業務委託契約書やメールなどで合意した報酬支払いの期限が過ぎても、クライアントから給料や報酬が支払われない経験があるフリーランスもいるでしょう。業務委託で報酬や給料の未払い問題を放置すると、自身の生活や事業運営に大きな影響が生じます。場合によっては、クライアントから「報酬を支払わなくても稼働する都合のよい存在」と認識され、関係の悪化やトラブルが再発するリスクも高まります。この記事では、業務委託で給料や報酬が未払いになった場合に、フリーランスがとるべき具体的な対処法や法的手段を分かりやすく説明します。どう行動するかを理解して対応することで、ストレスが軽減し、クライアントと適切にやり取りできる能力が身につくなど、フリーランスとしての働き方の改善にもつながります。ぜひ最後まで読んで、参考にしてください。フリーランス新法で業務委託の給料・報酬は60日以内の支払いが義務化フリーランス協会が実施した「未払い報酬に関するアンケート」によると、報酬の未払い被害に遭った経験のあるフリーランスは69.7%と、実に約3人に2人が経験しています。また、公正取引委員会と厚生労働省が行った調査によると、「報酬が60日以内に支払われなかったことがある」と回答したフリーランスは28.1%に上ることが分かっています。フリーランスが安心して働ける環境を整えるために、2024年11月にフリーランス新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。フリーランス新法では、発注事業者に対して「取引条件を業務委託契約書などで明確にする」「契約を途中解除する場合は最低30日前までに伝える」などの6つの義務と、「報酬を不当に減額してはいけない」など7つの禁止事項を定めています。そのなかで、「納品から60日以内のできる限り短い期間内に支払う必要がある」という、報酬の支払いに関する義務項目が盛り込まれました。これにより、支払いが遅れた発注事業者に対してはペナルティが科される可能性があります。しかし、フリーランス新法の違反行為は、フリーランス側から被害を申告しなければ被害は認知されません。また、回収の対応は結局フリーランスが自分自身で対応する必要があります。そのため、業務委託の給料や報酬の未払いが発生した際の対応方法は、しっかり把握しておく必要があります。▼関連記事:【2024年11月施行】フリーランス新法とは?変更内容や注意点を解説▼関連記事:世界一分かりやすく!フリーランス新法をフリーランス向けに解説【今すぐ】業務委託の給料・報酬未払い時の対応業務委託の給料や報酬が支払われない場合は、焦らず冷静に対応することが重要です。原因を確認し、適切な手順で対処してトラブルの解決につなげましょう。自分に落ち度がないかを確認するクライアントに連絡する前に、自分のミスや確認不足、認識の誤りがないか確認することが重要です。まずは、業務委託契約書や発注書で、支払い予定日がいつなのかを確認しましょう。認識の違いや見落としがあり、実際には支払いが遅れていない場合もあります。続いて、請求書の中身を確認して、金額や振込先口座、請求日などに不備がないかを見直しましょう。請求書に不備があり、クライアントが処理を保留している可能性があります。また、請求書を正しく送付しているかの確認もします。送信先ミスや請求書の添付漏れの可能性があるほか、請求書を送付した日がクライアントが定める締め切りを過ぎていなかったかの確認も重要です。もし、自分に原因がある場合は、早急に修正したうえでクライアントへ報告しましょう。クライアントに丁寧に連絡を取る自分に落ち度がないことが確認できたら、クライアントに丁寧に連絡して支払い予定日や状況を確認しましょう。給料の未払いがある事実や、クライアントに確認の連絡をした証拠が残るため、電話よりもメールやチャットで連絡を取るのがおすすめです。【クライアントへのメール例】件名:報酬支払い予定日のご確認について株式会社〇〇〇〇様平素よりお世話になっております。〇〇です。先日ご依頼いただきました〇〇の業務につきまして、報酬に関して確認のためご連絡差し上げました。請求書を〇月〇日にお送りし、お支払い予定日が〇月〇日と認識しておりますが、現時点で報酬をお支払いいただいていない状況でございます。ご多忙のところ恐れ入りますが、現在の状況をご確認いただけますでしょうか。何か手続き上の問題がございましたら、私の方でも対応させていただきますのでお知らせください。お手数をお掛けいたしますが、引き続きよろしくお願いいたします。多忙や単純なミスで支払いが遅れている場合もあり、この連絡の段階で解決するケースがほとんどです。感情的にならず、礼儀を守ったやり取りを心がけましょう。返答がない場合は内容証明郵便で督促する上記の連絡に対して、クライアントから返答がない場合や解決しない場合は、内容証明郵便を利用して督促状を送付しましょう。内容証明郵便とは、「いつ」「誰が」「どんな内容の文書を」「誰に送ったか」を証明する郵便サービスです。郵便局が送付内容を記録して証明書として発行してくれるため、トラブルになった場合に証拠として活用できます。また、クライアントに支払いの責任を意識づける点でも有効に働きます。督促状には、送付日やクライアントの住所や担当者名をはじめ、納品日、契約条件、支払い期限、金額、未払いに対する正式な請求内容などを記載しましょう。なお、内容証明郵便を利用するためには、以下の記載ルールを守る必要があります。区別文字数・行数縦書きの場合1行20字以内で、1枚26行以内に収める横書きの場合・1行20字以内で、1枚26行以内に収める・1行13字以内で、1枚40行以内に収める・1行26字以内で、1枚20行以内に収める内容証明郵便でも解決しない場合は、次の段落で解説する法的手段に進む必要があります。【法的手段】業務委託の給料・報酬未払い時の回収方法報酬が未払いで、話し合いだけでは解決できない場合は、法的手段への移行が必要です。法的手段と聞くとハードルが高いように感じるかもしれませんが、中には書類審査のみで行える手続きもあります。フリーランスが労働に対する給料・報酬を求めるのは当然の権利です。自分の立場を弱くしないためにも、「今後の契約に響きそうだから」などと泣き寝入りせず、しっかり権利を主張しましょう。支払督促支払督促とは、簡易裁判所を通じて、審理(裁判)は行わず、未払いの報酬を請求する手続きです。支払督促申立書に必要事項を記入して、管轄の簡易裁判所に提出することで、裁判所からクライアントに「支払い命令」が発行されます。クライアントには、一定の期間内に支払うよう命じられます。クライアントが異議を申し立てず、また給料や報酬を支払わない場合は、財産の差し押さえなどを行う強制執行に移行することも可能です。支払督促は裁判に比べて簡単で費用も大きく抑えられるため、迅速に解決したい場合に適しています。ただし、支払督促を受けてから2週間以内にクライアントが異議を申し出た場合は、支払督促は無効となり、通常の裁判に移行する点には注意が必要です。少額訴訟少額訴訟とは、請求額が60万円以下の場合に利用できる簡易裁判の一種です。弁護士を立てずに、フリーランスが自力で手続きを行うことができます。審理は原則1回で、証拠となる書類や請求の根拠を提示すれば、一般的にその日のうちに判決が下されます。判決が出た後にクライアントが給料・報酬を支払わない場合には、引き続き強制執行を行うこともできます。短期間で決着がつくため、少額の未払いを早く解決したい場合に有効です。民事調停民事調停とは、裁判の前段階として、裁判所で第三者(調停委員)が仲裁に入って双方が話し合いで解決を目指す手続きです。裁判よりも柔軟で、関係修復の可能性を残しながら解決したい場合に向いています。民事訴訟民事訴訟は、通常の裁判で、法的な決着を求める方法です。弁護士へ依頼することが一般的です。時間や費用がかかりますが、判決が出れば強制力があり、未払いの報酬を確実に回収できます。特に、相手が高額の報酬を支払わない場合に有効です。強制執行強制執行は、支払督促や裁判の判決をもとに、クライアントの財産を差し押さえて未払いの給料や報酬を回収する手続きです。相手の銀行口座や給料、不動産などを差し押さえることで、未払い分を回収できます。強制執行には裁判所の許可が必要ですが、相手が任意で支払わない場合でも確実に報酬を受け取ることができ、迅速に解決を図れる点がメリットです。ただし、相手に差し押さえるべき財産がない場合は、回収が難しくなります。また、手続きに費用がかかったり、差し押さえの対象となる財産の特定が必要だったりするなどの注意点もあります。業務委託の給料・報酬未払いで困ったときの相談窓口業務委託の給料や報酬の未払い問題は、フリーランスが自分だけで解決しようとすると精神的なストレスや手間がかかることがあります。そのようなときは1人で対応しようと無理をせず、専門家や適切な窓口に相談することが重要です。ここでは、未払い問題で困った際にフリーランスが頼れる具体的な相談先を4つ紹介します。▼関連記事:フリーランスは誰に相談すればいい?無料窓口やトラブル回避方法も紹介フリーランス・トラブル110番フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省から委託を受けて第二東京弁護士会が運営している相談窓口です。給料や報酬の未払いや減額、発注キャンセル、ハラスメントなど、フリーランスや個人事業主が直面しやすい仕事上のトラブルを無料で相談できます。相談は対面やオンライン、電話、メールと多様な手段で受けつけているほか、匿名での相談にも対応しています。また、相談だけでなくフリーランスとクライアントの間に入って解決案を提示する「和解あっせん」にも無料で対応している点も特徴です。下請かけこみ寺下請かけこみ寺は、下請事業者である中小企業やフリーランスのための支援窓口です。中小企業庁からの委託を受け、全国中小企業振興機関協会が運営しています。給料や報酬の未払い、減額、不当なやり直し、買いたたきなど、クライアントと下請事業者の交渉トラブルなどを専門に扱います。全国48ヶ所に拠点があるため、どこに住んでいても利用可能です。相談は無料で、問題解決に向けた具体的なアドバイスや、必要に応じて弁護士や専門家との連携も行っています。法テラス法テラス(日本司法支援センター)は、一定の要件を満たす人が法的なトラブルを抱える場合に頼れる、無料の公的な相談機関です。具体的な要件とは、経済的に困窮しており、弁護士費用の支払いが困難な人などです。法律の専門家から直接アドバイスを受けられます。相談でトラブルが解決しなかった場合は、弁護士や司法書士に依頼する際の費用を法テラスが立て替える制度もあります。法的な手段を考える際の第一歩として役立つでしょう。弁護士給料・報酬未払いの問題が深刻で、自力では解決が難しい場合には弁護士への相談を検討しましょう。弁護士は、法的な知識をもとに、契約内容の確認や相手との交渉、訴訟の手続きまで幅広く対応してくれます。特に、高額な未払いがある場合や、相手が支払いに応じる意思を全く見せない場合には、弁護士のサポートが大きな助けとなります。初回相談が無料の事務所も多いため、まずは相談してみるのがおすすめです。着手金の相場は、未払い金額の10~20%程度といわれています。例えば、未払い金額が50万円の場合、5~10万円になります。給料や報酬の回収に成功した場合は、成功報酬が発生する場合もあります。一般的には回収額の10~20%といわれていますが、割合は事務所によって異なります。業務委託の給料・報酬未払いに悩むフリーランスは、労働基準監督署を頼りにできる?労働基準監督署とは、労働基準法などの労働法規を企業側に遵守させるために、労働環境を監督・指導する行政機関です。企業が労働者に対し、労働時間や賃金、休憩など適切な労働条件を提供しているかなどを監督し、違反した企業には指導や是正勧告などを行います。しかし、業務委託契約の給料・報酬の未払いに関しては、労働基準監督署を頼りにすることは難しいとされています。その理由は、労働基準監督署が主に扱うのは雇用契約に基づく労働者の権利であり、業務委託契約を結ぶフリーランスは、原則として労働基準法の保護対象外だからです。労働基準監督署は通常、労働者として認められる雇用契約下にある人、つまり会社員や契約社員などに給料の未払いが生じた場合に対応します。ただし、フリーランスでも以下の条件を満たすと労働者性が認められることがあり、フリーランスの未払い給料・報酬も労働基準法の適用対象となる可能性があります。クライアントから業務内容や進め方に詳細な指示が出ている(指揮命令関係がある)勤務時間や場所が拘束されている報酬が労働時間に対して支払われている▼関連記事:フリーランスには労働基準法は適用されるの?自分を守るための契約や取引上の注意点を解説業務委託で給料・報酬未払いを未然に防ぐために気をつけたいこと業務委託契約で給料や報酬の未払いが起きる原因としては、主に以下のポイントが挙げられます。納品基準が曖昧業務委託契約書で報酬条件を明確化していないクライアントの不誠実な対応や資金繰りの悪化ここでは、未払いのトラブルを回避するために、業務委託契約書の内容をはじめ、フリーランスが確認しておくべきポイントを紹介します。契約書に報酬条件と納品基準を明記する給料・報酬の未払いトラブルを避けるためには、業務委託契約書に報酬条件や納品基準を明記することが非常に重要です。契約書に記載することによって、仕事の進め方や支払いに関してクライアントとの認識のズレを防げます。また、万が一トラブルが発生した場合でも業務委託契約書が証拠となり、円滑な解決につながります。報酬の条件としては、以下の項目を具体的に記載するとよいでしょう。報酬金額(税抜金額と税込金額の両方を記載)支払い期限(例:納品後30日以内、請求書発行後45日以内など)支払い方法(銀行振込、手渡しなど)これらを記載することで、未払いの発生が法的に根拠のあるものとなります。一方で納品基準とは、クライアントが何を「納品」と見なすかを明確化したものです。納品基準が曖昧だと、納品後に「想定していた成果物と違う」「成果物が基準を満たしていない」とクライアントが主張し、報酬の支払いが遅れる可能性があります。これを防ぐために、契約書には次のような具体的な情報を記載しましょう。納品物の詳細(完成品の形式や内容)納品期限(具体的な日付や時間)検収プロセス(納品物が受理される条件や、不備があった場合の修正対応期間)▼関連記事:フリーランスが結ぶ業務委託契約とは?契約時のチェックポイントを解説▼関連記事:契約書なしの業務委託は違反?フリーランスが知っておきたいリスクやトラブル時の対応策を紹介メールやチャットで取引履歴を保存するクライアントとのメールやチャットでのやり取りは、削除せず全て保管しましょう。受注内容や納期、納品した事実を示す情報となるため、未払いトラブルが発生した際にも具体的な証拠として利用できます。メールは、プロジェクトやクライアントごとにフォルダ分けするとよいでしょう。チャットは、送信元(クライアント)がチャットの削除や編集ができてしまうため、重要な内容はスクリーンショットを撮ってPDF化します。各種データはクラウド保存して、定期的にバックアップするようにしましょう。未払いに対する保険に加入するフリーランス向けに多様な保険サービスが展開されています。中には給料や報酬の未払いが発生した場合に、金銭的なダメージを軽減できる保険もあります。また、サービスによってはクライアントとの交渉をサポートしてもらえるものもあるため、内容を確認し、補償範囲や保険料が自分の業務に適しているかを見極めることが大切です。例えば、フリーランス協会が提供する「フリーガル」では、給料や報酬の未払いトラブルなどに遭ったフリーランス向けに、弁護士の紹介や弁護士費用をサポートしてくれます。フリーガルの利用にはフリーランス協会への一般会員登録(年会費1万円)が必要ですが、登録すれば追加費用を支払わずに活用できます。このような保険を利用することで、契約トラブルを未然に防ぎつつ、万が一の際にも迅速に対応できる体制を整えることが可能です。未払い分を回収できなかった場合の計上方法民事訴訟などで未払い回収が法的に認められても、クライアントの経営状況の悪化などで給料や報酬の未払い分を回収できない場合もあります。そのような場合は、貸倒損失処理で損失分を計上しましょう。貸倒損失処理とは?貸倒損失処理とは、取引先から債権を回収できない場合に、その金額を損失として計上する会計処理です。フリーランスの場合は、以下のように事実上支払われないと判断されたケースに適用されます。相手方が破産や倒産した場合、またはそれに準ずる状態であると確認できる場合長期間にわたり返済や支払いが行われず、督促しても反応がない場合回収コストが回収額を上回る場合貸倒損失処理として計上することで、所得税や住民税の課税所得を減らせるため、未回収分の負担を多少軽減できます。貸倒損失処理の経費計上の仕方まずは、未払い額が回収不能であることを確定する必要があるため、以下のような証拠を集めましょう。督促状や内容証明郵便の記録法的手段を講じたが回収できなかった証明(裁判記録など)相手方が破産した証拠貸倒損失は、未払いの発生が確定した事業の年度内に経費計上します。帳簿には、売掛金(未回収金)の減少額と貸倒損失として経費欄にそれぞれ記載します。【未払い額が50,000円の場合の記載例】売掛金 50,000円(減少)貸倒損失 50,000円(経費)確定申告の決算書には、経費欄に貸倒損失を記載しましょう。書類を提出したら手続きは完了です。まとめ業務委託で報酬や給料の未払い問題に対して何も対応しないままでいると、フリーランス生活に影響が現れます。加えて、クライアントから都合のよい存在に認識され、関係の悪化やトラブルが再発するリスクも高まります。クライアントへの交渉は、多くのフリーランスにとってハードルが高いかもしれません。しかし、フリーランスとして長く働き続けるためには対処方法を知って、毅然と対応することが重要です。今回紹介した対処法の中には、書類手続きだけで完了する法的手段もあります。また、フリーランスが無料で頼れる相談窓口もあります。未払い問題が起きても泣き寝入りはせず、自分にとって負担の軽い方法から着手してみましょう。