平均寿命が伸びていることに伴い、近年、老後資金問題が取りざたされる機会が多くなりました。2019年に金融庁がとりまとめた報告書「高齢社会における資産形成・管理」では、老後30年間(定年退職から夫婦で95歳まで生きると想定)で2,000万円が不足し、公的年金のみに頼る生活では、資金不足に陥る可能性があるとされています。特にフリーランスは、会社員と比べて社会保障が手薄なため、「老後に備えていくら貯金するべきなのか」「年金以外の対策は何かないのだろうか」と不安に感じている方も多いかもしれませんね。この記事では、フリーランスが老後に必要な資金と、老後に受け取れる年金のシミュレーションを紹介します。また、フリーランスが老後に備えておきたい貯蓄額や、おすすめの老後資金対策も解説します。早いうちから老後の資金対策をとり、不安を軽減させましょう。老後に必要な資金はいくら?総務省が発表した「家計調査年報(家計収支編)2022年」によると、65歳以上の無職世帯で1ヶ月にかかる生活費は、夫婦2人暮らしで26万8,508円、1人暮らしで15万5,495円です。▼出典:家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)結果の概要夫婦2人暮らし・1人暮らしの場合いずれも、もっとも多い支出は「食料」で30%近くを占めます。次いで、交際費や雑費、仕送りなどが該当する「その他の消費支出」が20%以上、自動車の維持費や携帯電話・固定電話の通信料が該当する「交通・通信費」が10%以上と続きます。なお、グラフに記載されている「非消費支出」は、税金や社会保険料などの支出を指します。定年退職後は収入が減るため、現役世代と比べて非消費支出の負担は少なくなりますが、それでも10%ほどの負担が生じることが分かります。上記のグラフをもとに、月々に生じる具体的な支出金額のイメージは以下の通りです。65歳以上の夫婦のみの世帯65歳以上の単身無職世帯食費6万7,776円3万7,485円住居1万5,578円1万2,746円光熱・水道2万2,611円1万4,704円家具・家事用品1万371円5,956円被服及び履物5,003円3,150円保健医療1万5,681円8,128円交通・通信2万8,878円1万4,625円教育3円0円教養娯楽2万1,365円1万4,473円その他の消費支出4万9,430円3万1,872円非消費支出3万1,812円1万2,356円合計26万8,508円15万5,495円▼出典:家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)結果の概要上記の支出額を単純計算すると、1年間で夫婦世帯で約322.2万円、単身世帯で約186.6万円かかります。また、65歳を起点に、100歳までの各年齢でかかる支出総額は以下の通りです。夫婦でかかる支出総額単身世帯でかかる支出総額70歳約1,611万円約933万円75歳約3,222万円約1,866万円80歳約4,833万円約2,799万円85歳約6,444万円約3,732万円90歳約8,055万円約4,665万円95歳約9,666万円約5,598万円100歳約1億1,277万円約6,531万円人生100年時代といわれる昨今では、夫婦2人で100歳まで生きることを想定すると、定年退職後から35年間でなんと1億円以上もの大金がかかります。フリーランスが老後にもらえる年金は会社員より年間100万円も少ない!?日本の年金制度は、国民保険と厚生年金の2階建て構造となっています。そのうち国民年金は、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する義務があります。(国民皆年金)厚生年金は会社員などが加入し、フリーランスは基本的に国民年金のみ加入する仕組みです。そのため、老後に受け取れる年金は、フリーランスと会社員で大きな差が生じます。フリーランス(国民年金)6万8,000円※満額の場合(2024年度の金額)会社員(国民年金+厚生年金)23万483円※標準収入の場合なお、上記は満額受給できた場合であり、現役世代のうちに年金の納め忘れがあったり、減免措置を受けたりした場合などは受給金額は下がります。厚生労働省の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、実際の年金月額は国民年金が5万6,428円、厚生年金が14万4,982円です。現役世代のときに、たとえ同じ年収だったとしても、厚生年金と国民年金加入者では大幅に受給額が異なります。実際に受け取っている年金額をベースに単純計算すると、フリーランスが年間で受け取れる年金は67万7,136円であるのに対し、会社員は173万9,784円です。つまり、フリーランスと会社員の受け取れる年金額の差は、100万円以上になるのです。▼関連記事:フリーランスが加入する国民年金とは?将来の年金受給額を増やす方法も解説!フリーランスが老後までに備えておきたい貯蓄額は?年金の受給開始年齢は65歳で、定年退職後に再就職などをしなければ、20年近く年金と貯蓄のみで生活する必要があります。国民年金を満額で受給できたとしても、年間で受け取れる金額は81万6,000円です。年金だけでは、老後の生活費(1年間)のうち3ヶ月分しかカバーできない計算です。そのため、不足する分の生活費を、現役世代のうちに貯蓄しておくことが非常に重要となってきます。フリーランスが老後に受け取れる年金額と、老後にかかる生活費の差額をシミュレーションしてみましょう。①夫婦世帯の場合1年間で夫婦世帯でかかる生活費:322万2,000円1年間で夫婦が受け取れる年金(満額の場合):163万2,000円年金のみで生活するとなると、年間で159万円が不足します。平均寿命である85歳まで生きる場合は、159万円×20年で3,180万円が不足します。また、100歳まで生きる場合は、159万円×35年で5,565万円不足する計算です。フリーランスが夫婦世帯でゆとりのある老後を送るためには、6,000万円貯蓄しておくと安心でしょう。②単身世帯の場合1年間でかかる生活費:186万6,000円1年間で受け取れる年金(満額の場合):81万6,000円単身世帯が年金のみで生活すると、年間で105万円不足します。85歳まで生きる場合は、105万円×20年で2,100万円が不足し、100歳まで生きる場合は3,675万円不足します。単身世帯のフリーランスがゆとりのある老後を送るためには、4,000万円貯蓄しておくと安心でしょう。フリーランスにおすすめの老後資金対策フリーランスは、会社員のように仕事を辞める際に退職金をもらえないため、現役世代のうちからしっかり老後を見据えて対策を取る必要があります。この段落では、フリーランスが考えておくべき老後資金対策を6つ紹介します。国民年金基金国民年金基金とは、国民年金に掛け金を上乗せして支払うことで、会社員のように年金を2階建て構造にできる制度です。国民年金の第1号被保険者と任意加入被保険者が加入できます。掛け金の上限は月額6万8,000円で、具体的な金額は、選択した給付の型や加入口数、加入時の年齢などによって異なります。年金額や受取期間を自分で設定できるほか、掛け金の口数も増減できるため、ライフプランに応じて自由に組み合わせられる点が大きなメリットです。▼関連記事:フリーランスは国民年金基金で老後に備える!iDeCo・付加年金との違いを解説付加年金付加年金とは、国民年金に付加保険料(月額400円)を上乗せすることで、年金の受給額を増やせる制度です。将来受け取れる付加年金の年額は、付加年金に加入した月に200円を乗じる仕組みとなっているので、受け取り始めてから2年間で元が取れる計算になります。(例)20歳から60歳までの40年間(480ヶ月)付加年金に加入した場合支払う保険料:400円×480ヶ月=19万2,000円受け取れる付加年金の年額:200円×480ヶ月=9万6,000円年金受け取り年齢の繰り下げ年金の受給開始を66歳から75歳までの間に繰り下げることで、年金の受け取り額を増やすことができます。例えば、年金の受け取りを1年繰り下げると、65歳から受け取る(年間81万6,000円)ケースと比べて年間8.4%増え、88万4,544円受け取れます。1年繰り下げた人が85歳まで生きる場合を考えると、繰り下げた方が50万円近く多く受け取れます。65歳から受け取った場合:81万6,000円×20年=1,632万円66歳から受け取った場合:88万4,544円×19年=1,680万6,336円具体的な年金の繰り下げ増額率と受取金額は以下の通りです。請求時の年齢()内は繰り下げた月数増額の割合年間で受け取れる金額66歳(12ヶ月)8.4%88万4,544円67歳(24ヶ月)16.8%95万3,088円68歳(36ヶ月)25.2%102万1,632円69歳(48ヶ月)33.6%109万176円70歳(60ヶ月)42.0%115万8,720円71歳(72ヶ月)50.4%122万7,264円72歳(84ヶ月)58.8%129万5,808円73歳(96ヶ月)67.2%136万4,352円74歳(96ヶ月)75.6%143万2,896円75歳(120ヶ月)84.0%150万1,440円▼参考:年金の繰下げ受給iDeCoiDeCoとは、自分で掛け金を支払い、定期預金や投資信託などで運用することで資産を形成する私的年金制度の1つです。iDeCoに加入できるのは、国民年金の保険料を納めている20歳以上60歳未満の人などです。掛け金は月額5,000円以上から1,000円単位で設定でき、受け取り額は運用結果によって異なります。元本割れする可能性もありますが、運用成績次第では大きく利益を上げることも可能です。iDeCoで形成した資産は、原則60歳まで引き出せないため、手元に残る現金に比較的余裕がある人におすすめです。NISANISAとは、「Nippon Individual Savings Account」の略で、少額からの投資を行う個人を対象とした税制優遇制度です。通常、株式や投資信託などで得た利益には約20%の税金がかかりますが、NISAで得られる利益は非課税になります。2024年からは新制度がスタートし、年間投資上限額は以下の通りに設定されています。つみたて投資枠:年間120万円の投資枠内で投資信託を購入できる成長投資枠:年間240万円の投資枠内で株式と投資信託などを購入できるNISAには年齢制限がなく、何歳からでも利用できるほか、NISAで得た利益は非課税対象なので、確定申告も不要といったメリットもあります。小規模企業共済小規模企業共済とは、フリーランスを含む小規模事業主が加入できる共済制度です。事業をやめることになった際に、生活の安定や事業の再建を図る資金を積み立てるため、フリーランスの退職金の代わりとなる制度ともいわれています。掛け金の月額は、1,000~70,000円の範囲で、500円刻みで選ぶことができます。増額や減額も可能なため、業績に応じて柔軟に運用できるほか、自分が支払った掛け金からお金を借りられるなどのメリットがあります。▼関連記事:小規模企業共済とは?フリーランスの将来の備えと節税効果を解説老後の不安を打ち消すためにフリーランスが意識したいポイント直接的な老後資金対策のほかにも、日頃から取り組める対策もあります。ここでは、4つのポイントを取り上げて解説します。スキルアップや人脈作りに励んで仕事の幅を広げるスキルアップや人脈作りに励むことで、仕事の幅が広がってフリーランスとして長く活躍できるため、老後資金の貯蓄にもつながります。スキルアップの具体的な例としては、スクールやオンライン学習、セミナーを活用するほか、さまざまな案件にチャレンジする、資格の取得を目指すなどが挙げられます。人脈作りでは、過去の取り引き先や同僚に連絡をする、異業種交流会などに参加する、X(旧:Twitter)などのSNSを活用するなどの方法があります。フリーランスは、目の前の仕事をこなすことに精一杯になりがちですが、スキルアップや人脈作りを地道に積み上げることで将来の自分への投資となります。▼関連記事:フリーランスのスキルアップの方法!稼げるフリーランスになるコツとは▼関連記事:フリーランスこそ人脈が大切!人脈作りのコツ・案件獲得方法を解説月々の収支をしっかり把握する老後の不足金額に備え、現役世代の早いうちから貯蓄を意識することも重要です。そのためには、貯蓄の最終目標額から逆算して、月々の貯金目標額を設定する必要があります。第1段階として、月々の収支をしっかり把握し、無駄な支出を抑えましょう。会計ソフトなどのツールを積極的に活用して、効率よく収支を把握するとよいでしょう。▼関連記事:フリーランスは貯金が重要!独立前のお金準備や将来の資産形成について▼関連記事:フリーランスにおすすめの会計ソフト8選!選び方・比較ポイントを解説節税を心掛けて支出を抑える税金の支払いを軽減させることで、老後資金の貯蓄に回すことができます。確定申告は面倒くさがらず、大きな節税効果が見込める青色申告で、経費をしっかり計上しましょう。また、先ほど紹介した、国民年金基金の掛け金は社会保険料控除として全額所得控除となるほか、iDeCoや小規模企業共済制度も節税に大きく関係するため、積極的に活用しましょう。▼関連記事:フリーランス・個人事業主なら節税は必須!税金の基礎知識も解説▼関連記事:フリーランスは青色申告で確定申告しよう!控除の活用や節税のコツを解説体調管理を徹底して定期的に健康診断を受けるフリーランスは身体が資本です。病気やケガなどで働けない期間が長くなると、その分収入が減るため老後資金準備に大きく影響します。日頃から栄養管理や睡眠、休息をしっかり意識して、規則正しい生活を心掛けてください。また、定期的に健康診断や人間ドッグなどを受けて身体の状態を確認しましょう。もし病気が見つかっても、早期に発見できれば仕事に早く戻れる可能性が高くなります。▼関連記事:フリーランスこそ健康診断を受けるべき3つの理由!受診時のポイントも解説まとめ人生100年時代ともいわれる昨今、年金だけで老後の生活費をカバーするのは困難です。特にフリーランスの場合は、会社員と比べると受け取れる年金額が大幅に少ないうえに、退職金制度なども受けられないため、早め早めに老後資金対策をしておくことが重要です。自身で早いうちから貯蓄を心掛けたり、適した制度やサービスを見つけて加入したりすることで、会社員のように老後の保障を手厚くすることは可能です。また、体調や収支管理など日頃から意識することで、老後の安心を作ることもできます。現役世代の早いうちから、老後資金に備えることで不安を少しでも軽減させましょう。