「長い期間、継続依頼されていた案件が、予算の都合で来月で契約解除されることになってしまった…」フリーランスの中には、このように突然契約が解除され、頭を悩ませた経験がある方も多いのではないでしょうか。フリーランスは自分が頑張った分がダイレクトに収入に反映される反面、仕事がなければ手元に入るお金は一切ありません。そのため、収入源が突然失われると大きな不安に襲われてしまうでしょう。急な契約解除に対しては、冷静に対応して自分の権利を守る行動が重要です。しかし、「どこから手を付ければよいのか分からない」と感じる方も多いはずです。この記事では、フリーランスが不当な契約解除に直面した際にとるべき行動を紹介します。また、クライアントと交渉を進める際のポイントや、同じ状況を繰り返さないための防止策も詳しく解説します。契約解除の通告はフリーランスにとって大きなショックとなり、焦りや不安に襲われがちです。そんな時にも冷静に対応できるよう、ぜひ最後まで読んで参考にしてくださいね。フリーランス新法で契約解除は「終了日の30日以上前の通告」「理由の通達」が必須に2024年11月に施行されたフリーランス新法により、発注事業者に対して契約解除に関する以下の2点が義務づけられました。契約終了日の30日以上前に通知することフリーランス側から要請があれば、契約解除の理由を通達することいずれも6ヶ月以上継続して契約している案件が対象となります。この義務は、突然の契約解除を防ぐことで、フリーランスの生活や事業への影響を軽減させるために設けられました。公正取引委員会と厚生労働省が行った「フリーランス取引の状況についての実態調査」によれば、「契約解除日の30日前までに通告がなく、契約解除となった経験がある」と答えたフリーランスの割合は22.3%にも上ります。そのうち、半数が事前の予告さえもなかったと回答しています。一方で、発注事業者側が十分な事前通告をしなかったと認識している割合はわずか7.4%でした。この差は、発注事業者の認識や対応が、フリーランス側から見て不十分である現状を示しています。▼関連記事:【2024年11月施行】フリーランス新法とは?変更内容や注意点を解説▼関連記事:世界一分かりやすく!フリーランス新法をフリーランス向けに解説①終了日の30日以上前の通告発注事業者がフリーランスとの業務委託契約を解除する場合は、契約の終了日から少なくとも30日以上前にフリーランスへ通告することが義務づけられています。例えば、契約が12月31日で終了する場合、解除の通知は遅くとも12月1日までに行う必要があります。この「30日」の起点は、契約終了日を含まない30日前の日付から数えます。契約解除の通知を行った日から終了日までの日数が30日以上確保されていればルールを満たすことになります。なお、以下の理由の場合は30日前までの事前予告は不要とされています。災害や元委託者からの契約解除などのやむを得ない事由がある場合フリーランスに責めに帰すべき事由(責任・落ち度)がある場合②理由の通達フリーランスから要請があった場合に、発注事業者は契約解除の理由をフリーランスに伝えなければなりません。ただし、理由の通達義務は、あくまでフリーランス側からの要請が必要であり、さらに契約解除の予告がされた日から契約が解除されるまでの間に開示するよう定められています。フリーランスが契約解除の理由を聞きたい場合は、早いタイミングで理由を尋ねる必要があります。フリーランス新法で違反となる契約解除の事例フリーランス新法では、契約解除に関して上記のようなルールが設けられていますが、クライアントが認識しておらず、守られていないケースもあります。この段落では、フリーランス新法違反となる可能性が高い事例を紹介しながら、どのような点が問題となるのかを解説します。事前通知なしでの突然の契約解除事前通知なしで突然契約解除を言い渡された、フリーランスWebデザイナーのAさんの事例です。事例詳細Aさんは、企業のコーポレートサイトのリニューアルプロジェクトを担当していました。作業は順調に進み、クライアントからも高く評価されていました。しかしある日突然、クライアントから「来月からすべて内製化することに決まったため、契約を解除したい」という連絡が入りました。Aさんが理由を尋ねても、「急な予算削減のため」とだけ説明され、それ以上の詳細な理由も、補償案も提示されませんでした。Aさんは、プロジェクトの途中で突然の終了通知を受けたことで、予定していた収入が得られなくなり、次の仕事を探す準備をする時間も確保できませんでした。解説契約解除の通告が「契約終了日の30日以上前に行われなければならない」というフリーランス新法の規定を満たしていないため、フリーランス新法違反となる可能性があります。契約解除までに余裕をもって通告されていれば、Aさんは次の仕事を探すための準備期間を確保でき、突然の収入減少を防ぐことができたでしょう。契約解除を通告される日が契約終了日の30日未満となったことで、Aさんは収入に大きな影響が生じています。契約解除の理由が曖昧曖昧な理由で契約解除を言い渡された、フリーランスのイラストレーターのBさんの事例です。事例詳細Bさんは、あるゲーム会社と1年間の契約を結び、キャラクターデザインを担当していました。納期に遅れることもなく、クライアントからのフィードバックにも迅速に対応。完成したイラストは高い評価を得ていました。ところが、契約開始から7ヶ月目に入ったある日、「プロジェクトの方向性が変わったので契約を解除したい」とメールが届きました。Bさんが具体的な理由を尋ねると、「社内で検討した結果」「詳細は伝えられない」とだけ返答され、それ以上の説明はありませんでした。解説クライアントがBさんに対して十分な理由を説明していないことが問題です。フリーランス新法では、契約解除の理由について、フリーランス側から要請があれば通達する義務があります。「社内で検討した結果」という曖昧な表現では、Bさんが契約解除の正当性を判断する材料がなく、不当な解除だったとしても対処が難しくなります。フリーランスが契約解除されたときに取るべき対応突然の契約解除に遭ったとしても、必要な証拠を収集して適切に交渉を進めることで、フリーランスは状況を有利に進めることができます。この段落では、急な契約解除の通達があった際にフリーランスがどのような対応を取るべきか、状況に応じた対処法を解説します。契約内容を確認して客観的な証拠を集める契約解除が正当かどうかを判断するために、契約書に記載されている解除条件や事前通知期間などをチェックしましょう。先述した通り、フリーランス新法では契約解除の30日以上前に通告することが求められています。この期間が守られていない場合、不当な契約解除とみなされる可能性があります。あわせて、契約書やメールのやり取り、納品物など証拠となるものを全て保存しましょう。特に、チャットツールは自分が送信したメッセージを編集できてしまうため、クライアントが不都合な会話を編集または削除する前に、会話内容をスクリーンショットで保存しておくことをおすすめします。また、作業履歴や納品物、修正対応の記録をまとめておくことも重要です。例えば、契約解除の理由についてクライアントから「成果物の質に問題があった」などと言われても、成果物の内容やクライアントの反応、修正対応などを記録として残しておくことで、実際には問題がなかったことを証明できます。【契約終了日から30日以内の通達の場合】クライアントに冷静に交渉する契約終了日からさかのぼって30日以内に通告された場合は、フリーランス新法に違反する可能性があります。以下のように、冷静に交渉を進めましょう。【メール例文】件名:契約解除の件について確認のお願いお世話になっております。〇〇です。先日ご連絡いただいた契約解除につきまして、確認させていただきたい点がございます。今月末に契約を解除するご意向とのことでございますが、2024年11月に施行されたフリーランス新法の契約解除規定に抵触する可能性がございます。具体的には、フリーランス新法では、契約終了日より30日以上前の予告が必要とされています。つきましては、今回の解除について、再度ご確認いただけますでしょうか?もしご不明点があれば、お知らせいただけますと幸いです。また、「〇〇に関する業務経験もあるのですが、別のプロジェクトや部署などでご要望はございませんでしょうか?」というように、別の作業も行えることをアピールすることで、契約解除を防げる可能性もあります。クライアントが手がける業務や関係値などを踏まえて、打診してみましょう。【解除理由がない場合】クライアントに契約途中終了の背景を訪ねる契約解除の理由が不明瞭な場合は、クライアントにメールやチャット、文書などで解除理由を尋ねましょう。連絡する際は、冷静で丁寧な態度で理由を求めることを意識すること、契約書に基づいて詳細を確認することも重要です。【メール例文】件名:契約解除の理由についての確認お世話になっております。〇〇です。先日ご連絡いただいた契約解除につきまして、契約途中での終了理由を具体的に教えていただけますでしょうか?契約書に基づき、解除に関する詳細を確認させていただきたく存じます。また、契約解除の背景や今後の対応について、何かご相談させていただける点があればお知らせいただければと思います。お手数をおかけしますが、よろしくお願い申し上げます。法的措置を示唆する万が一、クライアントが不当な契約解除を行っている場合や、報酬未払いが発生しそうな場合には、最終手段として法的措置を検討する旨を伝えることも有効です。法的措置を示唆することで、クライアントに対して問題を真剣に捉えている姿勢を示せます。ただし、脅しではなく冷静に今後の対応を検討している姿勢を見せましょう。【メール例文】件名:契約解除についてのご相談お世話になっております。〇〇です。先日いただきました契約解除のご連絡につきまして、フリーランス新法における契約解除の規定に抵触する可能性があると感じております。具体的には、終了日の30日以上前の通知が必要とされている点や、解除理由の明示が求められる点について、今回のご対応が適切であるかを再度確認いただきたく存じます。また、着手途中で案件がステイとなっているものもございますが、こちらの報酬につきましてまだご回答をいただいておりません。契約解除と報酬につきまして、すでに専門家に相談を進めておりますが、まずは御社とのお話し合いにより解決できればと考えております。ぜひ、貴社でのご検討結果や今後のご対応についてお知らせいただけますと幸いです。何卒、よろしくお願い申し上げます。相談窓口を利用するもしクライアントとの交渉がうまく進まない場合や、状況が悪化した場合は、専門の相談窓口の利用を検討しましょう。法律や契約に関する知識がない場合でも、適切なアドバイスを受けられ、問題解決に向けたサポートを受けることができます。フリーランスが陥りやすいトラブルをサポートする相談窓口には以下が挙げられます。フリーランス・トラブル110番厚生労働省の委託を受けて東京第二弁護士会が運営するフリーランス向けの無料の相談窓口フリーランス特有の契約やハラスメント、報酬トラブルに特化し、弁護士がワンストップで解決までサポートしてくれる下請かけこみ寺中小企業庁の委託事業で、全国中小企業振興機関協会が運営する相談窓口フリーランスと中小企業向けの下請け契約に関する相談を行っており、不当な契約解除に対しても対応してくれるいずれも無料で相談可能です。▼関連記事:フリーランスは誰に相談すればいい?無料窓口やトラブル回避方法も紹介フリーランスが不当な契約解除に遭わないための防止策フリーランスは契約解除に直面した際に備えて、事前に防止策を講じておくことが重要です。あらかじめ対策しておくことで、不当な契約解除を未然に防ぎ、安心してフリーランスとして活動できます。この段落では、契約の取り決めやコミュニケーション方法、リスクヘッジの方法を紹介します。契約書をしっかり作成・確認する案件の規模や期間に問わず、契約書をしっかり作成することが重要です。特に、口頭契約や不明瞭な契約条件は、「言った・言わない」の論争を招き、トラブルの原因となりかねません。契約書には、以下のように解除可能な条件や事前通知期間、補償規定などの契約解除条項を明記しておくことが大切です。甲および乙のいずれかが契約を解除しようとする場合、1ヶ月前までに書面により通知しなければならない3ヶ月前までに予告することで、本契約を損害賠償なしで解除できるこれにより、万が一解除が発生した場合に、スムーズに対応できるようになります。もし、契約が自動更新される場合は、更新条件や契約の終了方法も事前に共有しておくことが重要です。▼関連記事:契約書なしの業務委託は違反?フリーランスが知っておきたいリスクやトラブル時の対応策を紹介クライアントとこまめにコミュニケーションを取る突然の契約解除を防ぐため、案件の進行中はこまめにクライアントと連絡を取り、信頼関係を築きましょう。丁寧に連絡を取り合うことで、誤解や認識のズレを防げます。誤解やズレが放置されると、クライアントの不満や不信感につながり、不当な契約解除の口実にされることもあります。万が一トラブルに発展した場合は、契約や業務に関するやり取りを記録として残しておきましょう。口頭ではなく、メールやメッセージで記録を残すことで、後々証拠として活用できます。不当な契約解除のリスクを想定してリスクヘッジをとる不当な契約解除に遭っても、金銭的な影響を最小限に抑えるためにできるだけリスクヘッジを取ることが重要です。例えば、長期にわたる案件の場合は成果物を分割納品することがおすすめです。途中で報酬を受け取ることができるため、プロジェクトの進行中に突然契約が解除された場合でも、一定の報酬を確保できるようになります。また、取引先は1社に依存せず、複数のクライアントと契約することでリスクヘッジになります。取引先が多いほど、万が一1社と急な契約解除となった場合にも収入減少のダメージを抑えられます。そのほか、契約解除後すぐに次の案件を探せるよう、日頃から業界内でのつながりを広げたり、案件のアンテナを張ったりしておくことも大切です。フリーランス側から契約解除したいときはどう対応するべき?フリーランス側から契約解除を依頼する場合は、まず契約書に記載されている契約の解除要件を確認することが重要です。法律上、フリーランス側からクライアントに契約解除を申し出るタイミングに規制はありません。しかし、クライアントと交わした契約書に「契約終了日の1ヶ月以上前までに通知すること」などと、解除に関わる要件が記載されている場合は、契約書を順守する必要があります。もし、契約書に契約解除の取り決めがない場合でも、トラブルへの発展を防ぐために以下のポイントを意識しましょう。契約解除を希望していることはできるだけ早いタイミングで伝える意思を伝える・契約解除するタイミングは繁忙期を避けるクライアントの立場を尊重しつつ誠意をもって対応するなお、この際のやり取りは口頭ではなく、メールやチャット、文書などで証跡を残してください。メールの内容や注意するべきポイントは辞める理由によって異なりますが、共通して以下の4点を押さえておくとよいでしょう。辞める理由は簡潔かつ誠実に伝え、クライアントを批判するようなことは言わない進行中のタスクは完了してから契約を終了させる姿勢を示す進行中のプロジェクトがある場合は引き継ぎを行う意向を伝えるこれまでの取引に対する感謝の気持ちを伝えるなお、以下の関連記事では、フリーランス側から契約解除の意向を伝える際に必要な手順や、注意したいポイント、メールの例文などを解説しています。あわせてご覧ください。▼関連記事:フリーランスが業務委託を辞めたい時はどうするべき?契約形態による違いや注意点も▼関連記事:【メール例文】フリーランスが業務委託を辞める時の伝え方とは?タイミング・理由別に紹介まとめ突然の契約解除の通告は、フリーランスにとって大きな負担となります。しかし、冷静に対処することでトラブルを回避したり、納得のいく解決策を見つけたりすることができます。まずは契約書の内容や過去のやり取りを確認し、不当な契約解除である場合は証拠を揃えて交渉に臨みましょう。「この解除理由では納得がいかない」と感じたら、クライアントに文書で詳細を尋ねることも重要です。防止策として、契約書の作成やクライアントとの定期的なコミュニケーションが鍵を握ります。契約解除の連絡を受けると不安を感じるかもしれませんが、まずは冷静に状況を整理し、必要な対応を1つずつ進めてみましょう。