フリーランスとして働き始めたものの、請求書を作成するときに差し引かれる「源泉徴収」がイマイチ分からないという方も多いのではないでしょうか。源泉徴収は確定申告にも関わるので、正しい知識を理解しておく必要があります。この記事では、源泉徴収の基礎知識をはじめ、計算式や確定申告のポイントを解説します!職種別に源泉徴収の有無も紹介するので、正しい請求書作成・確定申告を行うために、ぜひ参考にしてください。【基礎知識】源泉徴収とは?源泉徴収とは、所得税を納付する方法の1つです。給与や報酬を支払う側が、給与や報酬を支払う際に所得税を差し引いて国に納付する制度のことを指します。フリーランスの場合は、クライアントから報酬を受け取る際に、所得税が差し引かれるケースが該当します。源泉徴収により、納税者は毎回の支払いで少しずつ税金を納めることができ、まとまった額を一度に支払う負担が軽減されます。また、国にとっても税収の確保がしやすくなるというメリットがあります。源泉徴収の対象となるフリーランスの仕事フリーランスの仕事のうち、源泉徴収の対象となるのは「報酬」や「料金」と呼ばれる所得です。主に次の報酬・料金が、国税庁において源泉徴収の対象になると定められています。原稿料や講演料など弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金▼引用:国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」詳しくは、国税庁のホームページやクライアントに確認し、自分が請け負った仕事が源泉徴収の対象になるかどうかを把握しておくことが大切です。源泉徴収の入手時期と納付時期源泉徴収された所得税は、報酬の支払い時に差し引かれます。クライアントは、フリーランスに報酬を支払う際に所得税を差し引き、その差し引いた税金を国に納付します。この納付のタイミングは、報酬を支払った月の翌月10日までです。例えば、8月に報酬を支払った場合は、翌月の9月10日までにその税金を納付する必要があります。源泉徴収の納税方法源泉徴収された所得税は、基本的にクライアント側が納税します。そのため、フリーランス自身が直接納税する必要はありません。ただし、確定申告の際には、源泉徴収された金額を申告する必要があります。確定申告書の「源泉徴収税額」の欄に、1年間に源泉徴収された金額の合計を記入します。この金額は、年間の所得税額から差し引かれ、過不足が精算されます。適切に申告することで、還付金を受け取れる可能性もあるので、忘れずに記入しましょう。支払調書をもらっておくフリーランスにとって重要なのは、クライアントから支払調書をもらっておくことです。支払調書には、支払われた報酬の金額や源泉徴収された税額が記載されており、確定申告の際に重要な資料となります。年の初めに前年分の支払調書が送られてくるので、届いたら大切に保管しておきましょう。支払調書が届かない場合は、クライアントに確認しましょう。フリーランスにおける源泉徴収の重要性ここまで読んで「源泉徴収の仕組みは複雑で難しいな…」と感じている方も多いと思います。しかし、フリーランスにとって、源泉徴収は単なる面倒な手続きではありません。源泉徴収を正しく理解し管理することで、確定申告時の負担を大幅に減らせます。さらに、適切に源泉徴収を行い、確定申告することで、過払い分の還付金を受け取れる可能性が高まる点も大きなポイントです。例えば、年間の所得税額が源泉徴収された金額より少ない場合は、その差額が還付されます。特に、事業経費が多いフリーランスは、還付額が大きくなることも少なくありません。【収入源別】フリーランスの源泉徴収の計算方法ここでは、以下の3パターンに分けて、源泉徴収の計算方法を紹介します。報酬が100万円以下の場合報酬が100万円以上の場合給与所得の場合フリーランスの方は、報酬の金額別の計算方法を参考にしてください。また、副業で業務委託の仕事を受けている方や、アルバイトやパートを兼業している方は、給与所得の場合の計算方法を確認しましょう。報酬が100万円以下の場合フリーランスで報酬が100万円以下の場合、源泉徴収の税率は10.21%です。報酬額に対して税率10.21%を掛け算し、源泉徴収税額を計算します。計算例:報酬50万円の場合【源泉徴収税の計算式】報酬500,000円 × 税率10.21% = 源泉徴収税 51,050円【源泉徴収税を差し引いた手取り】報酬500,000円 + 消費税50,000円 - 源泉徴収税 51,050円 = 手取り498,950円仮に報酬が50万円の場合は、源泉徴収税額は51,050円となります。報酬と消費税を足した金額から源泉徴収税を差し引いた498,950円が手取り額です。報酬が100万円以上の場合報酬が100万円以上の場合、100万円までは税率10.21%、100万円を超えた部分のみ税率20.42%が適用されます。1つの報酬で、税率10.21%と税率20.42%、2つの税率が適用されるので、計算時に注意が必要です。計算例:報酬150万円の場合【源泉徴収税の計算式】報酬1,000,000円 × 税率10.21% = 源泉徴収税 102,100円報酬500,000円 × 税率20.42% =源泉徴収税 102,100円源泉徴収税の合計 = 204,200円【源泉徴収税を差し引いた手取り】報酬1,500,000円 + 消費税150,000円 - 源泉徴収税 204,200円 = 手取り1,445,800円給与所得の場合給与所得の場合は、毎月の給与から源泉徴収されるため、月々の給与額に基づいて税額が計算されます。具体的には、国税庁の「源泉徴収税額表」を用いて計算されます。ただし、源泉徴収税の金額は、扶養家族の有無や給与額によって変動します。そのため、正確な金額は雇用主に確認するか、国税庁のWebサイトで確認しましょう。【職種別】フリーランスの源泉徴収の有無ここからは、フリーランスの職種別に源泉徴収の有無を解説します。職種によって源泉徴収の対象か変わるので、必ず確認してきましょう。エンジニアフリーランスのエンジニアとして働く場合は、基本的には源泉徴収の対象外です。Web開発やプログラミングなどの業務は、報酬として給与所得以外の所得として扱われるためです。ただし、エンジニアとして講演やセミナーを行い、報酬が発生する場合は、源泉徴収の対象となることがあります。WebデザイナーWebデザイナーは、業務範囲によって源泉徴収が適用される場合とされない場合があります。国税庁にて、以下のデザイン業務は源泉徴収が適用されると定められています。工業デザイン(自動車、オートバイ、テレビジョン受像機、工作機械、カメラ、家具等のデザイン及び織物に関するデザイン)クラフトデザイン(茶わん、灰皿、テーブルマットのようないわゆる雑貨のデザイン)グラフィックデザイン(広告、ポスター、包装紙等のデザイン)パッケージデザイン(化粧品、薬品、食料品等の容器のデザイン)広告デザイン(ネオンサイン、イルミネーション、広告塔等のデザイン)インテリアデザイン(航空機、列車、船舶の客室等の内部装飾、その他の室内装飾)ディスプレイ(ショウウインドー、陳列棚、商品展示会場等の展示装飾)服飾デザイン(衣服、装身具等のデザイン)ゴルフ場、庭園、遊園地等のデザイン▼引用:国税庁「原稿等の報酬又は料金(第1号関係)」しかし、仮にWebサイトのデザイン業務を請け負った場合、コーティングやプログラミングなどの業務部分は源泉徴収の対象外となるので、請求書を作成するときに注意が必要です。WebライターWebライターの主な収入源である原稿料は、源泉徴収の対象となります。ただし、Webライターの中には、コンサルティングやセミナー講師など、原稿執筆以外の業務を行う場合もあります。これらの業務に対する報酬は、源泉徴収の対象外となる可能性が高いので、業務内容ごとに確認しましょう。Webマーケター・ディレクターWebマーケターやWebディレクターの業務は、基本的に国税庁が定める源泉徴収が必要な報酬・料金に該当しないため、源泉徴収の対象外です。ただし、業務の一環として記事の執筆やセミナー講師を行う場合は、源泉徴収の対象となる可能性があります。業務内容が多岐にわたる職種なので、業務ごとに源泉徴収の扱いを確認することをおすすめします。営業フリーランスの営業職は、基本的に源泉徴収の対象外です。ただし、営業職でも、セミナーでの講演料や執筆した営業マニュアルの原稿料など、営業活動にまつわる業務が源泉徴収の対象となる場合があります。営業職の方も、業務内容に応じて源泉徴収に該当するかしないかを確認しましょう。源泉徴収を含めたフリーランスの請求書作成のポイントここからは、源泉徴収を含めた請求書作成のポイントを2つ紹介します。請求書に不備があると、還付金を受け取れなくなったり、クライアントに迷惑をかけてしまったりするリスクがあります。フリーランスとしての信用を構築するためにも、1つずつ確認していきましょう。▼関連記事:【フリーランス・個人事業主の請求書ガイド】記載項目や消費税・源泉徴収の書き方を徹底解説復興特別所得税を含める請求書を作成するときは、復興特別所得税も忘れずに含めましょう。復興特別所得税は東日本大震災の復興支援のために導入された税金で、税率は2.1%です。フリーランスの場合は、源泉徴収の計算式に含まれる税率10.21%のうち、0.21%が復興特別所得税に該当します。請求書には、報酬額と共にこの復興特別所得税を明記し、総額を正確に記載するようにしましょう。消費税に注意するフリーランスとして請求書を作成するときは、消費税の取り扱いにも注意が必要です。消費税は、報酬に対して課される税金で、請求書に明確に記載することが大切です。消費税には内税と外税の区別があり、どちらの方式を採用するかをクライアントと事前に確認しましょう。内税方式の場合は報酬額に消費税が含まれていることを明記し、外税方式の場合は報酬額とは別に消費税額を記載してください。源泉徴収を踏まえたフリーランスの確定申告のポイントフリーランスにとって、確定申告は大事な税務手続きです。特に、源泉徴収が関わる場合は、正確に申告することで過不足なく税金を納められます。ここでは、源泉徴収済みの所得と源泉徴収されていない所得の申告方法を詳しく解説します。源泉徴収済みの所得の申告方法源泉徴収済みの所得は、確定申告時に適切に申告する必要があります。源泉徴収票や支払調書を用意し、記載されている源泉徴収額を確認する確定申告書の「所得金額」欄に収入額を記入する「源泉徴収税額」欄に源泉徴収された税額を記入するこれにより、過不足なく税金が計算され、還付金がある場合は還付を受け取れるようになります。源泉徴収されていない所得の申告方法源泉徴収されていない所得も、確定申告時に正確に申告する必要があります。フリーランスとしての売上や報酬をまとめて、収入額を把握する経費を整理し、必要経費として計上できるものを確認する確定申告書に収入金額と必要経費を記入する上記の差額の所得金額を計算する源泉徴収されていない所得は、全額を自己申告する必要があるため、収入と経費の記録をしっかりと保管し、正確に記入することが重要です。源泉徴収に関するトラブルの対処法フリーランスとして活動する中で、源泉徴収に関するトラブルに直面することがあります。適切に対処することで、税務上のリスクを軽減し、スムーズな業務運営を続けることが可能です。ここでは、源泉徴収されすぎた場合や源泉徴収漏れがあった場合の対処法を詳しく解説します。源泉徴収されすぎた場合の対処法源泉徴収されすぎた場合は、確定申告を通じて還付金を受け取ることができます。源泉徴収票や支払調書を確認し、過剰に徴収された合計金額を計算する確定申告書の「還付申告」欄に過剰分の源泉徴収額を記入し、還付金を申請する申請するときには、正確な金額の記入と書類の添付が求められるため、間違いがないように注意しましょう。源泉徴収漏れがあった場合の対処法源泉徴収漏れが発生した場合、速やかに対処する必要があります。漏れがあった報酬の金額と源泉徴収額を確認し、再計算するクライアントに漏れがあったことを連絡・報告し、追加の源泉徴収を依頼する万が一、クライアントが対応してくれない場合は、税務署に相談し、適切な手続き方法を確認しましょう。フリーランスが源泉徴収義務者になる基準フリーランスがクライアントとして、一部の仕事を外注した場合は、源泉徴収をする「源泉徴収義務者」になる場合があります。ここでは、源泉徴収をする「源泉徴収義務者」になる基準と、手続き方法を解説します。源泉徴収義務者になる条件フリーランスが源泉徴収義務者になる条件は、外注先に対して一定の報酬を支払う場合です。次の条件が該当する場合は、源泉徴収義務者となります。クライアントとして源泉徴収の対象となる仕事を外注した場合従業員を雇って給与の支払いが発生する場合ただし法人化をせず、常時2人以下のお手伝いさんなどのような人材を雇っている場合は、源泉徴収をする必要はないと定められています。源泉徴収する場合の手続き方法源泉徴収義務者に該当する場合は、税務署に「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出する必要があります。書類の提出方法は、次の2つです。e-Taxソフトで書類を作成・提出する国税庁ホームページから書式をダウンロードして郵送する書類の提出は、個人の都合に合った方法で行いましょう。詳しい手続き方法は、国税庁のホームページにて確認してください。まとめ源泉徴収は、所得税の納付方法の1つです。フリーランスにとっては、クライアントに正しく請求書を発行し、必要に応じて還付金を受け取るために必要な税務作業に該当します。源泉徴収がされるかどうかは、業務内容によって異なります。正しく確定申告を行うためにも、クライアントに源泉徴収の対象となるかを事前に確認しておくと安心です。少し複雑に感じるかもしれませんが、源泉徴収の知識を身につけて、正しい確定申告・税務処理ができるフリーランスを目指しましょう。