近年は老後資金の不足が大きな関心事となっています。2019年の金融庁報告書「高齢社会における資産形成・管理」では、老後30年間(夫婦で95歳まで生きる想定)で約2,000万円が不足し、公的年金だけでは生活が成り立たなくなる可能性があると指摘されました。特にフリーランスは、会社員のように厚生年金や退職金がないため、老後資金を自力で準備する必要があります。この記事では、フリーランスが抱きがちな老後の不安を整理しつつ、国民年金基金・iDeCo・小規模企業共済など、公的制度を活用した老後資金の作り方を解説します。早めの備えが安心できる生活基盤づくりにつながるため、ぜひ参考にしてください。フリーランスが感じやすい老後への不安フリーランスには厚生年金や退職金、企業の福利厚生がないため、老後の生活設計を全て自分で整える必要があります。まずは、多くのフリーランスが感じやすい老後への不安を紹介します。公的年金だけで生活できるかフリーランスが加入する国民年金は、満額でも月額69,308円、年額約83万円(令和7年度)にとどまります。住居費や食費、光熱費まで含めて生活するには、どうしても不足しがちな金額です。▼参考:令和7年4月分からの年金額等について|日本年金機構老後資金を計画的に準備できるかフリーランスは収入の波が大きいため、長期的な積立を続けられるのか不安を感じやすい立場です。月によって収入が増減することから、「毎月決まった額を積み立てるのは難しい」と感じる人も多くいます。住む場所を確保できるか高齢になると賃貸住宅の入居審査は厳しくなる傾向があり、フリーランスは現役時から収入証明でつまずきやすい立場にあります。賃貸契約では安定収入の提示を求められることが多く、年齢を重ねるほど審査が通りにくくなるケースも少なくありません。また、住宅ローンには年齢制限があるため、老後の住まいをどう確保するかは大きな不安要因となります。老後に関するフリーランスと会社員の違いフリーランスと会社員では、現役時代の働き方だけでなく、老後に受け取れる公的年金や退職給付、働けなくなった場合の保障にも大きな差があります。こうした違いを理解しておくことで、自分がどの部分を重点的に準備すべきかが明確になります。ここでは、フリーランスと会社員の老後における主な違いを解説します。年金受給額会社員が加入する厚生年金は「老齢基礎年金+報酬比例年金」で構成されますが、フリーランスが加入する国民年金は「老齢基礎年金のみ」です。老齢基礎年金(国民年金)の満額は年間約83万円です。一方、厚生年金には給与と加入期間に応じて報酬比例部分が加わるため受給額が大きくなります。厚生労働省の統計では、厚生年金受給者の平均受給額は月約14万円とされており、国民年金の満額と比べても約2倍の水準です。その結果、会社員は基礎年金以上の公的年金を受け取れるのに対し、フリーランスは上乗せがない分、老後の収入がどうしても少なくなりがちです。退職金会社員には、企業の退職金制度や企業型年金が設けられているケースがあります。勤続年数や企業規模にもよりますが、大卒の定年退職者では1,000万円を超える退職金を受け取る例も少なくありません。一方、フリーランスには退職金制度がなく、廃業や引退のタイミングでまとまった資金を受け取れる仕組みが存在しません。そのため、将来のための資金を自ら準備する必要があります。保険料の負担会社員の場合、厚生年金保険料や健康保険料は企業と折半で負担しますが、フリーランスは国民年金・国民健康保険の保険料を全て自分で支払います。現役時代の負担が大きいため、老後資金の積立に回せる余裕が会社員より少なくなりやすい点も、フリーランス特有の課題といえます。働けなくなった場合の保障厚生年金に加入している会社員は、障害厚生年金や遺族厚生年金など、報酬比例による上乗せ保障があります。一方、フリーランスが加入する国民年金では、保障は基礎年金部分に限られます。そのため、病気やケガで長期的に働けなくなった際の収入補填に大きな差が生じます。フリーランスは、このギャップを埋めるためにも、所得補償保険や各種共済など、自助的な備えが欠かせません。老後の生活費はいくらかかる?総務省が2024年に発表した「家計調査年報(家計収支編)」によると、65歳以上の無職世帯が1ヶ月に必要とする生活費は、夫婦2人で286,877円、1人暮らしで161,933円となっています。▼出典:家計調査年報(家計収支編)2024年(令和6年)結果の概要|総務省上記のデータを単純に年額へ換算すると、夫婦世帯は約344万円、単身世帯は約194万円が年間の生活費として必要になります。フリーランスの老後の支出とリスク老後は現役時代とは支出の構造が変わり、医療費や介護費、住居費といった負担が増えやすくなります。さらにフリーランスには企業の福利厚生がないため、こうしたリスクへの備えを全て自力で行わなければなりません。ここでは、老後の生活に大きく影響するフリーランス特有の主な支出とリスクを解説します。医療費高齢になると医療機関を受診する回数が増え、医療費の支出も高くなりがちです。ただし、公的医療制度には費用負担を軽減する仕組みがいくつか整備されています。高額療養費制度:収入に応じて自己負担の上限額が設定される後期高齢者医療制度(75歳以上):保険料は所得に応じて決まり、自己負担割合は1〜3割公的制度の仕組みを理解しておくことで、医療費が増える老後のリスクに備えやすくなります。介護費介護が必要になった場合は介護保険サービスを利用できますが、自己負担分の費用は避けられません。要介護度や利用するサービス内容によって支出が大きく変動するため、介護費が発生する前提で備えておくことが欠かせません。一方で、介護の期間や必要額には大きな幅があるため、介護リスクは「発生頻度が高く、金額のばらつきも大きい支出」と理解しておくことが重要です。住宅費老後の住居費は、生活費の中でも大きな割合を占めます。持ち家の場合は修繕費や固定資産税が必要で、戸建て住宅の大規模修繕に数百万円かかるケースもあります。一方、賃貸に住み続ける場合は、高齢者になるほど契約が難しくなることがあり、家賃保証や緊急連絡先の提示を求められることもあります。住宅の確保は老後リスクの中でも特に重要で、早い段階から検討しておく必要があります。将来の税負担や社会保険料の変動税制や社会保険料は法改正の影響を受けるため、将来の負担額は固定ではありません。特に国民健康保険料や介護保険料は、高齢期に上昇しやすい傾向があります。例えば介護保険料は、65歳以上になると所得に応じて段階的に決まり、収入によっては月額数千円〜1万円以上になることもあります。こうした支出の増減に備えるためにも、変動に対応できる資金計画を立てておくことが重要です。収入が途絶えるリスクフリーランスには定年がありませんが、健康状態の変化や仕事量の減少によって、収入が突然途絶える可能性があります。特に、老齢年金を受給するまでの60〜65歳前後は収入が不安定になりやすく、生活費や各種リスクへの備えが欠かせません。国民年金の受給開始は原則65歳のため、もし60歳頃から仕事が減った場合には、最大5年間の生活費をどう確保するかが大きな課題となります。長生きリスク日本は世界でも有数の長寿国であり、平均寿命より長く生きるケースも少なくありません。厚生労働省の簡易生命表では、65歳の平均余命は男性で約20年、女性で約25年とされており、老後が30年以上続く可能性も十分あります。そのため、老後資金を考える際は「平均寿命まで」ではなく「もっと長く生きる前提」で準備することが不可欠です。資金が枯渇するリスクを避けるためにも、長期的に収入を確保できる仕組みを活用しておくことが重要になります。フリーランスが老後に備えておきたい貯蓄額年金の受給開始は原則65歳で、定年後に再就職などをしなければ、20年前後を年金と貯蓄だけで生活する必要があります。国民年金を満額で受給しても年間の受給額は約83万円で、年金だけでは大部分を賄えないことがわかります。そのため、現役世代のうちに不足分を補えるだけの資金を準備しておくことが欠かせません。ここでは、フリーランスが受け取れる年金額と、実際に必要となる老後の生活費との差をシミュレーションしてみましょう。①夫婦世帯の場合1年間で夫婦世帯でかかる生活費:約344万円1年間で夫婦が受け取れる年金(満額の場合):約166万円年金のみで生活するとなると、年間で178万円が不足します。平均寿命である85歳まで生きる場合は、178万円×20年で3,560万円が不足します。また、100歳まで生きる場合は、178万円×35年で6,230万円不足する計算です。そのため、フリーランスが夫婦世帯でゆとりのある老後を送るためには、目安として6,000万円程度の貯蓄があると安心といえるでしょう。②単身世帯の場合1年間でかかる生活費:約194万円1年間で受け取れる年金(満額の場合):約83万円単身世帯が年金のみで生活すると、年間で111万円不足します。85歳まで生きる場合は、111万円×20年で2,220万円が不足し、100歳まで生きる場合は111万円×35年で3,885万円不足します。そのため、単身のフリーランスがゆとりある老後を過ごすには、4,000万円ほどの貯蓄があると安心といえるでしょう。フリーランスの老後資金のつくり方フリーランスは老後資金を自ら計画的に準備する必要がありますが、公的制度を上手に組み合わせれば、基礎年金だけでは不足する老後の収入を補えます。ここでは、国が提供する制度を中心に、フリーランスが老後資金をつくる具体的な方法を紹介します。国民年金をきちんと納付する老齢基礎年金は、国民年金を納付した期間に応じて受給額が決まるため、まずは未納や未加入期間をつくらないことが大前提です。令和7年度の満額は年額約83万円で、納付期間が40年(480か月)に満たない場合は、その分だけ受給額が減ります。また、免除制度や納付猶予制度を利用した期間も一定割合で年金額に反映されるため、収入が少ない時期でも制度を活用し、納付記録を途切れさせないことが大切です。▼関連記事:フリーランスが加入する国民年金とは?将来の年金受給額を増やす方法も解説付加年金で老齢基礎年金を増やす付加年金は、月額400円を追加で支払うことで、将来の年金を「年額200円 × 付加保険料納付月数」上乗せできる制度です。例えば、20年間(240か月)加入すると、年額48,000円が一生涯にわたって加算されます。例)20歳から60歳までの40年間(480か月)加入した場合支払う保険料:400円×480か月=19万2,000円受け取れる付加年金の年額:200円×480か月=96,000円付加年金は、増やせる制度で、フリーランスとの相性もよい仕組みです。後述する国民年金基金とは併用できませんが、まず検討したい選択肢の1つといえます。▼関連記事:フリーランスは付加年金に加入するべき?国民年金基金との比較や注意点を解説年金の受け取り開始を繰り下げて受給額を増やす国民年金は、受給開始年齢(原則65歳)を最大75歳まで繰り下げられます。受給を繰り下げると1か月ごとに0.7%ずつ増額され、75歳から受け取る場合は最大84%の増額になります。例えば、受給開始を1年(12か月)繰り下げると、65歳で受給する場合(年間81万6,000円)に比べて8.4%増の88万4,544円を受け取れます。これを85歳まで生きたケースで比較すると、繰り下げた方が約50万円多く受け取れる計算です。65歳から受け取る場合:81万6,000円×20年=1,632万円66歳から受け取る場合:88万4,544円×19年=1,680万6,336円具体的な年金の繰り下げ増額率と受取金額は以下の通りです。請求時の年齢()内は繰り下げた月数増額の割合年間で受け取れる金額66歳(12ヶ月)8.4%88万4,544円67歳(24ヶ月)16.8%95万3,088円68歳(36ヶ月)25.2%102万1,632円69歳(48ヶ月)33.6%109万176円70歳(60ヶ月)42.0%115万8,720円71歳(72ヶ月)50.4%122万7,264円72歳(84ヶ月)58.8%129万5,808円73歳(96ヶ月)67.2%136万4,352円74歳(96ヶ月)75.6%143万2,896円75歳(120ヶ月)84.0%150万1,440円▼参考:年金の繰下げ受給|国民年金機構繰り下げ受給は、長寿リスクに備えて年金額を増やせる有効な手段です。ただし、繰り下げている期間の生活費は別途確保しておく必要があります。国民年金基金で老後の上乗せ年金を作る国民年金基金は、老齢基礎年金に上乗せして終身年金を受け取れる公的制度です。掛金は全額が所得控除になるため、節税しながら老後資金を準備できます。終身年金や確定年金など複数の型が用意されており、掛金はiDeCoとの合算で月額68,000円まで拠出可能です。将来の受取額が加入時点で確定するため、老後の資金計画が立てやすい点も大きな特徴です。▼関連記事:フリーランスが知っておきたい国民年金基金!iDeCo・付加年金との違いを解説小規模企業共済で退職金を作る小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構が運営する共済制度で、掛金は全額が所得控除の対象となります。月1,000円〜7万円の範囲で500円刻みで掛金を設定でき、廃業や退職時に共済金を受け取れるため、フリーランスにとって実質的な退職金制度として活用できます。共済金は一括・分割のどちらでも受け取れ、受取時には退職所得控除や公的年金等控除が適用されるため、税制面でもメリットがあります。▼関連記事:小規模企業共済とは?個人事業主やフリーランスの備えと節税効果を解説iDeCoで積立投資しながら老後資金を形成するiDeCo(個人型確定拠出年金)は、国が制度設計した個人型年金で、掛金全額が所得控除、運用益が非課税、受取時にも控除が適用されるなど、税制メリットが大きい制度です。原則60歳まで引き出せないため、確実に老後資金を積み立てられます。フリーランスは月額6.8万円まで拠出でき、投資信託などで運用します。商品は自分で選ぶ必要があるため、リスクとリターンの特徴を理解したうえで活用することが重要です。▼関連記事:フリーランスがiDeCoに加入するメリット・デメリットは?年代別シミュレーションも紹介NISAを活用して長期の資産形成を行うNISA(少額投資非課税制度)は、投資で得た利益が非課税になる国の制度です。iDeCoと異なり、いつでも引き出せるため、老後資金の中長期的な積立と流動性を両立できる点が特徴です。2024年からは新NISAがスタートし、成長投資枠とつみたて投資枠を合わせて年間最大360万円まで投資可能になりました。公的年金を補う「長期投資の枠」として活用しやすい制度といえます。▼関連記事:フリーランス向けNISAガイド!iDeCoとの違いや確定申告・経費のポイントも紹介生活防衛資金を確保する制度を活用した積立だけでなく、収入の変動に備えた現金貯蓄も欠かせません。生活費の6〜12か月分を目安に確保しておくと、急な収入減や出費増にも対応でき、長期の積立も無理なく続けやすくなります。預金は流動性が高く、必要なときにすぐ使えるため、老後資金づくりと並行して確保しておくことが推奨されます。▼関連記事:フリーランスは貯金が重要!独立前のお金準備や将来の資産形成についてフリーランスが老後のために意識したいポイント老後資金を直接準備する方法だけでなく、日頃から取り組める対策もあります。ここでは、その中でも特に重要なポイントを紹介します。スキルアップや人脈作りに励んで仕事の幅を広げるスキルアップや人脈づくりに取り組むことで、仕事の幅が広がり、フリーランスとして長く活躍し続けやすくなります。その結果、収入の安定につながり、老後資金の確保にも好影響をもたらします。スキルアップの具体例としては、スクールやオンライン学習、セミナーの活用、さまざまな案件への挑戦、資格取得などが挙げられます。人脈づくりでは、過去の取引先や同僚に連絡を取る、異業種交流会に参加する、X(旧Twitter)などSNSを活用するといった方法があります。フリーランスは目の前の仕事に集中しがちですが、スキルと人脈を継続的に磨くことは、将来への投資になり、老後の安心にもつながります。▼関連記事:フリーランスのスキルアップの方法!稼げるフリーランスになるコツとは▼関連記事:フリーランスこそ人脈が大切!人脈作りのコツ・案件獲得方法を解説月々の収支をしっかり把握するフリーランスが老後の不足額に備えるためには、現役のうちから計画的に貯蓄を進めることが欠かせません。まずは、老後までに必要な貯蓄額を設定し、そこから逆算して毎月の貯金目標を決めることが大切です。最初のステップとして、月々の収支を正確に把握し、無駄な支出を抑えることから始めましょう。会計ソフトなどのツールを活用すれば、手間をかけずに家計管理ができ、貯蓄ペースも安定しやすくなります。▼関連記事:フリーランスにおすすめの会計ソフト8選!選び方・比較ポイントを解説節税を心掛けて支出を抑えるフリーランスは税負担を減らせれば、その分を老後資金の貯蓄に回せます。確定申告は面倒に感じがちですが、節税効果の大きい青色申告を活用し、経費を適切に計上することが重要です。さらに、国民年金基金の掛金は社会保険料控除として全額が所得控除となり、iDeCoや小規模企業共済も強力な節税手段です。これらの制度を積極的に活用することで、税負担を抑えながら効率よく老後資金を貯められます。▼関連記事:フリーランス・個人事業主の節税対策11選!税金の基礎知識も解説▼関連記事:フリーランスは青色申告で確定申告しよう!控除の活用や節税のコツを解説体調管理を徹底して定期的に健康診断を受けるフリーランスにとって身体は最大の資本です。病気やケガで働けない期間が長くなると、その分収入が減り、老後資金づくりにも大きな影響を与えます。そのため、日頃から栄養管理・睡眠・休息を意識し、規則正しい生活を心がけることが大切です。また、定期的に健康診断や人間ドックを受けて、身体の状態を把握しておきましょう。万が一病気が見つかったとしても、早期に発見できれば回復しやすく、仕事へ戻るまでの期間も短く済む可能性があります。▼関連記事:フリーランスが健康診断を受ける方法4つ!受診時のポイントも解説フリーランスは早めの老後対策が重要フリーランスは、厚生年金や退職金制度といった会社員向けの仕組みがないため、老後の生活資金を自分で準備する必要があります。国民年金だけでは生活費をまかなえないケースが多く、医療費・介護費・住居費といった将来の支出への備えも欠かせません。こうした不安に備えるには、公的制度を活用しながら計画的に積み立てていくことが重要です。国民年金基金や小規模企業共済、iDeCo、NISAなど、自分に合った制度を組み合わせて、早めに準備を始めることで老後の負担を大きく減らせます。