フリーランスが引っ越す際は、やるべき手続きや準備が多岐にわたります。早めに、そして確実に対応しなければ、事務処理や仕事に影響が生じる可能性があります。また、「引っ越しに関する出費は経費計上できる?」「フリーランスは入居審査が難しいらしいけれども本当?」といった疑問を抱く方も多いかもしれません。そこで今回は、フリーランスの引っ越しで必要な手続きをはじめ、経費計上できる費用や入居審査を通過するためのポイントを解説します。引っ越しの際に何を準備したらよいかわからないフリーランスの方は、ぜひ参考にしてください。フリーランスが引っ越す際に必要な手続きフリーランスが引っ越す際に必要な手続きはさまざまあります。特に以下は必須事項としてチェックしましょう。必要な手続き対応窓口手続きの期限郵便物の転送手続き最寄りの郵便局引っ越しの1週間前まで住民票の異動手続き市区町村の役所の窓口引っ越し日から14日以内国民健康保険の手続き市区町村の役所の窓口引っ越し日から14日以内国民年金の手続き年金事務所引っ越し日から14日以内開業届の再提出引っ越し先を管轄する税務署引っ越し日から1ヶ月以内マイナンバーカードの住所変更市区町村の役所の窓口転入手続きをしてから90日以内手続きのし忘れや誤りなどを防ぐために、事前にどのような手続きが必要か、注意点も含めてチェックしておきましょう。各種手続きについて詳しく解説します。住民票の異動手続き住民票の異動に関する手続きは、引っ越し先によって対応が異なります。違う市区町村に引っ越す場合(例:千代田区→八王子市)同じ市区町村内で引っ越す場合(例:千代田区飯田橋→千代田区神田)違う市区町村に引っ越す場合は、お住まいの市区町村に転出届を提出しましょう。転出届を提出すると、役所の窓口から転出証明書が発行されます。発行された転出証明書を持参して、引っ越し先の市区町村に転入届を提出します。一方、同じ市区町村内で引っ越しする場合は、役所の窓口に転居届を提出します。転居届に引っ越し先住所などの必要事項を記入すれば、受理された段階で住民票の手続きは完了です。引っ越しに関する自治体での書類には似た名前の書類が複数あります。手続きの際は間違えないよう注意しましょう。転出届異なる市区町村への引っ越しで、現在住んでいる市区町村に提出する転出証明書転出届を提出すると、現在住んでいる市区町村から発行される転入届異なる市区町村への引っ越しで、引っ越し先の市区町村に提出する転居届同じ市区町村内で引っ越しする際に、役所に提出する転出届・転入届・転居届は、それぞれ役所の窓口で入手できます。国民健康保険の手続き国民健康保険料は、お住まいの市区町村に支払います。そのため、引っ越しの際は手続きを行って、引っ越し先の市区町村から保険証を発行してもらう必要があります。国民健康保険も住民票の異動手続きと同様に、異なる市区町村に引っ越しする場合と同じ市区町村内で引っ越しする場合で必要な手続きが異なります。違う市区町村に引っ越しする際は、現在お住まいの市区町村で国民健康保険の資格喪失手続きを行い、引っ越し先で国民健康保険の加入手続きを行います。対して、同じ市区町村内で引っ越しする場合は、国民健康保険の住所変更手続きを行うだけで完了します。いずれの場合も、手続きを終えると新しい保険証が発行されます。なお、社会保険や特定の職業向けの健康保険(文芸美術国民健康保険組合など)に加入している人は、以下を確認しましょう。【社会保険に加入している場合】会社に引っ越しの旨を連絡する【特定の職業向けの健康保険に加入している場合】保険組合に引っ越しの旨を連絡する国民年金の手続きフリーランスは、引っ越しに伴い国民年金の手続きも済ませる必要があります。ただし、基礎年金番号とマイナンバーの紐づけを済ませている場合は不要です。紐づけを済ませていない場合は、管轄の年金事務所に住所変更届を提出します。手続きの際は、基礎年金番号や新しい住所などの情報が必要なため、年金手帳や本人確認書類も準備しましょう。なお、基礎年金番号とマイナンバーの紐づけが完了しているかどうかは、年金事務所または日本年金機構の「ねんきんネット」で確認できます。そのほかフリーランスがやっておくべき必要な手続きフリーランスが引っ越しする際は、上記のほか主に以下の手続きが必要です。必要な手続き対応窓口手続きの期限水道水道局引っ越しの1週間前まで電気お住まいの地域を管轄する電力会社引っ越しの1週間前までガス現在利用しているガス会社引っ越しの1週間前まで郵便物の転送手続き最寄りの郵便局引っ越しの1週間前まで車庫証明・車検証の住所変更引っ越し先を管轄する警察署引っ越しから15日以内マイナンバーカードの住所変更市区町村の役所の窓口転入手続きをしてから90日以内印鑑登録市区町村の役所の窓口期限はなしマイナンバーカードは、転入届を提出してから90日以内に住所変更手続きを行わなければ失効します。e-Taxで確定申告する際に必要になるため、速やかに住所変更を行いましょう。また、マイナンバーの手続きとあわせて印鑑登録も行いましょう。印鑑登録の手続き期限は設けられていませんが、住所変更で引っ越し前の印鑑証明書は無効になるため、忘れないうちに行うのがポイントです。郵便や宅配物を多く受け取るフリーランスは、郵便局での手続きはもちろん、名刺やWebサイトに記載する住所もトラブルにならないために早めの対応が大切です。お子さんがいる世帯は、子ども手当や転園・転校などの手続きも必要に応じて対応しましょう。税務署に開業届を再提出【引っ越し後必要に応じて】フリーランスが引っ越す際は、必要に応じて開業届を再提出する必要があります。開業届には住所変更届などはないため、転居した際は新しい住所を記載した開業届を再提出します。ただし、2023年1月からは開業届の再提出が不要になったため、基本的には改めて開業届を提出する必要はありません。引っ越し後に初めて行う確定申告で、確定申告書に新しい住所を記載して提出すれば納税地が自動的に異動となります。そのため、住所変更・異動手続き自体は省略されます。再提出が省略可能となっただけなので、希望する場合は引っ越し先を管轄する税務署に開業届を再提出しても問題はありません。確定申告の時期までは、開業届に記載の住所は旧住所のままとなります。例えば、確定申告前に税務署からのお知らせを受け取りたい人などは開業届を再提出するとよいでしょう。なお、振替納税(口座から引き落として納税する手続き)をしている人は、振替納税の口座振替依頼書を税務署に提出する必要があります。海外に引っ越す場合に必要な手続きフリーランスが海外に引っ越し、渡航先で1年以上の長期滞在する場合は、税務署での手続きが必要です。長期間国内にいないことで納税義務が発生しないため、廃業届・青色申告取りやめ届出書の提出が必要となります。ただし、その年の1月1日の時点で日本に住所がある場合は、確定申告と納税を行わなければなりません。例えば、2024年4月1日に海外に引っ越したケースでは、2024年1月~2024年3月分の確定申告と納税が必要です。なお、海外に引っ越すと国民年金の加入資格がなくなるため、保険料の納付義務はなくなります。しかし、年金は納付額に応じて将来受け取れる金額が変わる点を押さえておきましょう。国民年金は任意で加入できるため、日本で再び生活する予定がある場合は、海外にいる期間分も納付しておくことがおすすめです。国民健康保険の脱退手続きは、現在お住まいの市区町村内の窓口で、国民年金の任意加入手続きは、引っ越し前の地域を管轄する年金事務所で対応しましょう。▼関連記事:海外で活躍するフリーランスのリアル。案件獲得・ビザ・税金の手続きを解説引っ越し費用は経費計上してもいい?フリーランスにとって、引っ越しにかかる諸費用は経費計上できるのか気になるのではないでしょうか。結論からお伝えすると、引っ越し費用の経費計上は可能です。ただし、何でも引っ越し費用として経費にできるわけではありません。勘定科目も整理しながら、経費計上できる費用をチェックしておきましょう。事業に関連する引っ越し費用は経費計上できるフリーランスの引っ越しのなかでも、以下のように事業に関連した引っ越しである場合は、かかった諸費用を経費計上できます。事務所の移転自宅兼事務所の引っ越し事務所を別で構えている状態で、自宅のみ引っ越す場合は、引っ越し費用の経費計上は難しいため注意が必要です。事務所や自宅兼事務所の引っ越しで、主に経費計上できる費用の種類と勘定科目は、以下のとおりです。費用詳細勘定科目清掃代引っ越し先の清掃・クリーニング・抗菌などでかかった費用雑費荷物の運搬費引っ越しの荷物を運搬する際にかかった費用雑費または荷造運賃交通費荷物の運搬や引っ越し手続きの際にかかった交通費旅費交通費鍵交換費引っ越し先の鍵交換費用消耗品費または修繕費仲介手数料不動産会社に支払う仲介手数料や書類作成費など支払手数料礼金引っ越し初期費用として、オーナー・大家に支払う謝礼金地代家賃または支払手数料保証会社費用連帯保証人を立てない代わりに、家賃保証会社に支払う保証料保証料火災保険料引っ越し先で新たに加入する火災保険料保険料近隣や取引先への挨拶品引っ越し後、挨拶回りに行く際に持参する菓子折りなどの購入費交際費または広告宣伝費礼金・保証会社費用は、20万円未満の場合は上記の勘定科目で問題ありません。一方で、20万円以上の場合は、繰延資産として会計処理し、勘定科目は「長期前払費用」を使用します。そのうえで、契約年数が5年以上になる際は5年で減価償却し、5年未満の際は具体的な契約期間に応じて減価償却を行いましょう。なお、敷金は基本的に返還される費用のため、一般的には経費計上はできません。▼関連記事:フリーランスの気になる経費事情!経費計上する時の注意点やQ&Aも自宅と事業所を兼ねる場合は家事按分しようフリーランスが自宅兼事務所の引っ越しを行う場合は“家事按分”し、必要に応じて経費計上しましょう。家事按分とは、事務所と自宅のスペースを割合で分けて、経費計上可能な金額を算出する仕組みです。例えば、80㎡のマンションを自宅兼事務所として使用し、事務所スペースが20㎡にあたる場合は、25%で家事按分の計算を行います。経費の一例として、引っ越し時の仲介手数料が15万円だった場合は、15万円×25%で37,500円が経費計上できます。事前に事務所スペースの割合を考えて家事按分を算出し、適切な金額で経費計上しましょう。▼関連記事:フリーランスは家賃を経費計上できる!家事按分の計算方法や確定申告の注意点を解説フリーランスは賃貸契約が難しい?審査に通りやすくなるコツフリーランスは引っ越しの際に、賃貸契約の審査に通ることが難しい傾向にあります。審査に通過できないと、よい物件が見つかっても引っ越しができず、引っ越しがうまく進まなくなります。フリーランスが賃貸契約の審査を通過しづらい原因や対策をチェックし、スムーズな入居審査通過を目指しましょう。▼関連記事:【体験談】フリーランスは賃貸物件の契約が難しい?入居審査通過のコツフリーランスが審査に通りづらい理由フリーランスが賃貸契約の審査に通りにくい理由としては、以下が挙げられます。会社員と比べて収入が安定しておらず、家賃支払いに不安要素がある自宅兼事務所として使用する場合、オーナーが事務所利用の許可を出さない開業したての場合は、収入を証明できる書類・実績が少ない特に、収入の安定性が低く、社会的信用が薄いことは審査に大きく響きます。なかでも独立して間もないフリーランスは、確定申告書や納税証明書などで収入の実績を証明できないため、本当に家賃を払えるのかが懸念材料となります。自宅兼事務所として使用する場合は、オーナーが許可を出さない場合もあるため注意が必要です。なお、フリーランスに限らずいえることですが、以下に該当する場合はより一層審査に通りにくくなるため気をつけてください。収入に対して高い家賃の物件を希望している(目安は家賃の3倍以上の収入があるか)連帯保証人や緊急連絡先の当てがないローンやクレジットカード、過去の家賃支払いなどで滞納経験がある上記に当てはまる人は不安要素が強まるため、より入居審査に通過しづらくなります。フリーランスの物件の選び方と気を付けたいことフリーランスが入居審査に通過するためには、物件選びにもこだわり、引っ越し手続きにおける振る舞いに気をつけることが大切です。意識したいポイントを4つ解説します。家賃は収入の3分の1以内に抑えるフリーランスが入居審査に通過するためには、家賃は手取り月収の3分の1以内に抑えるとよいでしょう。毎月多くの生活費がかかるなかで、無理なくやりくりするためには、家賃は月収の3分の1以内が望ましいとされています。フリーランスは、会社員と比べて収入の波が大きいため、不安な場合は4分の1程度など、さらに抑えることも大切です。無理なく支払える家賃を計算したうえで、月収の3分の1以内を目安に適切な物件を探しましょう。預金残高を提示するフリーランスが入居審査に通過するためには、預金残高を提示するとよいでしょう。特に、開業したばかりで事業の安定性に不安要素がある人や、確定申告書を提出できない人は、預金残高を見せることが支払い能力の証明になります。また、取引先から発行された支払明細書など、収入を証明できる書類はできる限り提出することをおすすめします。マナーや身だしなみを意識するフリーランスが不動産会社やオーナーなどとやり取りする際には、基本的なマナーや身だしなみにより気を配りましょう。マナーや身だしなみに気を配らなければマイナスな印象を持たれやすく、たとえ十分な収入があったとしても、「怪しいお金なのでは」と疑念を持たれかねません。フリーランスは会社員と比べて社会的信用が低いため、普段からマナーや身だしなみに注意し、少しでも信用を勝ち取ることが重要です。連帯保証人を立てるフリーランスが入居審査に通過するためには、連帯保証人を立てることも有効です。連帯保証人がいれば、万が一家賃支払いが滞っても、オーナーは未払金を回収できないリスクを抑えられます。収入の安定性を不安視されやすいフリーランスにとって、連帯保証人の存在は、入居審査に通りやすくするポイントの1つです。身内に連帯保証人を引き受けてくれる人がいない場合は、保証会社を利用することも考えましょう。保証会社は、保証料を支払うことで、保証会社が連帯保証人を務めてくれる仕組みです。まとめフリーランスが引っ越しする際は、各種手続きや経費計上できる費用、入居審査など、気にすべきポイントがさまざまあります。事前にやるべきことや、経費にできる費用などを整理しておくことで、トラブルを防ぎ、スムーズに引っ越しを進められます。また、税制上で大きなメリットにもなります。あわせて入居審査に通るためのコツもチェックし、理想の物件に、スムーズに引っ越しましょう。