出産を控えているフリーランスのなかには、「会社員のように産休は適用されるのだろうか?」「産休時に国から受けられる手当や優遇される制度はあるのか?」など、疑問や不安を抱いている人も多いでしょう。この記事では、フリーランスには産休制度が適用されるのかをはじめ、フリーランスでも受けられる出産や育児関連の手当・制度を分かりやすく解説します。さらに、産休に向けてクライアントとスムーズに調整するポイントをはじめ、フリーランスが出産に備えておきたいことも詳しく紹介します。できるうちに少しずつ備えることで、産後の不安を少しでも軽くしましょう。フリーランスに産休・育休は適用されない結論から先にお伝えすると、フリーランスに産休や育休制度は適用されません。産休は労働基準法、育休は育児・介護休業法に基づき、企業と雇用契約を結んでいる従業員が休業できる制度です。産休(産前産後休業)母体保護の観点で認められている休業制度産前6週間以内、産後8週間以内で取得できる育休(育児休業)子どもが生まれてから1歳になるまで休業できる制度子どもが保育園に入れない場合は最大2年まで延長できる育休中は、育児休業給付金も支給されるフリーランスは、特定の企業と雇用契約を結ばず、業務委託契約を結んで企業から仕事を請け負う働き方です。そのため、出産や育児を控えていても産休や育休が受けられません。つまり、フリーランスは出産や育児で仕事ができない期間の収入補償がなく、休業中の生活費や医療費の準備は、ある程度自分で賄う必要があります。フリーランス協会の調査によると、産後1ヶ月以内に仕事に復帰しているフリーランスは44.8%、2ヶ月以内に仕事に復帰している人は59.0%に上ります。また、「産前産後の所得補償」を望む声が95.5%も挙がっていることが判明しています。これらを踏まえると、フリーランスは産後の手当などが薄いことが要因で、産後間もなく仕事に復帰する人が多いと考えられるでしょう。▼関連記事:フリーランスは育休を利用できない?利用できる支援制度や出産・育児に備えるポイントも会社員とフリーランスでは約300万円の差が生じる同じ月収の会社員とフリーランスでも、出産や育児の際に支給されるお金と、かかる費用に300万円近い差が生じます。どれくらい違いが生じるのか、受け取れる手当と、出費の違いを一覧で見てみましょう。【条件】居住地:東京都世田谷区月収:30万円出産日:2024年12月1日休業期間:2024年10月20日(産前6週間)~2025年12月1日(子どもが1歳になるまで)※フリーランス・会社員いずれも各条件は同じと想定フリーランス会社員出産育児一時金+50万円+50万円出産手当金0円+約40万円(支給開始日以前12ヶ月間の標準報酬月額を平均した額)÷30日×3分の2育児休業給付金0円+約210万円育児休業開始から180日目までは休業開始前の賃金の67%、181日目以降は50%社会保険料-約53万円・国民健康保険(14ヶ月分):約2万6,000円/月・国民年金(10ヶ月分):1万6,980円/月0円産休・育休中は健康保険料や厚生年金保険料は免除合計-3万円+約300万円上記のケースでは、フリーランスは会社員と比べて、出産前後と育児で休業している際に300万円近くも収入が少ない、または支出が生じることが分かります。※受け取れる手当や支払わなければならない社会保険料の額は、お住まいの地域や年齢などによって異なるそのため、フリーランスは出産前後に享受できるものは漏れなく把握し、経済的な不安をできるだけ軽減させることが重要です。フリーランスが産休の代わりに活用できる手当や制度続いては、フリーランスが出産前後で受け取れる手当や、活用できる制度を解説します。厚生労働省が2022年に公表した資料によると、2020年度の平均出産費用(全施設)は46.7万円です。さらに、過去の出産費用の推移を見てみると、年間平均で約1%増加し続けていることが分かります。フリーランスは、出産にかかる経済的な負担を少しでも減らすために、活用できる手当や制度は漏れなく押さえておきましょう。妊婦健康診査の費用助成妊婦健診診査とは、妊婦や胎児の健康状態を確認するために行われる検査です。受診回数は14回程度が目安といわれています。妊婦健康診査は、健康保険が適用されないため、全額自己負担です。1回あたり5,000円前後で、特別な検査も追加すると1万円を超えることもあります。しかし、お住まいの自治体に妊娠届を提出すると、妊婦健康診査の受診券が交付され、費用の一部が助成されます。受診券の助成額は自治体によって異なり、東京都世田谷区(2024年度)の場合は、検診内容によって3,400円から1万980円まで助成されます。▼参考:世田谷区妊婦健康診査等・新生児聴覚検査 費用助成制度のご案内国民年金の保険料免除フリーランスが加入する国民年金の保険料は、1ヶ月あたり1万6,980円(2024年度)です。2019年4月から、出産予定日を含む月の前月から4ヶ月間は、国民年金の保険料納付が免除されるようになりました。例えば、2024年10月10日が出産予定日の場合は、出産予定日前月の9月から2025年1月までの4ヶ月分の保険料が免除されます。(多児妊娠の場合は6ヶ月免除)国民年金は、納めた保険料に応じて将来受け取れる年金額が決まるため、経済的な理由などで保険料が免除されると、通常は将来の年金額も減少します。しかし、出産のため保険料が免除されるケースでは、将来受け取れる年金の受給額に影響は生じません。なお、保険料が免除された期間も付加保険料は納付可能のため、将来のライフプランに応じて適宜納めるとよいでしょう。国民年金の免除を受けるためには、あらかじめ届出を行う必要があります。担当はお住まいの市区町村窓口で、出産予定日の6ヶ月前から受け付けています。▼関連記事:フリーランスが加入する国民年金とは?将来の年金受給額を増やす方法も解説出産育児一時金国民健康保険の被保険者、または被扶養者が出産したときは、出産育児一時金として一律50万円が支給されます。出産は健康保険の適用対象外となるため、分娩費用などは全額自己負担となります。出産育児一時金は、その負担を軽減させるための手当です。なお、出産育児一時金は健康保険法で定められている一時金で、どの健康保険に加入していても受け取ることができます。出産育児一時金を受け取るためには、お住まいの市区町村に申請書を提出する必要があります。出産子育て応援交付金出産子育て応援交付金とは、妊婦や子育て家庭に支援を行う市区町村に対して、国が交付する補助金です。自治体が行う支援内容は、伴走型相談支援と経済的支援の2本柱です。伴走型相談支援:0~2歳の子どもがいる家庭を対象に、妊娠~出産後に面談などを行う経済的支援:娠届出時と出生届出後に5万円相当ずつ、合計10万円相当を給付する経済的支援の名称や内容は各自治体によって異なります。東京都の場合は、「赤ちゃんファースト」という名称で事業を行っており、妊娠時に妊婦1人当たり5万円相当、出産後に児童1人あたり10万円相当(東京都独自で5万円相当を上乗せ)のポイントを支給しています。たまったポイントは、カタログから好きな商品やサービスと交換することができる仕組みです。妊娠届や出生届をお住まいの自治体の窓口に提出することで、支援を受けることができます。高額療養費制度高額療養費制度とは、医療費が一定額を超えた場合に、自己負担の限度額を超えた分が払い戻される制度です。正常分娩は病気やケガに該当しないため、公的医療保険が適用されず、高額療養費制度の対象外となります。しかし、異常分娩や帝王切開などは公的医療保険の適用対象となるため、手術と治療にかかった費用は高額療養費制度の対象となります。医療費の限度額は被保険者の年齢や所得によって異なり、所得に応じた自己負担限度額を超えた医療費が返還される仕組みです。医療費を支払った後に、加入する健康保険または国民健康保険に申請することで返還されます。医療費助成制度医療費助成制度は、子どもにかかる医療費のうち、保険診療の自己負担分が自治体から補助される制度です。0歳の乳幼児から使用できるため、出産後の経済的負担を軽減できます。助成内容や対象年齢などは自治体によって異なるため、住んでいる地域の制度を確認することが重要です。児童手当児童手当は、0歳から18歳までの子どもを育てている家庭に対し、偶数月に支給される手当です。子ども1人あたり、3歳未満は1万5,000円、3歳以上は1万円が支給されます。子どもが生まれたら、お住まいの市区町村に認定請求書を提出することで、申請した月の翌月分から支給されます。申請が遅れた分の手当は受け取れないため、手続きは早めに行いましょう。フリーランスが支給対象外となる出産関連の手当続いては、フリーランスには支給されない出産にまつわる手当を、3つ取り上げて解説します。支給されると勘違いしやすいものもあるため、支給対象外となるものをしっかり把握しましょう。出産手当金出産手当金は、健康保険に加入している会社員などが出産のために仕事を休む際に支給される手当です。直近12ヶ月間の給料(標準報酬月額)を基準とした日給の3分の2相当額が支給されます。フリーランスが加入する国民健康保険には同様の制度はないため、フリーランスは原則、出産手当金を受け取ることができません。しかし、健康保険に任意継続加入しているフリーランスで、会社を退職する前に1年以上健康保険に加入している場合は、出産手当金が支給されます。加入する健康保険によって規定が異なる場合があるため、詳しくは加入先の規定を確認してください。出生時育児休業給付金出生児育児休業給付金は、雇用保険に加入している会社員などが産後パパ育休(出生時育児休業)を取得し、以下の要件などを満たした場合に給付金が支給される制度です。生後8週間以内で、最大4週間(28日間)まで育児休業を取得している出生児育児休業を取得する以前の2年間に賃金が支払われた日数が11日以上ある月が12ヶ月以上ある【支給金額の計算式】休業開始時賃金日額×休業期間の日数(上限28日)×67%フリーランスは原則雇用保険に加入できないため、出生児育児休業給付金の支給対象外となります。▼関連記事:フリーランスは雇用保険に加入できる?手続きが必要なケースや代わりとなる制度などを徹底解説育児休業給付金育児休業給付金は、雇用保険に加入している会社員などが育休を取得した際に支給される制度です。支給される金額は、育休開始からどれくらい経過したかによって以下のように異なります。育休開始から6ヶ月間:直近の賃金(標準賃金日額)の67%※2025年4月1日からは、両親が14日以上育休を取得すると80%になる育休開始から7ヶ月目以降:標準賃金日額の50%フリーランスは原則雇用保険に加入できないため、育児休業給付金の対象には含まれません。【2024年11月施行】フリーランス新法で育児に対する配慮が義務化フリーランスの労働環境の改善を図るため、2024年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」(通称:フリーランス新法)が施行されました。フリーランス新法では、発注事業者に対して6つの義務と7つの禁止事項が定められています。そのなかで、6ヶ月以上継続して業務を委託するフリーランスが妊娠や出産、育児や介護などで配慮を求める相談があった際に、発注事業者は対応が義務化されました。配慮の例としては、妊婦健診がある日に打ち合わせの時間を調整したり、就業時間を短縮したりするほか、オンラインで業務を行えるようにする、などが挙げられます。妊娠や出産で仕事を抑えたい際は、フリーランス新法の内容をしっかり把握したうえで、早めにクライアントに相談するとよいでしょう。▼関連記事:【2024年11月施行】フリーランス新法とは?変更内容や注意点を解説フリーランスが出産・育児に備えたいポイント出産を控えている時期に休むのはもちろんのこと、産後は身体が元のように回復するまでには、一般的に6〜8週間程度かかるといわれており、この時期に無理をせずしっかり休むことが大切です。ここでは、出産や育児を控えているフリーランスが、無理なく、スムーズに休業できるよう、出産や育児前に備えておきたいポイントを4点紹介します。休業期間を決めるフリーランスは、産休や育休の制度がない代わりに、出産や育児に伴う休業期間をすべて自分で決めることができます。現在請け負っている仕事の区切りや体調、里帰り出産の有無、パートナーとの話し合いなどを踏まえて休業期間を決めましょう。休業期間を定めることで、事前にクライアントに休業期間を通知できるため、復帰後のスケジュールが立てやすいほか、休業期間中は割り切ってしっかり休めます。なお、派遣やアルバイトなどと兼業して社会保険に入っているフリーランスや、法人化している人は、出産手当金の満額支給期間(出産予定日以前の42日間~出産後56日間)を考慮して休業期間を設定するのがおすすめです。クライアントに相談する産前産後で休業することは、できるだけ早めにクライアントに伝えましょう。連絡するクライアントのリストアップだけでも、出産予定日が分かり次第早めに行うのがおすすめです。クライアントに休業を報告する際は、以下のポイントを押さえましょう。休業に入る時期と業務を再開する時期業務の引き継ぎ先やスケジュール調整の提案休業期間中の連絡の可否と連絡先復帰後に希望する仕事環境(稼働時間の短縮やリモート対応など)復帰後の契約継続・報酬・業務内容(必要に応じて)クライアントの都合もしっかりヒアリングして、無理のない範囲で業務調整を行うことで、信頼関係を保つことができ、安心して休業期間を迎えられます。緊急事態に備えて引き継ぎの準備などは早めに行う妊娠中は、体調不良や切迫早産など、緊急事態が生じる可能性があります。有事の際に安心して体調を優先できるよう、仕事は対応可能なうちに前倒しするのがおすすめです。引き継ぎが生じる業務は、早めにリストアップするなどして準備を進めましょう。もし、体調が安定して仕事に余裕が生じた場合は、単発や短期で完了する仕事を入れることで収入の減少を抑えられます。大きな出費に備えてできる限り貯蓄するフリーランスは、会社員よりも出産や育児にまつわる手当や制度が薄いため、300万円近くもの金銭的負担が生じます。しかし、この差を見越して300万円分を貯蓄するのは容易ではありません。産後の体調回復に時間がかかることや、予想外の医療費・保育費用の増加、保育園に入れず仕事復帰が遅れることを踏まえ、できる限り貯蓄を心掛けるとよいでしょう。6ヶ月分の生活費を目安に貯めておくと、気持ちに余裕が生じます。▼関連記事:フリーランスは貯金が重要!独立前のお金準備や将来の資産形成についてフリーランスが出産・育児期間中に扶養に入るのはあり?金銭的な心配をせず出産や育児に注力したい人や、数ヶ月まとめて休みを取りたい人は配偶者の扶養に入ることも可能です。ただし、フリーランスは配偶者が加入する健康保険によっては、扶養に入ることが難しい可能性もあります。配偶者が加入している健康保険によっては、扶養申請時に過去3年間の収入状況が分かる書類(確定申告書など)の提出が求められ、過去の収入分を基に見込みの年間所得が計算されます。独立しているフリーランスの場合は、いくら収入の減少が見込めるといっても、その計算によって扶養の年収制限を超えてしまい、扶養に入れないケースがあるのです。出産や育児期間中に扶養に入ることを検討している人は、早めに配偶者が加入している健康保険の扶養条件を確認しましょう。▼関連記事:フリーランスは配偶者の扶養に入れる?収入の条件や必要な手続きなどを解説【保活】フリーランスが子どもを保育園に預けるために意識したいポイント出産後に体調が回復し、仕事復帰を考えるようになったら子どもを保育園に預ける準備が必要です。子どもを保育園に入園させるためには選考があります。保護者が働く日数や労働時間などを踏まえた「保育ニーズ」を数値化し、数値が高い順に入園できる仕組みです。一般的に、フリーランスより会社員の方が優遇される傾向にあるため、フリーランスはここで紹介するポイントを押さえて、準備をしっかり行いましょう。保育実績を作る保育実績とは、認可外保育施設やベビーシッターなどを利用したことのある実績です。育児と仕事の両立が難しいことの証拠となるため、保育選考で有利に働きます。また、フリーランスは会社員のように勤務証明をもらうことが難しいため、自らがどれだけ仕事をしているか、つまり「保育の必要性」を示す証明を準備する必要があります。クライアントとの打ち合わせや、稼働時間、就労形態など、自己申告でも就労実績を作成しておきましょう。0歳クラスからの入園を検討する会社員の育休は、基本1年間、最大で2年間までです。会社員は、育休期間が明けてから子どもを保育園に入れるケースが多いため、1歳児クラスは競争が激しくなります。0歳児クラスは比較的ライバルが少ないため、フリーランスは0歳児クラスの入園を狙うとよいでしょう。待機児童が少ない地域の保育園を選ぶ待機児童が少なく、保育園の空きが比較的多い地域の保育園を選ぶことで、子どもが保育園に入園できる可能性が高まります。待機児童数は、各自治体のホームページなどで調べることができるので、余裕をもって待機児童の少ない地域を把握しましょう。まとめフリーランスは会社員のように産休制度がなく、出産に関連する手当や制度などの支援が限定的です。そのため、手薄な手当や制度をカバーして、安心して産後の生活を迎えられるよう、余裕をもって自分で備えておく必要があります。フリーランスには産休制度こそはありませんが、里帰り出産の予定や自分の体調、育児の状況など、自分の希望に応じて仕事の休業期間を柔軟に決められるというメリットもあります。独自の産休期間を決めたら、スムーズに休業に入れるよう、クライアントとの共有や相談、引き継ぎなどを入念に行うことが重要です。2024年11月施行のフリーランス新法では、出産や育児にあたるフリーランスに配慮するよう、発注事業者側に義務が定められたため、受けられる権利もしっかり把握したうえで産休準備を進めましょう。