個人事業主・フリーランスとして働く際には、帳簿をつけなくてはいけません。確定申告の際にも、帳簿の保管が義務となっています。しかし、帳簿の種類やつけ方は複雑で、知識がないと放置してしまいがちですよね。この記事では、個人事業主が帳簿をつけてなかった際に発生するリスクや、確定申告の前に帳簿をつけてない場合の対処法、帳簿のつけ方を解説します。また、帳簿づけを楽にするコツも紹介するので、会計業務の参考にしてください。帳簿とは?帳簿とは、事業に関わる金銭の出入りを記録するための台帳のことです。帳簿をつける目的は、主に2つあります。正確な財政状況を把握する日々の取引を記録する売上に対して経費の額が大きくなり、赤字になっている場合もあります。赤字が続けば、個人事業主・フリーランスとしての事業の継続が難しくなるため、売上と経費を正確に把握し、売上の増加や経費削減などの対応をしなくてはいけません。また、帳簿をつけることで、「どこから・いつ・いくらの入金があったか」や「何に・いつ・いくら払ったのか」といったお金の流れが可視化されます。こまめに帳簿をつけていれば、クライアントから予定していた入金がない場合などに、すぐに気づいて問い合わせられるでしょう。個人事業主・フリーランスは帳簿が確定申告に必要となる個人事業主・フリーランスは、確定申告に必要となるため、帳簿をつける義務があります。確定申告とは、年間の所得を計算して所得税の税額を税務署に申告するものです。1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年の2月16日から3月15日に申告書類の提出と納税を行います。所得税の確定申告には、青色申告と白色申告の2種類があります。青色申告には事前に「青色申告承認申請書」の提出が必要なものの、最大65万円の「青色申告特別控除」を受けられ、赤字の繰り越しもできるのが特徴です。個人事業主は、青色申告か白色申告かに関わらず、所得の計算は帳簿をもとに行うため、必ず帳簿をつけなくてはいけません。また、正しい額を申告していると税務署に証明するためにも帳簿が必要です。▼関連記事:確定申告はフリーランスに必須!やり方や必要書類と経理管理のコツ▼関連記事:フリーランスは青色申告で確定申告しよう!控除の活用や節税のコツを解説個人事業主・フリーランスが帳簿をつけてないとどうなる?確定申告の資料として、帳簿(主要簿)をつけることは義務化されています。しかし、確定申告の際には、税務署に帳簿を提出するわけではないため、帳簿をつけないままでいることも仕組み上は可能です。ただし、もし個人事業主・フリーランスが帳簿をつけてないと、以下のようなデメリットやペナルティが発生する可能性があります。税務署が推定した所得による税額になる加算税が発生する青色申告を取り消される控除が受けられなくなるここでは、個人事業主が帳簿をつけてなかった際に発生するデメリットやペナルティを紹介します。税務署が推定した所得による税額になる帳簿をつけてない場合、税務署に申告した数字が正しいと証明できません。そのため、税務調査が入ると、税額が自ら申告した額ではなく、税務署が推定した額になります。税務署が税額を決定することを「推計課税」といい、同業者の売上や経費などを参考に計算されます。実際にかかっている経費などが反映されないため、自分で申告する税額より多くの税額を支払う可能性があります。なお、帳簿の内容が正しくないと判断されると、帳簿があっても推計課税となる場合があるため注意しましょう。▼関連記事:フリーランスも税務調査の対象になる!税務調査の確率や対象になりやすい人の特徴を解説加算税が発生する帳簿をつけておらず正確な所得を申告できていないと、「過少申告した」と判断され、ペナルティとして加算税が発生します。税務調査の際に、帳簿の提出がない場合や、帳簿への売上金額の記載が本来記載するべき額の2分の1未満だった場合は、過少申告加算税の割合が10%加重されます。また、帳簿への売上金額の記載が本来記載するべき額の3分の2未満だった場合にも、過少申告加算税が5%加重されます。青色申告を取り消される確定申告の際には帳簿の提出は不要ですが、税務署から帳簿の提出が求められることがあります。その際に、帳簿をつけていなかったり、帳簿を税務署に提示できなかったりすると、青色申告を取り消される可能性があります。控除が受けられなくなる帳簿をつけてないと、税金の控除制度を利用できなくなります。例えば、支払った消費税から仕入れの消費税を差し引いて計算できる「消費税の仕入税額控除」は、帳簿がなければ受けられません。また、上記で説明した青色申告の65万円控除も、帳簿がないと当然受けられなくなります。帳簿がないことにより支払う税額が増えてしまうため、事業の継続のためにも帳簿づけは欠かせません。個人事業主・フリーランスは主要簿をつけよう帳簿は、取引を把握する「主要簿」と、主要簿を補足する「補助簿」の2つに分類されます。主要簿は、青色申告をするために必要となります。一方、補助簿には多くの種類があり、個人の判断でどの補助簿をつけるかを決めます。主要簿種類概要仕訳帳日々の取引内容(全ての金銭の出入り)を日付順に記録する帳簿。総勘定元帳仕訳帳をもとに、取引を勘定科目別に分類して記録する帳簿。決算時には総勘定元帳をもとに、損益計算書や貸借対照表を作成する。補助簿種類概要現金出納帳事業における現金の出入りを記録する帳簿。預金出納帳金融機関の口座ごとに入出金を記録する帳簿。口座の数だけ作成する必要がある。小口現金出納帳交通費・切手代・コピー代など、少額の現金の出入りのみを記録する帳簿。仕入帳仕入れの日時や内容、個数、単価、総額などを仕入先別に記録する帳簿。売上帳売上の日時や内容、個数、単価、総額などを顧客別に記録する帳簿。支払手形記入帳支払手形の発行・支払いなどの増減を記録する帳簿。受取手形記入帳受取手形を受け取った際の内容を記録する帳簿。商品有高帳商品の在庫状況を把握するために記録する帳簿。仕入先元帳(買掛金元帳)仕入帳をもとに、仕入先ごとに取引内容や金額を記録する帳簿。得意先元帳(売掛金元帳)売上帳をもとに、顧客ごとに取引内容や金額を記録する帳簿。固定資産台帳固定資産ごとに内容や購入日、耐用年数などを記録する帳簿。フリーランスは、基本的に主要簿さえつけていれば確定申告ができます。補助簿は事業内容に応じて、記録するメリットがあれば作成するとよいでしょう。個人事業主・フリーランスの帳簿づけの方法帳簿づけには、主に簡易簿記と複式簿記の2つの方法があります。ここでは、それぞれの方法を解説します。帳簿をつける際の経費については、以下の記事を参考にしてください。▼関連記事:フリーランスの気になる経費事情!経費計上する時の注意点やQ&Aも簡易簿記簡易簿記は、項目(勘定科目)ごとに増減を記録する方法です。単式簿記とも呼ばれ、家計簿やお小遣い帳のイメージで、残高の増減を確認できます。白色申告をする場合は、簡易簿記で構いません。収入を「売上」と「雑収入」に、支出を「仕入れ」と「経費」に区別するなど、内容と金額、日付を記録します。一方、青色申告では、簡易簿記のみだと65万円の特別控除は受けられず、10万円の控除となります。複式簿記複式簿記は、簡易簿記と比べ、より正確で詳細な記録を行う方法です。「仕訳」という形で、1つの取引を2つ以上の勘定科目とセットにして記帳します。仕訳を記録する「仕訳帳」と、仕訳帳をもとにして作る「総勘定元帳」は、複式簿記を用いて作成します。青色申告で65万円の特別控除を受ける場合には、仕訳帳と総勘定元帳が必要です。そのため、最大限控除を活用したい個人事業主は、複式簿記で帳簿をつけることをおすすめします。個人事業主・フリーランスが正確に帳簿をつけるには?個人事業主・フリーランスが確定申告をする際には、複式簿記で帳簿を作成し、青色申告の特別控除を受けたいところです。しかし、ハードルが高いと感じる人も多いでしょう。ここでは、簿記の知識がない個人事業主が、正確に帳簿をつけるためのポイントを紹介します。会計ソフトを使う会計ソフトは、請求書や領収書の金額を入力するだけで帳簿づけができるツールです。簿記の知識がない個人事業主でも、簡単に複式簿記での帳簿づけができます。例えば、会計ソフトの代表的な機能である「自動仕訳」では、入力した内容を自動的に適切な勘定項目に振り分けてくれます。また、銀行口座やクレジットカードと会計ソフトを紐づけると、お金の動きが自動的に会計ソフトに反映・記録されます。会計ソフトは、帳簿づけだけではなく、確定申告の書類作成まで行えます。▼関連記事:フリーランスにおすすめの会計ソフト8選!選び方・比較ポイントを解説税理士に依頼する売上が増えると、会計ソフトへの入力や、口座からの反映を自分で追いきれなくなる可能性があります。また、支払う税額も多くなるため、節税対策が重要になります。そのため、会計ソフトと比べて費用はかかりますが、税理士に会計業務を依頼することで、正確な帳簿づけや節税を行えます。さらに、税理士会に参加するのもおすすめです。毎年2月23日を中心に、相談会や納税者を支援する無料のイベントを開催しています。▼参考:税理士会の相談会に行ってみる|日本税理士会連合会▼関連記事:確定申告を税理士に依頼・丸投げする費用は?メリットや注意点も解説税務署や青色申告会にサポートしてもらう税務署は、帳簿のつけ方が分からない人に対して記帳指導を行っています。管轄の税務署に問い合わせすれば、帳簿のつけ方などを相談できます。また、帳簿を管轄の税務署に持って行き、窓口で相談もできます。青色申告会では、会員へ向けて青色申告の帳簿のつけ方や、申告書類の作成方法の指導を行っています。サポートを受けるには管轄地域の青色申告会に入会しましょう。▼参考:記帳・決算等説明会のご案内|国税庁▼参考:窓口検索|一般社団法人 全国青色申告会総連合個人事業主・フリーランスが確定申告前に帳簿をつけてない場合の対処法個人事業主・フリーランスが確定申告の前に帳簿をつけてなかった場合、確定申告の期日までに帳簿を用意しなければなりません。ここでは、確定申告までに帳簿づけを間に合わせるための対処法を紹介します。必要な書類や資料を集めるまずは、領収書や銀行口座の履歴、クレジットカードの明細などのお金の記録を集めます。たとえ事業に使ったお金でも、記録が残っていないものは経費にできません。クレジットカードのWeb明細の閲覧が期限切れになっている場合は、明細を取り寄せる必要があります。なお、帳簿づけができていない場合でも、データとして記録が残っていると後から帳簿づけがしやすくなります。そのため、領収書の保管は最低限しておくようにしましょう。また、支払い時には現金ではなく、クレジットカードや銀行振り込み、電子マネーを利用すると、記録が残るためおすすめです。資料に基づいて帳簿づけを行う集めた資料に基づき、全ての収入と経費を正確に記入します。青色申告を行う場合は、義務となっている「仕訳帳」と「総勘定元帳」が必要です。確定申告は帳簿づけをして終わりではなく、確定申告書類を作成し、申請しなくてはいけません。もし確定申告までに帳簿づけが間に合わないのであれば、仮の金額で申請と納税をし、帳簿づけが完了したらすぐに修正申告をします。ただし、税金を過小に申告していると延滞税が発生するため、多めに見積もって申請し、多く払いすぎた税金を返金してもらうようにしましょう。税理士に相談する直前になって帳簿づけをまったくしておらず、帳簿のつけ方も分からない場合は、専門知識のある税理士に依頼するほうが、手続きに不備が生じにくく安心です。税理士に帳簿の作成を依頼すれば、税務調査が入った場合にも対応してもらえます。ただし、確定申告の直前に税理士に依頼すると、帳簿作成の料金が高くなる可能性が高いです。また、税理士に依頼する場合は、記帳だけではなく、確定申告書類の作成もセットで依頼することになるのが一般的です。個人事業主・フリーランスが帳簿づけを楽にするコツ続いて、個人事業主・フリーランスが帳簿づけを楽にする方法を紹介します。会計ソフトを利用すると知識がなくても簡単に帳簿づけを行えますが、それでも業務に追われる中で帳簿をつけるのは大変です。そのため、少しでも帳簿づけを楽にして、ほかの業務に時間や労力を使えるように工夫しましょう。事業用の銀行口座を作る個人事業主になったら、事業用の銀行口座を作るのがおすすめです。プライベートと事業の口座が同じだと、食費などのプライベートで発生したお金の動きも口座の記録に残ります。口座を分けて、事業に関わるお金の動きだけが分かる口座を作っておくと、口座の記録通りに帳簿をつければよくなり、管理がシンプルになります。また、会計ソフトと事業用の口座を連携させれば、自分で入力する必要がなくなるため、帳簿づけが格段に楽になります。事業用のクレジットカードを作る個人事業主は、クレジットカードで経費を支払うことも多いでしょう。プライベートで使ったお金と事業の経費を区別しやすくするために、事業用のクレジットカードを作ると便利です。事業用のクレジットカードがあれば、毎月発行される明細がそのまま事業の支出として帳簿につけられます。▼関連記事:フリーランスがクレジットカードを作るならビジネスカードがおすすめ!選び方や審査を通すポイントを紹介毎月帳簿づけする日を決める毎月1回、帳簿づけをする日を決めておきましょう。売上や経費の入力には、多少なりとも手間がかかります。仕事に追われていると、つい後回しにしてしまいます。確定申告の前に慌てて1年分の帳簿を作成すると、ミスが起きたり、期限に間に合わなかったりする恐れもあります。負担なく正確に帳簿をつけるには、こまめに作業することが大切です。また、こまめに帳簿をつけることによって、経営状況の問題にも早期に気づけます。個人事業主・フリーランスは帳簿を定められた期間保管しよう帳簿は記録したら終わりではなく、保管する義務があります。個人事業主・フリーランスは、帳簿や書類を定められた期間保管していないと、税務調査が入ったときにペナルティが発生する恐れがあります。青色申告に関する帳簿・書類の保管期間種類保管するもの保管期間帳簿・仕訳帳・総勘定元帳・現金出納帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳など7年決算書関係書類・損益計算書・貸借対照表・棚卸表など7年※前々年分の事業所得及び不動産所得の金額が300万円以下の場合は5年その他の書類・取引に関して作成した書類・受領した上記以外の書類5年白色申告に関する帳簿・書類の保管期間種類保管するもの保管期間帳簿(法定帳簿)収入金額や必要経費を記載した帳簿7年帳簿(任意帳簿)業務に関して作成した上記以外の帳簿5年書類・決算に関して作成した棚卸表などの書類・業務に関して作成・受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書類5年上記の保管期間中は、帳簿や書類を破棄しないようにしましょう。▼参考:記帳や帳簿等の保存・青色申告|国税庁個人事業主・フリーランスの帳簿づけに関するよくある質問最後に、個人事業主・フリーランスの帳簿づけに関して多く寄せられる質問に回答します。帳簿についての疑問を解消し、不備なく確定申告ができるように準備をしましょう。帳簿をつけてないと確定申告できないの?帳簿づけをしてない場合、確定申告はできません。先述した通り、青色申告・白色申告に問わず、帳簿づけは個人事業主の義務です。帳簿をつけ忘れていた場合でも、確定申告までには追って帳簿をつけるようにしましょう。個人事業主・フリーランスに税務調査が入ることはよくある?個人事業主・フリーランスが税務調査を受ける確率は、1%弱といわれています。また、以下のような個人事業主は、税務調査の対象になりやすいとされています。そもそも確定申告を行なっていない売上が急激に増えている控除ギリギリの申告が続いている売上と経費のバランスが不自然雑所得の割合が高い・きちんと仕訳がされていない確率的には決して高くはないとはいえ、万が一税務調査を受けたとしても問題がないように、帳簿づけは日頃からしっかり行うことが重要です。税務調査の対象になったらどうなるの?税務調査の対象になったら事前通告が来ます。その後、2〜3日間の実地調査が行われます。実地調査では、聞き取りや帳簿などの調査が行われます。実地調査が終了すると、調査結果が通知されます。問題がない場合には「是認通知書」が届きます。過少申告や無申告が見つかった場合は、修正申告や期限後申告が必要となります。個人事業主は、事前通知を受けたら、実地調査が行われる前に、帳簿や書類に目を通しておくことが重要です。聞き取りの際にスムーズに回答できるように、領収書などもしっかりと用意しておくとよいでしょう。もし書類に不備があり、実地調査で指摘されそうな箇所があれば、あらかじめ把握しておき、調査の際に答えられるようにしておくと安心です。また、実地調査の際は、冷静に誠実に対応するように心がけます。質問に対してごまかしたり、適当に答えたりはしないようにしましょう。▼関連記事:フリーランスも税務調査の対象になる!税務調査の確率や対象になりやすい人の特徴を解説帳簿づけと記帳の違いは?記帳とは、取引の内容を記録する行為を指す言葉です。「帳簿をつける」と「記帳する」は同じ意味になります。記帳する際には、基本的に領収書や通帳の記録やカード明細をもとに、事業にまつわる金銭の動きを全て記録しましょう。支出は、何をどこまで経費にするかを精査する必要があります。帳簿づけと簿記との違いは?簿記は、「帳簿記入」を略した言葉で、記帳と同様に帳簿をつけることを指します。しかし、簿記は記帳と違ってただお金の流れを記録するのではなく、収支を計算して決算書を作成することを目的として行われます。収支状況を客観的に読み取れるよう、定められたルールに従って記帳することが「簿記」です。まとめ帳簿は、事業にまつわるお金の出入りを記録する台帳です。個人事業主・フリーランスは、帳簿をもとにして確定申告の書類を作り、税務署に提出しなければなりません。青色申告の最大65万円の特別控除を受けたい場合には、主要簿である「仕訳帳」と「総勘定元帳」をつける必要があります。仕訳帳と総勘定元帳は複式簿記にて記帳します。複式簿記は難易度が高いものの、会計ソフトを使うと比較的簡単に正しく記帳ができます。また、税理士や税務署、青色申告会など外部のサポートを受けるのもよいでしょう。個人事業主・フリーランスにとって、お金の流れを把握することは重要です。日々帳簿をつけることで、経営状態が可視化されて経営難になった際にもすぐに対処できるでしょう。この記事を参考に、ぜひ帳簿を作成してみてください。