フリーランスとして働く際には、帳簿を付けなくてはいけません。しかし、帳簿の種類や付け方は複雑で、知識がないと放置してしまいがちですよね。この記事では、フリーランスが帳簿を付けていなかった際に発生するリスクや、帳簿を付ける方法を解説します。帳簿付けを楽にするコツも紹介するので、会計業務の参考にしてください。帳簿とは?帳簿とは、事業に関わる金銭の出入りを記録するための台帳のことです。帳簿を付ける目的は、主に2つあります。正確な財政状況を把握する日々の取引を記録する売上に対して経費の額が大きくなり、赤字になっている場合もあります。赤字が続けばフリーランスとしての事業の継続が難しくなるため、売上と経費を正確に把握し、売上の増加や経費削減などの対応をしなくてはいけません。また、帳簿を付けることで、「どこから・いつ・いくらの入金があったか」や「何に・いつ・いくら払ったのか」といったお金の流れが可視化されます。こまめに帳簿を付けていれば、クライアントから予定していた入金がない場合などに、すぐに気づいて問い合わせられるでしょう。記帳との違い記帳とは、取引の内容を記録する行為を指す言葉です。「帳簿を付ける」と「記帳する」は同じ意味になります。記帳する際には、基本的に領収書や通帳の記録やカード明細をもとに、事業にまつわる金銭の動きを全て記録しましょう。支出は、何をどこまで経費にするかを精査する必要があります。簿記との違い簿記は「帳簿記入」を略した言葉で、記帳と同様に帳簿を付けることを指します。しかし、簿記は記帳と違ってただお金の流れを記録するのではなく、収支を計算して決算書を作成することを目的として行われます。収支状況を客観的に読み取れるよう、定められたルールに従って記帳することが「簿記」です。フリーランスは帳簿が確定申告に必要となるフリーランス(個人事業主)は、確定申告に必要となるため、帳簿を付ける義務があります。確定申告とは、年間の所得を計算して所得税の税額を税務署に申告するものです。1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年の2月16日から3月15日に申告書類の提出と納税を行います。所得の計算は帳簿をもとに行います。また、正しい額を申告していると税務署に証明するためにも帳簿が必要です。▼関連記事:確定申告はフリーランスに必須!やり方や必要書類と経理管理のコツフリーランスは主要簿を付けよう帳簿は、取引を把握する「主要簿」と、主要簿を補足する「補助簿」の2つに分類されます。主要簿は、青色申告をするために必要となります。一方、補助簿には多くの種類があり、個人の判断でどの補助簿をつけるかを決めます。【主要簿】種類概要仕訳帳日々の取引内容(全ての金銭の出入り)を日付順に記載するもの総勘定元帳仕訳帳をもとに、取引を勘定科目別に記載するもの総勘定元帳をもとに、決算時に損益計算表や貸借対照表を作成する【補助簿】種類概要現金出納帳事業における現金の出入りを記録するもの預金出納帳金融機関の口座ごとに入出金を記録するもの口座の数だけ作成する必要がある小口現金出納帳交通費や切手、コピー代など少額の現金の動きのみを記録するもの仕入帳仕入れの日時、内容、個数、単価、総額などを仕入先別に記録するもの売上帳売上の日時、内容、個数、単価、総額などを顧客別に記録するもの支払手形記入帳支払手形の増減を記録するもの受取手形記入帳受取手形を受け取った際に記録するもの商品有高帳商品の在庫状況を把握するために記録するもの仕入先元帳(買掛金元帳)仕入帳をもとに、仕入先ごとに取引内容や取引金額を記録するもの得意先元帳(売掛金元帳)売上帳をもとに、顧客ごとに取引内容や取引金額を記録するもの固定資産台帳固定資産ごとに、内容や購入日、耐用年数などを記録するものフリーランスは、基本的に主要簿さえ付けていれば確定申告ができます。補助簿は事業内容に応じて、記録するメリットがあれば作成するとよいでしょう。フリーランスが帳簿を付けていないとどうなる?確定申告の資料として、帳簿(主要簿)をつけることは義務化されています。しかし、確定申告の際には税務署に帳簿を提出するわけではないため、帳簿を付けないままでいることも仕組み上は可能です。ここでは、フリーランスが帳簿を付けていなかった際に発生するデメリットやペナルティを紹介します。税務署が推定した所得による税額になる帳簿を付けていない場合、税務署に申告した数字が正しいと証明できません。そのため、税務調査が入ると、税額が自ら申告した額ではなく、税務署が推定した額になります。税務署が税額を決定することを「推計課税」といい、同業者の売上や経費などを参考に計算されます。実際にかかっている経費などが反映されないため、自分で申告する税額より多くの税額を支払う可能性があります。なお、帳簿の内容が正しくないと判断されると、帳簿があっても推計課税となる場合があるので注意しましょう。▼関連記事:フリーランスも税務調査の対象になる!税務調査の確率や対象になりやすい人の特徴を解説加算税が発生する帳簿を付けておらず正確な所得を申告できていないと、「過少申告した」と判断され、ペナルティとして加算税が発生します。税務調査の際に、帳簿の提出がない場合や、帳簿への売上金額の記載が本来記載するべき額の2分の1未満だった場合は、過少申告加算税の割合が10%加重されます。また、帳簿への売上金額の記載が本来記載するべき額の3分の2未満だった場合にも、過少申告加算税は5%加重されます。青色申告を取り消される確定申告の際には帳簿の提出は不要ですが、税務署から帳簿の提出が求められることがあります。その際に、帳簿を付けていなかったり、帳簿を税務署に提示できなかったりすると、青色申告を取り消される可能性があります。確定申告には青色申告と白色申告の2種類あり、青色申告は最大65万円の特別控除や、翌年への赤字の繰越が可能です。青色申告は詳細な帳簿が求められるため、帳簿がないと発覚すると、青色申告の権利を取り消されてしまいます。▼関連記事:フリーランスは青色申告で確定申告しよう!控除の活用や節税のコツを解説控除が受けられなくなる帳簿を付けていないと、税金の控除制度を利用できなくなります。例えば、支払った消費税から仕入れの消費税を差し引いて計算できる「消費税の仕入税額控除」は、帳簿がなければ受けられません。また、上記で説明した「青色申告の65万円控除」も、帳簿がないと当然受けられなくなります。帳簿がないことにより支払う税額が増えてしまうので、事業の継続のためにも帳簿付けは欠かせません。帳簿付けの方法帳簿付けには、主に簡易簿記と複式簿記の2つの方法があります。ここでは、それぞれの方法を解説します。帳簿を付ける際の経費については、以下の記事を参考にしてください。▼関連記事:フリーランスの気になる経費事情!経費計上する時の注意点やQ&Aも簡易簿記簡易簿記は、単式簿記とも呼ばれ、項目(勘定科目)ごとに増減を記録する方法です。家計簿やお小遣い帳のイメージで、残高の増減を確認できます。白色申告をする場合は簡易簿記で構いません。収入を「売上」と「雑収入」に、支出を「仕入れ」と「経費」に区別するなど、内容と金額、日付を記録しておきましょう。一方、青色申告では、簡易簿記のみだと65万円の特別控除は受けられず、10万円の控除となります。複式簿記複式簿記は、簡易簿記と比べ、より正確で詳細な記録を行う方法です。「仕訳」という形で、1つの取引を2つ以上の勘定科目とセットにして記帳します。仕訳を記録する「仕訳帳」と、仕訳帳をもとにして作る「総勘定元帳」は、複式簿記を用いて作成します。青色申告で65万円の特別控除を受ける場合には、この2つの帳簿が必要です。そのため、最大限控除を活用したいフリーランスは、複式簿記で帳簿を付けることをおすすめします。フリーランスが正確に帳簿を付けるには?フリーランスが確定申告をする際には、複式簿記で帳簿を作成し、青色申告の特別控除を受けたいところです。しかし、ハードルが高いと感じる方も多いでしょう。ここでは、簿記の知識がないフリーランスが、正確に帳簿を付けるためのポイントを紹介します。会計ソフトを使う会計ソフトは、請求書や領収書の金額を入力するだけで帳簿付けができるソフトです。簿記の知識がないフリーランスでも、簡単に複式簿記での帳簿付けができます。例えば、会計ソフトの代表的な機能である「自動仕訳」では、入力した内容を自動的に適切な勘定項目に振り分けてくれます。また、銀行口座やクレジットカードと会計ソフトを紐付けると、お金の動きが会計ソフトに反映され、自動的に記録されます。会計ソフトは、帳簿付けだけではなく、確定申告の書類作成まで行えます。▼関連記事:フリーランスにおすすめの会計ソフト8選!選び方・比較ポイントを解説税理士に相談する売上が1,000万円を超えたら税理士へ相談するのがおすすめです。売上が増えると、会計ソフトへの入力や、口座からの反映を自分で追いきれなくなる可能性があります。また、支払う税額も多くなるため、節税対策が重要になります。そのため、会計ソフトと比べ費用はかかりますが、税理士に会計業務を依頼することで、正確な帳簿付けや節税を行えます。税理士会に参加するのもおすすめです。毎年2月23日を中心に、相談会や納税者を支援する無料のイベントを開催しています。▼参考:日本税理士会連合会▼関連記事:確定申告を税理士に依頼・丸投げする費用は?メリットや注意点も解説税務署や青色申告会の記帳指導を利用する税務署は、帳簿の付け方がわからない人に対して記帳指導を行っています。管轄の税務署に電話をすれば、帳簿の付け方などを相談できます。また、帳簿を管轄の税務署に持って行き、窓口で相談することもできます。青色申告会では、会員へ向けて青色申告の帳簿の付け方や、申告書類の作成方法の指導を行っています。サポートを受けるには管轄地域の青色申告会に入会しましょう。▼参考:一般社団法人 全国青色申告会総連合フリーランスが帳簿付けを楽にするコツ最後に、フリーランスが帳簿付けを楽にする方法を紹介します。会計ソフトを利用すると知識がなくても簡単に帳簿付けを行えますが、それでも業務に追われる中で帳簿を付けるのは大変です。そのため、少しでも帳簿付けを楽にして、ほかの業務に時間や労力を使えるように工夫しましょう。事業用の銀行口座を作るフリーランスになったら、事業用の銀行口座を作るのがおすすめです。プライベートと事業の口座が同じだと、食費などのプライベートで発生したお金の動きも口座の記録に残ります。口座を分けて、事業に関わるお金の動きだけがわかる口座を作っておくと、口座の記録通りに帳簿を付ければよいので管理がシンプルになります。また、会計ソフトと事業用の口座を連携させれば、自分で入力する必要がなくなるため、帳簿付けが格段に楽になります。事業用のクレジットカードを作るフリーランスはクレジットカードで経費を支払うことも多いでしょう。プライベートで使ったお金と事業の経費を区別しやすくするために、事業用のクレジットカードを作ると便利です。事業用のクレジットカードがあれば、毎月発行される明細がそのまま事業の支出として帳簿に付けられます。▼関連記事:フリーランスがクレジットカードを作るならビジネスカードがおすすめ!選び方や審査を通すポイントを紹介帳簿付けする日を毎月固定にする毎月1回、帳簿付けをする日を決めておきましょう。売上や経費の入力には、多少なりとも手間がかかります。仕事に追われていると、つい後回しにしてしまします。確定申告の前に慌てて1年分の帳簿を作成すると、ミスが起きたり、期限に間に合わなかったりする恐れもあります。負担なく正確に帳簿を付けるには、こまめに作業することが大事です。また、こまめに帳簿を付けることによって、経営状況の問題にも早期に気づけます。フリーランスは帳簿を定められた期間保管しよう帳簿は記録したら終わりではなく、保管する義務があります。帳簿や書類を定められた期間保管していないと、税務調査が入ったときにペナルティが発生する恐れがあります。【青色申告に関する帳簿と書類の保管期間】種類保管するもの保管期間帳簿・仕訳帳・総勘定元帳・現金出用帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳など7年決算書関係書類・損益計算書・貸借対照表・棚卸表など7年※前々年分の事業所得及び不動産所得の金額が300万円以下の場合は5年その他の書類・取引に関して作成した書類・受領した上記以外の書類5年【白色申告に関する帳簿と書類の保管期間】種類保管するもの保管期間帳簿(法定帳簿)収入金額や必要経費を記載した帳簿7年帳簿(任意帳簿)業務に関して作成した上記以外の帳簿5年書類・決算に関して作成した棚卸表などの書類・業務に関して作成・受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書類5年上記の保管期間中は、帳簿や書類を破棄しないようにしましょう。▼参考:記帳や帳簿等の保存・青色申告|国税庁まとめ帳簿は、事業にまつわるお金の出入りを記録する台帳です。フリーランスは、帳簿をもとにして確定申告の書類を作り、税務署に提出しなければなりません。青色申告の最大65万円の特別控除を受けたい場合には、主要簿である「仕訳帳」と「総勘定元帳」を付ける必要があります。仕訳帳と総勘定元帳は複式簿記にて記帳します。複式簿記は難易度が高いものの、会計ソフトを使うと比較的簡単に正しく記帳ができます。また、税理士や税務署、青色申告会など外部のサポートを受けるのもよいでしょう。フリーランスにとって、お金の流れを把握することは重要です。日々帳簿を付けることで、経営状態が可視化されて経営難になった際にもすぐに対処できるでしょう。この記事を参考に、ぜひ帳簿を作成してみてください。