フリーランスの消費税の納税義務は売上規模や取引条件によって変わり、国税庁が定める基準を満たせば課税事業者となり、申告・納付が必要になります。一方、基準を満たさなければ免税事業者としてそのまま活動することも可能です。さらに、インボイス制度により、「免税事業者を続けるべきか」「適格請求書発行事業者として登録すべきか」という判断を迫られるケースも増えています。取引先との関係や価格設定、将来のキャリアを考えるうえでも、消費税の理解は欠かせません。この記事では、フリーランスが消費税を納める必要があるかどうかの判定基準や、インボイス制度の影響、消費税の計算方法、確定申告の流れを解説します。自分が課税事業者に該当するか、今後どのような対応が必要かを一緒に確認していきましょう。そもそも消費税とは?消費税とは、商品やサービスの販売に対して課される税金で、消費者が負担し、事業者がその分をまとめて国に納める仕組みです。消費税は、食料品など日常の買い物にかかる税金という印象を持つ人も多いかもしれませんが、実際にはもっと広範囲に適用されます。国税庁によると、国内で事業者が対価を得て行う資産の譲渡・貸付け・役務の提供が課税対象で、商品の販売、運送、広告といった、ほとんどの取引が消費税の対象に含まれます。そのため、フリーランスが提供する多くのサービスや制作物も基本的に消費税の課税対象となります。▼参考:消費税のしくみ|国税庁【判定基準】フリーランスは消費税を納める必要がある?フリーランスが消費税を納める必要があるかどうかは、国税庁が定める「課税事業者」の判定基準によって決まります。ここでは、フリーランスが課税事業者になる基準を紹介します。①2年前の売上が1,000万円を超える▼出典:消費税のしくみ|国税庁国税庁は、基準期間(個人事業者の場合は前々年)の課税売上高をもとに、免税事業者か課税事業者かを判断しています。基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら免税事業者、1,000万円を超えると課税事業者となります。つまり、フリーランスは前々年の売上が1,000万円を超えた時点で、消費税の申告・納付義務が発生します。例えば、2025年の納税義務を判定する場合は、前々年である2023年の課税売上高を確認し、これが1,000万円を超えていれば2025年は課税事業者として扱われます。なお、この「課税売上高」とは、消費税の対象となる取引の税抜売上高を指し、非課税取引・不課税取引は含まれません。②前年の1〜6月の売上が1,000万円を超える特定期間(個人事業者の場合は前年の1月1日〜6月30日)における課税売上高が1,000万円を超えると、その年は課税事業者として扱われます。例えば、2025年の納税義務を判断する際、特定期間である2024年1〜6月の課税売上高が1,000万円超であれば、前々年(2023年)の売上が1,000万円以下であっても、2025年は課税事業者となります。この基準は、事業が急成長したケースで適用されやすく、開業後すぐに売上が伸びたフリーランスは特に注意が必要です。また、特定期間の判定には「課税売上高」ではなく、給与等支払額の合計を用いて判断することもできます。▼参考:消費税のしくみ|国税庁フリーランスが免税事業者として働ける条件基準期間・特定期間のどちらを見ても課税売上高が1,000万円以下であれば、原則として免税事業者となり、消費税の申告・納付義務はありません。免税事業者のままであれば、消費税の申告や納税が不要なため、事務負担が軽くなるほか、受け取った消費税相当額を国に納める必要がない分、手元に残る資金が増えるというメリットもあります。一方で、2023年10月に始まったインボイス制度により、取引先が仕入税額控除を受けるには適格請求書(インボイス)が必須となりました。免税事業者はインボイスを発行できないため、取引先との取引条件や契約に影響が出る可能性があります。そのため、免税事業者として働き続けるかどうかは、取引先の方針や今後の事業計画を踏まえて慎重に判断することが重要です。▼関連記事:免税事業者とは?売上1,000万円以下のフリーランスの消費税事情フリーランスは消費税を請求できる?フリーランスは、免税事業者であっても課税事業者であっても、クライアントや一般消費者に対して消費税を請求できます。消費税法では「事業者が行う資産の譲渡などには消費税を課す」と定められているため、立場に関わらず、事業者は消費税を価格に上乗せして請求することが認められています。消費税が非課税となる取引なお、フリーランスが提供する商品・サービスの多くは消費税の課税対象ですが、次のような取引は非課税とされているため注意が必要です。土地の譲渡・貸付け(※)有価証券・支払手段の譲渡利子・保証料・保険料郵便切手・印紙などの特定の場所での譲渡商品券・プリペイドカードなどの譲渡住民票・戸籍抄本などの行政手数料外国為替社会保険医療介護保険サービス・社会福祉事業出産に関する費用埋葬料・火葬料一定の身体障害者用物品の譲渡・貸付け一定の学校の授業料・入学金・検定料・施設設備費教科用図書の譲渡住宅の貸付け(※)(※)いずれも「一時的な貸付け」は非課税の対象外。外税と内税加えて、消費税の表示方法には「外税」と「内税」があります。外税:本体価格に消費税を含めず、別途加算する方式内税:表示価格にすでに消費税が含まれている方式例えば、外税で1,000円と表示されていれば、ここに消費税10%が加わり、請求額は1,100円になります。一方、内税1,000円の場合は、すでに消費税が含まれており、標準税率(10%)なら「909円+消費税91円=1,000円」という内訳になります(小数点以下は切り捨て)。フリーランスがクライアントと取引する際は、請求書などの金額が内税か外税かを必ず確認しましょう。外税なら本体価格に消費税を上乗せできますが、内税の場合は消費税がすでに含まれているため、後から加算することはできません。どちらの方式になるかは、クライアントや契約内容によって異なるため、事前の確認が重要です。インボイス制度がフリーランス・消費税に与える影響2023年10月に開始されたインボイス(適格請求書)制度は、フリーランスにも大きな影響を与えています。特に、免税事業者として活動している人や、これから免税事業者の範囲で独立しようと考えている人は、制度の内容をしっかり理解しておくことが重要です。インボイス制度とは?インボイスとは、事業者ごとの登録番号や取引の税率、消費税額などを記載した請求書のことで、請求書・納品書・領収書などが該当します。正式名称は「適格請求書等保存方式」で、2023年10月にスタートしました。インボイス制度は、複数税率(8%・10%)に対応し、買い手が仕入税額控除を受けられるようにする仕組みです。売り手であるインボイス発行事業者がインボイスを発行し、買い手がそれを保存することで、買い手側は仕入税額控除を適用できます。なお、インボイスを発行するには税務署で事前に登録が必要で、登録すると課税事業者となり、消費税の申告・納付義務が発生します。免税事業者は取引の継続に影響が出る可能性があるインボイス制度の開始により、免税事業者は取引継続に影響が出る可能性があります。免税事業者はインボイスを発行できないため、クライアント側が仕入税額控除を受けられず、結果として消費税負担が増えてしまうためです。この影響から、免税事業者のフリーランスはクライアントから次のような対応を求められることも増えています。契約の打ち切り報酬(契約金額)の減額インボイス登録の要請クライアントが取引を見直す理由は、インボイス登録済みの事業者と契約したほうが消費税の負担を抑えられるためです。また、税負担を避けるために「消費税分を報酬から差し引いてもよいか」と問われたり、「インボイス登録を検討してほしい」と依頼されたりするケースも増えています。課税事業者は手続きの手間などが生じる課税事業者になると、インボイス制度に対応するために記帳や申告書作成などの事務作業が増えます。また、請求書の形式もインボイス(適格請求書)の要件に合わせて見直す必要があります。▼関連記事:インボイス制度がフリーランスに与える影響とは?やるべき対策や今後の予想▼関連記事:インボイスに登録しない選択はあり?フリーランスの判断基準を解説フリーランスの消費税の計算方法【課税事業者向け】課税事業者が納める消費税は、「一般課税(本則課税)」「簡易課税方式」のいずれかの方法で計算します。それぞれ適用できる事業者の条件が異なるため、計算方法とあわせて順番に確認していきましょう。一般課税(本則課税)一般課税(本則課税)は、年間の課税売上高が5,000万円を超える事業者が選択する計算方法です。売上に含まれる消費税額から、仕入れなどの支払いで発生した消費税額を差し引いて納税額を求めます。計算の流れは次の通りです。①売上にかかった消費税額を求める標準税率の対象:税込売上額×7.8/110軽減税率の対象:税込売上額×6.24/108②仕入れにかかった消費税額を求める標準税率の対象:税込仕入額×7.8/110軽減税率の対象:税込仕入額×6.24/108③①の税額から②の税額を差し引く納めるべき消費税額簡易課税方式簡易課税方式は、年間売上高が5,000万円以下の小規模事業者が利用できる計算方法で、多くのフリーランスの課税事業者が対象になります。簡易課税方式では、受け取った消費税額にみなし仕入率を掛けて納税額を求めます。みなし仕入率とは、「仕入れにかかったとみなす消費税」を簡易的に計算するための割合で、複雑な計算を省ける点が大きなメリットです。みなし仕入率は、事業形態の区分によって以下のように定められています。事業区分みなし仕入率該当の事業第1種事業90%卸売業第2種事業80%小売業第3種事業70%農業・林業・漁業など第4種事業60%第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外(主に飲食業店など)第5種事業50%運輸通信業、金融・保険業 、サービス業など第6種事業40%不動産業▼参考:簡易課税制度|国税庁なお、簡易課税方式を適用するには、課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署へ提出する必要があります。フリーランスの消費税の申告方法【課税事業者向け】フリーランスは、課税事業者になると消費税の納付額などを税務署へ申告する必要があります。滞りなく対応するためにも、申告までの手順や押さえておくべきポイントをあらかじめ整理しておきましょう。①消費税の課税対象であるかを確認するまずは、自分が課税事業者に当てはまるかどうかを確認しましょう。課税事業者か免税事業者かは、前々年の基準期間、または前年1月1日〜6月30日の特定期間における課税売上高で判定します。これらの期間のいずれかで売上高が1,000万円を超えていれば課税事業者、1,000万円以下であれば免税事業者となります。②翌年の3月31日までに消費税を確定申告・納付する消費税の申告・納付は、所得税と同様に確定申告を通じて行います。年間の課税売上高が5,000万円を超える事業者は一般課税、5,000万円以下の事業者は簡易課税で納税額を計算し、「消費税及び地方消費税の確定申告書」を提出して申告・納付を行います。フリーランスの場合、消費税の確定申告は原則として翌年の3月31日までに済ませる必要があります。納税が遅れた場合に罰則はある?翌年3月31日までに消費税を納付しない場合、完納日まで延滞税が発生します。期限を過ぎるほど負担が大きくなるため、納付期限は必ず守りましょう。フリーランスの消費税の納付期限は原則3月31日ですが、土日・祝日に重なる場合は翌営業日へと繰り下げられます。年によって変動するため、毎年必ず事前に確認しておくことが大切です。また、国税庁のWebサイトでは、申告した消費税額と実際の納付日を入力すると延滞税を自動で計算できるツールも公開されています。▼参考:延滞税の計算方法|国税庁フリーランスの消費税に関するQ&A最後に、フリーランスの消費税に関する「よくある質問」を確認しておきましょう。免税事業者は消費税分を請求しないほうがいい?免税事業者のフリーランスでも、消費税を請求して問題ありません。「免税だから消費税分を減額したほうがいいのでは?」と悩む人もいますが、消費税分を自ら引いてしまうと、結果的に自分のサービスを安売りすることになり、報酬が上がらない負のサイクルに陥る可能性があります。また、「消費税分を差し引いても大丈夫です」と自ら申し出る必要もありません。むしろ、値引きに応じやすい外注先と見られ、立場が弱くなる恐れがあります。消費税は源泉徴収の対象になる?消費税が源泉徴収の対象になるかどうかは、請求書の金額が外税か内税かで異なります。外税の場合:報酬部分のみが源泉徴収の対象外税の請求書(原稿料10,000円+消費税1,000円)源泉徴収額:10,000円×10.21%=1,021円内税の場合:消費税を含めた金額が源泉徴収の対象内税の請求書(原稿料11,000円・消費税込み)源泉徴収額:11,000円×10.21%=1,123円このように、同じ実質の報酬でも内税か外税かで源泉徴収額が変わる点に注意しましょう。▼関連記事:フリーランスに必要な源泉徴収の知識!計算方法や請求書への記載方法課税事業者から免税事業者に戻ることは可能?課税事業者でも、基準期間の課税売上高が1,000万円以下になれば、免税事業者へ戻ることが可能です。その場合は、管轄の税務署へ「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」を提出します。提出方法は次のいずれかです。税務署へ郵送税務署窓口へ持参e-Taxで提出届出書は国税庁のホームページからダウンロードするか、税務署で受け取れます。▼参考:消費税の納税義務者でなくなった旨の届出手続|国税庁まとめフリーランスは、前々年または前年1〜6月の売上が1,000万円を超えていれば課税事業者、1,000万円以下であれば免税事業者となります。課税事業者になった場合は、消費税額を計算し、期限までに申告・納付しなければなりません。また、インボイス制度に関する理解を深めておくことも欠かせません。免税事業者と課税事業者の違い、納税額の計算方法、インボイス登録の影響などをしっかり確認し、フリーランスとして適切に消費税を取り扱いましょう。