フリーランスにとって、老後の資金対策は大きな課題の1つでしょう。厚生年金に加入する会社員と比べると、国民年金だけに加入しているフリーランスは社会保障が手薄です。「人生100年時代」といわれる昨今、老後の生活に向けて多額の貯蓄が必要だと主張する報道も多く見られます。そのような中で、フリーランスが老後資金対策として検討したいのが付加年金です。付加年金は、毎月少額の保険料を追加することで、将来受け取れる年金額を増やせる制度で、フリーランスにとって大きなメリットがあります。この記事では、付加年金の仕組みをはじめ、メリットやデメリットを分かりやすく解説したうえで、付加年金によってどれくらい得をするのかも紹介します。また、近しい制度である「国民年金基金」との違いにもフォーカスし、老後資金対策としてよりどちらがよいかも比較します。自分に合った年金プランを検討する参考にしてください。付加年金とは?フリーランスが押さえたいポイント付加年金とは、国民年金(基礎年金)の保険料に上乗せして毎月400円を支払うことで、将来受け取る年金額を増やせる制度です。加入できる期間は、年金と同じ20歳から原則60歳までの最大40年間で、受給できるのも年金と同じ65歳からです。経済的負担を抑えながら、将来に備えられる大きなメリットがあります。一方で、対象者が限られているので、まずは付加年金の概要を正しく理解しましょう。付加年金の対象者日本に住む20歳以上60歳未満の人は、全員国民年金への加入が義務付けられており、加入者の職業などによって、第1号被保険者から第3号被保険者に区分されています。このうち、付加年金を利用できる対象者は、フリーランスや自営業が該当する「国民年金第1号被保険者」と、任意加入被保険者*です。*60歳を超えている人や海外に住む日本人などのように、本来は国民年金に加入する義務がないものの、将来受け取る年金額を増やすために国民年金に加入する人第1号被保険者20歳以上60歳未満の自営業者や農業者、学生、無職の人など第2号被保険者70歳未満の会社員や公務員など厚生年金の加入者第3号被保険者第2号被保険者に扶養されている、20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満であり、かつ配偶者の年収の2分の1未満の人)厚生年金を支払っている会社員や、配偶者の扶養に入っている専業主婦(夫)も国民年金の加入者ではありますが、第1号ではないためいずれも付加年金の対象外です。また、国民年金の保険料が免除されている場合は、付加年金に加入できません。付加年金の保険料現役世代で支払う付加年金の保険料は毎月400円で、将来もらえる年金の年額は「200円×付加年金を納めた月数」です。例えば、20歳から60歳まで付加年金に加入する場合は、付加年金を支払う月は480ヶ月(12ヶ月×40年)となります。この場合では、65歳以降になると毎年9万6,000円(200円×480ヶ月)受け取れる計算です。なお、国民年金は納めていない分をさかのぼって納付できますが、付加年金は納付していない過去分をさかのぼることはできません*。そのため、付加年金は早めに加入したほうが、将来もらえる年金額が増えてお得になります。*すでに付加年金に加入している人のうち、納付期限を過ぎて未納となっている場合は、納付期限から2年間は過去の付加保険料を納められるフリーランスが付加年金に加入するメリットフリーランスは、会社員と比べて将来受給できる年金が少ないため、できるだけ出費を抑えて貯蓄に回したいと考えている人は多いでしょう。この段落では、フリーランスが付加年金に加入することで得られるメリットを4点紹介します。加入を検討する際の判断材料にしてみてください。年金の受給額が増える付加年金に加入する最大のメリットは、将来受け取れる年金の受給額が増えることです。加えて、年金の受給開始から2年で元が取れます。先述した通り、毎月400円を国民年金保険料に上乗せして支払うことで、将来の年金に追加で「200円×支払った月数」が受け取れます。例えば、40歳から60歳まで20年間(240ヶ月)付加保険料を支払った場合では、65歳からは200円×240ヶ月=毎年4万8,000円増加します。現役世代で支払う付加年金分の総額は、400円×240ヶ月で9万6,000円です。老後に上乗せされる年金は毎年4万8,000円なので、わずか2年で支払った分の元が取れる計算になります。2年目以降は、さらに付加年金分の増額分を上乗せして受け取れるため、長く受給するほどお得感が増します。年金を繰り下げ受給すると受取額を増やせる年金の繰り下げ受給とは、年金の受給開始年齢を通常の65歳ではなく、66歳から75歳の間に遅らせることで、受け取れる年金額を増やす制度です。1ヶ月遅らせるごとに年金額が0.7%増えます。1年遅らせると8.4%、最大で75歳まで遅らせた場合は42%増額する仕組みです。なお、付加年金も基礎年金と同じ割合で増額され、増額率は一生変わりません。例えば、付加年金を20年間支払い、年間4万8,000円増える人が年金受給年齢を70歳まで繰り下げれば、付加年金額は42%増の6万8,160円になります。社会保険料の控除対象となる付加年金の保険料は、国民年金の保険料と同様、全額を社会保険料控除として申告できます。所得税や住民税の負担を軽減しつつ、将来の年金額を増やすことができるため、フリーランスにとっては効率のよい制度といえるでしょう。途中で脱退・再加入が柔軟にできる付加年金は、脱退や再加入が柔軟にできます。付加年金を途中で脱退した場合でも、過去に支払った期間の保険料分は上乗せして将来受け取ることができます。毎月かかる保険料は400円と少額ではありますが、少しでも支出を抑えたい事態になった際に対応できるのは、フリーランスにとっては心強いでしょう。フリーランスが付加年金に加入するデメリット・注意点付加年金は現役時代の経済的負担を抑えつつ、2年で納めた保険料分の元が取れるため、社会保障が手薄なフリーランスの味方です。しかし、実は必ずしも全員が得をするというわけではありません。ここでは、付加年金の加入にあたって押さえておきたいデメリットや注意点を解説します。物価スライドがない年金には、物価などの変動に応じて年金額が増額・減額する「物価スライド」という制度があり、毎年4月に改定されています。2024年度の国民年金額は、物価や賃金の伸びを反映し、前年度より2.7%(1,750円)引き上げられました。しかし、付加年金には物価スライドがなく、生涯定額となります。つまり、将来物価が上昇したとしても、年金支給額は変わらないため、インフレ環境では相対的に価値が下がりやすいのです。インフレのリスクを考慮する際には、付加年金だけでなく、ほかの資産や年金制度を併用して備えることが重要です。年金の受給開始年齢から2年未満に亡くなる場合は損となる年金を受給し始めて間もなく亡くなっても、これまで納付した付加年金の保険料は返金されません。例えば、20年間付加年金に加入していた人が、年金の受給開始から1年(66歳)で亡くなった場合、支払った保険料は9万6,000円なのに対し、受け取れる付加年金は4万8,000円分と、支払った保険料の半分にしかなりません。つまり、付加年金は長生きして受け取り続けるほどメリットがある制度であり、67歳未満で亡くなってしまうと支払った保険料の元が取れないというリスクがあることに留意が必要です。付加年金は早めに加入するのがおすすめ付加年金は、早く加入するほど支払い月数が増えるため、将来受け取れる年金額も増えてお得になります。ここでは、早く加入することでどれくらいの恩恵を受けられるのかを分かりやすく説明します。過去分をさかのぼって納められない付加年金は、加入した月から保険料の支払いが始まり、納付した期間分だけ年金額に上乗せされる仕組みです。つまり、国民年金のように過去分の未納分の保険料をさかのぼって収めることはできません。過去分の補填ができない分、将来の受給額を増やすには、早めに加入してコツコツ支払うことが有効です。加入年齢が若いほど老後の恩恵が大きい付加年金は、加入する年齢が若いほど老後に受けられる恩恵が大きくなります。例えば、20歳から60歳まで付加年金に加入した人が100歳まで生きる場合では、トータルで約316万円もお得になります。ちなみに50歳で加入した人と比べると、100歳時点で230万円以上得をする計算です。加入年齢別にどれくらい得するか、一覧で見てみましょう。【20歳で付加年金に加入した場合】総納付額:400円×40年(480ヶ月)=19万2,000円将来上乗せされる年金の年額:200円×480ヶ月=9万6,000円70歳75歳80歳85歳90歳95歳100歳各年齢時点で上乗せされる金額48万円96万円144万円192万円240万円288万円336万円各年齢時点で得する額28万8,000円76万8,000円124万8,000円172万8,000円220万8,000円268万8,000円316万8,000円【30歳で付加年金に加入した場合】総納付額:400円×30年(360ヶ月)=14万4,000円将来上乗せされる年金の年額:200円×360ヶ月=7万2,000円70歳75歳80歳85歳90歳95歳100歳各年齢時点で上乗せされる金額36万円72万円108万円144万円180万円216万円252万円各年齢時点で得する額21万6,000円57万6,000円93万6,000円129万6,000円165万6,000円201万6,000円237万6,000円【40歳で付加年金に加入した場合】総納付額:400円×20年(240ヶ月)=9万6,000円将来上乗せされる年金の年額:200円×240ヶ月=4万8,000円70歳75歳80歳85歳90歳95歳100歳各年齢時点で上乗せされる金額24万円48万円72万円96万円120万円144万円168万円各年齢時点で得する額14万4,000円38万4,000円62万4,000円86万4,000円110万4,000円134万4,000円158万4,000円【50歳で付加年金に加入した場合】総納付額:400円×10年(120ヶ月)=4万8,000円将来上乗せされる年金の年額:200円×120ヶ月=2万4,000円70歳75歳80歳85歳90歳95歳100歳各年齢時点で上乗せされる金額12万円24万円36万円48万円60万円72万円84万円各年齢時点で得する額7万2,000円19万2,000円31万2,000円43万2,000円55万2,000円67万2,000円79万2,000円【年金に任意加入している60歳が65歳まで付加年金に加入した場合】総納付額:400円×5年(60ヶ月)=2万4,000円将来上乗せされる年金の年額:200円×60ヶ月=1万2,000円70歳75歳80歳85歳90歳95歳100歳各年齢時点で上乗せされる金額6万円12万円18万円24万円30万円36万円42万円各年齢時点で得する額3万6,000円9万6,000円15万6,000円21万6,000円27万6,000円33万6,000円39万6,000円付加年金の加入方法付加年金に加入するためには、お住まいの市区町村役場の年金担当窓口、または年金事務所の保険年金課で加入申請を行います。必要な書類は以下の通りです。国民年金付加保険料納付申出書年金手帳基礎年金番号通知書またはマイナンバーカード本人確認書類なお、付加年金はマイナポータルから電子申請もできます。電子申請は年金手帳などの添付書類が不要となるほか、窓口に出向く手間が省けるメリットもあります。付加年金と国民年金基金は併用できない付加年金と似たような制度に「国民年金基金」が挙げられます。国民年金基金も、将来受け取れる年金の受給額を増やすための制度ですが、付加年金と国民年金基金は併用できない仕組みとなっています。どちらの制度が自分に合っているかを検討するために、まずは国民年金基金の概要を把握しましょう。国民年金基金とは?国民年金基金とは、フリーランスなどの国民年金第1号被保険者が、年金受給額を増やすために任意で加入できる制度です。最大で月額6万8,000円の掛金を積み立てることができ、積み立てた期間に応じて将来受け取れる年金額を増やすことができます。会社員の厚生年金と同じく、年金を二階建て構造にできるのです。また、国民年金基金の掛金は全額、社会保険料控除の対象になります。掛金は増減させることができるため、年齢やライフプランに応じて柔軟に掛け金を調整することが可能ですが、基本的に途中解約はできない点には注意が必要です。▼関連記事:フリーランスは国民年金基金で老後に備える!iDeCo・付加年金との違いを解説併用できない理由国民年金基金には、老齢年金と遺族一時金の2種類があります。1口目で終身年金のA型かB型のいずれかに加入し、2口目以降で終身年金か確定年金のいずれかを選択して、掛金を運用していく仕組みです。この国民年金基金の1口目には、付加年金400円部分が含まれています。役割が重複してしまうため、国民年金基金と付加年金は併用できないのです。【比較】フリーランスは付加年金と国民年金基金どっちがいい?付加年金と国民年金基金はいずれも年金受給額を手厚くするための制度ですが、「自分にはどちらの方がよいのだろう?」と迷うフリーランスもいるでしょう。付加年金と国民年金基金それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。以下を参考に、自分のライフプランに応じて検討しましょう。メリットデメリット付加年金・少額の掛金で効率的に年金額を増やせる・支払った保険料は年金受給開始後2年で元を取れる・いつでも加入・解約できるため、収入や生活状況に応じて柔軟に対応しやすい・支給額が固定額なため、物価が上昇すると実質的な受給額の価値が目減りする・受給開始から2年未満で亡くなると、掛金よりも受給額が少なくなるため損をする国民年金基金・掛金額や加入期間に応じて、将来の受給額が決まっているため、計画的に老後資金を準備できる・付加年金よりも多く年金を受け取ることができる・基本的に一度加入すると、解約や口数の変更ができないため、経済状況が変わっても柔軟な対応が難しい・将来の受給額が固定されているため、物価が上昇すると実質的な受給額の価値が下がる可能性がある・加入者が希望する年金額に応じて掛金が増えるため、収入が不安定な人には負担になる可能性がある以上のことから、将来安定した年金を受け取り、生活に備えたい場合は国民年金基金がおすすめといえます。一方で、少額で効率よく年金を増やしたい場合は付加年金が向いているといえるでしょう。フリーランスが付加年金と合わせて活用したい資産形成制度付加年金は国民年金基金との併用はできませんが、iDeCoやつみたてNISAなどの資産形成制度との併用は可能です。ここではそれぞれの制度について説明するので、老後に備えた資産形成の参考にしてください。iDeCoiDeCoとは、日本の私的年金制度の1つです。月額5,000円からの掛金を毎月一定額を積み立てながら自分で運用商品を選び、資金形成を図ります。受け取れるのは原則60歳以降で、将来受け取れる金額は運用成績によって変わります。掛金は全額所得控除され、運用益は非課税となります。また、受給時にも退職所得控除や公的年金等控除が適用されるため、税制優遇が大きい点が特徴です。ただし、付加年金との併用する際は、付加年金の保険料分(400円)iDeCoの拠出限度額が毎月減額される点には注意が必要です。▼関連記事:フリーランスがiDeCoに加入するメリット・デメリットは?年代別シミュレーションも紹介新NISA新NISAとは、2018年に始まった「つみたてNISA」と従来の「一般NISA」を統合・拡充した少額投資非課税制度です。少額から投資を始め、長期にわたって積立投資を行う個人を広くサポートするために導入されました。新NISAでは、つみたてNISAで設けられていた非課税期間の期限が撤廃されたほか、「成長投資枠」と「つみたて投資枠」の2種類が設けられ、年間の非課税投資枠が従来の40万円から、360万円まで大幅に増えました。非課税枠で購入した投資は、売却するまで非課税で運用可能なため、長期的に資産形成を行いたい人に適しています。小規模企業共済小規模企業共済とは、中小企業基盤整備機構が運営している共済制度です。フリーランスや小規模企業の経営者、役員が退職または廃業する際に備えて、資金を積み立てることができます。掛金は毎月1,000円から7万円まで500円単位で自由に設定でき、全額が所得控除の対象となります。また、受け取る際には、事業所得より税金の負担が軽い「退職所得控除」が適用されるため、より節税効果が期待できます。▼関連記事:小規模企業共済とは?フリーランスの将来の備えと節税効果を解説年金の繰り下げ受給先述した通り、年金と付加年金は受給開始年齢を遅らせることで、将来受け取れる年金額を増やすことができます。繰り下げ増額率は以下の通りで、基礎年金も付加年金も同率で増額されます。請求時の年齢増額率66歳8.4%67歳16.8%68歳25.2%69歳33.6%70歳42.0%71歳50.4%72歳58.8%73歳67.2%74歳75.6%75歳84.0%例えば、付加年金を20年間支払い、老後に年間4万8,000円増える人が繰り下げ受給する場合は、以下のように年金が上乗せされます。66歳まで繰り下げ:8.4%増で、年間の上乗せ額は5万2,032円70歳まで繰り下げ:42%増で、年間の上乗せ額は6万8,160円75歳まで繰り下げ:84%増で、年間の上乗せ額は8万8,320円20年間支払った場合では、総納付額が9万6,000円のため、繰り下げ受給するほど元を取れる時期が短くなることが分かります。ただし、当然ですが繰り下げる分、収入がなくなる期間が長くなります。年金の繰り下げ受給は、ある程度資産に余裕のある人や、健康状態のよい人などに限られる点には注意が必要です。まとめ厚生労働省によると、フリーランスと会社員では老後に受け取れる年金額に倍以上の差が生じるといわれています。フリーランスは収入が不安定になりやすいため、老後の資産形成に不安を感じている人も多いかもしれません。その中で、付加年金をうまく活用できれば、少ない出費で将来に備えることができます。年金受給開始から2年で確実に元が取れる点や、柔軟に加入や脱退ができる点も、大きな安心材料になるでしょう。また、付加年金は早く加入すればするほど、老後に受けられる恩恵が大きくなります。国民年金基金とは併用できない点には注意が必要なため、双方のメリット・デメリットを把握しつつ、早めに決断するのがよいでしょう。必要に応じてほかの資産形成制度も併用して、少しずつ老後の生活に備えましょう。