ふるさと納税は、フリーランスや個人事業主にとって税制上のメリットを得ながら地域にも貢献できる魅力的な制度といえます。ただし、会社員とは異なりフリーランスには年末調整がなく、確定申告で自分自身が正しく手続きを行う必要があります。さらに、年収の増減によって控除の上限額が変わるなど、注意すべきポイントも多く存在します。この記事では、フリーランスがふるさと納税を賢く活用するための方法や手続きの流れ、押さえておきたい注意点を解説します。正しい知識を身につけて、ふるさと納税を上手に活用しましょう。ふるさと納税とは?ふるさと納税とは、自分が応援したい地方自治体に寄付をすることで、所得税や住民税の控除を受けられる制度です。ふるさと納税を利用することで、地域の応援や活性化に貢献でき、寄付先の地域からは特産品などの返礼品を受け取れるなどのメリットがあります。また、寄付額の2,000円を超える金額は所得税と住民税から全額控除されるため、フリーランスや個人事業主にとっては節税につなげられます。例えば、50,000円をふるさと納税した場合は、自己負担額となる2,000円を除いた48,000円が、当年の所得税と翌年の住民税からそれぞれ控除されます。ふるさと納税の仕組みとシミュレーション1年間で寄付できるふるさと納税の金額(年間上限)は、給与収入と家族構成によって異なります。以下のように、給与収入が高い場合や独身のほうが年間上限は高くなる傾向にあります。ふるさと納税を行う方本人の給与収入ふるさと納税を行う方の家族構成独身または共働き夫婦(配偶者に収入がない場合)共働き+子1人(高校生)共働き+子1人(大学生)300万円28,000円19,000円19,000円15,000円350万円34,000円26,000円26,000円22,000円400万円42,000円33,000円33,000円29,000円450万円52,000円41,000円41,000円37,000円500万円61,000円49,000円49,000円44,000円550万円69,000円60,000円60,000円57,000円600万円77,000円69,000円69,000円66,000円700万円108,000円86,000円86,000円83,000円800万円129,000円120,000円120,000円116,000円900万円152,000円143,000円141,000円138,000円1000万円180,000円171,000円166,000円163,000円▼参考:ふるさと納税のしくみ|総務省例えば、同じ給与収入300万円でも、共働き+子2人(大学生と高校生)よりも独身の方が、21,000円年間上限金額が高くなります。また、ふるさと納税を行う人の配偶者に収入がない場合の夫婦と、共働きの夫婦でも年間上限金額に差があります。給与収入が300万円の場合は、共働きの夫婦の方が9,000円上限金額が高くなります。そのため、ふるさと納税を行う場合は、まず控除上限額を把握することが重要です。控除額は、「所得税からの控除」と「住民税(基本分+特例分)からの控除」を合算したものとなります。それぞれの計算方法を詳しくみていきましょう。所得税の控除額の算出方法所得税は、個人が得た所得に対して課される税金です。【所得税の控除額計算式】(ふるさと納税額-2,000円)×所得税の税率(※1)※1:所得税の税率は所得額に応じて5〜45%で変動する▼参考:所得税の税率|国税庁なお、控除の対象となるふるさと納税額は、総所得金額等(※2)の40%が上限です。※2:事業所得や給与所得、不動産所得、事業所得、雑所得などを合計した金額に、純損失または雑損失などの繰越控除を適用した後の所得金額の合計を指す住民税の控除額の算出方法住民税は、個人が都道府県と市区町村に支払う税金です。控除額は「基本分」と「特例分」の合計で構成されます。控除の対象となるふるさと納税額の基本分は、総所得金額等の30%が上限です。【住民税(基本分)の控除額計算式】(ふるさと納税額-2,000円)×10%【住民税(特例分)の控除額計算式】以下の①または②のいずれか①住民税所得割額の2割を超えない場合(ふるさと納税額-2,000円)×(100%-10%(基本分)-所得税の税率)②住民税所得割額の2割を超える場合(住民税所得割額)×20%住民税の特例分は、上記のように特例分が住民税所得割額の2割を超えるかどうかで計算式が異なります。住民税所得割額とは、所得金額に比例して課税される住民税額で、課税証明書(または非課税証明書)で確認できます。所得税と住民税の控除時期の違い所得税と住民税は控除される時期に違いがあります。所得税の場合は、ふるさと納税を行った年の所得税から控除されるのに対し、住民税はふるさと納税を行った翌年度の住民税から控除されるため注意しましょう。寄付の上限額は当年1〜12月の事業所得で決まります。フリーランスは収入に波が生じやすいことから、会社員より上限額が分かりづらいのが難点といわれています。そのため、ある程度年収を予測して、所得税・住民税の控除額をしっかりシミュレーションしてからふるさと納税を行うことが重要です。控除額と自己負担額のシミュレーション総務省のWebサイトでは、Excelに給与収入と家族構成、寄附金額を入力して、寄附金控除額をシミュレーションできます。一例として、以下の条件を入力して、寄付額が40,000円、50,000円、60,000円の3つのパターンに分けて、控除金額と自己負担額をシミュレーションしました。【条件】給与収入額:500万円配偶者:専業主婦1人扶養家族:中学生以下1人寄付額控除金額(所得税+住民税)自己負担額40,000円38,000円2,000円50,000円47,750円2,250円60,000円49,261円10,739円年間60,000円寄付した場合は自己負担額が10,739円となり、必ず支払いが必要となる2,000円を大きく超えてしまっています。一方、40,000円や50,000円を寄付した場合だと、自己負担額が必ず支払いが必要な2,000円に近いので、上手にふるさと納税を活用できているといえるでしょう。フリーランスのふるさと納税のやり方フリーランスがふるさと納税を行う際は、以下の手順で進めます。寄付する自治体を選ぶ寄付金受領証明書を受け取る返礼品を受け取る確定申告を行う住民税や所得税の還付金を確認するふるさと納税の寄付や確定申告には、それぞれ期限が決められているため計画的に進めましょう。寄付する自治体を選ぶふるさと納税の最初のステップは、寄付する自治体を全国から選んで寄付を申し込むことです。ふるさと納税の締め切りは毎年12月31日までなので、余裕を持って申し込みましょう。寄付先は自分の好きな地域を選べ、主に以下のような地域・自治体が選ばれる傾向があります。自分の地元好きな自治体応援したい自治体返礼品が魅力的な自治体寄付金の使い方に賛同できる自治体地域の特色を感じられる返礼品がある自治体ふるさと納税サイトでおすすめされている自治体返礼品では、地域の特産品やサービスなど、さまざまな返礼品が用意されています。寄付額に応じて返礼品が異なるため、自分の希望に合わせて選ぶとよいでしょう。また、フリーランスがふるさと納税を行う場合は、自治体数の制限なく寄付が可能です。多くの自治体がふるさと納税を受け付けていますが、中にはふるさと納税を受け付けていない自治体もあるため、各自治体のホームページで確認しましょう。ふるさと納税のポータルサイトでは、返礼品をカテゴリー別で検索できるほか、おすすめの返礼品が紹介されていたり返礼品の人気ランキングをつけていたりするため、上手に活用するとよいでしょう。寄付金受領証明書を受け取る寄付が完了すると、寄付先の自治体から確定申告に必要な寄付を証明する「寄付金受領証明書」が送られてきます。寄付金受領証明書をもとに、確定申告のふるさと納税に関する内容を作成するため、大切に保管しておきましょう。なお、寄付金受領証明書が届くまでには約1~4週間ほどがかかります。ふるさと納税専用の振込用紙や、自治体より発行される納入通知書(納付書)で寄付をした場合は、払込票控(振込用紙の半券)が確定申告の際に必要となる場合もあります。返礼品を受け取る返礼品のある自治体に寄付した場合は、自治体から返礼品を受け取ります。返礼品は、自治体や返礼品の内容、時期によって異なりますが、発送まで1~2ヶ月程度時間がかかります。ふるさと納税の締め切りが迫る年末は申し込みが集中するため、通常よりも発送が遅れる可能性があります。混雑時期を避け、計画的にふるさと納税を進めることがおすすめです。確定申告を行う確定申告は、国税庁の確定申告書等作成コーナーで行う方法と、確定申告申請書を入手して記入する方法の大きく分けて2通りあります。また、会計ソフトを利用して確定申告を行う方法もあります。国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用するためには、以下2点が必要となります。マイナンバーカード寄付金受領証明書寄付金受領証明書をもとに、必要項目を入力しましょう。寄付金控除額は、「ふるさと納税額から2,000円差し引いた額」または「総所得額の40%」のいずれか低い方の記入が必要です。勘定科目は事業主貸(※1)にして、記入を終えたら、国税電子申告・納税システム(e-Tax)での電子申告、またはお住まいの地域を所轄する税務署へ郵送(持参)し、確定申告書を提出します。※1:フリーランスや個人事業主が経費にできない支出などがあった場合の勘定科目▼関連記事:確定申告はフリーランスに必須!やり方や必要書類と経費管理のコツ住民税や所得税の還付金を確認する確定申告が完了すると、2週間から1ヶ月程度で住民税や所得税の還付金を確認できます。住民税や所得税の還付金は、e-Taxより以下の手順で確認できます。「e-Taxソフト(WEB版)」にログイン「マイページ」の「還付・納税関係」を選択メニューの「還付金処理状況を確認する」を選択フリーランスがふるさと納税を行うメリットふるさと納税は、フリーランスにとって「節税」と「地域貢献」の両方を叶えられる魅力的な制度といえます。ここでは、フリーランスがふるさと納税を利用することで得られる主なメリットを解説します。所得税・住民税の負担を軽減できるふるさと納税は、寄附金額のうち2,000円を超える部分が所得税や住民税から控除される仕組みです。例えば、3万円を寄附した場合、2,000円を差し引いた28,000円が税金から控除 されるため、実質的な自己負担はわずか2,000円で済みます。フリーランスの場合、毎年の確定申告によって税額が決まるため、寄附金額を調整することで翌年の税負担を軽減できます。特に所得が多い年は、控除上限額の範囲内でふるさと納税を活用することで、より高い節税効果を得ることが可能です。控除限度額が会社員より大きいフリーランスは、ふるさと納税の控除限度額が会社員よりも大きくなる傾向があります。会社員の場合、収入から「給与所得控除」を差し引いて課税所得を計算しますが、フリーランスは収入から「必要経費」を差し引いて所得を算出します。一般的に、給与所得控除は必要経費よりも控除額が大きいため、同じ収入額でもフリーランスのほうが課税所得が高くなるケースが多く見られます。その結果、ふるさと納税で受けられる控除上限額も高くなりやすいため、より大きな節税効果を期待できるのです。返礼品で実質的なお得感があるふるさと納税をすると、寄附先の自治体から地域の特産品や体験型の返礼品が届きます。実質2,000円の負担で、お米・肉・海産物・宿泊券などを受け取れるため、節税と同時に生活費の節約にもつながります。特にフリーランスは、収入や支出の管理を自分で行う必要があるため、返礼品を上手に選ぶことで実質的な支出削減効果が得られます。食材や日用品を中心に選べば、日常の出費を抑えながら賢くふるさと納税を活用できるでしょう。確定申告の手間は変わらないため気軽に始めやすいフリーランスは、ふるさと納税に関係なく、毎年確定申告が必要です。ふるさと納税を活用したとしても、毎年の確定申告にふるさと納税の内容を追記するのみで済むため、手間は大きく変わらず、負担が少ない状態で始められるでしょう。フリーランスがふるさと納税をする際の注意点ふるさと納税は、正しく活用すれば大きな節税効果が期待できます。しかし、申告方法の誤りや寄附のタイミングのズレ、控除上限額の超過などがあると、せっかくのメリットを十分に受けられない場合があります。ここでは、フリーランスがふるさと納税を行う際に特に注意したいポイントを解説します。確定申告を忘れると控除が受けられないフリーランスは年末調整がないため、ふるさと納税の控除を受けるには確定申告が必須です。申告を忘れたり、控除欄への記入漏れがあったりすると、せっかく寄附しても税金の控除を受けられません。ふるさと納税は経費計上できないふるさと納税は、経費として計上することはできません。フリーランスは、事業運営に必要な支出を経費として計上し、収入から差し引くことで課税所得を抑えられます。しかし、ふるさと納税は事業に直接関係のない個人的な支出とみなされるため、経費ではなく「事業主貸」として処理します。つまり、ふるさと納税は個人としての所得税・住民税を控除するための制度であり、事業に伴う費用ではない点をしっかり理解しておくことが大切です。▼関連記事:フリーランスの気になる経費事情!経費計上する時の注意点やQ&Aもワンストップ特例制度は利用できないワンストップ特例制度とは、ふるさと納税をした後に確定申告を行わなくても、所得税や住民税の控除を受けられる制度です。主に確定申告をしない会社員や給与所得者を対象としており、申請書を寄附先の自治体に送るだけで手続きが完了します。一方、フリーランスは確定申告が必須のため、ワンストップ特例制度を利用できません。 その代わり、確定申告の際にふるさと納税の寄附金額を申告することで、控除を受けられます。加えて、ワンストップ特例制度には「年間で寄附できる自治体が5つまで」という制限がありますが、フリーランスは確定申告で手続きを行うため、寄附先の数に制限がないというメリットがあります。控除上限額を超える寄附は自己負担になるふるさと納税の控除には所得に応じた上限額が設けられており、この上限を超えた分は控除の対象外になります。上限を超えて寄附してしまうと、その分は単なる自己負担となり、節税効果が薄れてしまうので注意が必要です。特にフリーランスは、年ごとに所得が変動しやすいため、前年の収入をもとに判断するのは危険です。毎年、ふるさと納税サイトのシミュレーション機能を使って控除上限額を確認しましょう。また、年収が不安定な場合は、上限額の8割程度に抑えて寄附することで、過剰な負担を防ぎながら安心して制度を活用できます。年末ギリギリの寄附は避ける寄附金控除の対象となるのは、その年の12月31日までに自治体で入金が確認された寄附分です。クレジットカードで支払った場合でも、決済日ではなく、自治体側での入金日が基準になることがあるため、12月中旬までに手続きを完了しておくのが安全です。特に年末は申し込みが集中し、サイトの混雑や証明書の発行遅延が発生しやすくなります。控除を確実に受けるためにも、余裕をもったスケジュールで寄附手続きを行うことを心がけましょう。まとめふるさと納税は、好きな地域を応援しながら税負担を軽減できる、非常にメリットの大きい制度です。特にフリーランスは、会社員よりも控除上限額が高くなる傾向があり、確定申告で手続きも完結できるため、ふるさと納税を有効に活用しやすい立場にあります。ただし、フリーランスは年によって収入の変動が大きいため、寄附前に必ず控除上限額をシミュレーションしておくことが大切です。収入に見合った寄附額を設定し、無理のない範囲でふるさと納税を行うことで、節税と地域貢献の双方のメリットを最大限に享受できるでしょう。