フリーランスとして活動する中で、クライアントから「まずこの教材を購入して内容を理解してから、仕事を開始してください」「業務をスムーズに進めるために、専用の有料プラットフォームの利用をお願いしています」といった金銭的な負担がかかる要求を受けた経験はありませんか?こうした要求は、契約上のトラブルや負担を引き起こすことがあります。そのため、2024年11月に施行されたフリーランス新法では、このような不当行為を「購入・利用の強制」に該当するとし、規制が強化されました。フリーランスとして安心して働ける環境を整える動きが進んでいますが、発注事業者の違反に関する認識が薄い可能性もあるため、フリーランスがしっかり違反を察知して適切に対応する必要があります。この記事では、購入強制や利用強制に関する具体的な事例を交えながら、注意すべきポイントや交渉術、リスクを回避するための予防策を分かりやすく解説します。ぜひ最後まで読んで、不安を解消するヒントを見つけてください。フリーランス新法の「購入強制・利用強制の禁止」とは?フリーランス新法は、フリーランスとして働く人を守るために制定された法律です。取引の公正性を確保するため、クライアントがフリーランスに不当な負担を強いることを防ぐための7つの禁止事項が規定されています。その7つの禁止事項の中の1つに、「購入強制・利用強制の禁止」が定められています。購入強制とは?購入強制とは、クライアントがフリーランスに対して、正当な理由なく特定の商品を購入させる行為を指します。例えば、「この案件を進めるには、当社製の専用ソフトを購入してください」と高額なライセンスの購入を求める場合が該当します。利用強制とは?利用強制とは、業務を行うために特定のサービスやシステムの使用を強要される行為を指します。例えば、「本案件を進めるためには、当社の専用ツールの使用が必須です」と指示し、フリーランスに費用を負担させる場合などが挙げられます。このような行為は、フリーランスに選択肢がなく、経済的な負担を強いるため、不当な行為としてフリーランス新法違反となる可能性があります。一方で、以下のように正当な理由などがある場合は違反にはなりません。業界標準のツールやシステムを利用する場合製品やサービスのレビュー記事作成など、業務遂行に必要不可欠な場合購入・利用強制に遭った経験があるフリーランスは1割以上公正取引委員会と厚生労働省が行った「フリーランス取引の状況についての実態調査」によると、フリーランスの13.4%が購入・利用強制の被害に遭った経験があるそうです。購入強制や利用強制の実態が一定数確認されていることから、同調査では「フリーランス新法の施行後に問題となりうる行為」として、購入・利用強制が3番目にランクインしています。購入強制や利用強制は、フリーランスが直面しやすい重要な課題であることが分かりますね。▼関連記事:【2024年11月施行】フリーランス新法とは?変更内容や注意点を解説▼関連記事:世界一分かりやすく!フリーランス新法をフリーランス向けに解説フリーランス新法と下請法・独占禁止法との違いとは?フリーランス新法は、既存の下請法や独占禁止法と同じく、不当な取引を規制する目的で設けられました。しかし、適用範囲や規定の内容にはそれぞれ違いがあります。以下では、下請法および独占禁止法とフリーランス新法の違いを具体的に解説します。下請法の「購入強制・利用強制の禁止」との違い下請法は、資本金1,000万円を超える事業者が発注事業者となる場合に適用される法律です。フリーランスだけでなく中小企業も保護の対象となりますが、資本金は発注事業者を下回る必要があります。一方、フリーランス新法は、発注事業者の規模に基準は設けられていません。受注側のフリーランスが、従業員を雇用していないという条件を満たす必要はありますが、フリーランス間の取り引きなども適用対象となるため、下請法よりも保護の範囲が広い点が特徴です。▼関連記事:フリーランスにも適用される下請法とは?禁止行為と違反事例を分かりやすく解説▼関連記事:フリーランス新法と下請法の違いとは?適用範囲・保護内容・禁止事項・罰則の観点から徹底解説独占禁止法の「購入強制・利用強制の禁止」との違い独占禁止法は、公正な競争を確保するための法律です。企業が市場での競争を不当に制限する行為を取り締まります。フリーランス新法との主な違いは、法律の目的と保護の重点です。独占禁止法は市場全体の健全性を重視しますが、フリーランス新法は個々のフリーランスが不利益を被らないよう、より具体的な保護を目的としています。フリーランスへの購入・利用強制に該当する事例フリーランス新法では、購入強制や利用強制に対して規制が設けられていますが、発注事業者側が不当な行為だと認識していない可能性もあります。そのため、フリーランス側が違反となるケースを把握しておくことが重要です。ここでは、どのような状況が購入強制や利用強制にあたるのか、具体的な事例を解説します。自分の仕事に当てはめて、ぜひチェックしてみてください。購入強制に該当する事例購入強制に遭ったフリーランスエンジニアのAさんの事例です。事例詳細Aさんは、システム開発の案件を受注しました。開発作業を進めるにあたり、クライアントから「この専用ソフトを使用しないと、作業ができない」と言われ、ソフトを購入するよう強く求められました。そのソフトのライセンスは年間20万円であり、その費用はAさんが負担する必要があると言われたのです。Aさんは、日頃使用している別のソフトでも問題なく案件を進められると考え、クライアントに打診しましたが、クライアントは許可しませんでした。仕方なくソフトを購入した結果、手元に残った利益は大幅に減少しました。さらに、そのソフトは今回の案件でしか使用せず、案件終了後にはまったく活用することがないことが分かりました。解説一般的に、フリーランスが業務を進めるうえで不可欠であり、代替が効かない場合であれば、クライアントがフリーランスに特定の商品の購入を依頼しても問題にはなりません。しかし、Aさんの場合は、そのソフトはこの案件でしか使えず、結果的に大きな費用負担を強いられたことから、明らかに過剰な要求だといえるでしょう。利用強制に該当する事例利用強制に遭ったフリーランスライターのBさんの事例です。事例詳細Bさんは、記事作成の依頼を受けた際に、クライアントから案件の受注条件として「当社のライティング教育プログラムを受講してください」と言われました。このプログラムは、3日間のオンライン講座で受講料は3万円。クライアントは「書き方ルールを理解するために必要な投資」と説明しましたが、Bさんはすでに豊富なライティング経験を持ち、プログラム内容が基礎的であると感じていました。それでも、「受講しないと契約はできません」と言われたため、やむなく受講することにしました。しかし、受講後も案件の単価は低く、その教育費用を回収するのに数ヶ月かかり、利益を得るまでに時間がかかりました。解説 Bさんの事例では、業務に直接関係しない教育プログラムを受講させられたことが問題となります。フリーランスとしての経験が豊富で、既にスキルを持っているライターに対して、不必要なプログラム受講を強制することは、不正な利用強制に該当します。特に、受講を拒否すると契約できないという脅しは、Bさんにとって非常に不公平な状況を作り出しています。業務に関係ないことでも該当する可能性も業務に関係ないことで購入強制を受けたフリーランスデザイナーのCさんの事例です。事例詳細フリーランスデザイナーのCさんは、とあるレストランのホームページデザインを請け負いました。案件は順調に進み、無事に完了したものの、クライアントから「食事券を購入してほしい」と提案されました。食事券はクライアントであるレストランの食事代が少し割引になるものでした。しかし、Cさんにとって食事券は業務に全く関係なく、日頃からほとんど外食をしないため購入する必要がありませんでした。それでも、次回の契約に影響が出ることを恐れ、断りきれずに購入しました。解説この事例は、業務に無関係な物品購入を強制したケースですが、フリーランスに対して拒否しづらい依頼をしているため購入強制に該当します。たとえクライアントに購入を強制した意図がなかったとしても、フリーランスは契約への影響を恐れて断りにくくなります。業務への関係性に限らず、購入強制や利用強制は該当する可能性があるということを覚えておきましょう。フリーランスが購入・利用強制に直面した際の対応方法購入や利用強制の被害に直面したときに、どのように交渉を進めるべきか悩むフリーランスは多いでしょう。冷静に交渉を進めるためには事前の準備が大切です。交渉のポイントを押さえ、双方にとって納得のいく解決策を見つけましょう。客観的にポイントを整理する購入・利用強制の内容がどのようなもので、自分に及ぶ影響を具体的に把握しましょう。まずは、クライアントに強制された内容を明確にします。例えば、特定のソフトやツール、サービスなど、具体的にどのような商品・サービスが対象となっているのかを記録します。また、そのソフトやサービスが業務にどのように関わるかを確認することも大切です。次に、購入・利用強制が自分にどれだけの経済的負担をかけるのかを明確にします。かかる費用はもちろん、利益に与える影響も冷静に計算しましょう。また、事前に交わした契約書やクライアントとのメッセージ内容も再確認しましょう。もし契約書に商品やサービスの購入・利用に関する記載がない場合は、それを指摘して交渉を有利に進めることができます。負担を軽減する代替案を提示する自分の要求を伝えるだけでなく、クライアントとフリーランス双方にとって有益な解決策を提案することで、クライアントの納得を得やすくなります。クライアントへ相談する際の案としては、主に以下の3点が挙げられます。利用料を報酬に上乗せする提案代替手段の提案契約条件の見直しの提案①利用料を報酬に上乗せする提案「〇〇の利用料(または購入料)は御社側でご負担いただく、もしくはその分を報酬に追加していただくことは可能でしょうか?」といった提案をしてみましょう。例えば、高額なソフトやツールの利用が必要であれば、その費用を報酬に含めるよう依頼できます。費用負担を平等に分担できるかもしれません。②代替手段の提案もし、特定のツールやサービスが強制されている場合は、他の代替手段を提案することも有効です。「私の所有している〇〇や、一般的な◆◆でも対応可能ですので、そちらで進行できると大変助かります」といった形で、クライアントが求める目的に近い代替案を出すことで、問題を解決できる可能性があります。代替案は自分が使い慣れたツールやサービスにして、作業効率を落とさずに進行できることをアピールするとよいでしょう。③契約条件の見直しの提案契約書内に、商品の購入やサービスの利用に関する記載がない場合は、「契約書には、ツールの購入に関して特に触れられていなかったかと思います。これを踏まえ、追加費用について調整することは可能でしょうか?」というように、契約条件の見直しを提案することも1つの手です。落ち着いてクライアントに相談する感情的にならず、問題点を具体的に説明し、協力して解決策を見つけるという姿勢を見せることで、クライアントもフリーランスの立場に配慮しやすくなるでしょう。また、交渉時にはフリーランス新法に触れ、購入・利用強制は禁止されていることを示すことで、クライアントが提案を受け入れる可能性が高まります。交渉の際はメールやチャット、文書など形として残る方法で行い、口頭での交渉は避けましょう。口頭のみで交渉を行うと、後々「言った・言わない」の論争になる可能性があり、トラブルが悪化する恐れがあります。購入強制・利用強制の相談に使えるメールテンプレクライアントに相談する際に活用できる、メールのテンプレを紹介します。上記で解説したポイントを押さえているので、効果的に交渉を進めるために参考にしてください。件名:契約条件に関するご相談(〇〇案件について)株式会社〇〇〇〇様お世話になっております。〇〇です。現在進行中の〇〇案件について、確認およびご相談があり、ご連絡させていただきました。今回の案件において、〇〇(ツールの購入費用負担または利用料の支払い)が必要であると伺いましたが、〇〇の支払いが必要であることは、事前の打ち合わせや契約書への記載ではございませんでした。現状、〇〇ツールの費用(月額利用料〇〇円)が大きな負担となっており、利益を大きく圧迫しております。また、フリーランス新法の施行に伴い、購入強制や利用強制が禁止されていることなども考慮し、以下のような代替案を提案させていただきますので、ご検討いただけますと幸いです。・御社で費用をご負担いただく・報酬に該当費用を上乗せしていただく・代替手段として、同等の成果が得られる〇〇ツールを用いる(すでに所持しております)ご多忙のところ恐れ入りますが、この件についてぜひ一度ご協議いただけますと幸いです。双方にとって納得のいく形で進めていければと思っておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。何か不明点やご意見がございましたら、お気軽にお申し付けください。フリーランスが購入・利用強制に遭わないための予防策契約後に購入強制や利用強制に関する交渉することは、フリーランスにとって大きな負担となります。そのため、予防策を講じてトラブルを避けることが重要です。契約や交渉時に適切な予防策を取り入れ、将来的なリスクを減らしましょう。契約前に条件を詳細に確認する新しい案件を受ける際は、クライアントに対して事前に以下の項目を確認しましょう。案件の進行にあたって購入や使用が必須となるツールやサービスがあるかある場合は、使用に伴う費用が発生するか費用はクライアントが負担してくれるかもし、クライアントから「このソフトを購入して使ってほしい」と言われた場合は、そのツールが必須である理由や、代替品を使えない正当な理由、購入や利用にかかる費用がフリーランスの負担になるのかを必ず確認してください。確認は口頭で行うのではなく、メールやチャットで記録として残すことが大切です。契約内容を明確にするクライアント指定のツールやサービスに関する費用負担を曖昧なままにすると、解釈のズレなどが生じて後にトラブルが発生する原因となります。そのため、費用の負担などについても契約書にしっかりと記載し、契約内容を明確にしましょう。契約書に追記しておくことで、クライアントとの認識のズレや「言った・言わない」という論争を避けられます。また、契約書は法的効力を持つため、責任の所在の証拠としても役立ちます。無理な要求には断る勇気を持つ不当な要求を引き受けると、自分の利益を損なうだけでなく、クライアントに「都合のいいように対応してくれるフリーランス」と認識され、将来的に無理な要求を繰り返される可能性が高まります。クライアントの要求を断ることは、フリーランスにとって勇気のいることですが、断る勇気を持つことで、将来的に自分の立場を守ることにもつながります。解決しない場合は第三者機関の相談を検討しよう交渉や話し合いで解決しない場合は、フリーランスをサポートしてくれる専門機関を頼りましょう。この段落では、金銭的な負担を抑えて相談できる窓口を3つ紹介します。トラブルの内容を明確にするため、事前に契約書や証拠を準備しておくとスムーズです。フリーランス・トラブル110番フリーランス・トラブル110番は、購入・利用強制や報酬の未払い、ハラスメントなどといったフリーランスが陥りやすいトラブルに対応するための専門相談窓口です。厚生労働省からの受託で、第二東京弁護士会が運営し、相談は電話やメール、対面、ビデオ通話などで無料で行えます。フリーランスをめぐる法律に詳しい弁護士に直接相談できるため、具体的な解決策を見つけやすい点が大きな特徴です。特に初めてのトラブルで、どのように対処するべきか分からない場合に役立つでしょう。法テラス法テラスは、法的トラブルを抱える人を支援する公的な相談窓口です。収入や資産状況が一定基準以下の人を対象に、弁護士や司法書士に無料で法律相談ができるほか、裁判費用や弁護士費用を一時的に肩代わりしてくれる仕組みもあります。幅広い相談に応じているため、複雑なトラブルの際も安心して相談できるでしょう。公正取引委員会公正取引委員会は、企業間や取引における不公正な行為を取り締まるための行政機関です。厚生労働省・中小企業庁とともにフリーランス新法の主管官庁であり、購入・利用強制や買いたたき、報酬の減額などを所管しています。全国47都道府県に相談窓口があるほか、電話で相談できるため、地域を問わず利用しやすいでしょう。また、フリーランス新法の違反について申告したい場合は、オンラインからでも対応しています。▼関連記事:フリーランスは誰に相談すればいい?無料窓口やトラブル回避方法も紹介まとめフリーランスがクライアントから高額なツールの購入を求められたり、不要なサービスの利用を条件にされたりする事例は珍しくありません。このような購入・利用強制の問題は、仕事の効率や利益を損なうだけでなく、心理的な負担がかかります。トラブルに備えるためには、契約前に条件をしっかり確認して、曖昧な取り決めを避けることや、不当な要求には断る勇気を持つことが大切です。問題が解決しない場合には、第三者の相談窓口の力を借りることで、安心して働ける環境を整えることができるでしょう。フリーランスとして安心して働き続けるためにも、自分の権利とするべきことをしっかりと理解し、適切に行動しましょう。