開業届は、「原則、事業開始から1ヶ月以内に提出する」とされています。しかし、「提出し忘れていた」「必要だとは知らなかった」「面倒でつい先送りしてしまっていた」というフリーランスもいるかもしれません。では、フリーランスは開業届なしだと、どのような影響があるのでしょうか?この記事では、フリーランスが開業届を提出しない場合の、確定申告や補助金申請などに及ぼす影響を解説します。開業届を提出しておらず罰則があるのか不安な人や、提出しないことによるデメリットが知りたい人は、ぜひ参考にしてください。開業届とは?開業届とは、個人が事業を始めることを税務署に伝える書類です。正式には、「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、税制上、開業届を出した人は「個人事業主」と呼ばれます。原則、事業をスタートさせてから1ヶ月以内に提出する必要があります。フリーランスは開業届なしでも働ける?出さないメリットは?結論からお伝えすると、フリーランスは開業届なしでも働くことは可能です。ただし、所得税法第229条によって、開業届は事業の開始から義務づけられています。開業届の提出義務は、継続的に収入を得ている副業フリーランスも対象です。一方で、開業届を提出しなかったり、提出が遅れたりしても、罰則やペナルティはありません。そのため、「開業届なしでも大丈夫では?」と考える人もいるかもしれません。まずは、フリーランスが開業届を出さないことによるメリットを紹介します。帳簿付けや確定申告の手間が少ない開業届を提出していない場合は、帳簿付けや確定申告の手間が少なくなります。帳簿付けには「簡易帳簿」と「複式帳簿」の2つがあり、開業届を出していないフリーランスは、記入の手間が少ない簡易帳簿で済みます。その結果、帳簿付けや確定申告などの経理業務がシンプルになり、ストレス軽減につながるでしょう。▼関連記事:フリーランスが帳簿を付けていないとどうなる?帳簿の種類や記帳方法を解説▼関連記事:確定申告はフリーランスに必須!やり方や必要書類と経費管理のコツ会社員からフリーランスになる人は失業保険がもらえる会社を退職してフリーランスになる際に、開業届を出していない状態であれば失業保険を受け取れます。失業保険は、失業状態にあり、かつ求職活動を行っている人に給付される手当です。退職した後に独立準備を行いながら、ハローワークを通じた求職活動を並行して行うと、フリーランスになる場合も失業保険を受け取ることができます。逆に、たとえフリーランスとしての案件を受けていなかったとしても、開業届を提出している場合は「失業状態にない」と判断されて、失業保険の受給資格を失います。独立して間もない頃は、案件の受注がなかなか安定しないことが多いため、「できれば失業保険は受け取っておきたい」と感じる人も多いでしょう。失業保険受給を希望する場合は、開業届を出さないように注意しましょう。▼関連記事:フリーランスになるとき失業保険はもらえる?申請の流れや開業届の注意点などを解説扶養内で働き続けやすくなる開業届を出していない場合は、扶養内で働き続けやすくなります。一般的に、フリーランスが扶養内で働くためには、年間の合計所得金額を抑えることが必要です。ただし、配偶者が加入する社会保険によっては「開業している個人事業主は扶養に入れない」という条件が設けられている場合もあります。その場合、開業届を出してしまうと、いくら収入を抑えていても税金や社会保険料の支払い義務が発生します。対して、開業届を出していない状態であれば、開業に関する条件が設けられている社会保険でも、扶養内で働けます。そのため、開業届を出した人よりも配偶者が加入する社会保険を問わず、扶養内で働き続けやすいといえます。▼関連記事:フリーランスが扶養内で働く際の注意点!年収の壁や目安の年間所得を解説フリーランスは開業届を出さないと税負担が大きくなる開業届なしだと、経理業務の手間の観点ではメリットがあります。しかし、開業届を出さないと青色申告ができないため、節税の観点でデメリットが生じます。青色申告ができないことによる影響を1つずつ詳しくチェックしていきましょう。最大限控除を活用できない青色申告で確定申告をする場合は、特定の条件を満たせば「青色申告特別控除」という最大65万円の控除を受けられます。一方で、白色申告(開業届を出さない場合の申告方法)は、青色申告のような特別控除がなく、税負担が大きくなります。つまり、開業届を出していないフリーランスは、自動的に税負担が大きい白色申告を行うことになります。フリーランスとして稼ぐ金額が増えるほど、開業届を提出しないデメリットは大きいといえます。計上できる経費に制限が生じる白色申告は、基本的に青色申告と同じように経費計上できます。経費の上限額なども設定されていません。ただし、家族に事業を手伝ってもらった際に家族へ支払う報酬を経費計上する際は制限が生じます。白色申告では、計上できる給与の上限額が「配偶者であれば86万円、配偶者でなければ専従者1人につき50万円」と定められています。一方、青色申告には制限が設けられておらず、家族に給料を支払った場合は無制限で経費計上が可能です。計上できる経費が増えれば節税対策につながります。そのため、特に家族に事業を手伝ってもらう機会のある場合は、白色申告では大きなデメリットがあるといえます。▼参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁赤字が出ても原則翌年以降に繰り越しができない青色申告をしているフリーランスは、事業で赤字が出ても最大3年間繰り越せるというメリットがあります。例えば、その年が黒字だったとしても、前年の赤字分を差し引いて申告できるため、課税対象の金額が少なくなり、節税につながる仕組みです。しかし、白色申告では、被災した場合などを除いて赤字を翌年以降に繰り越しできません。そのため、同じ条件の場合では、税負担が大きくなります。以上のように開業届を提出しないことは、節税においてデメリットが多いことがわかります。「副業や小遣い稼ぎの範囲で継続していくかわからない」などの事情がない限り、開業届は基本的に提出することをおすすめします。▼関連記事:フリーランスは青色申告で確定申告しよう!控除の活用や節税のコツを解説フリーランスは開業届を出さないと審査や申し込みに影響が生じるフリーランスが開業届を提出しないままでいると、事業関連の補助金申請や、子どもの保育園に申し込む際の職業証明、法人用のクレジットカード作成など、仕事だけでなく日常生活のさまざまな範囲にも影響が生じます。保育園の入園申し込みに苦戦する保育園の入園申し込みの際には、保護者の就労証明書の提出が必要です。会社員の場合は、会社に伝えることで就労証明書を作成してもらえます。一方、フリーランスの場合は、「就労状況申告書」という書類を作成する必要があります。就労状況申告書には、就労場所や事業内容、屋号、就労時間などを記載するほか、開業届や制作物などのように、具体的な仕事の内容や実績が分かるものの添付を求められる場合もあります。そのため、開業届を出していないフリーランスの中でも、実績が少ない人の場合は、子どもの保育園の入園申し込みに苦戦する可能性があります。開業届を提出し、控えを持っていれば自分自身の職業や就労状況を証明でき、スムーズに保育園の申し込みができるでしょう。▼関連記事:【フリーランス向け】就労証明書の書き方を解説!保育園の入園手続きで必要な書類や準備も開業初年度は小規模企業共済に加入できない小規模企業共済とは、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、自営業者向けの退職金制度です。加入して積立金を毎月支払うことで、廃業した際などに退職金を受け取ることができます。小規模企業共済の加入には、開業届または確定申告書の写しが必要になります。開業届を提出していない場合は、少なくとも初年度分の確定申告を済ませるまでは必要書類がそろわないため、初年度の申し込みができません。▼関連記事:小規模企業共済とは?フリーランスの将来の備えと節税効果を解説フリーランス向けの補助金に申請できない創業補助金や小規模事業者持続化補助金など、フリーランスを対象としたさまざまな補助金があります。補助金によっては、申請要件に開業届が必要な場合があります。補助金を受け取って少しでも有利に事業を始めたい場合は、開業届を忘れずに提出しておきましょう。▼関連記事:フリーランス・個人事業主も申請できる補助金とは?助成金や支援制度も紹介屋号で銀行口座の開設ができない屋号付きの銀行口座を開設するためには、基本的に開業届や確定申告書などの書類が必要になります。そのため、開業届を提出していないフリーランスは、屋号での銀行口座開設ができません。屋号付きの銀行口座を開設すると、たとえば以下のようなメリットがあります。取引先や顧客から信頼されやすくなる会計ソフトに紐づけられるため、会計処理がスムーズになるプライベートとの収支と分けられて金銭管理がしやすくなるフリーランスで働くにあたって屋号付きの銀行口座を持ちたい人は、事業を始める際に必ず開業届の提出を済ませておきましょう。法人用のクレジットカードが作れない法人用のクレジットカードは、法人だけでなくフリーランスでも作成可能です。法人カードを持てば、事業用とプライベート用で決済手段を分けられるため、会計処理がよりスムーズになります。また、利用限度額が大きいため、金額の大きな買い物にも対応しやすいなどのメリットもあります。屋号付きの銀行口座と同様に、法人名義のクレジットカードを新規発行するためには開業届の提出が必要となります。開業届を提出していないフリーランスは、法人用のクレジットカードを作成できません。▼関連記事:フリーランスがクレジットカードを作るならビジネスカードがおすすめ!選び方や審査を通すポイントを紹介フリーランスが開業届を出さないとインボイス登録に影響が出る?結論からお伝えすると、開業届を出さないフリーランスもインボイス登録は可能です。フリーランスは、インボイス制度に登録することで「適格請求書発行事業者」の資格を得られます。インボイス制度では、要件を満たすことで売り手は適格請求書を発行できます。売り手と買い手の両方が適格請求書を保存することで、消費税の仕入税額控除が受けられる仕組みです。なお、適格請求書発行事業者になるための要件には、「開業届を提出していること」は含まれていません。そのため、開業届を出していないフリーランスでも、インボイスの登録が可能です。しかし、開業届の提出は所得税法で「開業から1ヶ月以内」と定められています。トラブルなく、インボイス登録も含めた事業関連の手続きを済ませるのであれば、開業届提出は早急に済ませたほうがよいでしょう。▼関連記事:インボイスに登録しない選択はあり?フリーランスの判断基準を解説フリーランスが開業届を「出さない」vs「出す」の違いフリーランスが開業届を出さないパターンと出すパターンの違いを以下にまとめました。開業届を出さない開業届を出すフリーランスとして働けるか働ける働ける失業保険受け取れる出した後は受け取れない確定申告の方法白色申告青色申告が可能帳簿付け・確定申告の手間シンプル複式帳簿で処理がやや煩雑扶養内での働きやすさ加入する健康保険を問わず働きやすい健康保険によっては加入できない可能性がある確定申告における特別控除特別控除なし最大65万円の特別控除あり経費計上家族に支払った給料は一部経費計上できない無制限赤字の繰り越しできない(災害などの特例を除く)できるインボイス登録登録できる登録できる就労証明書の提出証明書の取得に苦労する可能性がある開業届を証明書として提出できる補助金の申請開業届が必要な場合はできないできる小規模企業共済初年度は加入できない開業届を証明書として初年度から加入できる屋号付きの銀行口座開設できない開設できる法人用クレジットカード作成できない作成できる開業届を提出しなくてもフリーランスとして働くことは可能です。しかし、節税対策や事業の証明などで、苦労する可能性があります。開業届を提出していれば、会計処理や確定申告はやや複雑になるものの、節税対策や信用の面で得られるメリットは大きいといえます。フリーランスとして事業を始める際は、基本的に開業届は1ヶ月以内に忘れず提出しましょう。▼関連記事:フリーランスが開業届を出すメリット!不要な場合やインボイス対応も解説フリーランスが開業届を提出する際の手順フリーランスが開業届を提出する際の手順を解説します。スムーズに進められるよう、事前に必要書類や方法を確認しましょう。①開業届に必要事項を記入・提出する開業届の入手・記入方法は、大きく3パターンあります。税務署に持参・郵送するe-Taxで申請する会計ソフトを利用する開業届を税務署に持参・郵送する場合は、国税庁のホームページからダウンロードする、もしくは税務署窓口で入手します。開業届を印刷したり、税務署に出向いたりといった手間は生じるものの、書類作成で疑問が生じた場合や不備があった場合に、直接職員に質問できるメリットがあります。e-Taxで申請する場合は、マイナンバーカードやICカードを読み込む機器(またはスマートフォンアプリ)を用意し、e-Taxのページからソフトをダウンロードします。会計ソフトの場合は、ステップに沿うだけで簡単に開業届の作成から提出まで対応できます。いずれも税務署に行く必要がなく、オンラインで申請が完結します。開業届の記載事項や具体的な書き方は、国税庁のホームページで公開されている「書き方」を参照しましょう。記入を終えたら税務署に書類を提出して手続きは完了です。▼関連記事:フリーランスにおすすめの会計ソフト8選!選び方・比較ポイントを解説②青色申告承認申請書も用意する開業届を提出した後は、続けて青色申告承認申請書の提出準備も行いましょう。青色申告をするためには、青色申告承認申請書の提出は必須です。青色申告承認申請書も、国税庁のホームページまたは税務署で入手できるほか、e-Taxでも申請可能です。③インボイス登録の準備を行うインボイスの登録は、開業届と同じく管轄の税務署に申請が必要です。インボイスへの登録を考えている人は、開業届の提出にあわせてインボイス登録も済ませておくことをおすすめします。インボイスの登録申請を行う際は、事前に国税庁のフローチャートで適切な登録申請様式を確認し、自分に合った申請書を入手しましょう。まとめフリーランスは、開業届を提出しなくてもペナルティを受けることはありません。しかし、節税をはじめ、さまざまな面でデメリットが生じます。また、節税対策として重要な青色申告を行うためには、開業届とあわせて青色申告承認申請書の提出も必要となるため、あわせて準備を進めるとよいでしょう。フリーランスとして事業を始めた際は、1ヶ月以内に開業届を提出し、スムーズに事業を進められるよう備えましょう。