フリーランスは、働く時間や働く場所を自由に決められるメリットがあります。しかし、発注者とのトラブルになった場合は、全て自分で対応しなければなりません。自分の身を守るためにも法律の知識をしっかり身につける必要があります。この記事では、フリーランスが知っておきたい労働基準法の知識を解説します。フリーランスとして働くうえで正しい法律知識をつけたい人や、クライアントとトラブルになりそうで困っている人などはぜひ参考にしてください。労働基準法はフリーランスに適用されない結論からお伝えすると、フリーランスは労働基準法の適用外です。労働基準法では、労働者を「企業に雇用されて労働し、賃金を受け取っている人」と定義しています。具体的には以下の雇用形態にある人が該当します。正社員契約社員派遣社員(※派遣先ではなく、派遣会社の労働者の扱いとなる)パート・アルバイトフリーランスは、企業から依頼を受ける際に業務委託契約を結びます。業務委託契約は、雇用契約とは異なり、特定の業務を遂行したフリーランスに対してクライアントが報酬を支払うという契約形態にあたるため、労働者として認められません。そのため、フリーランスの働き方を考える際は、労働基準法の適用外であることを念頭におきましょう。労働基準法とは?労働基準法とは、勤務時間や賃金、有給休暇などの労働条件について最低限守るべき基準を定めた法律です。略して「労基法」ともいわれます。会社などの組織が人を雇用する場合は、労働基準法に基づき適切な労働条件を設ける必要があります。労働条件に関する主なルールは、以下が挙げられます。労働時間は週40時間・1日8時間以内時間外・深夜は25%以上の割増賃金、休日出勤は35%以上の割増賃金を設定賃金支払いは直接払い・通貨払い・全額払い・毎月払い・一定期日払いのルールを徹底労働者を解雇する場合は30日以上前の告知が必須労働基準法における労働者とフリーランスの違い先述したように、フリーランスは労働基準法で定める「労働者」にはあたらないため、原則として労働基準法は適用されません。労働基準法における労働者とフリーランスには、以下のような違いがあります。労働者フリーランス勤務場所雇用契約で決められた場所基本的に自由勤務時間雇用契約で決められた時間基本的に自由業務の進め方雇用契約で決められた範囲・量の業務を、指揮監督の指示に基づいて進める業務委託契約で決められた範囲・量の業務を進める社内規則適用される適用されない福利厚生雇用契約で決められた福利厚生が利用できる基本的になし労働基準法適用される適用されない労働基準法の適用外であることでフリーランスに生じるリスクフリーランスは労働基準法の適用外となるため、会社員とは異なる多くのリスクを抱えています。労働時間に上限が設けられていない分、長時間労働や過重なスケジュールに陥ることも少なくありません。また、報酬の未払い・支払い遅延、契約内容の不備などのトラブルが起きた場合も、法的に十分な保護を受けにくいのが現実です。ここでは、フリーランスならではの代表的なリスクと注意点を紹介します。残業代や休日手当が発生しないフリーランスには、労働基準法で定められた「時間外労働」や「休日労働」といった概念が適用されません。そのため、納期に追われて深夜まで作業したり、土日も休まず働いたりしても、残業代や休日手当が支払われることはありません。報酬はあくまで契約で定められた成果物に対して支払われるものであり、作業時間の長さによって増減することもありません。たとえ想定より作業が難航して時間がかかっても、追加報酬を請求するのは原則として難しいのが実情です。また、労働基準法では労働時間の上限が設けられていますが、フリーランスにはその規制が及びません。発注者から無理な納期を提示されても、法的に拒否できる明確な根拠がなく、結果的に長時間労働を強いられるケースもあります。有給休暇や病休の保障がないフリーランスには有給休暇の制度がないため、休むことはそのまま収入の減少につながります。会社員であれば有給を取得しても給与は保障されますが、フリーランスは「働かない=収入がない」というシンプルかつ厳しい仕組みの中で働かざるを得ません。会社員には健康保険から「傷病手当金」が支給されますが、国民健康保険に加入するフリーランスにはこの制度がありません。そのため、長期間働けない状態が続くと、収入が完全に途絶える恐れがあります。さらに、家族の介護や看護が必要になった場合も、会社員に認められている介護休業制度などの公的な支援がないため、仕事を一時的に止めるとその分の収入を失うことになります。▼関連記事:業務委託に有給休暇はない?フリーランスが収入を減らさずに休みを取る方法も報酬未払い・契約解除のトラブルが起きやすい労働基準法では、賃金の支払いに関して厳格なルールが定められていますが、フリーランスはその保護の対象外です。そのため、依頼したレベルに達している納品物に対して「レベルが低い」などと不当な理由をつけて、報酬を支払わないといったケースが発生することも考えられます。また、発注者の都合で一方的に契約を打ち切られることもあり、その際に補償や手当が支払われる保証はありません。▼関連記事:業務委託で給料・報酬の未払い被害に遭ったら?フリーランスが今すぐすべき対処法や法的手段を解説▼関連記事:フリーランスが不当に契約解除されたらどうするべき?交渉のポイント・メールテンプレ・防止策を徹底解説フリーランスでも「労働者」としてみなされるケースもあるフリーランスは労働基準法の適用外ですが、実態によっては労働者としてみなされ、労働基準法が適用されるケースもあります。例えば、以下のケースが一例として挙げられます。特別な理由がないと発注者からの仕事を断れない契約や予定にない業務も依頼される勤務場所や勤務時間が強制される業務を遂行する指揮監督性が強いここでは、それぞれのケースの詳しい内容や、労働基準法に該当する可能性がある理由を解説します。①特別な理由がないと発注者からの仕事を断れない重い病気やけが、忌引きなどの特別な理由がない限り仕事を断れない場合は、労働者にあたると判断される可能性があります。フリーランスは、業務の進め方や引き受ける仕事などを自分で決められます。それにも関わらず、クライアントからの依頼を一切断れない状況になると、正社員などと同様に「指揮監督下で労働が行われている」と判断される可能性があります。②契約や予定にない業務も依頼される「作ってもらったシステムを今後も無料で保守してほしい」といったように、契約書に記載のない追加業務を依頼されるケースも、場合によっては「労働者」と判断される可能性があります。フリーランスはあくまで業務委託契約に基づき、合意した範囲の業務を自らの裁量で遂行する立場です。しかし、「会社の決まりだから」「他の人もやっているから」といった理由で、契約外の作業を一方的に指示されるような状況では、クライアントの指揮命令下で働いているとみなされやすくなります。このように、契約範囲を超えた業務を継続的に強いられる場合は、実質的に使用従属性が高いと判断され、「労働者性」が認められる可能性が高まります。③勤務場所や勤務時間が強制されるフリーランスは自分の裁量によって勤務場所や勤務場所を自由に決められるため、勤務場所・勤務時間が決められている場合も、労働者としてみなされる可能性があります。例えば、以下のケースが挙げられます。平日10~18時と勤務時間が決められている発注者のオフィスへの出社を強制される決められた日時に働かないと、遅刻・欠勤とみなされ報酬が減額される毎日、作業進捗や作業時間に関する日報の提出を義務づけられている上記のようなケースの場合は、労働者と同等の拘束性が認められるため、労働基準法が適用される場合があります。④業務を遂行する指揮監督性が強い管理者が、業務中に進め方を細かい部分まで指示したり、企業の理念・行動規範のもと、業務を遂行するように強制されたりする場合は、雇用契約のもと指揮命令者に管理されている「労働者」と事実上変わりません。指揮監督の性質が強いため、業務委託契約とはいえ労働者と判断され、労働基準法が適用される可能性が考えられます。フリーランスは「偽装フリーランス」に注意近年、社会的に問題視されているのが「偽装フリーランス」です。偽装フリーランスは、契約上は業務委託契約となっているものの、実際の働き方は会社員とほとんど変わらないケースを指します。企業が人件費の削減や社会保険料の負担を避ける目的で、本来であれば雇用契約を結ぶべき労働者を「フリーランス(業務委託)」として扱うことが背景にあります。偽装フリーランスは、形式的には業務委託でも、実質的には「使用者の指揮命令下で働く労働者」とみなされる場合があり、労働基準法や労働契約法に抵触する恐れがあります。結果として、企業側だけがコストを抑え、働く側が労働時間・報酬・保障の面で不当なリスクを負う構造となるため、法的にも社会的にも大きな問題となっています。偽装フリーランスの典型的な特徴偽装フリーランスかどうかを判断する際は、契約の形式ではなく実際の働き方が重要になります。以下のような特徴に複数該当する場合、実態として雇用に近い可能性があります。出社時間や退勤時間が厳格に定められ、遅刻や早退に対してペナルティが課される勤務場所が会社のオフィスに限定され、在宅勤務やコワーキングスペースでの作業が認められていない上司や社員から業務の進め方を細かく指示され、自分で判断できる余地が少ない報酬が成果に関係なく固定給や時給で支払われている他のクライアントとの取引を禁止されている会社が支給するPCや備品を使用しているフリーランスとして適正な関係を保つためのポイント偽装フリーランスのトラブルを避けるためには、契約段階で以下の点を確認することが重要です。業務内容・納品すべき成果物や業務範囲が明確に定義されているか・曖昧な表現ではなく、具体的な成果物や品質基準が示されているか指揮命令・発注者が業務の進め方を細かく指示していないか・作業時間や作業手順を細かく管理されていないか契約期間・更新条件や解除条件が明記されているか報酬形態・作業時間ではなく、成果に応じた設定になっているか・時給や日給での支払いになっていないか他社との取引・他社との取引が制限されていないか(専属契約でない限り)契約書・書面で交付され、双方の署名と日付があるかこれらの点を確認することで、フリーランスとして適正な契約を維持できます。フリーランスを守る法律「フリーランス新法」とは?フリーランスとして働く人は増加しているものの、先述したようにフリーランスは労働基準法が適用されないため、どうしても発注側よりも立場が弱く、場合によっては報酬未払いなどのトラブルに巻き込まれてしまうこともあります。そういった背景から、フリーランスが安心して働ける環境を整える目的で、2024年11月に「フリーランス新法」が施行されました。フリーランス新法で定められた発注事業者の義務フリーランス新法では、発注事業者に6つの義務と7つの禁止事項が定められています。【6つの義務】・取引条件は契約書などで明示する・報酬は納品から60日以内に支払う・正確で最新の募集情報を表示する・育児や介護などと業務を両立できるよう配慮する・ハラスメント対策の体制を整備する・中途解除する場合は最低30日前までに伝え、要望があれば理由も開示する【7つの禁止事項】・成果物を不当に受領拒否してはいけない・成果物を不当に返品してはいけない・報酬は相場より著しく低く設定してはいけない・報酬を不当に減額してはいけない・商品の購入やサービスの利用を強制してはいけない・発注業務に関係ない金銭や労務を不当に求めてはいけない・追加費用なしで受領後にやり直しをさせてはいけない発注事業者はフリーランス新法のもと契約を結んだうえで、適切に報酬を支払わなければなりません。フリーランスに業務を依頼する際に、上記の点を守らなかった場合は、発注事業者はフリーランス新法違反となる恐れがあります。フリーランス新法に違反があった場合発注事業者がフリーランス新法に違反した場合は、以下のような措置が行われます。公正取引委員会および、中小企業庁長官または厚生労働大臣による助言・指導・報告徴収・立入検査の実施上記の指導などの命令に従わなかった場合、状況に応じて50万円以下の罰金また、実際に指導や検査などが行われたことが世の中に広まれば、企業としての信頼を失う恐れがあるため、抑止力となることが期待されています。フリーランスとして不当な働き方を強制されないためにも、フリーランス新法の内容を正しく身につけることが大切です。万が一「フリーランス新法違反にあたるのでは?」と感じた場合は、速やかに厚生労働省が委託する「フリーランス・トラブル110番」に相談しましょう。▼関連記事:【2024年11月施行】フリーランス新法とは?変更内容や注意点を解説フリーランスが労働トラブルを防ぐためのポイントフリーランスは労働基準法による保護を受けられないため、自分の働く環境や契約条件を自ら守る意識が欠かせません。トラブルが起きてから対応するのではなく、あらかじめリスクを想定し、予防策を講じておくことが重要です。ここでは、フリーランスが実践すべき具体的な自衛策を紹介します。契約内容を書面で確認・保管する口約束やチャットだけのやり取りで仕事を始めるのは、後々トラブルにつながるリスクが高いため、どんなに信頼できる相手でも、契約内容は必ず書面にして残すことが基本です。契約書には、報酬額・支払い期限・修正回数の上限・納期・成果物の仕様・契約解除条件などを明記することが大切です。これらを明確にしておくことで、報酬トラブルや認識の食い違いを防げます。また、先述したフリーランス新法では、契約内容の書面による明示義務が課されています。発注事業者は、フリーランスに業務を発注する際、契約条件を文書で交付しなければなりません。契約書は双方の署名と日付を入れたうえで、原本をきちんと保管しましょう。電子契約を利用する場合も、データの保存・管理を確実に行うことが重要です。また、契約途中で条件を変更する際には、その内容を必ず書面で再確認し、合意を得るようにしましょう。▼関連記事:契約書なしの業務委託は違反?フリーランスが知っておきたいリスクやトラブル時の対応策を紹介報酬の支払い条件・期日を明確にする報酬の未払いを防ぐためには、支払い条件を明確かつ具体的に定めておくことが大切です。契約書に「検収後支払い」とだけ記載するのではなく、「検収後30日以内に指定口座へ振込」など、支払い期限・方法・振込先を具体的に記載しましょう。また、振込手数料の負担者や、支払いが遅れた場合の対応についても、契約段階で明示しておくと安心です。例えば、「支払い期日を過ぎた場合は遅延損害金を年◯%で請求できる」といった条項を設けておくと、発注者に対する抑止力になります。業務範囲と修正対応の回数を明確化する追加修正や仕様変更をめぐるトラブルを防ぐには、契約時点で対応範囲と修正回数を明確に定めておくことが欠かせません。例えば、「軽微な修正は2回まで無料、それ以降は1回につき〇円の追加費用」といったように、回数と料金を具体的に設定しておくとよいでしょう。さらに、「軽微な修正」とは何を指すのかを明示し、文字修正や色味の調整など具体例を挙げておくことも重要です。仕様の大幅な変更は、別途見積もりが必要であることを契約書に明記しておくと安心です。また、修正依頼を受ける際は、口頭ではなくメールやチャットなど記録が残る形でやり取りすることが基本です。修正内容と納期を文面で確認・合意しておくことで、後からの「言った・言わない」トラブルを防げます。▼関連記事:フリーランスに対して無償のやり直しが多発?不当な修正依頼を防ぐための方法と対処法を解説仕事の証拠・記録を残す万が一トラブルが発生した場合に備え、業務に関する全てのやり取りを記録として残しておくことが非常に重要です。メールやチャットの履歴、電話での指示内容、作業の進捗状況など、あらゆる情報を整理・保管しておきましょう。作業の過程も証拠として残せるように、中間成果物のスクリーンショットやファイルのバックアップを定期的に保存するのもおすすめです。また、発注者からのフィードバックや修正指示も、日付と内容を記録しておくことで、後の交渉や説明の裏付けとして役立ちます。発注内容や指示が曖昧な場合は確認を怠らない「お任せで」「柔軟に対応して」「いい感じに」などの曖昧な指示は、後々のトラブルや責任の所在が不明確になる原因になります。こうした依頼を受けた際は、作業を始める前に必ず具体的な要件を確認し、書面で合意を取ることが自衛の第一歩です。要件定義の段階では、成果物の仕様・品質基準・納期・修正対応の範囲などを細かくすり合わせましょう。また、中間報告やレビューの場を設けて、発注者の期待と自分の認識にズレがないかを定期的に確認することも大切です。まとめフリーランスは、原則として労働基準法における「労働者」には該当しないため、労働基準法の保護対象外となります。そのため、報酬の未払い・一方的な契約解除・過剰な労働負担といった、会社員では起こりにくいトラブルを自ら防ぐ必要があります。フリーランスはたしかに自由度の高い働き方ですが、その自由は「自己管理」と「自己防衛」の上に成り立っています。労働基準法や関連法令の知識を身につけ、自らの権利と責任を理解しながら、安心して長く続けられるキャリアを築いていきましょう。