フリーランスが安心して仕事を続けられるよう、フリーランスや個人事業主の就業環境などの改善を図る「フリーランス新法」が2024年11月から施行されます。フリーランスは、自由な働き方などのメリットがフォーカスされがちです。しかし、フリーランス協会が2018年に行ったアンケートでは、回答したフリーランスの約7割が報酬の未払いを経験しています。また、そのうちの約4割が何も対応ができず「泣き寝入りした」と回答しています。フリーランス新法の施行は、労働基準法が適用されないフリーランスにとって大きな変化となり、労働環境が整備されることにつながります。この記事では、フリーランス新法の概要や対象者をはじめ、フリーランス新法が施行される前後で変わることをフロー別に分かりやすく説明します。フリーランスが気をつけたいポイントもあわせて紹介するので、この記事を通してフリーランス新法に関する知識を深めましょう。フリーランス新法とは?フリーランス新法は、フリーランスや個人事業主の労働環境などを保護するために、発注事業者に6つの義務と7つの禁止事項を定めた法律です。2023年4月28日に成立し、2024年11月1日から施行されます。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」で、通称として「フリーランス新法」「フリーランス保護新法」などと呼ばれています。フリーランス新法の施行の背景フリーランス新法が施行された背景としては、フリーランス人口の増加に伴い、フリーランスと発注事業者との間でトラブルが目立つようになったことが挙げられます。フリーランスは、会社員のように労働基準法に守られていないため、有給や最低賃金、労働時間、労災などが定められておらず、発注事業者と比べて弱い立場にあります。冒頭で触れたフリーランス協会のアンケートに加え、内閣府が2020年に公表した「フリーランス実態調査」でも、取引先とトラブルになった経験がある人は約4割に上ります。なかでも、「発注時に報酬や業務内容などが明示されない」「報酬の支払いが遅れる、または支払期日に支払われなかった」などと、報酬に関するトラブルを経験したことのある人が多くいます。加えて、2023年10月にはインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まったことで、発注事業者が免税事業者に対して報酬を不当に減額したり、契約を終了したりする事態が懸念されています。このように、フリーランスが発注事業者から不当な扱いを受けないように、フリーランスを守るための法整備が急務とされていたのです。フリーランス新法の対象範囲フリーランス新法は、フリーランスとして活動している人全員が対象となるわけではありません。また、法律の条文によって発注事業者が義務となる対象範囲も異なるため、どのようなケースに法律が適用するのか詳しくみてみましょう。【発注事業者】個人~企業まで幅広く対象フリーランス新法における発注事業者は、「特定業務委託事業者」といい、個人から大企業まで幅広い事業者が該当します。ただし、義務化される項目の数は以下の条件に該当するかによって異なります。従業員を雇用しているかフリーランスに対して一定期間続けて業務を委託しているか詳しくは後述しますが、フリーランス新法で発注事業者に定められる義務や禁止項目は計13点あります。発注事業者が従業員を雇用していない場合は、義務とされるのはそのうち1項目のみです。発注事業者が従業員を雇用している場合は、4項目が義務となります。従業員を雇用しており、さらに1ヶ月以上フリーランスに業務を委託している場合は、13項目すべてが義務化されます。【受注者】事業者から委託されているフリーランスが対象フリーランス新法では、フリーランスを「特定受託事業者」と呼びます。ただし、フリーランス全員が対象となるわけではなく、以下の条件を満たす人が該当します。従業員を雇っていない事業者から業務を委託されているここでいう従業員とは、「1週間の労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用が見込まれる人」を指します。短時間または短期間で一時的に雇用されている人は含まれません。フリーランス新法の対象となるケースとしては、以下のような例が挙げられます。フリーランスから、ポートフォリオサイトのデザインを委託されているWebデザイナー(業務内容は1人で完結)企業から、ホームページに掲載するコラム作成を委託されているWeb編集ライター(自分が記事の企画を行い、執筆は別のフリーランスに依頼)工事業者から、建造物の解体を委託されている1人親方フリーランス新法の対象外となるケースフリーランス新法の対象となるのは、あくまで事業者と契約して仕事を請け負っているフリーランスです。そのため、一般の消費者から仕事を受けている、つまり業務委託契約に基づかない取引を行っているフリーランスは、フリーランス新法の対象外となります。例外となる具体的なケースとしては以下が挙げられます。一般消費者から、家族の似顔絵作成の依頼を受けた場合ハンドメイドのアクセサリーをインターネット上で販売した場合イラストを作成してインターネット上で企業に販売した場合フリーランス新法と下請法の違い下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)とは、発注事業者が下請事業者に行う不適切な取引行為を規制する法律です。フリーランスを含む下請事業者側に責任がないにもかかわらず、発注事業者が不当に下請代金の減額や返品するケースなどを禁じることで、下請事業者の利益を守ります。フリーランス新法と下請法の大きな違いは、対象となる事業者の資本金と保護の範囲です。下請法は、発注事業者の資本金が1,000万円を超える法人から委託されたケースが対象となります。対して、フリーランス新法は資本金額による区別をしていません。そのため、フリーランス新法では、フリーランスが別のフリーランスに発注するといった個人事業主間の取引も対象となります。また、下請法では発注事業者による不当な取引を規制していますが、フリーランス新法では、さらにフリーランスの就業環境の保護まで範囲を広げている点が大きな特徴です。▼関連記事:フリーランスにも適用される下請法とは?禁止行為と違反事例を分かりやすく解説▼関連記事:フリーランス新法と下請法の違いとは?適用範囲・保護内容・禁止事項・罰則の観点から徹底解説フリーランス新法で変わるポイントフリーランス新法では、発注事業者に6つの義務と7つの禁止事項が定められています。具体的な内容は以下の通りです。【6つの義務】取引条件は契約書などで明示する報酬は納品から60日以内に支払う正確で最新の募集情報を表示する育児や介護などと業務を両立できるよう配慮するハラスメント対策の体制を整備する中途解除する場合は最低30日前までに伝え、要望があれば理由も開示する【7つの禁止事項】成果物を不当に受領拒否してはいけない成果物を不当に返品してはいけない報酬は相場より著しく低く設定してはいけない報酬を不当に減額してはいけない商品の購入やサービスの利用を強制してはいけない発注業務に関係ない金銭や労務を不当に求めてはいけない追加費用なしで受領後にやり直しをさせてはいけないまた、先ほど触れたように、発注事業者が従業員を雇用しているかどうかや、フリーランスとの契約期間に応じて、以下のように義務化される項目の数が異なります。発注事業者の条件義務となる項目従業員を雇用していない取引条件は契約書などで明示する従業員を雇用している取引条件は契約書などで明示する報酬は納品から60日以内に支払う正確で最新の募集情報を表示するハラスメント対策の体制を整備する従業員を雇用しており、一定の期間*以上業務を委託している13項目すべて*条文によって1ヶ月以上または6ヶ月以上の契約が該当する(詳しくは次の段落で解説)フリーランスにとっては、フリーランス新法が施行されることで、支払いや納品などの際に陥りやすいトラブルや不利益を未然に防ぐことができるほか、労働環境の改善が期待できます。具体的な内容は次の段落からフロー別に紹介していきます。フリーランスは、「自分であればどのようなケースが該当するか」を想像しながら読み進めましょう。【募集〜契約】フリーランス新法で発注事業者に義務化されることフリーランスの募集から契約に至るまでの段階で、発注事業者に義務化される項目は5点あります。フリーランスのなかには、口約束や付き合いなどで契約内容を曖昧にしてしまっていたり、無理な要求を断れなかったりしている人も多いでしょう。不利益を被らないように、フリーランス新法の内容をしっかり確認しましょう。正確で最新の募集情報を表示する発注事業者がフリーランスを募集する際には、内容に虚偽があったり、誤解を生じさせたりする記載はせず、正しく記載する必要があります。また、募集情報は常に正確で最新の内容に保つ義務があります。【違反になる例】募集を多く集めるために実際よりも報酬額を高く表示する実際は携われない上流工程の内容を記載する募集を終了した求人をいつまでも掲載し続ける取引条件は契約書などで明示する発注事業者がフリーランスと契約を結ぶ際には、書面またはメールなどで以下の8点を明示する必要があります。発注事業者とフリーランスそれぞれの名称業務委託の合意日フリーランスに委託する業務内容業務の納品日業務の納品先検査の完了日(納品内容を検査する場合)報酬額と支払い期日報酬の支払い方法(現金以外の方法で報酬を支払う場合)今まで口頭で仕事内容や条件に合意し、発注していた案件でも、引き続きフリーランスに発注する際は、契約書や発注書などを交わさなければなりません。▼関連記事:契約書なしの業務委託は違反?フリーランスが知っておきたいリスクやトラブル時の対応策を紹介なお、以下の画像は契約書のひな形の一例です。画像内の番号は上記の記載項目と合致しているので、あわせて確認しましょう。▼参考:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)パンフレット中途解除する場合は最低30日前までに伝え、要望があれば理由も開示する発注事業者は、フリーランスとの業務委託契約を解除または契約更新しない場合には、契約終了日から少なくとも30日前までに、書面やFAX、メールなどでフリーランスに伝えなければなりません。なお、6ヶ月以上業務を委託しているフリーランスと業務委託契約を結んでいる場合が該当します。また、契約解除を伝えた日から契約満了日までの間に、フリーランスから解除の理由を聞かれた場合は、その理由を伝える必要があります。【違反になる例】1年間継続発注していたフリーランスに対して、12月1日から発注を止めることを11月2日に伝える▼関連記事:フリーランスが不当に契約解除されたらどうするべき?交渉のポイント・メールテンプレ・防止策を徹底解説報酬は相場より著しく低く設定してはいけない発注事業者がフリーランスに1ヶ月以上業務を委託する場合*に、相場より著しく低い報酬を一方的に定めること(買いたたき)は禁止されます。*業務委託契約を締結してから契約が終了する日まで1ヶ月以上あるケース【違反になる例】自社(発注事業者)の外注予算のみを基準として、フリーランスと十分に話し合うことなく、一方的に相場より著しく低い報酬を定める▼関連記事:【事例】フリーランスは買いたたきに要注意!対処法や予防策を徹底解説発注業務に関係ない金銭や労務を不当に求めてはいけない発注事業者がフリーランスに1ヶ月以上業務を委託する場合に、契約した業務以外の作業を無償で対応させることは禁止されます。【違反になる例】作業完了後(納品後)に、契約書に記載されていない業務を無償で提供させる▼関連記事:【トラブル事例】フリーランスが契約外の仕事を受けるリスクとは?対応策や交渉術なども解説【納品】フリーランス新法で発注事業者に義務化されること続いては、納品時に生じやすいトラブルを防ぐ項目を説明します。発注事業者がフリーランスに修正対応などを依頼して、成果物の質を高めることは重要です。しかしなかには、フリーランスの弱い立場につけこみ、不当なやり直しなどを求めるケースもあります。フリーランスは、具体的な事例を通して、トラブルにならないように備えましょう。追加費用なしで受領後にやり直しをさせてはいけない発注事業者がフリーランスに1ヶ月以上業務を委託する場合に、追加費用を払わずに発注した内容を変えたり、受領後にやり直しさせたりすることは禁止されます。【違反になる例】具体的な仕様を明らかにしないまま、フリーランスに作業を依頼し、納品後に「想像していたのと違う」などと発注内容と異なることを理由に挙げて、追加料金を支払わずにやり直しをさせる▼関連記事:フリーランスに対して無償のやり直しが多発?不当な修正依頼を防ぐための方法と対処法を解説成果物を不当に受領拒否してはいけない発注事業者がフリーランスに1ヶ月以上業務を委託する場合に、フリーランスに責任のない不当な理由で成果物の受領を拒むことは禁止されます。受領拒否は、発注の取り消しや納期を延期して受け取らないケースのほか、一部分だけ受け取らないケースも該当します。【違反になる例】フリーランスに記事作成を依頼し、質に問題のない記事が納品されたにもかかわらず、「予算が急遽減額され、記事は一部のみ受け取る」と言って、納品を受け付けないフリーランスがクライアントに受領拒否された際の対応は、以下の記事で詳しく解説しています。▼関連記事:フリーランスが納品物を受領拒否されたときの対応策!具体的な事例や体験談も成果物を不当に返品してはいけない発注事業者がフリーランスに1ヶ月以上業務を委託する場合に、フリーランスに責任のない不当な理由で成果物を返品することは禁止されます。【違反になる例】フリーランスに動画広告用のイラスト作成を依頼したものの、クライアントの広告制作がキャンセルとなったことを理由に、納品されたイラストを返品するフリーランスが納品後に不当な返品を受けた際の対応は、以下の記事で詳しく解説しています。▼関連記事:フリーランスが納品後に不当な返品を受けたら?違反となる事例や対処法を解説【支払い】フリーランス新法で発注事業者に義務化されること続いては、支払いの際に発注事業者に義務付けられる2項目を解説します。冒頭でも触れたように、発注事業者とフリーランス間での支払いに関するトラブルは非常に多く発生しています。フリーランスは、フリーランス新法によって義務化されるポイントをしっかり押さえて、不利益を回避しましょう。報酬を不当に減額してはいけない発注事業者がフリーランスに1ヶ月以上の業務を委託する場合に、フリーランスに責任がない理由で発注時に合意した報酬から減額することは禁止されます。なお、報酬の減額はもちろん、銀行口座への支払手数料を合意なく差し引く場合も該当します。もしフリーランスが減額に合意したとしても、フリーランスに責任がなければ違反となります。【違反になる例】フリーランスにWeb広告用の動画制作を5万円で依頼したものの、発注事業者のクライアントからキャンセルされたことを理由に、契約で定めた報酬から減額して2万円のみ支払うフリーランスが報酬減額に遭った場合の対応は、以下の記事で詳しく解説しています。▼関連記事:フリーランスが報酬減額に遭った場合の対応策!リスク回避のポイントや具体的な事例も紹介報酬は納品から60日以内に支払う発注事業者は、フリーランスから成果物が納品されてから60日以内の、できる限り短い期間内で報酬の支払い期日を定め、一度決めた期日までに支払う必要があります。【違反になる例】フリーランスにLP作成を依頼して納品期日までに受け取ったものの、成果物の社内チェックを終えていないことを理由に支払いを延期し、納品から60日以上経ってから支払う報酬の未払いが発生した時の対応は、以下の記事で詳しく解説しています。▼関連記事:業務委託で給料・報酬の未払い被害に遭ったら?フリーランスが今すぐすべき対処法や法的手段を解説ただし、以下のようにフリーランスに業務を再委託する場合には、発注事業者は自身が受注した事業者(元委託事業者)の支払い期日から30日以内に定めることができます。そのため、成果物の受け取りから60日を超えても問題ないとされています。(再委託の例外)▼参考:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)パンフレット【例】元委託事業者である出版社がフリーランスの編集者に原稿作成を発注フリーランスの編集者(発注事業者)がフリーランスのWebライターに原稿作成を発注(再委託)フリーランスのWebライターが、フリーランス編集者へ1月1日に原稿を納品フリーランスの編集者が、出版社へ1月20日に原稿を納品【報酬の支払い期日】出版社→フリーランスの編集者:2月28日フリーランスの編集者→フリーランスのWebライター:3月25日上記では、フリーランスのWebライターの支払い期日が納品日から60日以上経過しているものの、元委託事業者である出版社からの支払い期日から30日以内のため違反となりません。【就業環境】フリーランス新法で発注事業者に義務化されること最後に、フリーランスの就業環境の改善に関する義務項目を解説します。就業環境の改善は、フリーランス新法の大きな特徴のため、しっかりポイントを押さえましょう。育児や介護などと業務を両立できるよう配慮する発注事業者がフリーランスに6ヶ月以上業務を委託している場合は、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるように、就業時間や業務場所を配慮する義務があります。例えば、妊婦健診の受診や家族の体調不良で通院できるように、打ち合わせ時間の調整や、リモートでの業務の許可、就業時間の短縮などが求められます。また、業務委託の期間が6ヶ月未満の場合でも、発注事業者はできる限り配慮するよう努めなければなりません。ハラスメント対策の体制を整備する発注事業者は、フリーランスがパワハラやセクハラ、マタハラ(マタニティハラスメント)などのハラスメントを受けないように、措置を講じる義務が生じます。例えば、ハラスメント防止に関する研修の実施や、ハラスメントの相談対応制度の設置・外部委託、ハラスメント発生時の迅速かつ正確な事実関係の把握などが挙げられます。商品の購入やサービスの利用を強制してはいけない発注事業者がフリーランスに1ヶ月以上の業務を委託する場合に、フリーランスに対して指定する商品やサービスを強制的に購入、利用させることは禁止されます。なお、発注事業者は任意のつもりで勧めたとしても、フリーランスが断りづらいと感じ、強制力が働いたと判断される可能性があります。【違反になる例】自社コスメを取り扱うECサイトの構築を委託しているフリーランスに対して、必要ないにもかかわらず、案件を遂行するために自社コスメの購入を勧めて購入させる▼関連記事:【事例】フリーランスが注意すべき購入・利用強制とは?クライアントとの交渉術や予防策も紹介フリーランス新法に違反した場合に生じる罰則は?発注事業者がフリーランス新法に違反した場合は、指導や報告徴収、立入検査などを受ける可能性があります。命令違反や検査に拒否した場合は、最大50万円以下の罰金が科される場合もあります。また、発注事業者の従業員が違反行為を行った場合は、違反した本人だけではなく、発注事業者も罰則の対象となる可能性がある点に注意が必要です。フリーランス新法は、公正取引委員会や中小企業庁、厚生労働省が管轄しているため、違反した場合は各担当委員会や省庁から罰則を受けることとなります。▼参考:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の概要フリーランス新法のデメリットや注意点はある?フリーランス新法は、発注事業者に対して禁止事項や義務項目を定める法律です。しかし、「フリーランス自身に必要な対応はない」と捉えて企業任せにしていると、知らず知らずのうちに違反を見逃してしまう可能性があります。ここでは、フリーランス新法の施行にあたって、フリーランスが気をつけたい点を説明します。被害に合ったら自己申告する必要がある「いつまでたっても報酬が支払われない」「クライアントからパワハラを受けた」など、フリーランス新法に違反するのでは?と思った場合は、フリーランスが自分で相談窓口に行くなどして声を上げる必要があります。なかには、取引が中断されるのを恐れて、相談を控える人もいるかもしれません。しかし、通報したフリーランスに対して取引を停止するのは、下請法で定められている「報復措置の禁止」に当てはまり、下請法違反となります。不利益を被ったと感じた場合は、今後の自分を守るためにも躊躇せずに相談しましょう。仕事は口約束で請け負わないこれまで、口頭でのみ条件に合意して進めた仕事があったとしても、今後は書類やメールなどで契約条件をしっかり明記しましょう。万が一、口頭でのみ仕事を受けて何かしらの不利益を被っても、フリーランス新法の保護対象外となる恐れがあります。フリーランス協会の調査によると、発注事業者がフリーランスライターに仕事を依頼する際に、口頭のみで発注したことのある割合は約4割に上ります。書類作成などの手間は生じますが、自分の身を守るために口頭のみで仕事を請け負わないことが重要です。契約書の確認や情報収集をしっかり行う先ほど触れた通り、フリーランス新法で違反となる事態が発生した場合は、フリーランス自身で通報する必要があります。そのため、契約書や発注書を確認し、契約の終了日や更新期限、担当業務の範囲をしっかり把握することが重要です。追加で業務が発生する場合は、追加料金を徴収することをあらかじめクライアントに合意を取り、認識をすり合わせたらメールやチャットなどででも証拠を残しましょう。加えて、フリーランス新法に関する注意点はもちろん、請け負う業務の相場料金なども日頃から情報収集して、打診する材料にしましょう。万が一、クライアントから納品の拒否や返品などがあった場合は、納得のいく理由をしっかりもらい、自分に責任があるかどうかを確認することも大切です。フリーランス新法に関する相談窓口フリーランス新法に関する相談窓口として、「フリーランス・トラブル110番」が設置されています。フリーランス・トラブル110番は、契約や仕事でトラブルを抱えたフリーランスが、弁護士に無料で相談できる窓口です。厚生労働省から委託された第二東京弁護士会が運営しています。相談は、メールや電話、対面、オンライン通話と幅広く対応しています。匿名でも利用できるので、悩んだら気軽に相談するとよいでしょう。▼関連記事:フリーランスは誰に相談すればいい?無料窓口やトラブル回避方法も紹介フリーランス新法に関するQ&A最後に、フリーランス新法に関するよくある質問を紹介します。契約を結んだ時期などによって、フリーランス新法の適応が異なる可能性があるため、しっかり確認しましょう。フリーランス新法が施行される前の既存契約にも影響する?フリーランス新法は、2024年11月以降に締結した契約に適用されます。過去の契約にさかのぼって適用することはできないため、既存契約への影響はありません。2024年11月以前に結んだ契約は、フリーランス新法の施行日以降に、法律に則って契約を見直すことでフリーランス新法が適用されます。フリーランス同士の契約(再委託)もフリーランス新法の対象になる?従業員を雇用していないフリーランスが別のフリーランスに業務を委託する場合も、フリーランス新法の適用対象となります。義務となる項目の数は、発注事業者のフリーランスが従業員を雇用しているかどうかや、締結している契約期間によって増減します。発注事業者の条件義務となる項目従業員を雇用していない取引条件は契約書などで明示する従業員を雇用している取引条件は契約書などで明示する報酬は納品から60日以内に支払う正確で最新の募集情報を表示するハラスメント対策の体制を整備する従業員を雇用しており、一定の期間以上業務を委託している13項目すべて海外在住の場合はフリーランス新法の対象になる?公正取引委員会の資料によると、海外でフリーランスとして働いている場合でも、クライアントが日本にいればフリーランス新法の対象となります。契約書に「この契約の準拠法は日本法とする」などと明記されていればフリーランス新法が適用されます。そのため、海外に住んでいるフリーランスは契約書を確認しましょう。シルバー人材センターもフリーランスに該当する?シルバー人材センターとは、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に基づいて市区町村単位で事業を行う公益法人です。地域から請負や委任契約で案件を受注し、60歳以降の方に求人を提供しています。そのため、シルバー人材センター経由で仕事をしている場合も、フリーランス新法の「フリーランス」に該当します。これまでは、発注事業者とシルバー人材センター、そしてシルバー人材センターと会員で、それぞれ請負・委任契約を結んでいました。しかし、フリーランス新法の施行によって、発注事業者と会員で請負・委任契約を結び、シルバー人材センターは仲介役として調整やマッチングを行うという契約関係の見直しが発生します。まとめ2024年11月から施行されるフリーランス新法は、フリーランスが安心して仕事を続けられるように、発注事業者に対してフリーランスとの契約や支払い、就業環境の改善を求めた法律です。フリーランスは、原則として労働基準法の適用外のため、フリーランス新法の施行はフリーランスにとって大きなメリットとなります。しかし、フリーランス新法の違反を摘発するためには、フリーランス側からの通報が不可欠です。「内容が分かりにくいから」「フリーランス側が対応するものはない」などと企業任せにせず、フリーランス新法の内容を理解して、自分の身を自分で守りましょう。