フリーランスは、働く時間や働く場所を自由に決められるメリットがあります。しかし、発注者とのトラブルになった場合は、全て自分で対応しなければなりません。自分の身を守るためにも法律の知識をしっかり身につける必要があります。今回は、フリーランスが知っておきたい労働基準法の知識を解説します。また、フリーランスも会社員と同様に労働基準法が適用されるのかをはじめ、企業と契約を結ぶ際に気を付けたい点や、2024年11月から施行されるフリーランス新法の内容なども紹介します。フリーランスとして働くうえで正しい法律知識をつけたい人や、クライアントとトラブルになりそうで困っている人などはぜひ参考にしてください。フリーランスは労働基準法の適用外結論からお伝えすると、フリーランスは労働基準法の適用外です。労働基準法では、労働者を「企業に雇用されて労働し、賃金を受け取っている人」と定義しています。具体的には以下の雇用形態にある人が該当します。正社員契約社員派遣社員(※派遣先ではなく、派遣会社の労働者の扱いとなる)パート・アルバイトフリーランスは、企業から依頼を受ける際に業務委託契約を結びます。業務委託契約は、雇用契約とは異なり、特定の業務を遂行したフリーランスに対してクライアントが報酬を支払うという「契約形態」にあたるため、労働者として認められません。そのため、フリーランスの働き方を考える際は、労働基準法の適用外であることを念頭におきましょう。労働基準法とは?労働基準法とは、勤務時間や賃金、有給休暇などの労働条件について最低限守るべき基準を定めた法律です。略して「労基法」ともいわれます。会社などの組織が人を雇用する場合は、労働基準法に基づき適切な労働条件を設ける必要があります。労働条件に関する主なルールは、以下が挙げられます。労働時間は週40時間・1日8時間以内時間外・深夜は25%以上の割増賃金、休日出勤は35%以上の割増賃金を設定賃金支払いは直接払い・通貨払い・全額払い・毎月払い・一定期日払いのルールを徹底労働者を解雇する場合は30日以上前の告知が必須しかし、フリーランスは労働基準法で定める「労働者」にはあたらないため、原則として労働基準法は適用されません。労働基準法における労働者とフリーランスには、以下のような違いがあります。フリーランス労働者勤務場所基本的に自由雇用契約による勤務時間基本的に自由雇用契約で決められた時間内に勤務業務の進め方業務委託契約で決められた範囲・量の業務を進める雇用契約で決められた範囲・量の業務を、指揮監督の指示に基づいて進める社内規則適用外適用福利厚生基本的になし雇用契約で決められた福利厚生が利用できる労働基準法適用外適用労働基準法の適用外であることでフリーランスに生じるリスクフリーランスは労働基準法の適用外となるため、仕事を請け負う際にはさまざまなリスクが生じる恐れがあります。考えられるリスクとしては、以下が挙げられます。労働時間が無制限になることで、無理なスケジュールを強いられる報酬が支払われない、または常識的な範囲を超えて支払いが遅れる継続的な発注を予告なしに突然打ち切られるフリーランスには労働時間の決まりがありません。そのため、これを逆手に取って発注者は無理なスケジュールを強制することができてしまうのです。その結果、体調を崩したりほかの業務に影響が出たりする可能性があります。そのほか、報酬の支払いに関するトラブルリスクもあります。例えば、依頼したレベルに達している納品物に対して「レベルが低い」などと不当な理由をつけて報酬を支払わない、といったケースが挙げられます。また、発注側がフリーランスの契約を解除する場合は、「少なくとも30日前までに通知しなければならない」という義務はありません。そのため、企業の都合で突然契約を打ち切られる可能性もあるのです。フリーランスでも「労働者」としてみなされるケースもあるフリーランスは労働基準法の適用外ですが、実態によっては労働者としてみなされ、労働基準法が適用されるケースもあります。例えば、以下のケースが一例として挙げられます。特別な理由がないと発注者からの仕事を断れない契約や予定にない業務も依頼される勤務場所や勤務時間が拘束されている業務を遂行する指揮監督の有無それぞれのケースの詳しい内容や、なぜ労働基準法に該当する可能性があるのかをチェックしてみましょう。▼参考:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン①特別な理由がないと発注者からの仕事を断れない重い病気やけが、忌引きなどの特別な理由がない限り仕事を断れない場合は、労働者にあたると判断される可能性があります。フリーランスは、業務の進め方や引き受ける仕事などを自分で決められます。それにも関わらず、クライアントからの依頼を一切断れない状況になると、正社員などと同様に「指揮監督下で労働が行われている」と判断される可能性があります。②契約や予定にない業務も依頼される「作ってもらったシステムを今後無料で保守してほしい」というように、業務委託契約にない(つまり、もともと予定されていない)業務を依頼されるケースも、フリーランスでも労働者に該当する可能性があります。フリーランスは業務委託契約に基づき、決められた業務を自分の裁量のもと進めていきます。しかし、「決まりだから」「ほかの人もやっているから」などと理由をつけて別業務まで無理やり依頼した場合は、指揮監督命令のもと業務を進めていることになり、使用従属性が高まります。③勤務場所や勤務時間が拘束されているフリーランスは自分の裁量によって勤務場所や勤務場所を自由に決められるため、勤務場所・勤務時間が決められている場合も、労働者としてみなされる可能性があります。例えば、以下のケースが挙げられます。平日10~18時と勤務時間が決められている発注者のオフィスへの出社を強制される決められた日時に働かないと、遅刻・欠勤とみなされ報酬が減額される毎日、作業進捗や作業時間に関する日報の提出を義務づけられている上記のようなケースの場合は、労働者と同等の拘束性が認められるため、労働基準法が適用される場合があります。④業務を遂行する指揮監督の有無管理者が、業務中に進め方を細かい部分まで指示したり、発注側企業の理念・行動規範のもと、業務を遂行するように強制されたりする場合は、雇用契約のもと指揮命令者に管理されている「労働者」と事実上変わりません。指揮監督の性質が強いため、業務委託契約とはいえ労働者と判断され、労働基準法が適用される可能性が考えられます。フリーランスが自分を守るために気を付けたいことフリーランスならではの自由度の高さを逆手に取った、不当な契約や依頼にはくれぐれも注意が必要です。フリーランスは、基本的に労働基準法の適用外だからこそ、自分を守るために契約・法律などの面でより一層知識を深める必要があります。1つずつ詳しくみていきましょう。契約書は必ず結び、しっかり読み込むフリーランスは、発注者と業務委託契約を書面で結ぶことが大切です。フリーランスは会社員のように会社と雇用契約を結ぶわけではないため、なかには、口約束や簡単な覚書などで業務を行っている人もいるかもしれません。しかし、契約書がなければ法的拘束力も弱くなり、不利益を受けた際も自分の正当性を主張しづらくなります。そのため、契約書をしっかりと作成して締結するのはもちろんのこと、契約書のドラフトができた時点でよく読み込んでおくことが重要です。内容を十分に確認せずに業務委託契約を結ぶと、不当な条件にも気づけず、トラブルの要因になります。契約内容を十分に確認し、双方納得したうえで業務委託契約を結びましょう。▼関連記事:フリーランスが結ぶ業務委託契約とは?契約時のチェックポイントを解説労働時間は自分で管理する働きすぎや無理なスケジュールを防ぐために、仕事する時間は自分でしっかりと管理しましょう。フリーランスは、複数の案件が重なったり、急な納期の前倒しや差し込み対応を求められたりして、仕事ばかりの生活リズムとなり、ワークライフバランスが崩れる可能性があります。もちろんフリーランスの働く時間に拘束力はありませんが、カレンダーアプリなどを活用して、「午前中はA社の案件」「13時から15時はB社の案件」などと稼働を管理することが大切です。時間を決めて行動することで、オンオフの切り替えができるようになり、ワークライフバランスが整うでしょう。細かく決めるのが難しい人は、「どんなに忙しくても仕事は1日10時間まで」「睡眠時間は1日8時間は確保する」など、大まかな時間のルールを設定するとよいでしょう。独占禁止法と下請法の知識を身につけるフリーランスは、独占禁止法と下請法の法律知識を身につけることで、自分の身を守ることにつながります。独占禁止法は、私的独占の禁止と公正な取引を確保するために定められた法律です。発注者は独占禁止法にもとづき、フリーランスに対して不当に不利益を与えないように発注する必要があります。下請法は、公正な下請取引・下請事業者の利益保護を目的とした法律です。基本的に発注者の資本金が1,000万円以上の場合、発注者は下請法を遵守してフリーランスと取引を行う必要があります。独占禁止法・下請法に基づき、問題行為になり得るケースの例としては以下が挙げられます。報酬支払いの遅延契約後の減額要求・一方的な発注キャンセル納品物の一方的な受領拒否・返品双方合意がないうえでのやり直し要求上記のような行為は独占禁止法・下請法に抵触する恐れがあるため、フリーランスは、不当な行為であることを主張できる場合があります。法律を全部覚えておくことは難しいですが、基礎知識を頭に入れておけば、トラブルになった際に適切な対処ができます。▼関連記事:フリーランスにも適用される下請法とは?禁止行為と違反事例を分かりやすく解説フリーランス新法によってフリーランスの労働環境が整備される企業のDX推進や、副業の推奨・規制緩和などにより、フリーランスとして働く人は増加しています。しかし、これまで説明したように、フリーランスは労働基準法が適用されないため、どうしても発注側よりも立場が弱く、場合によっては報酬未払いなどのトラブルに巻き込まれてしまうこともあります。そういった背景から、近年はフリーランスが安心して働ける環境を整えようと、通称「フリーランス新法」が施行されるなど、新しい動きが進んでいます。ここでは、フリーランス新法の具体的な内容や違反した場合の罰則などを詳しく解説します。▼関連記事:【2024年11月施行】フリーランス新法とは?変更内容や気をつけたいポイントを分かりやすく解説2024年11月施行のフリーランス新法とは?フリーランス新法とは、フリーランスの労働環境を守るために、2024年11月に施行される新しい法律です。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。フリーランス新法で保護される「フリーランス(特定受託事業者)」は、発注者が業務委託を依頼する相手で、かつ従業員を雇用しない事業者が該当します。つまり、一般的に個人で仕事を受注して働いているフリーランスは、フリーランス新法の適用対象となります。フリーランス新法では、主に以下の点を定めていることが特徴です。報酬の支払い期日書面による取引条件の明示業務委託の遵守事項実際にフリーランス新法が施行されれば、発注者はフリーランス新法のもと契約を結んだうえで、適切に報酬を支払わなければなりません。▼参考:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の概要発注事業者側の義務となることフリーランス新法で定められる発注事業者側の義務には、主に以下が挙げられます。契約内容・報酬を書面または電磁的方法で明示する報酬の支払いを60日以内に行う不当な成果物の受領拒否や報酬の減額などを禁ずるフリーランスに業務を依頼する際に、上記の点を守らなかった場合は、発注事業者はフリーランス新法違反となる恐れがあります。ほかには、フリーランスの就業環境整備を目的とした、以下のようなルールも見られます。案件募集時は、条件について正確かつ最新の内容を記載する継続的な依頼において契約解除を行う場合は、30日以上前に解除予告を行うフリーランス新法によって上記のルールが徹底されれば、フリーランスの立場はより改善されるでしょう。フリーランス新法に違反した場合発注側がフリーランス新法に違反した場合は、以下のような措置が行われます。公正取引委員会および、中小企業庁長官または厚生労働大臣による助言・指導・報告徴収・立入検査の実施上記の指導などの命令に従わなかった場合、状況に応じて50万円以下の罰金違反によるペナルティ自体はそこまで重大ではありません。しかし、実際に指導や検査などが行われたことが世の中に広まれば、企業としての信頼を失う恐れがあるため、抑止力となることが期待されています。フリーランスとして不当な働き方を強制されないためにも、フリーランス新法の内容を正しく身につけることが大切です。万が一「違反にあたるのでは」と感じた場合は、速やかに厚生労働省が委託する「フリーランス・トラブル110番」に相談しましょう。まとめフリーランスは、原則として労働基準法の適用外となります。しかし、拘束力の強い働き方を強制された場合は、例外的に労働者とみなされ、労働基準法が適用される場合もあります。そのためフリーランスは、不利益を受けて働いていないか判断できるよう労働基準法が適用されるケースはもちろん、独占禁止法や下請法などの知識も身につけることが重要です。また、必ず契約を書面で結んだうえで業務をこなす、働くスケジュールを決めてオンオフをはっきりさせるなどの対策も忘れないようにしましょう。2024年11月からはフリーランス新法が施行されます。新しく定められるルールもあわせて把握し、自分自身をしっかり守るために対策を取ることが大事です。