業務委託の案件を受ける際に、「小規模ですぐ終わる案件だから」「長年付き合いのあるクライアントとの仕事だから」と、契約書なしで仕事を請け負った経験のあるフリーランスは多いのではないでしょうか?近年では、オンライン会議やチャットツールで気軽に仕事の相談を受けられるようになったこともあり、契約書なしで新しい業務を請け負うケースも多いそうです。しかし、フリーランスが契約書を締結せず、口頭やメールでのやり取りだけ仕事を受けると、クライアントとの認識にズレが生じたり、支払いトラブルが発生したりする可能性があります。契約書は法的な証拠となるため、契約書なしの状況ではトラブル解決がより困難になり、フリーランスが弱い立場に追い込まれるケースも少なくありません。この記事では、フリーランスが業務委託の案件を契約書なしで請け負うことのリスクや、トラブル事例を紹介します。さらに、業務委託契約時に気をつけたいポイントや、契約書なしで請け負っていた業務委託の案件を辞める際の流れなどを詳しく解説します。フリーランスとして安心して働くためには、契約書の重要性を把握することが重要です。ぜひ最後まで読み、今後の業務委託契約の参考にしてくださいね。フリーランス新法によって契約書やメールでの条件明示が必須にフリーランスの労働環境を保護するために、2024年11月にフリーランス新法が施行されました。フリーランス新法では、書面などによる取引条件の明示や、報酬の支払い期日の設定、期日内の支払いなど、6つの義務と7つの禁止事項が定められました。これにより、発注事業者がフリーランスと口頭のみで契約を締結して発注することは違反となり、たとえ小規模な案件や短期間の案件だとしても、契約書やメールなどで契約条件を明文化することが義務化されたのです。フリーランス協会が発表した「フリーランス白書2024」によると、フリーランスに業務を依頼する際に、「口頭で伝える」と答えた企業は52.7%に上ります。さらに、取引条件を明示する方法も「口頭が多い」と答えた企業は9.6%でした。一方で、少し古いデータですが「フリーランス白書2020」では、業務委託契約で発生したトラブルのうち、45.5%が「口頭による契約締結」であることも分かっています。民法522条によると、口頭であっても双方が条件に合意し、契約する意思を示した時点で契約は成立します。しかし、契約書なしで業務委託の案件を請け負うことは、トラブルの発生リスクを高めることが分かるでしょう。▼関連記事:【2024年11月施行】フリーランス新法とは?変更内容や注意点を解説▼関連記事:世界一分かりやすく!フリーランス新法をフリーランス向けに解説業務委託で契約書なしの状態で仕事を請けるリスクとは?契約書なしの状態で業務委託の案件を請け負うことは、フリーランスにとってリスクがあることは先述しましたが、具体的にはどのようなリスクがあるのでしょうか。ここでは、契約書なしのまま仕事を請け負った際に生じ得るリスクを4つ取り上げます。口頭のみで契約した方の約半数がトラブルに遭ったことを念頭に置き、自分のケースに当てはめて考えてみてください。報酬が未払いになる可能性がある契約書なしの状態で業務委託の案件を請け負うと、報酬が支払われないリスクが高まります。理由としては、報酬額や支払い期日についての明確な証拠がなく、支払いを請求する際に不利になるためです。例えば、メールや口頭で「この仕事を1万円で請け負ってほしい」などと仕事内容や条件に合意したとしても、納品後にクライアントが「そのような約束はしていない」と主張すれば、フリーランスが証拠を示すのが難しくなります。支払い条件や納期が明確に記載された契約書がないと、未払いの状況を改善するために裁判に持ち込む必要が出る可能性があり、結果的に時間と費用の負担が大きくなるので注意が必要です。▼関連記事:業務委託で給料・報酬の未払い被害に遭ったら?フリーランスが今すぐすべき対処法や法的手段を解説責任範囲が不明確で損害賠償リスクを負わされる可能性がある契約書なしの状態では、業務上の責任範囲が不明確なため、トラブル発生時にフリーランス側に過剰な責任を負わされるリスクがあります。例えば、業務委託先で提供されたデータが誤っていたために作業ミスが起きた場合でも、契約書がないと「データチェックも含めてあなたの責任だ」と一方的に主張されることがあります。業務の対応範囲が曖昧になりやすい契約書なしの状態では、業務の対応範囲が不明確なまま仕事を進めることになります。その結果、「この作業もついでにお願いしたい」などといった追加業務が次々と発生し、最終的に想定以上の負担を抱える可能性があります。特に、業務範囲や納期が曖昧な場合は、クライアントと認識のズレが生じやすくなります。例えば、Webサイト制作の依頼を受けたフリーランスが、納品後に「コーディングや保守管理も含まれると思っていた」などとクライアントから要望を受け、追加対応を求められるケースが挙げられます。また、納品後1ヶ月経過してから「内容が不十分」と指摘され、再作業を求められ、何度も繰り返し修正作業を追加されるケースもあります。利権関係が不明確になりやすい契約書なしの状態では、制作物の著作権や利用権がどちらに帰属するのかが曖昧になります。そのため、納品後の作品が意図しない形で利用されたり、著作権の所在をめぐって発注者と対立したりなどと、後々トラブルに発展する可能性があります。例えば、特定のプロジェクトで使用するロゴのデザインを制作したにも関わらず、納品後にクライアントによって納品したロゴがほかのプロジェクトや商品に無断で再利用されるケースが挙げられます。クライアントが制作物を勝手に二次利用したり改変したりすると、フリーランスは本来得られるはずだった追加報酬を得られなくなります。また、フリーランスの名前がクレジットされた場合は、二次利用の内容や改変の程度によってはフリーランスのイメージに悪影響を及ぼす可能性もあります。【無断な二次利用がフリーランスのイメージに悪影響を及ぼす例】フリーランスのデザイナーが、地域限定のカフェ事業用にキャラクターを制作し、納品。カフェ事業では、フリーランスの名前をクレジット付きで紹介した。その後、クライアントがキャラクターをカフェ事業と関係のない別のビジネスで無断で二次利用。そのビジネスは倫理的に問題視されるものであったため、フリーランスの制作物がそのビジネスに関連付けられてしまい、ほかの顧客や見込み客からの信用を失う結果になった。契約書なしの業務委託案件で報酬の未払いや損害賠償が発生した際の対処法内閣官房などが発表した「令和4年度フリーランス実態調査結果」によると、報酬の支払いの遅れや報酬の減額などクライアントから納得できない行為を受けた際に、「そのまま受け入れた」と回答したフリーランスは32.6%に上ります。受け入れた理由としては、現在の取引の非成立や、今後の取引の打ち切りなどを懸念したケースが多くみられました。しかし、トラブル発生時に交渉しないと、収入に影響が生じて心理的な負担が大きくなるのはもちろん、クライアントから「問題があっても何も言わないフリーランス」と見なされて信頼関係が悪化する可能性があります。ここでは、契約書なしで進めた業務委託案件でトラブルが発生した際に、フリーランスがどのように対応するべきかを解説します。自分でクライアントに交渉するまずは自分でクライアントに対して粘り強く交渉しましょう。特に契約書がない場合は、最初に口頭などで交わした条件が守られないケースもありますが、冷静に交渉を重ねることで解決できるケースも多くあります。未払いの報酬を請求する際には、まずは丁寧で礼儀正しい形で連絡を取りましょう。クライアントが忙しい場合や単純な経理ミスの場合もあるため、感情的にならずに穏やかな口調で状況を伝えることが大切です。【クライアントへのメール例】件名:【未払い報酬のご確認】◯◯の件について株式会社◯◯◯◯様平素より大変お世話になっております。〇〇です。先日納品いたしました【プロジェクト名】に関する報酬の件ですが、現在も未払いの状態となっていることを確認いたしました。お忙しいところ大変恐れ入りますが、改めてお支払いいただける日程をご確認いただけますでしょうか。口頭で合意した内容に基づいて、◯◯円の報酬をお支払いいただく予定となっておりますが、現時点でのお支払い状況についてご教示いただけますと幸いです。もし、何か手続きに遅れが生じている場合やご不明点があれば、お手数ですがご連絡いただければと思います。お手数をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。もし、メールに対してクライアントからの反応がない場合は、慎重に段階を踏んで対応します。改めて、フォローアップのメールを送りましょう。前回のメール内容を軽く振り返り、改めて報酬の支払いについて確認を取ることが大切です。相手が見落としている可能性を考慮して、丁寧に再確認する形でメールを送りましょう。【クライアントへのメール例】件名:【再確認】未払い報酬のご確認について〇〇株式会社〇〇様お世話になっております。〇〇です。先日、【プロジェクト名】に関する報酬のお支払いについてご連絡させていただきましたが、まだご確認のご返答をいただいておりません。お忙しいところ恐れ入りますが、改めてご確認いただけますでしょうか。念のため、以下にお支払い予定日と金額を再度記載いたしますので、ご確認の上、ご対応いただけますようお願い申し上げます。・契約内容:〇〇・納品日:〇〇・金額:〇〇・お支払い予定日:〇〇もしご不明点や手続きに遅れが生じている場合は、ご連絡いただけますと幸いです。お手数をおかけしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。メールのフォローアップ後も反応がない際は、電話で直接連絡を試みることも有効です。それでも反応がない場合は、内容証明郵便を送るのも1つの方法です。内容証明郵便は、送付した文書が実際に相手に届いたことを証明できるため、今後法的措置を取る場合にも証拠となります。相談窓口を利用する報酬の未払いや損害賠償トラブルが発生した場合は、弁護士に介入してもらいましょう。弁護士はトラブルに対するアドバイスの提供をはじめ、クライアントとの交渉の代行や、必要に応じて法的手続きを進めてくれます。特に契約書がない場合は、フリーランスが1人で対応するのは難しく、労力も大きくなりやすいため、専門家を頼って早期解決を目指すことが重要です。「いきなり弁護士に直接相談するのはハードルが高い」という方は、フリーランスのトラブル解決をサポートする「フリーランス・トラブル110番」を利用するとよいでしょう。フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省から受託された第二東京弁護士会が運営している、無料の相談窓口です。契約書なしの状態で発注されるケースや、報酬の未払い、ハラスメントなど、フリーランスが抱えやすいトラブルに対し、専門の弁護士や相談員が、法律的なアドバイスやトラブル解決をサポートしています。▼関連記事:フリーランスは誰に相談すればいい?無料窓口やトラブル回避方法も紹介フリーランスが業務委託契約時に気をつけたいポイントフリーランスが業務委託契約を結ぶ際は、契約内容をしっかり確認し、トラブルリスクを最小限に抑えることが重要です。契約書がない、または曖昧な契約書を交わすことで、後々トラブルに発展する可能性があります。ここでは、業務委託契約を結ぶ際に注意すべきポイントを紹介します。ポイントを押さえてトラブルリスクを防ぎましょう。▼関連記事:フリーランスが結ぶ業務委託契約とは?契約時のチェックポイントを解説短期や小規模の業務委託案件でも必ず契約書を作成する受注した業務委託の案件が、たとえ短期的な案件だったり、小規模な仕事だったりしても、必ず契約書を作成しましょう。「すぐ終わる仕事だから、契約書を結ぶのが手間」などという安直な理由で仕事を受けると、先述したようなトラブルに見舞われるリスクがあります。口頭のみで案件が進みそうな場合は、クライアントに連絡して契約書を作成してほしい旨を伝えましょう。その際、フリーランス新法の施行により、書面またはメールなどで条件を明示することが必須になったことに触れると、角が立たないでしょう。【クライアントへのメール例】〇〇株式会社〇〇様お世話になっております。〇〇です。この度は【プロジェクト名】のご依頼をいただき、誠にありがとうございます。お忙しいところ大変恐縮ですが、今後の業務を円滑に進められるよう、契約書の作成をお願いできますと幸いです。2024年11月に施行されたフリーランス新法により、業務委託の際には書面またはメールなどで契約条件の明確化が求められます。つきましては、お手すきの際に本案件に関する契約書を作成いただけますでしょうか。もしご不明点などがあれば、遠慮なくご連絡くださいませ。引き続きよろしくお願いいたします。それでも契約書を作成してもらえない場合は、自分で作成する手もあります。フリーランス協会が提供している「かんたん!契約書メーカー」のように、フリーランス向けの契約書作成サービスもあるので、気になる方はチェックしてみてくださいね。フリーランスにとって不利な内容になっていないかを確認する契約書の内容によっては、フリーランスが過剰な責任を負わされることや、報酬が不当に低く設定される可能性があります。契約書は法的な効力を持つため、一度サインや押印をすると基本的にその内容を守らなければなりません。そのため、業務委託契約書が送付されたら、内容が自分にとって不利になっていないか細部まで確認することが重要です。契約書を確認するのは、難しいと感じるかもしれませんが、分からない法律用語は調べてすべての条項にしっかり目を通し、納得いく内容であることを確認しましょう。確認するべき項目としては以下が挙げられます。項目確認するべき内容業務内容業務の範囲や内容が具体的に記載されているか曖昧な表現(そのほかの業務など)はないか範囲外の業務を指示された場合の対応の有無が記載されているか報酬・支払い条件報酬額や支払い期日、支払い遅延時の対応や遅延損害金についての記載があるか成果物の完成後に報酬が支払われる場合「成果物」の基準が明確か契約期間と更新条件契約期間の終了時期が明確か自動更新の場合はその更新条件や解除方法が記載されているか秘密保持義務(NDA)必要以上に厳しい守秘義務を課されていないか契約終了後に適用される期間や内容が明記されているか損害賠償や責任範囲万が一トラブルが発生した際、自分が負う責任が過剰でないか賠償額の上限や例外事項が設定されているか著作権・成果物の取り扱い成果物の権利が誰に帰属するか自分がポートフォリオなどで利用できるか契約解除条件自分や相手が契約を解除できる条件が記載されているか突然の解除による報酬未払いを防ぐための記述があるか契約解除の際の賠償についての記載があるか適宜修正依頼を出す業務委託契約書をしっかり確認し、もし自分にとって不利な内容がある場合は、遠慮せずにクライアントに修正を依頼し、納得できる内容で契約を結びましょう。もし、自分1人で確認や対応するのが難しいと感じる場合は、先述したフリーランス・トラブル110番などに相談するのも1つの手です。【クライアントへのメール例】件名:契約書に関する修正のお願い〇〇様いつもお世話になっております。〇〇です。ご提供いただいた契約書につきまして、1点修正をお願いしたい点がございます。詳細は以下の通りです。■業務範囲につきまして「〇〇、そのほか付随する業務」契約書には、付随する業務に関する記述がございますが、業務範囲を明確にしていただけますと大変助かります。修正案をご検討いただき、問題がなければ改めて契約書を更新していただければと思います。お手数をおかけしますが、何卒よろしくお願いいたします。追加業務の話が出たら料金や業務範囲などの証跡を残す業務委託契約書を交わした後に、クライアントから追加業務の相談を受ける場合もあるでしょう。その場合は、料金や業務範囲を必ず明確にし、証跡を残すことが重要です。追加業務に関して口頭で合意するだけでは、後になって「言った言わない」のトラブルに発展し、不利益を被る可能性があります。リスクを避けるためにも、クライアントから追加業務の依頼があった際には、必ず契約書を追加したり、メールや文書で合意内容を明文化したりすることが大切です。フリーランス向けの保険に加入するのも1つの手上記では、実際にトラブルになった場合の対処法を解説しましたが、自分1人で対応するとなると精神的な負担や金銭的な負担も重くのしかかります。この段落では、そのような負担を軽減できるフリーランス向けの保険やサービスを2つピックアップします。それぞれの特徴やおすすめのポイントを紹介するので、有事の備えとして参考にしてください。▼関連記事:フリーランスも利用できる福利厚生サービス13選!選ぶポイントや注意点を解説フリーランス協会「ベネフィットプラン」フリーランス協会が提供する「ベネフィットプラン(優待特典)」は、フリーランスが安心して働ける環境をサポートする福利厚生サービスです。フリーランス特有の不安を解消できる保険や、生活や仕事で役立つ優待サービスを受けられます。ベネフィットプランには複数の保険があります。その中でもトラブルに備えたものとしては、以下の2つが挙げられます。賠償責任保険フリーランスの業務中に発生した事故やトラブル(納品物の遅延やデータ漏洩など)などを補償報酬トラブル弁護士費用保険「フリーガル」報酬の未払いや買いたたきといった報酬トラブル時における弁護士費用の補償や、解決に向けたサポートなどを提供上記2つのサービスは、ベネフィットプランに加入することで自動で付帯されます。ベネフィットプランの年会費は12,000円です。フリーナンス「あんしん補償」GMOクリエイターズネットワークが提供する「フリーナンスあんしん補償」は、情報漏洩や納品物の瑕疵、納期遅延などフリーランスが業務上起こし得るトラブルやミス、事故に対して最大5,000万円まで補償するサービスです。例えば、業務の責任範囲が曖昧で、トラブル発生時に過剰な責任を負わされてしまった場合などにも、補償対象となる可能性があります。フリーナンスに会員登録(無料)すると、無料で利用できます。【体験談】契約書なしで業務委託案件を受けた筆者のヒヤリハット&トラブル続いては、以前、契約書なしで業務委託案件を受けた際に筆者がヒヤッとした経験を2つ紹介します。1つは支払いの遅延、もう1つは報酬の不当な減額で、幸いにもいずれも大きなトラブルには発展しませんでした。フリーランスは、契約やトラブルの対応まで自分で行う必要があります。先述した事例と合わせて多様なトラブル事例を知っておき、対策に役立ててもらえれば幸いです。①契約書一切なしで進めた案件で支払いが2ヶ月以上遅延1点目のトラブルは、筆者がフリーランスの駆け出し当初に受注していた書籍の編集案件における支払い遅延です。業務委託契約書を交わさず、メールでの証跡もなく、口頭のみでの発注連絡でした。業務を請け負い始めて間もなくは、業務連絡や請求対応を丁寧に対応してもらっていました。しかし、徐々にクライアントからの連絡が疎かになっていったのです。最終原稿を納品して請求に関する連絡をしたものの、クライアントから受領連絡や支払いに関する連絡が何もなく、2ヶ月以上が経過しました。「校了間近で忙しいのかもしれない」「何か仕上がりに不備があって迷惑をかけたのでは?」など思い、自分から何度も連絡をするのを躊躇していましたが、立ち寄った書店で無事書籍が出版されたことを知りました。掲載内容は、私が納品した原稿ほとんどそのままで、質に問題もなかったのだと安心したのも覚えています。そこで、意を決してクライアントに催促のメールを入れました。結局、「失念していた」とのことで、口頭で契約していた金額分を全額支払ってもらえましたが、報酬金額が大きかったこともあり、業務委託契約書を結んでいなかったことに肝を冷やした事例です。▼関連記事:業務委託で給料・報酬の未払い被害に遭ったら?フリーランスが今すぐすべき対処法や法的手段を解説②契約書で定めていなかった追加業務にまつわる不当な減額2点目のトラブルは、追加業務に関して契約書を交わしていなかったために、不当な減額にあった事例です。とあるメディアの立ち上げで、編集とライターディレクション、校正の業務委託契約を締結しました。クライアントとの定例ミーティングを重ねる中で、「入稿業務をやってもらいたい」と打診されて承諾しました。その際、クライアントから「入稿作業は料金を上乗せする」と提案してもらえましたが、証跡を残し忘れたうえに、「いつも真摯に対応してくれているクライアントだから大丈夫だろう」と、契約書の更新も後回しにしていました。当時、クライアント側でCMSの準備中だったため、先に原稿を納品し、原稿作成にかかる報酬のみもらっていました。しかし、入稿作業に着手する前に、諸事情でこちらから(筆者から)業務委託契約の解消を依頼。クライアントも承諾してくれ、契約解消が決定したものの、「入稿作業をしていないのだから、今まで支払った原稿から入稿料金分として、3分の1の金額を差し引いて返してください」「今月の請求でも、同様に減額してください」などとの連絡が来て、入稿料金は別で取り扱うという口約束を翻されたのです。契約書を結び直していなかったことを後悔しましたが、フリーランス新法の施行が間近だったこともあり、「そのような取引・主張はフリーランス新法違反になりますよ」と指摘し、減額せず契約書で結んだ通りの金額で請求書を送付しました。クライアントからの返事はなかったため、振り込み日まで心配ではありましたが、無事報酬は請求書の金額通りに振り込まれました。フリーランスにとって、クライアントから「この業務もぜひお願いしたい」と打診されることは、信頼を勝ち得たことであり、とても嬉しいことです。しかし、追加依頼をもらった後にも抜け目なく契約書を更新することは重要なのだと痛感しました。契約書なしの業務委託を辞めたい場合はどうするべき?最後に、契約書なしの業務委託案件を辞めたい場合に、フリーランス側からどのように対応するべきかを解説します。契約書がない場合に、辞める手順をどう踏むべきか不安に感じるフリーランスも多いかもしれませんが、対応次第ではトラブルを回避しつつスムーズに辞めることが可能です。契約内容を確認するまずは、請け負った案件の契約内容を確認しましょう。契約書がない場合でも、口頭やメールでやり取りした内容が契約として認められることがあります。確認するべき内容としては、報酬額や業務範囲、業務期間、納期などが挙げられます。メールやチャットなどでのやり取りや、請求書、納品記録を確認しましょう。なお、上記の記録は証拠にもなるため、しばらくは削除せず保管しておくことがおすすめです。辞めるタイミングを見極める契約書を交わしていないからといって、無責任に業務を放棄すると、損害賠償請求などが発生する可能性があります。辞めるタイミングは慎重に検討しましょう。特に、現在進行中の案件に携わっている場合で、納品や締め切りが間近のタイミングで辞めるとクライアントに損害を与える可能性があり、トラブルにつながるリスクが高くなります。まずは、納品や作業途中の状態、スケジュールなどを明確にし、クライアントにできるだけ影響が少ないタイミングを見極めましょう。なお、契約終了までの期日にできるだけ余裕をもつことも重要です。可能な限り、そして無理のない範囲で引き継ぎや成果物の提供を検討すると、クライアントとのトラブルを最小限に抑えられます。クライアントに辞めたい意思を伝える辞めたい意思をクライアントに伝える際は、口頭ではなくメールや文書などで記録を残しましょう。メールや書面には、辞める理由や契約終了希望日を明記します。なお、相手との関係を悪化させないために、辞める理由は「健康問題」や「ほかの仕事の兼ね合い」などできるだけ納得感のある理由を伝えるとよいでしょう。【クライアントへのメール例】件名:業務終了に関するご相談〇〇様いつもお世話になっております。現在進めております案件についてですが、諸事情により〇月〇日をもって業務委託契約を終了させていただきたく存じます。契約終了を希望する理由は、体調の問題によるものです。契約書を交わさずに案件をお請けしてまいりましたが、もし何か必要な手続きなどがございましたらご教示いただけますと幸いです。なお、現在進行中の業務については、〇日までに完了させる予定であり、引き継ぎが必要な場合は可能な限りサポートさせていただきます。急なお願いとなりご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。ご不明点やご相談事項がございましたら、遠慮なくご連絡ください。引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。辞める意思を伝えた後は、クライアントから業務終了までの仕事内容や必要な引き継ぎなどをしっかり聞き取り、双方納得して契約を終了できるよう心がけましょう。万が一トラブルが発生した場合の対処法は?少数派ではありますが、辞める意思を伝えたことでクライアントが損害賠償を主張するなどのトラブルとなる可能性もあります。その場合は、業務内容や業務の進捗状況などに関するクライアントとのやり取りを証拠として保管し、弁護士やフリーランス・トラブル110番などの専門機関に相談しましょう。未払い報酬がある場合は、少額訴訟で解決を目指す方法もあります。対象は60万円以下の金銭請求に限定されますが、通常1回の期日で審理が終わるため、早期に未払い報酬を解決できます。まとめ契約書なしの状態で業務委託の案件を請け負った経験のあるフリーランスは多いといわれています。しかし、契約書なしのまま業務委託の仕事を受けると、報酬や業務の範囲などでクライアントと認識のズレが生じやすく、報酬トラブルやクライアントとの信頼関係に悪影響が生じる可能性があります。2024年11月に施行されたフリーランス新法では、発注事業者側に業務委託案件の条件を明確化することが義務付けられました。しかし、フリーランスが自分の身を守るためには、契約書周りはクライアント任せにするのではなく、自分で必要な知識を身につけて対策を練ることが重要です。契約書なしでフリーランスの仕事を請け負うことのリスクや、生じうるトラブル事例をしっかり把握し、トラブルリスクを最小限に抑えてくださいね。