自宅で仕事を行うフリーランスは、通勤時間を削減できたり、家賃や事務所の維持費といったコストを抑えたりすることができます。しかし、自宅での作業は、仕事とプライベートの境界線が曖昧になるなど、仕事が妨げられることも少なくありません。作業効率を高めるために、専用の事務所を借りることを検討している人も多いのではないでしょうか。事務所の種類は、シェアオフィスやコワーキングスペースなど多岐にわたり、それぞれに特徴や利用が向いている人、かかる費用などが大きく異なります。自分に合った事務所を選ばなければ、かえって事業にマイナスに働く可能性があるため、選び方をしっかり把握する必要があります。この記事では、フリーランスが事務所を借りるメリットやデメリットを解説するとともに、事務所の種類や借りる際の注意点を詳しく紹介します。事務所を構えることで信頼性が上がり、仕事の生産性が上がる可能性があるので、自分に合った事務所探しの探しの参考にしてください。フリーランスはどこで仕事をしている?一般的にフリーランスは、働く場所や時間が縛られないため、以下のような場所が仕事場となります。場所メリットデメリット自宅・維持費や交通費が不要・通勤時間がかからない・プライベートとの両立がしやすい・プライベートと仕事の境界が曖昧になりやすい・集中力が欠けやすい・孤独感が生じやすいカフェ・無料でWi-Fiを利用できることが多い・場所や飲み物を変えることで気分転換を図れる・長時間滞在するとコストがかさむ・電源がないカフェもあるため、長時間の作業には向かないコワーキングスペース・専用のデスクや高速Wi-Fi、会議室などの設備が整っている・集中して仕事に取り組みやすい・ほかのフリーランスや起業家とのネットワークができやすい・月額や時間単位の利用料金がかかるレンタルオフィス・シェアオフィス・住所や電話番号を登録できる・クライアントに信頼を得やすい・固定費用がかかる取引先のオフィス・取引先と顔を合わせてコミュニケーションが図れる・作業環境が整っている・通勤時間がかかる・自分のペースで仕事を進めるのが難しくなるマイナビが2024年8月に実施した「フリーランスの意識・就業実態調査2024年版」によると、フリーランスの仕事場所で最も多いのは「自宅」で、82.5%に上ります。「事務所を借りる」と答えた割合は9.3%に留まりますが、特にコンサルタント(30.0%)や企画系事務(18.0%)、建築・施工系の職種(16.7%)で多く見られました。バーチャルオフィスを展開する「バーチャルオフィス1」が行った調査では、事務所などを借りているフリーランス(同調査では13.1%)が事務所を借りる理由としては、「仕事に集中できるから」「プライベートと仕事を区別したいから/メリハリをつけて仕事をしたいから」などと、仕事とプライベートをしっかり区別したいことが主に挙がっています。▼関連記事:フリーランスはどこで仕事している?仕事場選びの際に知っておきたいことを紹介フリーランスが借りられる事務所の種類一口に事務所といっても、多様な種類があります。種類によって、大きくコストを抑えられるものや、仕事に集中しやすい環境が整備されているものなど、メリットが異なるので、それぞれの特徴を把握しましょう。コワーキングスペースコワーキングスペースとは、複数の人が共有して利用できるワークスペースです。インターネット環境や会議室、個室、フリーアドレスのデスク、プリンター、ラウンジなど、仕事に必要な設備が整っています。利用者は共通のワークスペースや設備をシェアしながら、独立して作業できます。時間単位のドロップインや、週末のみの利用、月額プランなど、多様な利用プランが揃うため、働き方に合わせて選択できます。また、多くのコワーキングスペースは、イベントやワークショップ、交流会を定期的に開催しており、利用者同士で情報交換やビジネスチャンスを生む場としても活用されています。主なサービス・インターネット環境・会議室・ミーティングルーム・電話ブース・カフェラウンジ(ドリンクサービス)・イベント・交流会・郵便物の受け取り・住所利用おすすめの人・作業環境を変えたい人・ほかのフリーランスや起業家などと交流の場を探している人相場・月額プラン:5,000~3万円程度/月・ドロップイン:300円程度~/時▼関連記事:【東京編】Web会議ができるコワーキングスペース14選!リモートワーカー必見!シェアオフィスシェアオフィスとは、複数の企業や個人が同じオフィススペースをシェアして利用するオフィスです。コワーキングスペースと似ていますが、シェアオフィスは一般的にほかの利用者とデスクはシェアせず、利用者ごとに専用のデスクやブースが割り当てられます。そのため、プライバシーも保たれやすく、落ち着いて仕事ができるでしょう。また、事務所の住所を法人登記に利用できるシェアオフィスも多いです。主なサービス・インターネット環境・会議室・ミーティングルーム・電話ブース・カフェラウンジ(ドリンクサービス)・電話代行・郵便物の受け取り・法人登記おすすめの人・職場のような環境で働きたい人・他者との関わりより作業に集中できる環境を求める人相場・都心:5~20万円/月・地方や郊外:3~7万円/月・ドロップイン:1,000〜3,000円程度/時レンタルオフィスレンタルオフィスとは、個人や企業が専用のオフィススペースをレンタルできる施設です。家具やインターネット、電話回線など、事業に必要な設備が備わっている点が特徴です。他人とシェアせず、完全に自分専用のスペースが提供されるため、個室内にPCやモニターを据え置きすることも可能です。セキュリティやプライバシーが重視されていることから、機密性の高い情報を扱うフリーランスにも向いています。主なサービス・インターネット環境・会議室・ミーティングルーム・電話ブース・カフェラウンジ(ドリンクサービス)・受付・来客対応・郵便物の受け取り・法人登記おすすめの人・機密性の高い業務を行う人・法人登記を検討している人・自分専用の事業用個室を得たい人相場・都心:10~20万円/月・地方や郊外:5~10万円/月・短期利用プラン:5,000円程度/日バーチャルオフィスバーチャルオフィスとは、これまで紹介してきた事務所とは異なり、物理的なオフィススペースを持たずに、事業用の住所や電話番号を借りることができるサービスです。Webサイトや名刺などに自宅の住所や電話番号などを公表したくないフリーランスに人気があります。事業用の住所や電話番号のレンタルのほか、電話対応、郵便物の受け取り・転送のサービスなどを提供するサービスもあります。大きな特徴は、作業空間を提供しないため、ほかのオフィスと比べて利用料金を大きく抑えられる点です。また、一部のバーチャルオフィスでは、オプションで会議室や打ち合わせスペースをレンタルすることも可能なため、取引先との打ち合わせにも対応できます。主なサービス・住所利用・法人登記・郵便物の受け取り・会議室・ミーティングルームおすすめの人・Webサイトや名刺などに自宅の住所を記載したくない人・一等地の住所を借りてブランディングを図りたい人相場・住所利用のみ:1,000~2,000円程度/月・法人登記込みプラン:3,000~5,000円/月▼関連記事:フリーランスがバーチャルオフィスを利用するメリットは?選び方やおすすめのサービスも紹介フリーランスが事務所を借りるメリット自宅で仕事をすると、通勤時間の削減やプライベートとの両立など、さまざまなメリットがあります。しかし、事務所を借りることで、仕事の生産性を上げることができたり、取引先から信用を得られたりするなど、ビジネス面で高い効果を見込めます。オンとオフの区別がつきやすく生活にメリハリが生まれる自宅で仕事を行うと、プライベートの境界が曖昧になりやすくなります。仕事中でも、家事や部屋の中にある趣味などに気を取られて作業が中断しやすくなったり、反対に「家にいるから」という安心感から、没頭し過ぎて夜遅くまで仕事をしてしまったりする場合もあるでしょう。一方、事務所を借りることで、仕事とプライベートの空間を物理的に分けることができ、自然とオンとオフの切り替えがしやすくなります。事務所に向かうことで、頭を仕事モードに切り替えて業務に集中できます。また、仕事が終わって事務所を離れることで、プライベートの時間に切り替えやすくなるため、仕事の後はリラックスしたり、趣味の時間を楽しんだりできるでしょう。物理的に仕事場を分けることで、心理的にも仕事時間とプライベート時間をしっかりと区別できるため、仕事の効率だけでなく、生活の質も上がる可能性があります。機密情報を守ることができるフリーランスが業務で扱う情報の中には、取引先の個人情報や機密情報が含まれていることもあります。自宅で仕事をしていると、家族や友人などが意図せず重要なデータを見てしまい、情報が漏洩するリスクがあります。一方で事務所では、一般的に高いセキュリティ対策が取られているため、情報漏洩や不正アクセスのリスクを減らせます。また、鍵や入退室管理がされているほか、事務所の種類によっては専用のデスクや書類の保管スペースを確保できるため、重要な書類やデータを安全に保管することができます。対面の打ち合わせなどをしやすくなるコロナ禍でオンライン会議が広く定着したものの、プロジェクトや取引先などによっては、「対面で相談しながら仕事を進めたい」といわれるケースもあるでしょう。自宅を事務所にしている場合は、状況によって自宅に招くことが難しい側面がありますが、事務所を借りることで、対面で打ち合わせができる専用スペースを確保できます。専用の会議室を使えると、取引先から「仕事環境を整えている」と信用を得ることもできます。経費計上の手間が省きやすくなる自宅兼事務所で仕事をしている場合は、家賃や光熱費、インターネット代などの一部を経費として計上できます。しかし、家事按分する必要があるため、計算や管理に一定の手間がかかります。事務所を借りると、事務所の家賃や光熱費、通信費など、業務に直接関連する支出はすべて経費として計上できるため、業務とプライベートの支出を分ける必要がなくなります。経費を正確に把握しやすく、税務申告の際もスムーズに進めることができるでしょう。フリーランスが事務所を借りるデメリット事務所を借りることで、ビジネス面で多様なメリットが生まれる一方、特に費用や時間の観点でデメリットが生じます。メリットとデメリット双方をしっかり踏まえて、事務所を借りることを検討しましょう。初期費用や維持費などの負担が大きい事務所を借りるには、敷金や礼金、仲介手数料はもちろんのこと、家具の購入や設備の導入などで多額の初期費用がかかります。加えて、毎月の家賃や光熱費、インターネット通信費用などの維持費もかかります。こうした出費は、特に収入が安定しづらいフリーランスにとって大きな負担になる可能性があります。事務所の準備に時間がかかる事務所を借りると、物件探しから契約や引っ越し、内装の整備、必要な家具や設備の設置まで、準備に多くの時間を要します。そのため、準備期間に本来の業務をこなすことが難しくなる場合があります。また、スケジュール通り進まず、事務所を利用できるようになるまで相当の期間がかかる可能性もあります。プライベートとの両立が難しくなる自宅を仕事場にするフリーランスは、家と職場の区別が少ないため、プライベートと仕事を両立しやすい側面があります。しかし、事務所を持つことで会社員と同様に通勤時間が発生するため、自宅で仕事をする場合と比べてプライベートの時間が削られます。また、家から離れて仕事をすることで、プライベートの荷物の受け取りや、子どもの急な体調不良などのように、突発的な出来事に対して短時間で臨機応変に対応することが難しくなります。事務所を借りるのがおすすめのフリーランスは?ここでは、業務上や契約上の都合を踏まえ、事務所を借りたほうがよいフリーランスの特徴を解説します。事務所を借りることで、公私をしっかり分けられるだけでなく、効率アップを目指したり契約違反を避けたりできるので、十分確認しましょう。ECサイトを運営しているフリーランスECサイトを運営している場合は、事務所を借りることで作業効率の向上や、プライバシーの保護などのメリットが生まれます。ECサイトを運営する際は、商品の在庫を確保し、出荷準備を整える必要があります。自宅を事務所にすると、スペースが足りず商品を十分な量に確保するのが難しいほか、梱包や出荷作業のスペースも不足する可能性が高くなります。事務所を借りれば、在庫用のスペースを確保できるうえに、専用の作業スペースを設けられるため、作業効率が上がるしょう。事業が成長し、スタッフを雇うことを検討するようになる際も、自宅よりも事務所があった方が働く環境を整えやすくなります。また、ECサイトを運営する際は、特定商取引法に基づいて事業者の住所や電話番号などを公開する必要があります。自宅を事務所にすると、個人情報が公開されることになるためプライバシーが心配ですが、事務所を借りることでプライバシーを保護できます。賃貸契約で自宅を事務所にできない人賃貸契約の都合で自宅を事務所として活用できないフリーランスは、事務所を借りることで規約違反やトラブルを避けることができます。開業届に賃貸物件の住所を書いても、貸主である大家にバレる可能性はほとんどありません。しかし、来客や宅配による騒音やゴミなどから、ビジネス利用がバレる可能性はゼロではないです。トラブルを避けるためにも、賃貸物件に住んでいる人は事務所を借りることを検討するとよいでしょう。フリーランスが事務所を選ぶ際に意識したいポイント続いては、実際にフリーランスが事務所を選ぶ際に押さえておきたいポイントを、立地・コスト・法人登記の3つの観点から説明します。いずれも、仕事を円滑に進める事務所選びに欠かせない要素です。しっかり把握して物件探しの際の検討材料にしてください。立地のよさ立地は、取引先との打ち合わせのしやすさや、通勤・移動、利便性、モチベーションの観点で仕事のしやすさに大きく影響します。主要駅から近い場所に事務所を構えれば、クライアントが訪問しやすく、打ち合わせや商談がスムーズに行えるでしょう。また、都市部のビジネス街に近い立地であれば、事業の信頼性をアピールしやすくなる可能性があります。そのほか、立地の選び方には以下の観点が挙げられます。①自宅からアクセスがよい場所を選ぶ時間を有効に使えて業務効率が上がる②交通の便がよい場所を選ぶ営業など外出する機会が多いほど、移動がスムーズになる③周辺に施設が充実している場所を選ぶ飲食店や銀行、郵便局などの施設が充実していれば業務がスムーズに進みやすい④ビジネス街を選ぶ周囲に働いている人が多い環境は、刺激されて仕事へのモチベーションが高まりやすいコスト(予算)事務所を構えると、収入に関わらず家賃や共益費、光熱費などのランニングコストが毎月発生します。金額も大きく、収益に大きく影響するため、予算に見合った物件を選ぶことが大切です。特に、収入が安定しにくいフリーランスの場合は、初期費用や月々の固定費が予算を超えないように慎重に検討する必要があります。事務所の維持にかかる費用は経費計上できるため、例えば「家賃は月々の収入の30%まで」などという目安はありません。しかし、だからといって家賃を高く設定するとその分手取りが圧迫されてしまいます。上記で解説した事務所の種類を参考に、自分が本当に必要なサービスは何かを検討し、余分なコストを抑えましょう。法人登記の可否物件によっては法人登記が禁止されているところもあるため、契約前にしっかり確認することが大切です。法人登記が可能な物件であれば、名刺やWebサイト、契約書に記載できる事業所の住所として利用できます。クライアントや取引先に対して正式な住所を提示できるため、事業の信頼性が高まるでしょう。また、すぐには法人化を検討していなくても、法人登記可能な事務所を使用することで、将来事業が成長して法人化を検討するようになった際、スムーズに法人に移行しやすくなります。フリーランスが事務所を借りる際の注意点フリーランスが実際に事務所を借りる際は、審査や契約面で注意しておきたいポイントがあります。スムーズに契約するために、事前にある程度の準備が必要になる可能性があるため、以下で説明するポイントを押さえて、必要な準備を整えましょう。入居審査に通過しづらい可能性があるフリーランスは、会社員や法人と比べて収入が不安定になりやすいことから、家賃の支払いが不安定になるリスクがあるとみなされて、入居審査に通過しづらい場合があります。入居審査では、収入証明や確定申告書の提出が求められることが多く、一定の収入を証明できない場合は、審査に通らない可能性があります。事前に十分な収入証明を用意するなどの対策を取りましょう。賃貸物件の契約には連帯保証人の用意が必要フリーランスが賃貸事務所を借りる際には、一般的に連帯保証人が求められます。連帯保証人とは、借り手が家賃を支払えなくなった場合に、代わりに支払いの責任を負う人です。不動産会社にとっては、連帯保証人がいることで家賃の回収リスクを減らせるため、保証人の存在が重要になります。保証人を見つけることが難しい場合や、保証人を頼める親族や知人がいない場合は、保証会社を利用するとよいでしょう。ただし、保証会社を利用する際も審査がある点には注意が必要です。一般的に、コワーキングスペースは保証人が不要で、シェアオフィスやレンタルオフィスは物件によって保証人の要否が異なります。気になる物件がある場合は事前に調べて準備を整えましょう。▼関連記事:【体験談】フリーランスは賃貸物件の契約が難しい?入居審査通過のコツまとめフリーランスは働く場所を自由に選べるため、自宅やカフェなどで仕事を進めることができます。一方で、周囲の環境が気になり、仕事に集中できないことも多いでしょう。事務所を借りることで、仕事とプライベートとの区切りがつくため、生活にメリハリが生まれます。また、仕事に集中しやすくなったり、スムーズに法人化しやすくなったりなど多様なメリットがあります。ただし、一定の初期費用や維持費、準備期間がかかる点などには注意が必要です。事務所にも多様な種類があるため、それぞれのメリット・デメリットも把握して自分に合った事務所を選びましょう。