会社員が休業や転職をする場合は、雇用保険によって給付金などを受け取ることができるため、仕事がない状態でも生活を安定させることができます。フリーランスを目指す人のなかには、「仕事がなくなった場合はどうなるのだろうか」「雇用保険のような救済制度はあるのか」などと不安に感じている人もいるかもしれません。この記事では、雇用保険の基本的な知識に加え、フリーランスは雇用保険に入れるのかに着目します。フリーランス向けの休業時に備えられる保険やサービスなども紹介するため、少しでも不安材料を解消したい方は、ぜひチェックしてみてください。【基礎知識】雇用保険とは?雇用保険とは、会社などに雇用されている労働者の雇用と生活を守る保険制度です。社会保険の1つで、1人でも労働者を雇用する企業は必ず加入しなければなりません。雇用保険は、「労働者の失業や休業に対して金銭面でのサポートを行うこと」「失業防止のために、労働者の福祉を増進すること」の2軸で事業を展開しています。雇用保険の保険料雇用保険の保険料は、企業と労働者双方が負担します。ただし、健康保険のように企業と折半するのではなく、企業が多く保険料を負担します。保険料は事業の種類によって以下のように異なります。【2024年度の雇用保険料】①労働者負担(失業等給付・育児休業給付の保険料のみ)②事業主負担①+②雇用保険料率一般の事業6/1,0009.5/1,00015.5/1,000農林水産・清酒製造の事業7/1,00010.5/1,00017.5/1,000建設の事業7/1,00011.5/1,00018.5/1,000【保険料の負担例】勤務先の事業:一般月々給与:30万円残業代:3万円ボーナス:50万円この場合の雇用保険料は以下のようになります。給与にかかる雇用保険料=(300,000+30,000)×0.6%=1,980円ボーナスにかかる雇用保険料=500,000×0.6%=3,000円雇用保険の補填や給付の内容雇用保険は、補償や給付の内容には複数の種類があり、以下の3つで構成されています。①失業等給付失業や休業した場合に金銭的な援助を受けられる②育児休業給付育休を取得した場合に給付金を受給できる③雇用保険二事業休業や転職した場合にスキルアップのサポートを受けられるそれぞれの内容を解説します。①失業や休業した場合に金銭的な援助を受けられる雇用保険に加入している労働者は、失業または休業した際に、雇用保険の中の「失業等給付」制度によって、金銭的な援助を受けることができます。労働者の収入が途絶えても生活を安定させ、さらに早期に仕事を見つけて就職できるようサポートすることを目的としています。なお、失業等給付には細かく分けると複数の給付事業があり、それぞれ労働者の状況に応じて給付されます。主な給付事業には以下が挙げられます。基本手当:離職後、原則1年間受け取れる基本的な給付技能習得手当:ハローワークで職業訓練を受けている間に受け取れる給付傷病手当:求職活動開始後、ケガや病気によって15日以上続けて働けない場合に受け取れる給付高年齢求職者給付金:高齢者が離職した際に、基本手当に加算される一時金特例一時金:短期雇用特例被保険者が離職した際に、基本手当の30日分相当額を受け取れる一時金就業手当:再就職手当の対象外の職業についた際、基本手当日額の30%相当額を受け取れる給付教育訓練給付金:厚生労働省指定の一般教育訓練を受講・終了した際に、受講料などの一定割合の相当額を受け取れる給付介護休業給付:家族の介護で休業した際に受け取れる給付なお、具体的な給付額や給付日数などは、労働者の退職理由や状況によって変わります。②育休を取得した場合に給付金を受給できる雇用保険では、育児休業給付制度によって、育児休業を取得した際に給付を受けることができます。育児休業給付は以下2つで構成されています。出生児育児休業給付金育児休業給付金出生児育児休業給付金では、子どもの出生後8週間以内に最大で4週間分、「産後パパ育休(出生時育児休業)」を取得し、一定の要件を満たすことで受給できます。育児休業給付金は、原則として1歳未満の子どもの育児のために育休を取得した際に、一定の要件を満たすことで受け取れます。③休業や転職した場合にスキルアップのサポートを受けられる雇用保険の雇用保険二事業では、休業や転職した人に対してスキルアップのサポートなどを行う企業を支援します。失業の予防・雇用機会の増大を主な目的としており、具体的には以下の2つの事業によって構成されています。雇用安定事業能力開発事業雇用安定事業では、主に事業者に対する助成金制度や、求職者に対する再就職支援、若年者・子育て女性への就労支援などを実施しています。例えば、就職支援ナビゲーターによる丁寧な就職相談・職業紹介、ジョブカフェ、マザーズハローワークなどが挙げられます。能力開発事業では、主に在職者・離職者への訓練や、事業者が実施する教育訓練に対する支援、職業能力評価制度の整備、ジョブカード制度の構築を実施しています。雇用の安定化には、事業者と労働者の両方への支援が欠かせません。休業や転職などの際には経済的な不安が生じますが、国から多くの支援を受けられることを覚えておくと心強いでしょう。フリーランスは原則雇用保険に加入できない雇用保険は、失業や休業、職業訓練などに関するさまざまな給付・サポートを受けることができます。しかし、フリーランスは原則、雇用保険には加入できません。雇用保険は、基本的に会社に雇われている人が加入できる制度です。フリーランスは企業に雇用されているわけではなく、クライアントと案件ごとに「業務委託契約」を結ぶため、雇用には該当しません。なお、雇用保険の加入にあたって、具体的な雇用形態は定められておらず、加入条件として「1週間あたりの所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがあること」が定められています。この条件を満たせば、正社員だけでなく、契約社員や派遣社員、パート・アルバイトも加入できます。フリーランスが雇用保険に加入できるケースフリーランスであっても、ダブルワークで企業に雇用されていれば、雇用保険には加入できるケースもあります。例えば、以下のケースが挙げられます。会社員とフリーランスを掛け持ちしているフリーランスのみでは収入が少なく生活が厳しいため、派遣やアルバイトも兼業している雇用保険の加入条件である「1週間あたりの所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがあること」を満たせば、雇用保険に加入できます。そのため、1社の企業で週20時間以上労働(雇用保険に加入)し、ほかの空いた時間は業務委託契約でフリーランスとして自由に仕事を受注するといった柔軟な働き方も可能です。専業フリーランスとして雇用保険に一切加入していない状況と比べると、失業・休業時に雇用保険によってサポートを受けられるため、有事の際の安心感がある働き方といえるでしょう。▼関連記事:会社員とフリーランスは掛け持ちできる!成功させるコツや確定申告の注意点などを解説▼関連記事:フリーランスと派遣の違いとは?掛け持ちするメリット・デメリットも解説▼関連記事:【体験談】フリーランスとアルバイトは兼業できる!メリット・デメリットを解説従業員を雇用するフリーランスは雇用保険への加入手続きが必要労働者を雇用しているフリーランスは、事業主として雇用保険への加入が必要になります。雇用保険というと、企業が加入するイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、法人成りしていない場合でも、アルバイトなどの労働者を1人でも雇用していれば雇用保険の適用事業所として要件を満たすため、加入手続きを行う必要があります。加入手続きの際は、雇用保険と労災保険を総称する「労働保険」の保険関係成立届を、労働基準監督署かハローワークに提出します。その上で、ハローワークに事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届を提出することで、事業主として雇用保険に加入できます。なお、雇用保険は事業主に雇われている労働者を守る目的で用意された保険であり、事業主である自分自身は加入できないため注意しましょう。雇用保険の代わりとなるフリーランス向けの制度やサービスフリーランスは原則、雇用保険に加入できませんが、フリーランスも加入できる雇用保険の代替制度やサービスは複数あります。少しでも働き方を安定させ、失業や休業への備えを強化させたい場合は、フリーランス向けの支援制度・サービスの利用を検討しましょう。フリーランス協会のベネフィットプラン一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会では、会員向けに保険制度やサービスなどが優遇される「ベネフィットプラン」を提供しています。ベネフィットプランの代表的な保険やサービスとしては、以下が挙げられます。 賠償責任保険納品物の瑕疵や情報漏洩、著作権侵害など、フリーランスが遭遇する可能性があるビジネスリスクを幅広く補償する報酬トラブル弁護士費用保険クライアントとの間で起こる報酬未払いなどのトラブルに対して、弁護士費用を補償する収入・ケガ・介護の保険ケガや病気で働けなくなった際に、喪失所得を保険金として受け取れる福利厚生サービス健康診断や人間ドック、リラクゼーション、オンライン学習、税務・法務相談、レジャーなどを優遇価格で受けられる上記のほかにも、キャリアアップにつながる学習プラットフォームの利用サービスや、フリーランス向けのキャリア相談サービスなどもあります。 あんしん財団の事業総合傷害保険一般社団法人あんしん財団では、業務中や日常生活で負ったケガを幅広くカバーする「事業総合傷害保険」を提供しています。フリーランスが受け取れない、雇用保険内の傷病手当金や労災保険の代わりになることが特徴です。なお、補償内容や金額は状況によって異なります。治療費は保険金として受け取れるほか、入院時には1日につき6,000円が補償されます。死亡時には最高で2,000万円の補償を受けることができます。中小企業基盤整備機構の小規模企業共済小規模企業共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する、中小企業・フリーランス向けの共済金制度です。毎月掛け金を積み立て、退職(廃業)時に共済金を受け取れる仕組みです。月額1,000円から掛け金を設定できるため、無理のない範囲でコツコツ積み立てられます。フリーランスは企業に所属しないため、退職金のような廃業時の福利厚生はありません。老後や廃業時に備えたいときは、小規模企業共済への加入を検討してみましょう。▼関連記事:小規模企業共済とは?フリーランスの将来の備えと節税効果を解説労災保険の特別加入従来は、建設業など一部の業種・職種を除き、フリーランスは原則労災保険に加入できませんでした。しかし、働き方の多様化によって法整備が進み、2024年11月からは職業を問わず、すべてのフリーランスが労災保険に「特別加入」できるようになります。労災保険は、仕事や通勤の際に起きたケガや病気に対して、治療費や休業時の所得補償が受けられる制度です。労災保険に加入しておけば、万が一の大きなリスクに備えられるため、高額な治療費を支払ったり休業時に収入に困ったりする可能性も抑えられるでしょう。ただし、フリーランスが労災保険に特別加入する場合は、保険料をすべて自分で負担することになります。保険料は給付基礎日額をもとに16段階の中から自分で選択可能です。フリーランスは収入が安定しないため、無理のない範囲で金額を設定することが大切です。▼関連記事:フリーランスも労災保険に加入できる!押さえておきたい給付内容や保険料負担とは?フリーランスになるときは失業保険を受け取れる雇用保険には、会社員を辞めてフリーランスとして独立する際に受け取れる「失業保険」もあります。失業保険は、退職した際に一定期間受け取れる給付金で、一般的には失業等給付内の「基本手当」が該当します。一定の要件を満たせば、フリーランスとして独立するために退職した場合にも失業保険を受給することができます。▼関連記事:フリーランスになるとき失業保険はもらえる?申請の流れや開業届の注意点などを解説失業保険の受給条件失業保険は、失業中の人全員が受け取れるわけではなく、以下すべての条件に該当する人が受け取ることができます。離職前の2年間に被保険者期間が12ヶ月以上ある(倒産や解雇などの会社都合退職の場合は離職前1年間に被保険者期間が通算6ヶ月以上)再就職しようとする意思があるいつでも就職できる能力がある(健康状態・環境的に問題がない)積極的に求職活動を行っているものの、現状就職できていないほかにも細かい条件はありますが、原則以上の条件を満たさない場合は、失業保険は受け取れません。なお、求職中であることを証明するためには、一定の頻度でハローワークに通って、求人への応募をはじめ、ハローワークの職業相談やセミナーへの参加といった、何らかの求職活動を行うことが必須です。開業届を出すと失業保険の受給資格がなくなる開業届を提出すると、失業保険の受給資格がなくなるため注意が必要です。失業保険は、あくまで「失業中かつ求職活動中の人」を支援するための保険制度で、フリーランスとして開業していれば、失業中・求職活動中とは認められないためです。たとえ受注件数が0件だったとしても、開業届を提出した時点で失業保険の受給資格は失われます。失業保険を受け取ってからフリーランスとして活動したい場合は、開業届提出のタイミングには十分注意しましょう。フリーランスとして開業するときは再就職手当を受け取れる会社を退職してからフリーランスとして事業を始める場合は、再就職手当の受給対象になる場合があります。再就職手当とは、雇用保険受給資格者を対象とした手当の1つです。失業保険の受給中に、早期に再就職または開業した際に受け取れることができます。再就職手当は、失業保険の受給満了までの残日数に応じて受け取れるため、再就職・開業が早めに決まるほど、受け取れる金額が増えます。「本当は受け取れるはずだったのに、手当を受け取り損ねた」という事態を回避するために、再就職手当についてもしっかり把握しておきましょう。▼関連記事:フリーランスが再就職手当をもらうまでの6ステップ!受給条件・注意点を解説再就職手当の受給条件フリーランスになる場合、主な受給条件は以下のとおりです。受給手続きを済ませ、7日間の待期期間満了後に開業した事業開始日の前日までに失業認定を受け、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上ある過去3年以内の就職・開業で、再就職手当や常用就職支度手当を受け取っていない離職した前の事業主と資本・資金・人事・取引面で密接な関わりがない再就職手当を受給したい場合は、そのほかの細かい条件もよく確認したうえで、手続きや期限を間違えないよう注意しましょう。▼参考:雇用保険受給資格者のみなさまへ 再就職手当のご案内再就職手当を受け取りたいときも開業届の提出タイミングに注意再就職手当を受け取る際も、失業保険と同様、開業届の提出タイミングには気をつける必要があります。再就職手当を受給するためには、受給手続きを済ませたうえで、7日間の待期期間を待ってから再就職手当または開業する必要があります。そのため、待期期間を過ぎる前に開業届を提出してしまうと、再就職手当の受給対象から外れてしまうのです。早期に開業する場合でも、少なくとも7日間の待期期間は待つ必要があるため、開業届は待期期間終了後のタイミングで提出しましょう。まとめ雇用保険は、企業などに雇われている労働者を守るための保険です。失業や休業、再就職・職業訓練などに備えることができます。企業から雇用されていないフリーランスは、原則として雇用保険には加入できません。フリーランスが仕事がなくなるリスクに対して備えを強化したいときは、フリーランス向けの保険制度や福利厚生サービスなどを利用しましょう。なお、会社を退職してフリーランスになる際は、雇用保険の失業保険(失業等給付の基本手当)や再就職手当が受け取れる場合があります。受給する際は受給条件や開業届を出すタイミングなどに注意し、必要な手続きをスムーズに済ませましょう。