする行為(不当な給付内容の変更・やり直し)*フリーランスに対して1ヶ月以上の業務を委託している場合に適用▼関連記事:【2024年11月施行】フリーランス新法とは?変更内容や注意点を解説▼関連記事:世界一分かりやすく!フリーランス新法をフリーランス向けに解説下請法とは?下請法は、発注側となる事業者(親事業者という)が優越的な地位を利用して、フリーランスを含む下請事業者に不当な要求や不利益を押しつける行為を規制する法律です。独占禁止法を保管する法律として、1956年に制定され、2024年12月現在は、さらなる改正に向けて協議が進んでいます。親事業者は、取引規模や資本力で下請事業者よりも優越した地位にあるため、下請事業者が不当な条件を押しつけられても従わざるを得ない状況が生じがちです。下請法では、こうした不公平を是正するために、下請代金の支払い遅延や不当な減額などに関して、親事業者に対してさまざまな義務や禁止事項を課しています。下請法の対象下請法が適用される条件としては、「資本金区分」と「取引内容」の2点あり、以下の条件を満たした際に適用されます。規制対象となる発注事業者資本金1,000万円以上の法人保護対象となるフリーランス親事業者より資本金が少ない(ただし資本金が3億円を超える事業者は対象外)【対象となる取引内容】情報成果物作成委託デジタルデータやソフトウェアなどの情報成果物の作成例)Webサイトの制作、プログラム開発、映像編集など製造委託製品や部品の製造例)工業製品の部品製造、衣料品の縫製など修理委託製品の修理業務例)家電製品・機械の修理依頼など役務提供委託顧客から委託された特定のサービスをほかの事業者に再委託する行為例)配送業務、ビルメンテナンスなど下請法の内容下請法では、親事業者に求められる「4つの義務」と「11の禁止事項」が定められています。【4つの義務】書面で発注内容を交付する義務成果物の受領日から60日以内に定める義務支払いに関する明細を提供する義務契約内容に基づく適正な代金計算を行う義務【11の禁止事項】市場相場より著しく低い報酬を定める行為(買いたたき)発注時に定めた報酬額を一方的に減額する行為(下請代金の減額)成果物を受領してから60日以内に報酬を支払わない行為(下請代金の支払遅延)成果物の受領を不当に拒む行為(受領拒否)受け取った成果物を返品する行為(返品)指定する商品の購入やサービスの有償利用を共用させる行為(購入・利用強制)提供した原材料や機材などの費用を不当に早期に決済させる行為(有償支給原材料等の対価の早期決済)支払いにおいて、現金化が難しい手形を用いる行為(割引困難な手形の交付)受注者に無償で労務を提供させたり金銭を求めたりする行為(不当な経済上の利益の提供要請)費用を負担せず注文内容を変更したり、受領後にやり直しをさせたりする行為(不当な給付内容の変更及び不当なやり直し)公正取引委員会へ報告・相談をした下請事業者に不利益な対応を取る行為(報復措置)▼関連記事:フリーランスにも適用される下請法とは?禁止行為と違反事例を分かりやすく解説フリーランス新法と下請法は重複する内容が多いフリーランス新法と下請法には共通点が多く存在します。以下のように、買いたたきや不当な減額、受領拒否、返品など、フリーランス新法で定められている禁止事項7点は、下請法でも全てカバーされているほか、義務行為についても重複する項目があります。規定されている内容フリーランス新法下請法義務項目契約内容の書面等明示〇〇支払い期日の設定・支払い(60日以内)〇〇*取引記録の作成・保存×〇支払い遅延利息の支払い×〇禁止項目受領拒否〇〇返品〇〇報酬の減額〇〇買いたたき〇〇購入・利用強制〇〇不当な給付内容の変更・やり直しの禁止〇〇不当な経済上の利益の提供要請〇〇有償支給材の早期決済の禁止×〇割引困難手形の交付×〇報復措置×〇就業環境に関する項目募集情報の的確表示〇×育児・介護などと業務の両立に対する配慮〇×ハラスメント対策の体制整備〇×中途解除などの事前予告・理由開示〇×*義務項目では、「支払い期日の設定」を規定し、禁止事項では支払い遅延を禁じている一方で、法律が適用される範囲と、保護する範囲に違いがあります。次の段落からは、フリーランス新法と下請法の具体的な違いや、それぞれの法律が適用される事例を掘り下げていきます。【適用範囲】フリーランス新法と下請法の違いフリーランス新法と下請法は、どちらもフリーランスを含む下請事業者を守るために設けられた法律ですが、適用範囲には明確な違いがあります。それぞれの法律が保護対象としている業種や条件を詳しく解説します。発注側の資本金規模フリーランス新法は、発注者の資本金規模に関係なく適用されます。そのため、フリーランス同士の取引にも適用されるなど、下請法よりも幅広い発注事業者が規制対象となります。一方で、下請法は発注事業者の資本金が1,000万円以上であり、かつ発注事業者よりも受注側の資本金が少ない場合にのみ適用されます。なお、下請事業者の資本金が3億円以上の場合は、下請法が適用されません。取引内容フリーランス新法は、業種や業界を問わず、あらゆる業務委託の取引が規制・保護対象となります。対して、下請法が適用される取引は、Webサイトやソフトウェアの開発などの情報成果物作成委託や、製造委託など、対象となる取引業務がある程度限定的です。契約期間フリーランス新法では、以下のように項目によって契約期間が一定以上であることが求められます。「買いたたき」などの禁止事項:1ヶ月以上の継続契約「育児・介護と業務の両立に対する配慮」「中途解除等の事前予告・理由開示」:6ヶ月以上の継続契約一方で、下請法では単発の契約も規制対象です。【保護内容】フリーランス新法と下請法の違いフリーランス新法は、フリーランスの働きやすい環境を整えることを目的としており、発注側に対して具体的な配慮や対応を求めています。具体的には、発注事業者に対して以下のように配慮するよう規定しています。ハラスメント対策の義務化フリーランスに対するハラスメントを防止するための措置を講じる育児・介護に対する配慮育児や介護を担うフリーランスが働きやすいよう、スケジュールの柔軟性の確保などの配慮をする正確な募集情報の掲載正確で誤解を招かない募集情報を掲載する契約解除の理由開示契約を終了する際は、フリーランスに理由を明確に説明する一方で、下請法では、フリーランスに対する同様の配慮義務は定めていません。上記の点を踏まえると、フリーランス新法のほうがより包括的で柔軟な保護を提供しているといえます。しかし、下請法では、買いたたきや報酬の減額といった不当な行為から、下請事業者を守るためのルールが、フリーランス新法よりも多く規定されています。【禁止事項】フリーランス新法と下請法の違い下請法は、フリーランス新法で定められている禁止事項7つをすべて網羅しています。さらに、以下の3つが禁止事項に加わるため、フリーランス新法よりも発注事業者を厳しく規制しているといえるでしょう。有償支給原材料等の対価の早期決算:発注側が材料費を先に支払うよう強要する行為割引困難な手形の交付:フリーランスに現金化が難しい手形を発行し、間接的に経済的な負担を強いる行為報復措置:違反行為を報告したフリーランスへの報復行為なお、成果物を受領してから60日以内に支払わない行為は、下請法では「禁止事項」に記載されていますが、フリーランス新法では「義務項目」に含まれています。【罰則】フリーランス新法と下請法の違いフリーランス新法も下請法も違反に対する罰則は共通していますが、運用面での違いがあります。【フリーランス新法】行政調査や指導、助言命令違反や検査妨害:50万円以下の罰金ハラスメント対策の不備:不報告や虚偽報告に対して20万円以下の過料▼参考:フリーランス・事業者間 取引適正化等法【下請法】公正取引委員会による勧告・公表被害を受けた下請事業者に対する利益の補填(減額分の差額を支払う、など)書面交付や取引記録の不備に対して50万円以下の罰金▼参考:ポイント解説 下請法どちらの法律も、法人全体が責任を負う仕組みとなっているため、担当者だけでなく企業全体が罰則の対象となる可能性があります。そのほか、違反の検知についても違いがあります。下請法は、公正取引委員会が親事業者やフリーランスを定期的に調査し、違反を検知・防止する仕組みがあります。対して、フリーランス新法は、被害を受けたフリーランスによる自己申告制です。そのため、フリーランス自身が問題を申告しない限り、違反の検知が難しい側面があります。フリーランス新法と下請法はどちらが優先される?先述した通り、フリーランス新法と下請法では禁止事項など重複している内容があります。違反内容が重なる場合に、どちらの法律が優先されるのか具体的なケースを通じて確認しましょう。発注時の書面交付(3条書面交付義務)などは下請法が優先されるフリーランス新法と下請法には、それぞれの法律について、特定の状況では適用しないことを定めた「除外規定」が設けられていません。そのため、親事業者の規模や契約内容によっては、両方の法律が同時に適用される可能性があります。例えば、発注事業者の資本金が1,000万円を超え、従業員がいないフリーランスに1年間、Webデザイン業務を委託した場合は、双方の法律が適用されます。ただし、下請法では発注内容の書面化を義務づける「3条書面交付義務」に対して、直接50万円以下の罰金が科される可能性があります*。また、フリーランス新法にはない「支払い遅延時の利息」が定められているなど、より厳しい禁止事項が定められています。そのため、この規定が該当するケースでは、具体的な罰則や規定が定められている下請法の優先度が高くなります。*フリーランス新法においても契約条件の明示は義務化されているが、違反に対して直接の罰金はなく、行政の指示に対して従わない場合に罰金が科される仕組みとなっているフリーランス新法と下請法の適用関係フリーランス新法と下請法は、適用対象や範囲に違いがあります。それぞれの適用関係は以下の通りです。フリーランス新法だけが適用される場合資本金額や取引内容にかかわらず、発注事業者が従業員のいないフリーランスに業務を委託する場合下請法とフリーランス新法が両方適用される場合資本金が1,000万円を超える事業者が、従業員のいないフリーランスに対して、6ヶ月以上にわたって情報成果物作成や製造、修理、役務提供のいずれかを委託する場合下請法だけが適用される場合資本金が1,000万円を超える事業者が、従業員を雇用しているフリーランスに対して、情報成果物作成や製造、修理、役務提供のいずれかの取引を委託する場合発注事業者とのトラブル発生時にフリーランスが頼れる相談窓口トラブル時に頼れる相談窓口を知っておくことは、フリーランスが安心して働くために重要なポイントです。それぞれの相談機関の特徴や活用方法を解説します。フリーランス・トラブル110番フリーランス・トラブル110番は、フリーランスのトラブル解決に特化した相談窓口です。厚生労働省からの委託を受けて、第二東京弁護士会が運営しています。ハラスメントや不当な契約解除など、フリーランス新法にもとづく問題を無料で相談できます。相談は対面や電話、メール、オンラインと幅広く対応しています。弁護士が相談から解決までワンストップでサポートしてくれ、フリーランスだけで解決が難しい場合は、和解あっせん手続きも行ってくれます。公正取引委員会公正取引委員会は、下請法の管轄機関として、親事業者による不当な行為を取り締まり、是正指導や勧告を行います。支払い遅延や契約内容の一方的な変更など、トラブルが発生した際には全国の地方事務所を通じて対面、電話、オンラインで相談や下請法に関する違反事案の申告が可能です。下請かけこみ寺下請かけこみ寺は、弁護士や専門家による無料相談が受けられる全国規模の支援ネットワークです。中小企業庁の委託事業で、全国中小企業振興機関協会が運営しています。下請事業者である中小企業やフリーランスが取引でトラブルに陥った際に、下請法に強みを持つ弁護士に無料で相談が可能です。また、訴訟を起こさず、話し合いによる解決を目指す「裁判外紛争解決手続き(ADR)」にも対応しています。▼関連記事:フリーランスは誰に相談すればいい?無料窓口やトラブル回避方法も紹介まとめフリーランス新法と下請法は、いずれも下請事業者の権利を守る重要な役割を果たしていますが、適用範囲や保護内容に違いがあります。下請法では、報復行為の禁止や支払い遅延に利息がつくなど、多くの禁止事項や義務が定められています。対して、フリーランス新法では、幅広い発注事業者が規制対象となるほか、働く環境の改善にも言及しているため、より多角的にフリーランスを保護しています。それぞれの違いを知り、どの法律が適用されるかを明確にすることで、万が一取引でトラブルが生じた際も、冷静に適切な対応が取れるでしょう。「法律は難しい」と思わず、法律を味方につける意識を持ち、自分の権利を守るための知識を少しずつ積み重ねてくださいね。