インボイス制度が施行されたものの、納税や確定申告の負担を考えると、できれば登録したくないフリーランスの方も多いでしょう。結論から伝えると、フリーランスが「インボイス制度へ登録しない」という選択をすることは可能です。ただしインボイス制度へ登録すべきか、しないべきかはフリーランス1人ひとりの状況に応じて異なります。この記事では、フリーランスがインボイス制度へ登録する・しないの判断基準を解説します。インボイス制度の基礎知識から説明するので、ぜひ参考にしてみてください。▼関連記事:インボイス制度がフリーランスに与える脅威!やるべき対策や今後の予想【基礎知識】インボイス制度とは?インボイス制度は取引の透明性を高め、事業者が消費税を正確に納めることを目的とした制度です。2023年10月より施行されており、正式名称は「適格請求書等保存方式」といいます。インボイス制度では、事業者が取引時にインボイス(適格請求書)を発行し、消費税の額を明示することで、消費税の流れが一目で分かる仕組みとなっています。またインボイス(適格請求書)を発行できるのは、インボイス制度に登録した適格請求書発行事業者のみです。課税事業者・免税事業者の違いインボイス制度への登録を検討する上で、必ず覚えておきたいのが「課税事業者」と「免税事業者」の違いです。まず課税事業者とは、年間売上が1,000万円以上の事業者で、消費税を納税する義務があります。一方、免税事業者は年間売上が1,000万円未満の事業者で、消費税の納税義務が免除されています。課税事業者と免税事業者どちらも、インボイス制度に登録することで、適格請求書(インボイス)の発行ができるようになります。また免税事業者がインボイス制度に登録した場合、年間売上1,000万円以下でも消費税の納税義務が発生するので注意が必要です。▼関連記事:免税事業者とは?売上1,000万円以下のフリーランスの消費税事情激変緩和措置・2割特例インボイス制度導入に伴う事業者への影響を緩和するための制度が「激変緩和措置」であり、具体的な措置が「2割特例」にあたります。2割特例は、売上税額の2割のみを納税する制度のため、納税額が大幅に軽減されます。この2割特例が適用されるのは、2023年10月1日から2026年9月30日までの約3年間です。2割特例を適用するにあたって、特に申請は必要なく、消費税の確定申告時に「2割特例」を選択することで適用されます。ただし本制度が適用されるのは、インボイス制度登録時に免税事業者から課税事業者に移行した事業者のみです。もともと、課税事業者だった方は対象外となります。インボイスに登録していない人はどのくらい?ここで、インボイスに登録していない人はどのくらいいるのかという疑問にお答えします。SOKUDANが、現時点でインボイスに未登録のフリーランス・副業人材に「あなたは現在、インボイス制度の登録をしていますか?」とアンケートを取ったところ、約6割の方が「登録していない(しない予定)」と回答しています。現時点で登録していない理由の多くは、「売上1,000万円以下で免税事業者でいられるから」が最も多く、中には「様子を見ているから」という理由も挙がりました。また「インボイス制度に関して、あなたが不安や懸念を感じる点は何ですか?」という質問では、「取引先からの取引終了や報酬の減額」や「消費税を納めることによって生活が困窮する」などの回答が挙がり、インボイス制度未登録者も登録はしていないからこその不安を感じていることが分かります。詳しくは、関連記事「【インボイス開始直後アンケート第2弾】未登録の56%「影響なし」」にて解説しているので、ぜひ併せてご覧ください。インボイス制度に登録しないメリットインボイス制度への登録を検討するにあたり、ここではインボイス制度に登録しないメリットを2つ紹介します。消費税を納税する義務がないインボイス制度に登録しない最大のメリットは、消費税を納税する義務が発生しないことです。このメリットは主に、売上1,000万円以下である免税事業者の方が該当します。免税事業者でありインボイス制度に登録しなければ、消費税の納税義務が発生しないので、消費税の申告や納税の負担が軽減されます。特に売上が少額の副業の方や、売上がまだ安定していない駆け出しフリーランスの方にとっては、大きなメリットとなるでしょう。▼関連記事:フリーランスは消費税を請求できる?免税事業者と課税事業者の対応の違いや計算方法を解説確定申告の負担を軽減できるインボイス制度に登録しない場合、確定申告は従来の所得税の申告のみで済むため、負担を軽減できます。インボイス制度に登録した場合、消費税申告では、取引ごとの区分経理や帳簿作成など、複雑な事務処理が求められます。特に税理士に確定申告を依頼せず、個人で確定申告を行う方には、消費税申告の処理が大きな負担となりやすいです。そのためインボイス制度に登録しなければ、確定申告にかける時間や労力を削減できるので、本来の仕事やスキルアップに時間を注ぐことが可能になります。▼関連記事:確定申告はフリーランスに必須!やり方や必要書類と経費管理のコツインボイス制度に登録しないデメリット次に、インボイス制度に登録しないデメリットを2つ解説します。前述したインボイス制度に登録しないメリットも理解した上で、自分がインボイス制度に登録すべきか判断する材料にしましょう。取引先減少のリスクがある課税事業者・免税事業者ともに、インボイス制度に登録していない場合、適格請求書発行事業者として認定されません。課税事業者である企業やクライアント側からすると、インボイス制度未登録の事業者との取引では、消費税の仕入税額控除が適用されないため、結果的に取引を避ける傾向にあります。SOKUDANがインボイス制度登録者へ実施したアンケート結果でも、「取引先から依頼されてインボイスに登録した」と回答したフリーランス・副業の方は、32.7%に上りました。この回答から、インボイス制度への登録を前提とした企業が多く、フリーランス・副業の方も少なからず影響を受けやすいことが読み取れます。▼関連記事:【インボイス開始直後アンケート第1弾】登録者の7割が制度廃止を希望報酬が減額される場合があるインボイス制度に登録しない場合、取引先から報酬減額を求められる場合があります。インボイス制度未登録の事業者との契約では、取引先が消費税の仕入税額控除を受けられません。そのため報酬から消費税分を差し引くことで、取引先が自社の税負担の軽減を図る場合があります。特にインボイス制度を適用している取引先と長期的な取引が見込まれる場合、報酬の減額は収入の減少につながります。生活や事業運営に多大な影響を及ぼすことを考慮して、長期的な視点でインボイス制度への登録を判断する必要があるでしょう。インボイス制度に登録すべきケースインボイス制度へ登録すべきかは、フリーランス1人ひとりの状況によって異なります。ここからは、インボイス制度に登録すべき3つのケースを紹介します。取引先からインボイス制度への登録を求められている取引先からインボイス制度への登録が求められている場合は、なるべく登録することをおすすめします。取引先がインボイス制度への登録を求めるということは、取引先が課税事業者だからです。前述の「インボイス制度に登録しないデメリット」でお伝えした通り、取引先がインボイス制度への登録を求めているのに登録しない場合、取引の中止や報酬の減額を依頼されるリスクがあります。そのため、取引先からインボイス制度への登録を求められた場合は、取引継続や自身の事業成長を考慮して、インボイス制度への登録を推奨します。年間売上が1000万円を超える見込みがある年間売上が1,000万円を超える場合、法的に課税事業者と見なされ、インボイス制度へ登録しなくても消費税の納税義務が発生します。ただしインボイス制度への登録をしないと、適格請求書が発行できず、仕入税額控除の対象外となり、取引に支障をきたす可能性が高いです。また事業者としての透明性を保つためにも、年間売上1,000万円以上の場合はインボイス制度への登録を推奨します。顧客が企業と一般消費者両方の場合顧客が企業(BtoB)と一般消費者(BtoC)の両方の場合、インボイス制度への登録を検討すべきでしょう。対企業との取引では、インボイス制度に登録しておくことで仕入税額控除を適用できます。また対一般消費者との取引においては、必要に応じてインボイス制度に対応した領収書を発行できることで、事業の信頼性を示せます。顧客層が広い場合、それぞれのニーズに応えられるよう、インボイス制度への登録を検討してみてください。インボイス制度に登録しなくてもよいケース事業者の状況によっては、必ずしもインボイス制度に登録する必要はありません。これから紹介する3つのケースに当てはまる場合は、インボイス制度に登録せずに、確定申告や納税負担を軽減できる可能性があるので確認していきましょう。取引先の理解を得ている取引先からインボイス制度に登録しないことへの理解を得られている場合は、インボイス制度に登録しなくても問題ありません。長年の実績や信頼関係から同意を得られており、報酬や契約内容に悪影響が及ばなければ、これまでと変わらず取引を継続できるでしょう。ただし取引先の方針変更によって、今後インボイス制度への登録を依頼される可能性は十分にあります。取引先の担当者と随時状況を確認するようにしましょう。取引先が免税事業者・簡易課税事業者の場合取引先が年間売上1,000万円未満の免税事業者、または消費税計算を簡素化する簡易課税制度を選択した事業者の場合、インボイス制度への登録は必須ではありません。免税事業者は仕入税額控除を受けられないこと、また簡易課税事業者は仕入税額控除を受けられますが、消費税計算が簡素化されているため、取引先のインボイス制度への登録有無が影響しません。主な顧客が一般消費者主な顧客が一般消費者の場合、インボイス制度へ登録する必要性は低いでしょう。一般消費者へ商品やサービスを提供する際は消費税込みの価格設定が一般的であること、また適格請求書の発行を求められないからです。主に飲食店や美容院、小売業などが該当します。インボイス制度の登録方法インボイス制度への登録をすると決めた場合、オンラインもしくは郵送どちらかから申請できます。それぞれの申請方法を紹介します。e-Taxからの申請方法オンラインで申請する場合、国税電子申告・納税システム「e-Tax」より申請可能です。申請する前に、以下のものを準備しましょう。電子証明書(マイナンバーカードなど)利用者識別番号カードリーダー ※電子証明書をカードリーダーでスキャンする場合のみ上記のものを用意したら、「e-Taxソフト(WEB版)」もしくは「e-Taxソフト(スマートフォン版)」をダウンロードしましょう。e-Taxソフトをダウンロードした状態で、国税庁のインボイス制度特設サイトにアクセスし、「申請手続」を選択すると、インボイス制度への登録ができます。郵送での申請方法郵送で申請する場合は、国税庁ホームページより「適格請求書発行事業者の登録申請書(国内事業者用)」をダウンロードしましょう。申請書をダウンロードしたら、必要事項を記載し、お住まいの管轄地域のインボイス登録センターへ書類を郵送します。管轄のインボイス登録センターは、国税庁のページ「郵送による提出先、登録番号の確認等の問合せ先のご案内」より確認可能です。また申請書類は重要な書類のため、郵送状況を追跡できるレターパックや簡易書留での郵送をおすすめします。インボイス制度は登録取り消しできる「インボイス制度に登録すべき状況だけど、納税や確定申告の負担を考えると、本当はインボイス制度に登録したくない」という方もいるでしょう。けれどもインボイス制度登録後、所定の手続きを行うことで取り消すことが可能です。例えば、事業規模の縮小や取引先が一般消費者中心に変わったなど、インボイス制度へ登録しなくても問題がなくなった場合は、登録の取り消しを検討しましょう。ただし、インボイス制度を取り消した後は、適格請求書の発行ができなくなること、再度インボイス制度へ申請する場合は手間がかかるので慎重に検討してください。いずれにせよインボイス制度の登録取り消しはできるため、「状況に応じて取り消しできる」選択肢があることを覚えておきましょう。まとめインボイス制度へ登録すべきか、しなくてもよいかは事業者1人ひとりの状況によって異なります。例えばクライアントからインボイス制度への登録を求められている場合や、適格請求書の発行が必要な場合はインボイス制度への登録を推奨します。加えて、取引先からインボイス制度へ登録しないことへの理解を得ている場合や、主な顧客が一般消費者で適格請求書の発行が不要な場合は、必ずしも登録する必要はありません。またインボイス制度へ登録後、事業の状況に応じてインボイス制度の登録を取り消すことも可能です。常に現在の事業状況に応じて、インボイス制度の登録の必要性を判断していきましょう。